MAIAMI RE-BIRTH2016(漫画版夢主と遊矢)
「おかえり、城前。遅かったな」

「おう、ただいま。さも当然のように居座ってる遊矢君よ。まーな、みんなでカラオケ行ってきた。大学いってりゃ、そのまま完徹行けたんだけどなあ。やっぱ高校生は不便だぜ、こういう時」

「カラオケか。このあいだも行ってなかった?好きだね、城前。高校生ってそういうもんなの?」

「まあ高校生が行けるとこなんて限られてるしなあ」

「ふーん」

「つーかなにみてんだよ、人んちのパソコンで」

「ん?ほら、これ」

覗き込んだ城前は画面いっぱいに表示されている画像にぎょっとする。どれにも城前がうつっている。鳥肌が立ったのか、腕をさする城前は、ストーカーでもみるような目つきで遊矢を睨む。何を考えているのか察した遊矢は、違う違う違うから、と笑いながらディスプレイの一角を指差す。画像検索の横には城前克己と打ち込まれている。早い話が検索していたようだ。

「ためしに調べてみたら、オレより多いんだもんなあ。ずるいよ、城前」

「広告塔やってるおれと指名手配犯のファントム比べんなっての。そんなに目立ちたかったら、犯行予告をどっかの掲示板に乗っけてみろよ。あっという間に大人気だぜ」

「それはやだね、裏アカがひとつ使えなくなる」

「なら羨ましがんじゃねーよ」

「城前はこういうのみないのか?」

「みねーよ。ぜってえろくな事書かれてねえもん。落ち込むのわかってんのに、わざわざ検索かけるほどドMじゃねー」

「たしかに城前のスレッドはだいたい面白いこと書かれてるよね。今はなんかネタ画像で溢れ返ってるみたいだけど」

「いわんでよろしい。んなことより、ちょうどよかった。ケーキ食おうぜ、ケーキ」

半額とラベルのはられたスーパーのケーキを見て、ちゃっちいなあ、と遊矢はぶーたれる。なら食わんでよろしい、ユートを出せユートを。3種類違うものの、値段相応のうっすいケーキである。それはいやだと遊矢はつっぱねた。なら謝れ。ごめんなさい。茶番にもならないやり取りをしながら、遊矢は、食べる!とパソコンを終了させる作業に入った。ユートの希望を城前は聞くが、遊矢から教えてもらう種類がほんとうにユートが欲しいケーキなのかはわからない。精神体状態では見えないからしかたないが。城前はそのすぐ後ろにある背の低いテーブルに来るようこつこつ叩く。洗い物が増えるのがめんどくさいのか、ふたを皿代わりにしてユートのを取り分ける。お皿とフォークを出すのも悲しくなるような貧相なケーキである。直に食べる気満々の城前はお行儀悪い姿勢ですでに陣取っている。

そんでー、これとー、これとー、とスポーツバッグから出てくる出てくるお菓子のパッケージ。食堂の日替わり定食じゃ足りないと買い食いしているのは知っているが、こんだけお菓子を食べるほど甘いもの大好きでもないのにめずらしい。持って帰ってきたのも食べきれないからだろうが、飴とかいつもなら絶対に買わないものがチョイスされるあたり謎な組み合わせである。ちょっとずつ集めたようなラインナップになにこれと遊矢は首をかしげた。

「どーしたのさ、城前。なんかあった?」

「まあ今日誕生日だしな、ちょこちょこもらってたら結構溜まってた。これだけじゃなんだし買ってみたっつーわけよ、ケーキ」

「え、誰の?」

「え?おれの」

「ケーキ自分で買うのかよ、寂しいなあ」

「うるせえ、ローソク吹き消すお年頃じゃないんだよ」

「ホールですらないんだ」

「あんなでっけえの食い切れるか。めっちゃ好きってわけでもねえのに、1ホールとかどんなドMだよ」

「それにしたって、スーパーの半額ってちょっと貧相すぎないか?」

「いーんだよ、べつに。気持ちが大事なんだから。ちょっと贅沢するにしても、ケーキ屋さんとかハードル高いわ。彼女に買ってあげるんですよー、な顔して行ったら、何個も買わないとダメな流れになるだろ。どんな罰ゲームだよ」

「でもこれじゃいつものデザートじゃん」

「いーの、いーの。おめでとーっていっぱいもらったからな、お菓子。今日は結構楽しかったし」

ほんとうにうれしそうにわらう城前に、遊矢はつられて笑った。

「ほんとに城前って誰かといたがるよな」

「なにを言い出しやがりますかね、この野郎」

「いっつも誰かと一緒に居るじゃん、城前って。ひとりになってるの見たことないんだけど」

「いやだって一人じゃつまんねーじゃん。何していいかわかんなくなるし」

「ふーん」

「うっせえ、そんな目でみんな!」

一人暮らしで風邪をひいてしまったときなんて、堪えるんだぞー、と冗談交じりに城前は笑う。心細くて誰かに頼りたいけど、彼女いねえ。見舞いに来てくれそうな友達はいるが、高校生では時間的に厳しい時もある。さみしくて死にそうだ、なんて考えることはしょっちゅうだ。思っているのか、いないのか、ぺらぺら言葉がならべられる。病気になって体調を崩して一人の時とか、寒い夜に一人で寝てる時とか、クリスマスや誕生日にひとりで過ごした時とか、カップルだらけのイベントに駆り出された時とか。せっかくの休みなのに雨が降って外出の予定がぜんぶなくなって、出掛ける人が誰もいなかったときとか。打ち上げから家に帰った時とか。家でひとりぽつんといる時とか。深夜の見たい番組が終わった瞬間に一人だった時とか。突然、言い知れぬ寂しさを感じて不安になる。とりわけ夜になると寂しさが増す。なぜか独身男性の悲哀すら混じり始めた、微妙に生々しい語りは私情が入り始めてやたら熱が入る。体が弱ってる時にはネガティブになりがちだが、ひとりの寂しさが身に染みるのはわかるが、この先立つ違和感はなんだろう。

「城前って、どうでもいい時ほどよくしゃべるよな」

「おっと聞き捨てなんねえぞ、遊矢。人が一生懸命喋ってるときは聞けよ」

「どうでもいい話長々と話されてもいやだし」

「ずけずけいうなあ、このやろう」

「だって城前はオレたちと一緒で一人でも平気だろ。むしろ誰がいても一人の時とかわんないだろ、正直。なんで取り繕うのかなあと思って」

「正直なガキは嫌いだよ」

「あは、図星?でも謝らないよ、オレ。悪いこと言ってないしね」

「おーおー人のこと好き勝手いっといて謝らねーとはいい度胸だ!」

「あははははっ、ちょ、くすぐるのはなしだろ!反則!反則!」

遊矢もユートもひとりを楽しむことを知っているから、ひとりを恐れたことはない。ファントムは遊矢とユート、ふたりである。ひとりになりたいこともあるが、体質上それが不可能なことだ。早々に諦めた葛藤でもある。人は慣れるものだ。プライベートスペースがそもそも確保されていない遊矢からすれば、城前の悩みはずいぶんと贅沢な悩みだな、と考えてしまうのは立場の違いか。経験の違いか。家族や故郷の友達の気配が微塵もないから、より繋がりを求めてしまう孤独さを感じることはあっても、境遇的に似たり寄ったりでもここまで違うものがあるのかと不思議になる。なにをそんなに取り繕う必要があるのかわからない。触れられたくないようでくすぐり攻撃されてしまったが。だから流した。遊矢にはわからない感情だからだ。想像は出来てもそれ以上は難しい。

「それより誕生日なら誕生日って言ってくれないと困るよ、城前。なんにも用意してないんだけど」

「安心しろよ、期待してねえから」

「なんでー」

「おれ誕生日だからなんかくれって言われて、なにくれるんだよ。いっつもおれにつけてる癖に」

「んー、なにがいい?」

「希望聞いてくれるのは評価すっけど、ぜってえろくなことになんねえからな。却下だ却下」

「言ってみてよ、聞いてみないとわかんないだろ」

「お前んとこのアシスタント貸してくれ」

「え、やだ」

「ほらみろ、やっぱダメじゃねーか。ちょっと期待したおれに謝れ。お前には心底がっかりさせられる」

「だってユニとコンはオレの専属アシスタントだし!」

「モーション、エフェクト凝ってるあたり力の入れようはわかってるからな、知ってた!」

「んー。なら、城前のモンスターのモーション作ってあげようか?」

「あ、まじで?」

「そんなんでいいならいくらでもしてやるよ。で、何がいいんだ?やっぱ開闢の使者?混沌帝龍?カオス・ソーサラー?」

「いくつやってくれんの?」

「オレ凝り性だからね。いくつでもいいけど、その分クオリティ下がるよ」

「ヴォイスはつきますか、先生」

「声まで凝り始めたら、オレが死ぬから、3つは却下!ヴォイスも欲しいんなら、1つ。3つ欲しいんなら、モーション、エフェクトだけ!」

「ちぇー。んー、なら、3つくれ。そんで、別の機会にヴォイス作ってもらうことにしよう」

「えっ、嘘だろ、ほんとに?それって結局3体分つくる流れじゃないか」

「言い出したのは遊矢。男に二言はねーんだろ」

「うぐぐ、すっげえ墓穴掘った気がする。なあなあ、城前。今からでもライロの女の子たちにしない?そっちならいろんな特典付けるよ!」

「ひっじょーに心惹かれるものがあるけど、断る!今のおれは男のロマンより子供のロマンを優先させてもらうぜ。誕生日なんだからそれくらい融通効かせてくれよ」

「わかったよー。でもクオリティはその分下がるからな、期待しないでくれよな。むさくるしいおっさんたちじゃ、モチベーション下がるんだよ」

「おいこら、遊矢。ストレートにカオスディスんじゃねーよ、ぶっ飛ばすぞ。かっこいいじゃねーか、3体とも!」

「おっと、口が滑った。そんなに思い入れがあるなら、今のソリッドヴィジョンにご不満な点があるってことだよな?どんなふうにして欲しいのか言ってみてくれよ。聞くだけならタダだしな!」

「おっけえ、今日はとことん付き合ってもらうからな、遊矢」

「……もしかして地雷踏み抜いた感じ?」

すっごい目をキラキラさせている城前に、遊矢はたらりと汗を流した。



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