Change(漫画版男主で柚子夢、らんまネタ注意報)
『はあっ!?ちょ、おい、大丈夫なのかよ!?今どこ?えっ、それどころじゃねーだろ、バカにすんな!どっちが大事だと思ってんだよ、当たり前のこといわせんじゃねー、恥ずかしい。え?あ?はあっ!?だから、そんな、無理だって、今からエントリーまでほっとんど時間ないじゃねーか!お前以外に知ってる奴なんかいねーよ、無茶いうな!んなこと言ったって、そもそも、おれの知りあいに女の子のデュエリストの方が少ないっつー』


城前と出待ちしていた柚子の目が合うのは同時だった。満面の笑みを浮かべる城前に、瞬きしながら柚子は周りをみる。もちろん誰もいない。だらだら汗をかきながら、わたし?と指差す柚子に、大きく頷いた城前は、お、お邪魔しましたー、と引き返そうとする柚子にアイパッドを差し出す。そこにうつるのはオペラ座の怪人のコスプレをしている城前とデュエルする榊遊矢。ぴたっと動きを止めた柚子が食いついたのはいうまでもない。


『なあ、その大会のフリーって何歳以上だっけ。え?ああ、ちょうどいいとこにいたんだけど、まだ中学生なんだよ。大丈夫だよな?うん、わかった、おっけ。すぐ話しつけてくる。あとでかけ直すから、ちょっと待っててくれ』


ぴ、と通話アプリをきった城前は、柚子のところに駆け寄る。


「なあ、柚子ちゃん。今から時間あるか?」

「え?あ、はい、大丈夫ですけど、どうしたんですかこれ!?」

「ここんとこファントムがうちのセキュリティシステムをハッキングする事案が多発したもんだから、館長が本気出した結果。今日から業者が入るからもうこれねえと思うけど」

「ええーっ!?なんで電話してくれなかったんですか!?城前さん、いつも連絡遅いですよ!」

「無茶言うなよ、あっちはデュエルフィールドに閉じ込めやがるんだぞ。アクションデュエル申込まれてんのに、悠長に電話する時間なんてある訳ねーだろ。ボッシュートされるわ!一応、終わってからすぐ柚子ちゃんに電話しただろ!出ねえじゃねーか、メールしたけど音沙汰ねえし」

「お、乙女のお風呂は長いんです!」

「まあ、どっちも夜遅かったけどさ。運が悪かったと思って諦めな。あとで送るから容量開けといてくれ」

「わかりました」

「じゃー、これと引き換えと言ってはなんだけどさ、これからデュエルのチーム戦があるんだけど一緒に出てくれねーか?出るはずだったヤツが事故っちまってさ、1人足りねえんだわ」

「わ、私でよかったらいいですけど、どうして私なんです?城前さんのところって、結構常連さんいるんだし声かけたらいいのに」

「うちの大会、ノーリミットがメインだろ?あーいうピーキーな大会だと女性デュエリストの参加率の低さは異常なんだわ」

「え、女の子のデュエリストがいるんですか?」

「そうそう、だって女性デュエリスト向けのイベントだし」

「あーなるほど。…………って、え?」


え!?と城前を二度見する柚子を尻目に、約束を取り付けた城前はほっとした様子で先ほど電話を掛けていた相手にかけ直す。無事に助っ人を確保できたことを報告した城前に、電話相手は相当喜んでいるようだ。お見舞いの品は参加賞をよろしくとお気楽につげたらしい相手に心配かけさせやがってと軽口叩きながら、駐輪場に向かって歩き出す。柚子はあわてて後を追いかけた。ちらちら時計を見る城前である。大会のエントリーまで時間がないとのことだから、このまま柚子を乗っけて大会会場まで連れて行くつもりのようだ。同乗者用のヘルメットを渡される。さっきから頻りに太陽の位置を確認している城前だ。たしかに一人でバイクに乗るよりも二人乗りで夜間走行となると慎重に運転しないといけないから、より神経を使ってしまうことになるだろう。できることなら早く出発してしまいたいようだ。城前の知り合いの女性チームに欠員が出たという意味なのかもしれない、と柚子は思い直す。普通に考えて、城前が女性デュエリスト向けのイベントに参加すると口走る方がおかしい。そうだ、そうに違いない。城前は男なのだから。あーびっくりした、と胸をなでおろす。後ろに乗って、と促され、柚子は頷いた。体重のかけ方を軽く説明される。エンジンがかかるともう説明を求める空気ではない。落っことされないようにしがみつくので精いっぱいだった。


城前がやってきたのは、女性用のフィットネスクラブが入っているビルである。女性向けの施設がたくさん入っており、男性が入っていくような場所ではない。近くの駐輪場に止めた城前は柚子が下りたのを確認して、慣れた様子で荷物を準備する。裏路地から続く従業員用の階段を上がっていき、スタッフルームが入っている通路にでる。そこではすでに待っている人がいた。


「城前、待ってたわ!その子が助っ人の子?」


はあい、と愛想よく笑った女性は、近付いてくる。


「はい、そうです。柊柚子ちゃん。ちょうど用があってきてたんで、そのまま連れてきました」

「あ、は、初めまして。舞網中の柊柚子です」

「はじめまして。アタシは園田でいいわ、よろしくね。ごめんね、びっくりしたでしょ?いつもチーム組んでる子がここに来る前に事故っちゃったらしくてね、自損事故だから間に合わないのよ。アタシは別に今度でいいって言ったんだけど、参加賞でもらえるスリーブがどうしても欲しいって聞かなくて」

「は、はあ……」

「園田さん、奥借りていいですか?」

「そーね、そろそろ時間でしょ?誰もいないから使ってどーぞ」

「失礼しまーす」

「はいはい、どうもね。ところで柚子ちゃん、使うデッキ教えてもらってもいい?柚子ちゃんに合わせてデッキ調整したいから」

「あ、はい、わかりました。私が使ってるのは……」


チーム戦のルールやデッキについて、園田という女性と話し込んでいた柚子は、気付けば時計が回っていることに気付く。彼女はそれに気付いて立ち上がる。奥の衣裳部屋を開けた。


「城前、そろそろ時間よ。出てきたら?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、園田さん!まだ途中だって!」

「そんなのいいじゃない。どうせライン隠れてたらばれやしないわよ」

「ちょーっ!?」

「え?あの、女性デュエリストの大会なんですよね?どうして城前さんが?」

「あら?もしかして知らないの?」

「え?」

「城前、もしかしてこの子、なんにも知らないのにつれてきたの?」

「説明する時間がなかったんですよ」

「無かったってあのねえ、いくら学校の先輩だからって、無茶ぶりされたら断りなさいよ」

「いやだって、いつも迷惑かけてばっかだし」

「え、え、あれ!?」


柚子は硬直する。あの衣裳部屋に消えたのは城前のはずで、柚子が彼女と話している間、誰も通らなかったはずだ。入れ替わるなんてマジック、柚子をびっくりさせるためだけに仕込むとは考えにくい。まだ後ろの紐が結べてないと愚痴るのは、城前と面影は似ているものの、姉妹であると説明された方が精神的に優しい姿をした女性だった。ぽかんとしている柚子に城前とよく似た女性は頬を掻いた。結局彼女に背後の仕上げをしてもらっている。


「ごめん、ごめん、柚子ちゃん。説明するのめんどくさくてさ、見てもらった方が早いと思って、つい」


柚子がよく知っている城前の笑い方である。


「あの、え、えええええ!?」

「あー、やばい、久しぶりすぎるその反応」

「これが普通でしょ、城前。館長たちに毒され過ぎよ」

「いやー、だってあそこだと普通に流されるから、つい」

「あの魍魎の住む館と一緒にしちゃダメだって。だから定期的に普通を思い出させてやってんのに、アンタときたら!ごめんね、柊さん、こいつの思い付きに巻きこんじゃって」


申し訳なさそうに謝る彼女と、城前とよく似た女性を見比べて、柚子は思わず頬をつねる。普通に痛いので夢ではないと嫌でも分かる。そろそろ時間だから行きましょうかと促され、疑問符がぐるぐる回るまま柚子は女性デュエリストの大会に飛び入りで参加することになったのだった。


「なんなんですか。なんなんですか、城前さん。むしろなんで平然としてるんですか、城前さん」

「いや、だって生まれた時からこうだし」

「朝は男の人で、夜は女の人になるのがですか!?」

「ついでにいうと家族みんなそうだったし」

「まさかの遺伝!?えっと、あの、ホントはどっちなんですか?」

「男に決まってるだろ、言わせんな恥ずかしい」

「で、ですよね。よかった、そこは普通なんだ。でも、そんな普通に女の人されても説得力ないです」

「だってさ、今の時期だと太陽が出てる時間のが短いだろ。いやでもこっちにシフトしちまうんだよ。おれが大会出場するときは、だいたい夕方以降だから大会出るときはこっちのが慣れてるんだよ。学生がバイトすんのも大体その時間だろ。いやでもそうなるんだよ」


はあ、と大きくためいきをついた城前に、オンナがそんな大きな口開けてんじゃないと後ろからいい音がする。悶絶する城前に、女性ものの服などを提供しているのが園田なのだと大体柚子は察したのだった。


「あの、城前さん」

「うん?」

「ファントムと会ったのって夜ですよね?」

「あー、そういえばそうだな。懐かしい」

「ハッキング事件も夜だったんですよね?」

「そーだな」

「ついでにいうと特殊部隊の人たちと会ったのは……?」

「夜しかねーな」

「もしかして、他の人たちにとっては女性の城前さんがデフォルトだったとか?」

「そういやそうだな、ま、あんま変わんないだろ。柚子ちゃんだって、おれの出てる大会を動画で見て知ったんだろ?おれのこと。女だなんて思いもしなかっただろ?おれがこっちに来てから、男のまんまでデュエルしてんのは日中のバイトしてるときだけなんだぜ?」


城前にとっては、異性の体に変化するのは日常生活の一部と化しているためか、あまりにも無頓着なのが気になってしまう柚子である。たしかに言われるまで全く気付かなかったのは、先入観もあるし、城前が性差を意識させる行動を意図的に排除させていたからでもある。デュエルをしている時、ずっとデュエリストを注視するのは非常に稀だし、まして城前は余裕のある服を好むから、なおさら。


こうして、女性であることを求められるから、性差を意識した振る舞いを平然と行えるくらいには、場数を踏んでいることがうかがえる。今の城前は普通に女性である。ふざけて女性言葉をつかったら、もうただの姉妹にしか見えなくなる。その特異な体質で被ってきた不具合の果てに今の城前がいるのだと思うと、なんだか不思議な気分になる柚子である。


「男のおれはレアだぜ、柚子ちゃん。よかったな!」


けらけらと笑う城前に、柚子はふと思った。


「あの、城前さん」

「うん?」

「彼女さんっていたことあります?」

「あるよ?」

「あるんですかっ!?」

「普通にあるよ、何言ってんだよ、失礼な」

「えっ、でも、え、城前さん、オンナの人になっちゃうのに?」

「それを人は愛というんだぜ」

「えええっ……!?でも、女の人の時でも女の人が好きなんですね」

「そりゃそうだろ、人間そんなころころ好みなんて変わんねえよ。結局はその人かどうかが問題なんだから」

「そういうものなんですか」

「そういうもんだよ。ま、柚子ちゃんも好きなやつができたらわかるんじゃねーかな」

「は、はあ……」


そろそろ帰ろうか、と駐輪場に向かう城前の後を追いかける。これからの道中を思うと、どこに手をやっていいのか分からなくて、柚子は途方に暮れた。


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