境界線2(漫画版夢主とファントム)

「おいこら、遊矢ァ!」

「ほら、10分ちょっとだろ?オレの勝ちだな、ユート。よう、城前」

「はあっ!?何してんだよ、お前!平然と放送室つかってんじゃねーよ!大体どっから入ってきた!」

「どっからって正面玄関からだけど?今度からはメンドクサイからって、ポストに入れっぱなしは止めといた方がいいってクラスの友達に言えよ、城前。赤い屋根の家のお婆ちゃん、息子さん夫婦に引き取られたから無人だぜ、あそこ」

「招待状はわかった。でもな、生徒手帳もないのにどっから入ってきたんだよ」

「オレを誰だと思ってんだよ、城前。オレはエンタメデュエリストの榊遊矢だぜ?ソリッドビジョンのシステム導入してるところは大体オレのフィールドなんだ。生徒手帳なんて、画像だけならネット探せばいくらでも転がってるだろ」

「それって明らかに違法な流通先だよな、どっから入手した未成年」

「そんなことねーよ、案外あげてるやついるんだぜ、捜せばさ」

「まじか」


はあ、とため息をついた城前は、何しに来たんだよ、とつぶやいた。


「オレくらいのやつには配ってるくせに、くれなかったじゃん。柚子って子には渡したくせに」

「だからって来るかよ、普通。そんなに来たかったんなら、言ってくれれば友達チケット渡したのに」

「つまんないだろ、それじゃ」

「おう、いっぺん殴らせろ」

「痛いからやだ」

「あーもう、仕方ねえな。で、わざわざおれを呼んだ理由はなんだよ?」

「オレ、こういうとこ来るの初めてなんだよね。だからさ、案内してくれよ」

「やっぱいっぺん殴らせろ」

「やだね」

「つか、ユートはどうしたユートは。あいつがよく許したな」

「オレもユートも学校がどんなとこか知らないからな!好奇心に勝てる訳ないだろ?」

「そこは止めろよ、ユート」


城前にはそんなこと言ってないとか心外だから訂正しろとか遊矢に抗議しているユートが見えた気がした。しかし、遊矢が耳を塞いだり、一人漫才に興じる素振りを見せたりしないあたり、どうやら本当らしい。あらぬところをみてニヤニヤしている遊矢に今回は軍配があがったようだ。珍しいこともあるもので。そういうことならしかたねえと城前は遊矢にお弁当を差し出した。


「どうせこれが目当てだろ」


ソリッドビジョンを有効活用した授業が導入されている手前、各教室にはネットワークが張り巡らされているのだ。城前が箸を付けようとした瞬間に鳴り響いた遊矢の声である。いやでも察するというものだ。


「さすが、よくわかってるじゃん!」

「ただし、これ食ったらユートに変われ」

「えー、なんだよ、ユート御指名?冷たいなあ」

「なに言ってんだよ、遊矢。ファントムといえばおまえだろ、一発でばれるわ。それに、どうせ用意した生徒手帳はユートなんだろ?ならユートじゃねえと不自然だろうが」

「仕方ないなあ。じゃあ、その代わり、いろいろ案内してくれよ」

「わーったわーった、立ち入り禁止じゃなければ案内してやるよ」


遊矢はそうこなくちゃと笑った。





「あっちゃー……もしかしなくてもゲーセン嫌いか、ユート?」


ハッキングスキルがあるということは、ある程度パソコンが弄れると踏んでパソコン部に顔を出したのだが、完全にチョイスを間違えたらしい。一昔前のアクションやレース、メダルゲームをソリッドビジョンで再現した流行りのやつをやってみたが、いまいち成績がよくない。隣にうるさいやつがいるから集中できないのもあるとは思うが、まさかここまでとは。何度もやってれば上手くなるあたりゲームオンチではないだろうし、むしろ才能があるだろう。だが、まず操作方法がよくわかってないとみた。これは面白いと思わないとたんなる作業ゲーである。一番つまらないパターンだ。ゲーム画面を覗き込む城前に、ユートはいや、と首を振る。


「すまない、城前。そういうわけじゃないんだが、全然いかないからな」

「まあデュエルの方が楽しいもんな、分かるぜ」

「それもあるが……」

「言ってくれれば別のとこにしたのに。普段どこで遊んでんだよ」

「いや、遊ばない」

「あー、わるい。思った以上にハードなんだな、お前ら」

「いや、違うんだ。城前と違って、ずっと一緒に居るような友達がいないだけだ」

「ふーん、でもファントムには結構ファンが居るって話だろ?ユートと普通に仲良くなりたいってやつもいるんじゃねーのか?」

「いたにはいたんだが、追われてる身だからな。気付いたら疎遠になった」

「あー……レオコーポレーションか。この街あの会社で成り立ってるとこあるもんなあ、周りが止めちゃう感じか。お疲れさん」

「まあ、な」

「ユートのことだから迷惑かけたくないとか言って身を引いたんだろ、余計なことしてそうだ」

「一言多いぞ、城前」

「そっかー、じゃあ女の子の話は期待できそうにねえな、残念」

「おい城前」


けらけら笑いながら、城前は次に行こうぜとユートを誘う。パソコン部を後にした。どうやら遊矢は日々の逃亡生活におけるいろんな持ちネタがあるようで語りたがっているようだ。さっきからユートの突っ込みがいそがしい。城前が茶化すといよいよ黙殺してしまう。機嫌直せよ、と頭に肘を置いたら足を踏まれた。丁度いい所に腕置き場があったからさあと笑った城前にユートの無言の抗議が飛ぶ。空き教室に顔を出し、転校初日の案内係のように軽い説明も入れながら売店にやってきた。かなり混んでいて、注文するだけでも時間が大分かかってしまいそうだ。瞬きしているユートである。ファストフードをぱくった内装にもかかわらずだ。


「こーいう店もあんまこない感じ?」

「行く機会がないな」

「まじかー」


ユートはそわそわ忙しない。視線のやり場に困っているのか、見慣れない物ばかりがめずらしいのか。最初は席ヨロシクと言った城前だが、どことなく不安そうな顔をうかべるユートに、結局一緒に並んだ。順番が来て、どれにする?と振ってみたが、注文の仕方がよく分からないのか困った顔をされる。城前が選んだのと同じのといった。これって並ぶ意味ねえなと思いつつ、整理券を貰った城前は、列を外れる。商品待ちの客に交じる。メニューを廃止したファストフードじゃあるまいし、指差すだけでいいのにと笑うとぎこちない。城前からすれば、デュエルをするよく行く店だが、ユートにとってはハードルが高いらしい。


「ここで食べるのか?」

「やめとこうぜ、うるさいし狭いし」


ほっとした様子を見ると完全に間違えたようだ。あー、と城前は頬を掻く。


「ごめんな、食堂あるほどでかい学校じゃねーんだよ、ここ」

「別にかまわないが」

「いやいや、案内してんのおれだし。しっかし、おれ達、デュエルモンスターズ以外は完全に趣味あわねーな、ごめんな退屈で。おれいつもこんな感じだしなあ」

「いや、慣れてないだけだから、気にしないでくれ。城前が連れてきてくれてよかった。どこか遊びにいく機会があったら慣れてくる」

「いやいや、無理スンナよ。年下なんだから、我慢すんな。不満があるなら言ってくれねえと面目丸つぶれじゃねーか」

「城前がいつもいる学校はこんな感じなのか、と思ったら悪くはない。趣味が違いすぎる俺達の相手をするのは迷惑かもしれないが」

「またそういうこという。そんなわけねーだろ」


城前は笑った。ユートは静かに笑っている。売店を後にした城前は、開放されている中庭に入る。靴はいいのか?と上履きのまま中庭に歩く城前にユートは言葉を投げるが、芝生だからセーフと胡坐をかいた。


「とりあえず食うか。あーあ、年に1度しかくえねえんだぞ、あの弁当」

「遊矢がすまない」

「ほんとだぜ、ったくもう。どうよ?」

「うまいけど食べにくいな」

「だろ?これソース美味いんだよ、市販だから大したことねーけどイベントで買うと意外といけるんだよな」

「そうか」

「そうそう。あとはステージ発表かな、今はたしか映画やってんじゃねーかな」

「映画?」

「そ、ずっとやってるプログラムの目玉ってやつ?結構人いるから後ろの方になるだろうけどな。卒業生の先輩が大学で撮ってる映画。年に1回見せてくれるんだ。よくわかんねーけど、行こうぜ後で」

「わかった」

「しっかしあれだな」

「?」

「ユートってハンバーガー似合わねえな」

「なんだそれ」


ユートは笑った。





暗幕のはられた体育館はうすぐらい。これに便乗したいのか、気付けば隣にはユートではなく遊矢がいる。ぎょっとする城前に、遊矢は人差し指をあてる。前の方に人だかりが出来ていてよく見えない。後ろにある暗幕をひくベランダに続く階段を上るとすでに人がちらほらみえる。みんなプロジェクターを見ているのでこちらをわざわざ注視する者はいない。


「ユートいいなあ、城前のおごりじゃん」

「お前が食った弁当もチケット買ったのおれだからな?」

「へー、そうなんだ?」

「完全予約制なんだよ、うちの学校は」

「なるほど、だから1つしかなかったんだ」

「そんなことも知らずに食ってたのかよ、もっと味わって食えよおれの分まで」

「城前が教えてくれないからわるいんだろ?」

「なんでおれのせいなんだよ、腹減ってたんじゃねーのか」

「ほらよく言うじゃん、隣のやつの弁当はうまそうに見えるって」

「やっぱいっぱつ殴らせろよ、遊矢。こう、斜め四十五度で後ろの首すじあたりをさ」

「それ堕ちるやつだからやだ」

「エンタメの伝道師がそんなんでどうするんだよ、試してやるからちょっと首出せよ」

「ごめん、やめて。マジで痛いから。マジで痛いから」

「なんでそんな強調すんだよ、遊矢」

「いやちょっと昔の古傷が」

「あー修羅場か?お疲れさん」

「なあ、城前の中で俺ってどういうキャラになってんの?」

「聞きたい?なあ聞きたい?聞いちゃうか、遊矢?」

「いや、やめとく。なんか怖いからやめとく。映画見ようそうしよう」


中途半端な時間から入場したためよくわからないまま終わりを告げた映画が、またはじめから再生される。1時間ほどの短編映画だ。大学生サークルが取った部員主演の自主制作映画はそれなりのものである。冒頭が確かならどこかのコンクールに入賞したそうだから、それなりの出来なのかもしれない。城前はよくわからなかったが、前の方にものすごい人だかりがいるからファンはいるようだ。去年上映された映画も次は流れるようである。


「案外面白いな、こういうの」

「へー、意外。城前あーいうのが好きなんだ?」

「いやべつに?でも興味なくてもしんどくねえってすごくね?きついだろ、普通」

「あー、そっち?」

「遊矢はつまんなかったか?べつんとこ見る?」

「いや、見るよ。せっかく遊びに来たのにもったいないし。余計なこと考えなくていいのは楽でいいよな」

「だろ?」


結局、プログラムが終わるまで映画鑑賞は続いた。暗幕が開かれる前に体育館を後にした城前は、時計を見る。


「やべ、そろそろHRだ。おれ教室戻るけど遊矢はどうする?どっか遊びに行くか?」

「あれ?ワンキル館は?」

「学生は学生らしく学業に専念しろだってさ。っつーわけで今日は休み」

「ならどっかで待ってるよ」

「りょーかい。どーせおれのメアド知ってんだろ?あとで空メールおくれよ、どっかのフリメでいいから」

「わかった。なあ、城前」

「ん?」

「学校は楽しい?」

「まーな、それなりに?」

「ふーん、そっか」


なにかを考えるようなそぶりをみせた遊矢だったが、すぐに手を振る。チャイムが鳴る。あわてて城前は教室に走ったのだった。


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