パラレルアップデート2(ゼアル×アークファイブ×漫画版夢主×黒咲夢)
今度は9の刻印がかざされる。フィールド全体が激震する演出により、突風が吹きすさぶ。会場の天井がはじけ飛ぶ演出が追加され、砕け散った天井の先で空が裂ける。城前の頭上にはソリッドビジョンで再現しうる限界の容量で再現されたエクシーズモンスターが垣間見える。あまりの大きさに全貌をみることは叶わず、すさまじい質量がはるか上空でこちらを見下ろしているだけだ。凄まじいエネルギーを消費しているようで、電気が走る。城前の手にはRUMが握られていた。

「おれはRUM−アストラル・フォースを発動!現れろ、カオスナンバーズ9!天空を覆う運命よ、今こそその内に異邦を宿し、今、ここに降臨せよ!カオスナンバーズ9、天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア!」

エクシーズモンスターがさらに禍々しくなる。フィールドに炎の矢を落とすべく、幾重もの爆撃を装填するのが見えた。

「墓地のアストラル・フォースを回収!そしてホープドラグーンの効果を発動、おれは墓地からダイソン・スフィアを守備表示で特殊召喚させる!そしてランクアップ・エクシーズ・チェンジ!2体目のカオス・ダイソン・スフィアがここに降臨する!カオス・ダイソン・スフィアは1ターンに1度、エクシーズ素材×300のダメージを相手に与えることができる!まずは1体目!こいつのエクシーズ素材は3つ!よって900のダメージを受けてもらおうか!」

「その程度か!」

「まだだ!カオス・ダイソン・スフィアからその3つのエクシーズ素材を取り除き、さらに効果を発動する!エクシーズ素材×800、つまり2400のダメージを受けてもらおうか!合計3300のダメージとなる!」

「決闘者の魂はここで砕けはしない!俺は墓地のRR−ネストを除外し、効果を発動する!このターン、俺が受けるダメージはすべてゼロになる!これで効果は無駄に終わったな!」

「甘いぜ、黒咲!それで終わりだと思ったかよ!」

「なんだと?!」

「さあ、おれはエクシーズ素材がないカオス・ダイソン・ソフィアでブレイズ・ファルコンとバトルだ!さあ、効果を発動させてもらうぜ!ダメージ計算を行わず、ブレイズ・ファルコンをエクシーズ素材として吸収させてもらう!」

「貴様っ……!」

「またブレイズ・ファルコンを特攻されちゃかなわねえからな、悪く思うなよ!」

「ちぃっ……ならば仕方あるまい。トラップ発動、ゴッドバードアタック!ブレイズ・ファルコンをリリースし、効果を発動!貴様のカオス・ダイソン・スフィア2体を破壊する!」

「やるじゃねーか、黒咲!やっぱおれの見込んだ通りだぜ、最高だなお前!さあ、こっから逆転してみろよ、アンタならできるだろ?」

「……」

「なんだよ、その目。変な奴っていいたげな眼は!それともあれか?まさに絶体絶命っていう崖っぷちに追い込まれて、臆病風吹かれちまったのか?」

「言ってろ。だが、最後に立っているのは俺だということを、今ここで証明してやる!どれだけ追い込まれようとも勝つのはこの俺だ!ドローッ!」

黒咲は、初めて口元を釣り上げた。

「さっきの言葉、返させてもらうぞ」

「なんだって?」

「おれの勝ちだ、城前。おれはRUM−ソウル・シェイブ・フォースを発動!LPを半分支払い、墓地のフォース・ストリクスを特殊召喚し、2ランク上のモンスターをエクシーズ召喚扱いでエクストラデッキから特殊召喚する!誇り高き隼よ、英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!エクシーズ召喚!出でよ、ランク6!RR−レヴォリューション・ファルコン!このカードはRRのエクシーズモンスターをオーバーレイユニットとしている場合、1ターンに1度相手のモンスター1体を破壊し、その攻撃の半分のダメージを与える!」

「まだ終わっちゃいない!おれは墓地のスキル・プリズナーを除外し、その効果を無効にする!」

「ならば、俺はその先を行く!バトルだ、城前!」

「っ……!」

「やはりレヴォリューション・ファルコンの効果を知っていたか。そうだ、俺はこの瞬間、レヴォリューション・ファルコンの効果を発動する!貴様のホープドラグーンの攻撃力を0にする!いけ、レヴォリューション・ファルコン!レヴォリューショナル・エアレイド!!」

その日を境に、黒咲と城前の対戦成績は肉薄したものとなる。

「え、プロ?ならねえよ」

背後から冷水をぶっかけられた気分だった。なに、といいかけた黒咲より先に、怪訝な顔を見つけたらしい城前は困ったように頬を掻く。

「いや、違うな、わりい。おれはプロのデュエリストにはなれないんだ」

「どういう意味だ、城前。お前は俺とデュエルしてよかったと言ったはずだ。なぜ、同じ高みに上ってこない。俺はデュエリストとしての腕前は認めているつもりだが、貴様にとってはそうではなかったということか」

「まさか、そんなわけあるか。黒咲とのデュエルはやっぱ楽しかったよ、久しぶりにデュエルは楽しいもんだと思いだせたから感謝してる。……まさかそこまで評価してくれてるとは思わなかった、サンキュー」

「なにか、それ以上の夢があるのか?」

「夢だったらどんなに良かったか。醒めない夢は悪夢でしかねえよ、黒咲」

「答えろ、城前。お前にとって今までの日々は悪夢でしかないということか」

「いずれわかるさ、いずれな」

融合次元の侵攻という現実を前に、黒咲の夢の舞台が悪夢に変わったのは、その直後だった。

難民キャンプに、エースモンスターを奪うグルーズの噂が立ったのは、さらに半年後のことだった。そのメンバーの1人が城前とよく似た風貌の青年であると知ったとき、黒咲は思った以上にショックを受けている自分がいたことに驚いた。黒咲が思い描いた夢の舞台に至るまでの過程とは全く違う環境で頭角を現し、幾度もデュエルをした城前は、黒咲が何度も感じた将来の欠片だった。立ち塞がるであろうライバルと目されるデュエリストの出現は、いつでも黒咲に一種の高揚感をもたらしていた。切磋琢磨する関係ではないにしろ、お互いに一目置く存在だったことは自負している。融合次元の侵攻という最悪のイレギュラーがなければ、間違いなく黒咲たちはここで生活を強いられることは無かったはずなのだから。そんな苛立ちの中で、黒咲は城前と再会した。気を失ったデュエリストからモンスターを奪取するという最悪のタイミングで。もちろん、黒咲がとった選択はたったひとつだけである。仲間のエースは必ず取り戻す。グルーズに身を落とした城前をこちら側に引き戻す最良の方法だと知っていたからだ。

「黒咲、ナンバーズって知ってるか?」

「ナンバーズ?貴様が使っているカードのことだろう?」

「ああ、そうだ。もっとも、おれが使ってるのはコピーカード(ということになっているOCG次元のカード)。本家本元はヤバいんだ、覚えてるだろ、黒咲。おれが一度だけ本家のナンバーズを使った時のこと」

いつかの異邦という口上と共に出現したホープドラグーンは、いつかの圧倒的な存在感をもって黒咲に襲い掛かった。ソリッドビジョンではない、リアルダメージが襲った。深入りするな、と何度も忠告してくる城前の警告を無視して、黒咲はデュエルを続けた。城前が試しているような気がしたからだ。幾度も全力でぶつかる城前のデュエルを最前線で見てきた黒咲はわかるのだ、手加減されているという屈辱が。その先にある迷いを看破して問い詰めた時、城前のホープドラグーンによって蘇生されたホープはビヨンドとなりフィールドのモンスターをすべて0にして、ライトニングという新たなる進化形態を披露して、黒咲に襲い掛かった。RRが魔法と罠を駆使してモンスターを守る側面もあるデッキでなければ、即死だったに違いない。すべての猛攻を防ぎ切った黒咲は、いつかと同じRUMで城前が奪取した仲間のモンスターを奪い返した。返してもらうぞ、と宣言した黒咲に、城前は笑った。カードを見た黒咲は絶句した。カードが白紙になっていたからだ。そして、新たなエクシーズモンスターが創造される。

「おめでとう、黒咲。これでお前もナンバーズの使い手だ。もっとも、おれが許さねえけどな」

世界に1枚しか存在しないカードであり、別次元の高位体の記憶の欠片であり、100枚存在する異邦のカード。秘められた力が存在し、融合次元もその存在を感知し、城前たちは争奪戦を繰り広げている。ナンバーズに触れた者は対応する数字の刻印が体に浮かび、心の闇や欲望が増幅され、白紙のカードが形を成す。まるでお伽噺のようなことを述べる城前だが、黒咲の腕に刻まれた刻印は発光してその存在を知らせている。

「狩らせてもらおう、そのナンバーズ!」

グルーズの噂は噂でしかない。ナンバーズを回収していただけだった、という事実は黒咲の過去に影を落とすことは無かったが、城前に対するいら立ちを募らせた。もともと私事を語らない性質のデュエリストだったが、ここまで秘密主義を貫かれると疲弊するレジスタンス生活の中で過酷な環境に身を置いていた黒咲が爆発するのは時間の問題だった。結果的に見れば、そのナンバーズが黒咲の城前に対する怒りを内包したメタモンスターになったのは当然の帰結である。ナンバーズにその怒りを増幅された黒咲と城前のデュエルは凄まじいものだった、とのちにユートは語っている。ハートランドの著名な研究所で目が覚めた黒咲は、レジスタンスの面々と共に城前を介して別次元を研究する者たちと邂逅することになる。別次元への転移を可能にする装置を提供すると言われたのは、その時だ。融合次元の刺客の装置を奪い、研究し、模倣し、似たような機能を作り上げたと新しくデュエルディスクを提供された。誰が代表として別次元に行くかの話し合いのさなか、黒咲は城前の姿がないことに気付いた。面々の中には別次元と争奪戦を繰り広げていた経験をかって、城前を押す人間が多かったのもある。ならば、本人に意志を確認するのが筋だ。プロのデュエリストにはなれない。城前の発言がナンバーズの回収という命題があったからだ、と解釈していた黒咲にとって、すべて終わればその発言は覆される。そう思ったからである。

もっとも、城前本人によって、覆されてしまうことになるのだが。

「行くのか」

それは城前が世話になっていると日々口にしていた、若き研究者の言葉だった。ナンバーズに耐性があるが、彼には最愛の弟と父親がいる。それなのにナンバーズを集めるために命を削って人間とかけ離れる訓練をうけろというのは酷すぎておれにはできないと断言するほどには知りあいらしい、研究者である。

「そりゃ行くだろ、それがあいつとの約束なんだし」

「アストラル次元はバリアン次元と冷戦状態にあるだけで、いつ戦争になるかわからないそうだ。ほんとうに信用していいのか?」

「それをお前がいうなよなあ」

「・・・・・・?相変わらず、お前は時々分からないことをいうな。あたりまえのことを言って何が悪い。城前があの高位体の存在を無条件で信じるに値する理由がオレには見つけられない」

「カイトはそうだろうけど、おれはそうじゃないの。あいつは嘘つけるようなやつじゃないだろ」

「たしかに高位体にしてはずいぶんと人間らしい振る舞いをするが、擬態かもしれないぞ?」

「あれが擬態だったら、よっぽど混沌じゃねーか。アストラル次元にそもそもいられねえだろーがよ。まあ、バリアン次元との戦争に巻き込まれるかもしれねーけど、ヌメロンが要るのは事実だからな。あいつらに取られたら一番困るんだ。手を貸す理由としちゃ十分だよ」

「しかしだな……城前、俺は」

「じゃあ、おれが帰る方法、他にあるのかよ?ねえから行くんだろーが、ぐらつかせんなこれ以上」

「城前が行くのは困る人間がまだいるようだ。出てきたらどうだ、黒咲」

研究者は白衣を翻して立ち去った。

「なんで来ちまうかね、お前さあ」

「城前を代表に選ぶヤツが多すぎる。棄権するなら相応の理由を用意してから、どこでも行け」

「はああっ!?ふっざけんなよ、なんでまた勝手にいろいろ決めるんだ、お前らは!いつもいつもそうだよな、勝手に期待して外堀埋めやがって!気付いたら道が残ってないとかいじめかよ!おれはもう嫌だ。おまえらに付き合ってられる程お人よしじゃないんだよ、ほっといてくれ!」

「それがお前の本音か、城前」

「そんなんしるか!だいたいおれは全く違う次元から来てんだよ、帰りたいと思って何が悪いんだ!どいつもこいつもおれの知ってるやつと同じ顔してるくせに、そいつらを否定するようなことばっかいいやがって!おれの記憶が塗り潰されちまうんだよ、思い出せなくなっちまうんだよ、勘弁してくれよ、なあ!」

「そんなこと知るか、俺には関係のない話だ、城前。俺は貴様とユートを他の2人に推薦しようと考えている。辞退するに値しない、却下だ」

「おまえの都合なんか知るか!おれがいなくたって、お前らは世界を救えるから心配するなよ、ほっといてくれ!」

「断る。平和になったハートランドで俺がプロになった時、立ち塞がるデュエリストは多い方がいい。貴様にはその一角を担ってもらう」

「はあっ!?てっめえ、いい加減にしろよ、なに勝手に決めてんだ!」

黒咲と城前の言い合いが白熱するにつれ、ギャラリーが集まり始める。それに気付いた城前がアストラル次元に繋がるゲートを開こうと黒咲の手を振り払った時、融合次元の急襲を知らせる警報が鳴り響いた。血相変えた研究者たちが別次元の転移を急ぐよう叫んでいる。なんでどいつもこいつもおれの邪魔ばっかするんだよ、と城前は泣き叫ぶ。若き研究者がゲートの行先をスタンダード次元に切り替えるのは同時だった。ユートと黒咲をゲートに送り出す。城前を突き飛ばしたのは、誰だったのだろうか。   


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