境界線(漫画版夢主とファントム)
「なんか意外ね」

「何がだよ」

「アンタみたいなやつが協力的なのが意外だって言ってるのよ。なに企んでるわけ?」

「なんも考えてねえって失礼な。おれもクラスの一員として頑張ってるだけだろー?褒められることはあっても怒られることなんかねーだろ、酷くね?委員長」

「たしかにそうですね、城前君にしては真面目に取り組んでいるようですし、今回はなにも問題ないのでは?」

「そんなことないですよ、委員長!ずえったい、こいつ、なんか考えてますって!」

「うっせーよ。人を諸悪の根源みたいに言うんじゃねーよ、ばーか」

「男ってだけで諸悪の根源でしょ!?無理、マジで無理、なんでアンタうちのクラスなのよ、信じらんない。頼むから半径10メートルに入らないでくれる?!」

「お前が男嫌いなのはわかったから、どっか行くのはてめーだ。おれらの邪魔してんのはてめーだ、ばーか」

「うぐぐ」

「まあまあ、ケンカしないで二人とも」

「だいたいなんでアンタがライロ使うのよ、今まで別の環境テーマ使ってたくせに」

「いーじゃねーか、別に。カオス組むのに使いやすいギミックだから使ってるだけだっての」

「それが気に入らないっての。どーせ飽きたら別のデッキ使うんでしょ?ならなんでライロ使うのよ!アンタが使ってるせいでライロ使う男子が増えただけでも耐えらんないのに!」

「誰がどんなテーマ使おうが勝手だろ、くだらねえ。男嫌いなくせにライロの男使うとかどういう神経してんだ、風紀いいんちょー?イケメンに限るってか?」

「うるさいわね、モンスターなんだから関係ないでしょ?!」

「アクションデュエルのデッキでも男モンスター使ってるお前にだけは言われても説得力ねーわ」

「きいいっ、だからアンタは嫌いなのよ!」

「安心しろ、おれも嫌いだ、ばーか」

「少し静かにしてくれないかしら、ふたりとも。ちょっとみんなが迷惑しているのだけれど」

「あ、ごめんなさい」

「分かってくれたならいいのよ。城前もからかうのはほどほどにしてあげなさいね」

「りょーかい、ゆきのん」

「誰がゆきのんですって?だからその呼び方やめなさい。せめて様をつけなさい」

「色気が足りねえよ、色気が。10年たったらまた来いよ」

「この年上好き。だからワンキル館に住んでるんでしょう?」

「馬鹿言え、おれは年上好きだけどあそこまで年上は範囲外だっての」

「あら、そうなの?意外ね。いつも仲良さそうだけど」

「勘弁してくれよ、想像されただけで鳥肌が立つわ!」


文化祭の準備は着々と進んでいる。やる気のない城前のクラスは、それなりに飾りつけをして休憩所として活用してもらう計画だ。なにせクラスの大半が運動部のこのクラス、大量得点が狙える翌日の体育祭にすべてを賭けている。頼りの綱である文化部人員が少なすぎて、教室でやる出し物にはろくな企画が上がらなかった。料理部がいれば喫茶店などの派生が期待できたが、それはお弁当販売という形で中立を保っているため、レパートリーなんてたかがしれていた。他の出し物を見に行きたい、体育祭で一気にポイントを稼ぎたい、友達と遊びたい、ステージ発表がある、理由は様々だがクラスにすべてを丸投げするスタイルの担任の公認も得て、クラス全員の意志が一致した結果、そうなった。


防犯上の理由などが重なり限定公開という城前からすれば寂しい文化祭だが、クラスメイト達はそれなりに楽しんでいるようだ。城前が転校してくる前の年に、本来の目的以外で学校に訪れて問題行為を起こしたり、盗撮などの悪質な行為をやらかした人がいたらしい。不審者まで現れたとなれば学校側も対策を考えざるを得なかったというわけだ。ご近所のお祭りも兼ねていた記憶がある城前からすれば驚いたものだが、今の時代、そんなものなのかもしれない。生徒中心で準備した文化祭、保護者や近隣の人など、学校に縁がある人に安心して楽しんでもらうためという名目で、昨年からこの学校は紹介制だ。担任から配られたチラシには一般の人が入場できる日が記載されているが、すぐに無理だと城前は悟る。土日はワンキル館の掻き入れ時である。しかも今の時期はなにかと大型イベントが予定されているため、責任者である館長が場を離れることは無理と言っていい。去年はなにかと忙しかったし、今年も忙しいだろう。学校行事は優先しろと言われているのでワンキル館のアルバイトをサボれる格好の日だが、館長が忙しいならスタッフやパートの人はみんな忙しいのだ。


「どうした、城前」

「せんせー、去年よりチケット多くないですかー?」

「きのせいだー」

「えー」


担任から配られた招待状が重い。どうすっかなあ、と城前は考え込む。去年ちょっとはりきりすぎた。××年ぶりの文化祭だったから、ちょっとがんばりすぎた。卒業生のパートやスタッフの希望者に配ったり、めんどくさがるクラスメイトの代わりに学校のご近所さんに配達したりした。ワンキル館の宣伝もかねてはご愛嬌として、そのせいで今年は評判を聞きつけた担任からまさかの丸投げである。そろそろだねってスタッフから問い合わせがあるから問題はないが、去年より枚数があきらかに増えている。一応配った人は記録しなきゃいけないので、他の人に丸投げってのもできない。チラシとにらめっこしていた城前は、ふと顔を上げた。


「せんせー」

「なんだー」

「中学生は保護者いなくても大丈夫なんですか?」

「ああ、中学生なら生徒手帳があるだろ?持ってきてくれれば、それが身分証明書がわりになるからな。来年うちに来てくれるかもしれないからって、結構ゆるくはしてあるぞ」

「なら、うちの大会にある中学部門のブースでチラシ配りしてもいいですか?」

「いいけどMAIAMI市内の中学生しかダメだぞ?」

「それなら問題ないです、IDかければ一発だし。手続きする時に、他の大会のチラシを渡すこともよくあるんでその時に。希望者にチケット渡しときます。宣伝のためにうちの文化祭のポスターもらってもいいですか?」

「いいぞ、いくらでも」

「ありがとうございまーす」

「それじゃあ、あとはよろしくな」

「待ってくださいよ、さすがにご近所に配るのはおれだけじゃ無理ですって!」

「いいじゃない、どうせ体育祭も2つくらいしか出ないんでしょ?準備だけはがんばったら?」

「お前、ここらに住んでるじゃねーか!招待状配るのはご近所にすんでる奴がするのがお約束だろ!」

「嫌よ、そうやって小中高とやらされてきたんだから、たまには休みたい」

「なんだよそれ!」

「男なんだからそれくらいしなさいよ。いつも一緒に居るやつらと手分けすれば一発でしょ?」

「ふざけんな!」

「まあまあ、二人ともケンカしないで。ここはちゃんと配る人を決めましょう、みんなでやることは分担しないと不公平感が出るのは良くないわ」

「「はーい」」





そして1週間ほど貴重な放課後が潰される日々が続いた。





「そんで当日は教室でデュエル大会とか最高じゃん」

「テーブルデュエルとか懐かしすぎるだろ」

「城前、なんでプレイマットなんてもってんだよ」

「景品だよ、景品。やっぱ欲しいだろ、こういう時」

「やっべー、はじめてみた。これがプレイマットか」

「なに遠い目してんの、城前」

「なんでもねえよ」


これが時代か、と城前は遠い目をした。こいつらみんな、1998年生まれなんだよなあ、って。城前は何をしていた時だろうと思いだそうとして、酷い頭痛に襲われたので考えるのを辞めた。


「とうちゃーく」

「おせーぞ」

「そんなに混んでたのかよ、弁当」

「混むなんてレベルじゃねーぞ、特攻させんなよ城前、てめえ!」

「場所取り頼んだのおまえだろ」

「あんなに混むって知ってたら行かなかったっての」

「何選んだ?俺とんかつだけど」

「サンドイッチにしたわ、俺」

「やっぱ焼きそばだろ城前は?」

「おれ?おれハンバーグ。間違えてねえだろうな?」

「わざわざとってきてやったダチに何ツー言い草だ」

「さんきゅー」


デッキをケースにしまい、適当に椅子を引く。いただきます、と割り箸に手を伸ばしたら、校内放送のチャイムが鳴る。


『2−Bの城前克己さん、城前克己さん。至急放送室にお越しください』

「ぶふっ」

「うわ汚っ!?」

「なに吹いてんだよ、城前。大丈夫か?」


いきなり咳き込み始めた城前にポケットティッシュが飛んでくる。ミネラルウォーターを一気飲みした城前は、あー、死ぬかと思ったと涙目である。ティッシュで机を綺麗にし、ごめんごめんとゴミ箱に捨てる。ぎょっとした周囲の視線を感じながら、くすくす笑いに地味にダメージが追加される。その間もアナウンスは聞こえている。にやにや彼らは城前を見る。


「おい城前、呼び出しくらってんじゃねーか」

「まじで誰だよ、なんでおれ!?」

「なんかやらかしたのかよ、お前」

「なんもやってねえよ、まだ!」

「まだ!?」

「あーくそ、悪い、先に食っててくれ」

「なんだよ、トーナメント途中なのに」

「わりい、ごめんな。埋め合わせは今度すっから!」

「仕方ねーなあ」

「これどーすんの?」

「もってくわ、おいといたら食われそうだし」

「ちっ」

「おいこら。ったくもー、油断も隙もねえな。じゃあ、おれ行ってくるわ」


城前を見届けたクラスメイトたちは、トーナメントの組み直しをどうするか話し始めた。ドアを閉めた城前は出し物が少ない通路を選び、階段を下りる。本当は一気に階段を駆け下りたいが、お弁当があるから迂闊に走れない。校内放送は効果抜群である。すれ違う人すれ違う人に、何やらかしたんだこの人的な視線が突き刺さる。広報活動で顔を出す機会が多いせいで、無駄に顔が知られている。こういうときは有名税である。息を切らしながら放送室の前にやってきた城前は、扉を開いた。


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