パラレルアップデート(ゼアル×アークファイブ×漫画版夢主×黒咲夢)
黒咲が城前克己を知ったのは、1年ほど前の話だ。講義を受けるため講堂の扉を開いた黒咲は、いつもの席を占領されていることに気付いた。休み時間になると集まってくだらない話をしているグループがあり、そのうちの一人と席が近かったのだ。黒咲を見つけたクラスメイトはわりい、わりい、といつもの調子で謝ると席をどき、そのメンバーの机に腰掛けた。グループの中心にいるはずの席の主は、さっきから突っ伏している。重苦しい空気をしょい込み、はあ、と大げさにため息をついて落ち込んでいると露骨にアピールしながら、まわりをちらちら確認している。仲良しのクラスメイトは慰める様子もなく、だっせー、と笑って肩を叩いたり、回し読みする雑誌を熱心に読み込んでいる。大げさに泣きまねすらはじめた席の主を小突きながら、付き合いのいいクラスメイトは、黒咲と目が合うと、聞いてもいないのに話し始めた。

「なあ、黒咲。こいつ、ガッコやめるってよ」

「ちょ、そこまで言ってねえだろ、ふざけんな!」

「ふざけてんのはそっちだろー、なにいってんだ」

「みんな、冷たい……!」

「だってダセえにも程があるだろ、なんで素人に負けるんだよ、お前」

「ビギナーズラックってやつ?」

「いやいや、RUM使ってたじゃねーか、ぜってえどっかのガッコのやつだって。素人がどっから手に入れるんだよ」

「あー、そっか。つか、ほんとにダセーな、お前!」

「こ、このやろう、入院した友達にいうかそんなこと!」

「素人に負けてショック受けて気絶とか、かっこ悪いにも程があるだろー!しっかりしろよ、お前さあ」

そこまで聞いて、黒咲は何があったのか疑問を投げた。黒咲の斜め後ろの席の主は、プロデュエリスト養成所において指折り数えるほどの実力者である。素行に問題があり、少々教師が手を焼いているところは目撃するが、デュエルの腕は確かであり、そこだけは認めていた。黒咲が興味を持ってくれてうれしいのか、意気消沈していたクラスメイトは笑い話の顛末を教えてくれた。

それは、前々からクラスメイトが出場すると息巻いていた、ハートランド公認のデュエル大会だった。プロデュエリストになるための登竜門である世界大会の開催を間近に控え、街はお祭りムードになっている。定期的に大小さまざまなデュエルの大会が企画され、世界大会に向けた準備運動としてアマチュアデュエリストたちは、貴重な経験を積むため参加するのが恒例となっていた。その例にもれず、知名度もある大規模な大会に出場したクラスメイトは、準決勝で一般枠で参加した無名の同年代のデュエリストと戦い、敗退したという。どこかの養成所に入っていればアナウンスが入るはずだが、一般枠で参加したいわば雰囲気を楽しみたい素人のようなアナウンスが入っていた。現にデュエルの前にデュエリスト同士の戦歴を公開するモニタがあるのだが、相手はなにもなかったという。よって、無名のデュエリストとクラスメイトは結論付けたようだ。問題はデュエルを途中までしてから、世界がブラックアウトしたことだ。

「気付いたらベッドの上でさー、もう嫌だ」

「わざわざ見舞いにきてくれたんだろ、そいつ。やっさしい」

「つーか、ショックで気絶するとかどんだけメンタル弱いんだよ」

「う、うるせー!俺だって好きで気絶したわけじゃねえっての!」

「でも覚えてないんだろ?」

「うう、そうなんだよ。実はデッキ調整してたら腹減ってさ、外に出てコンビニ言ったあとから覚えてないんだ。気付いたらベッドの上とかやばくね?」

「一度病院に行った方がいいって。主に頭を見てもらえ、バカが治るかもよ」

「おいやめろ、この野郎!」

クラスメイトは徹夜してデッキ調整したからか、ふわふわしたままデュエルをしたらしい。本人曰く、今までにないほど頭がさえわたり、今までで一番デュエルに集中できたとのこと。あの時の高揚感が忘れられず、またデュエルしたいと思っているようだが、肝心のデュエルの内容を思い出そうとしてもいまいち思い出せないらしい。そのせいでデュエルの途中でぶっ倒れ、病院に運ばれ、心配したその素人がお見舞いに来てくれたそうだ。なんだかんだでその素人は大会に優勝し、無名のデュエリストは一夜にして有名な一般人となった。こいつだよ、と差し出された雑誌の特集記事には黒咲たちと同じか、年上の城前克己というデュエリストがうつっていた。一緒にうつっているモンスターは、見たことがないデザインである。

「このカード、俺のじゃねーかって聞いてきたんだよな。違うって言ったら、運営委員に渡してくるっつってたのに、なんでもってんだろ」

「持ち主が現れなかったんじゃね?」

「いや、でも、記事にはエースってあるだろ。たしかに城前のエースはこいつだったんだ。俺が持ってるわけねーだろ、俺、こんなカード初めて見たしさ」

「不思議なこともあるもんだなー、城前はエクストラに2枚しかもってなかったんじゃね?それで3枚目が紛れ込んでたから、お前のデッキのと混じったと思ったとか」

「あー、それかも。真面目なやつだよなあ」

それから、黒咲の日常のなかに城前克己という一般人の名前は、様々なかたちで耳に入ってくるようになった。でてくる大会はきまってハートランドが運営委員を務める公認大会ばかり。プロデュエリスト養成所に通うデュエリストのタマゴたちからすれば、フリーでプロを目指す道もあるにはあるが、それは希少な才覚をもつ者だけが許されたそれである。運営委員と一緒に居る所が目撃されたり、有名な理化学研究所の研究員と共にいる所が目撃されたり、なにかと話題になる一般人だったが、そのキャラクター足らしめたのは、いくつかのデュエルのルールを自らに課している事だろう。

その戦術とプレイング、デッキ構築から考えて先行をとったほうが有利であることは事実であり、城前もそれを認めているにも関わらず、城前は必ず後攻を選択する。相手のデッキを把握したうえで、どんなプレイングをするか期待するような態度をとる。不利になるにも関わらず、相手がエース級のモンスターを召喚したり、デッキを展開しはじめると、楽しそうだったり、嬉しそうだったりする。プロデュエリストを前にしたファンのような態度をとるのだ。相手ならば超えてくれるという期待を持って召喚するモンスターとプレイングは、防ぎきれなかったら間違いなくワンショットが決まってしまうような速攻に特化したデッキであり、罠が最小限しか入っておらず、ほとんどがモンスター効果に頼っている極端なデッキを使う。実力者であり相手をリスペクトしていると取るか、舐めプをする嫌な奴であり馬鹿にしている、と取るかは評価が分かれるところだ。

その城前克己という青年がプロデュエリストの登竜門であるハートランドの国際大会に出場するのではないか、という噂は半年前からあった。3か月前になると城前が大会に顔を出し、着実に実績を積んでいくにつれて噂は確信となる。1か月前となれば暗黙の了解となっていた。気付けば、黒咲の通う養成所で城前克己とデュエルを経験した、もしくはデュエルを目撃した人間の方が多数派になっていた。少数派になってしまった黒咲だが、プロを目指す者同士である以上、いつか道は重なる時が来る。それまでわざわざ赴く必要はない。そう考えて行動に移すことはしなかった。

それが現実となったのは、国際大会の前哨戦となるある大会の準決勝だった。組み分けを見た時から、この時が来たか、という確信があった。城前は黒咲を知っているようで、大会の結果が掲示されている前で視線が合った時には、よろしくな、と会釈された。ハートランドのアマチュアデュエリストのランキングで上位に居続けているデュエリストは少ない。城前は在住日数が少なすぎてランキングに乗る権利が与えられてはいないが、非公式のランキングでは着実に順位を上げていた。ランキングだけなら、黒咲の方が上だ。ずいぶんと古いデザインのデュエルディスクを使うのは、一般人だからなのか。デュエリストを知るならデュエルをするのが一番である。応援に来てくれた瑠璃とユートに見送られ、黒咲はメイン会場に足を運んだのである。


「城前克己、俺とデュエルだ!」

「望むところだ、黒咲!アマチュア屈指の実力者の腕前を見せてもらうぜ!おれは後攻をいただく!」

「いいだろう。城前克己、貴様は必ず後攻を選択するというのはどうやら本当のようだな。なぜわざわざ自分に不利な真似をする?」

「そんなの決まってるだろ?相手の最高のプレイングを見るには相手に準備してもらうのが一番だからな!最前列で最高のショーが拝めるなら俺は喜んで後攻を選ぶぜ。それに逆境を乗り越えてこその決闘者だろ!」

「最高のショー、か。たしかにデュエルは最高のショーだ。大人も子供も誰もが夢中になる、それがデュエルだ。城前、貴様がその舞台装置となるというなら、俺は本気で相手になろう。お望み通りこちらから行くぞ!俺のターン!俺はトリビュート・レイニアスを召喚する。このカードが召喚に成功したターン、俺はデッキからRRカードを1枚墓地に送る。俺が送るのはミミクリー・レイニアスだ。そして、墓地に送ったミミクリー・レイニアスの効果を発動する。墓地のこのカードを除外し、デッキからミミクリー・レイニアス以外のRRカードを1枚手札に加える。俺が手札に加えるのはファジー・レイニアス。ファジー・レイニアスは自分フィールド上に同名カード以外のRRモンスターが存在する時、手札から特殊召喚することができる。こい、ファジー・レイニアス!」

「レベル4のRRが2体、来るか黒咲!」

「俺はレベル4トリビュート・レイニアスとレベル4ファジー・レイニアスでオーバーレイ!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実をあばき、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!ランク4!RR−フォース・ストリクス!」

「さっそく来やがったな、RRの源泉!」

「……ふん、対策は万全というわけか。なら、どこまでやれるか見せてみろ。このカードは1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、デッキから鳥獣族、闇属性、レベル4のモンスター1体を手札に加えることができる!俺が手札に加えるのはバニシング・レイニアスだ。そして、カードを2枚伏せる。ターンエンド」

「よっしゃあ、いくぜ!おれのターン、ドロー!おれは手札からカードを1枚墓地に送り、オノマト連携を発動、デッキからモンスターを2体サーチする!おれがサーチするのはガガガシスターとドドドバスターだ!おれはドドドバスターを召喚、効果を発動する!墓地のドドドバスターを蘇生!さあいくぜ!レベル4のドドドバスター2体でオーバーレイネットワークを構築!現れろナンバーズ39、希望皇ホープ!さあいくぜ、黒咲!おれはRUM−アージェント・カオス・フォースを墓地に送り、希望皇ホープをランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れよ、ナンバーズ99!零れ落ちし異邦、今、ひとつとなりて、天命を貫く楔となれ!エクシーズ召喚!来たれ、ランク10!希望皇龍ホープドラグーン!俺はホープを取り除き、その効果を発動、墓地に眠りしホープを特殊召喚!さらにRUM−アージェント・カオス・フォースーの効果を発動、墓地から手札に加える!さあ、まだまだこれからだ!もう一度アージェント・カオス・フォースを墓地に捨て、ホープをさらにランクアップ・エクシーズ・チェンジ!再び降臨せよ、ランク10!希望皇龍ホープドラグーン!さあ、いくぜ、黒咲!ホープドラグーンでフォース・ストリクスを攻撃!」

「そうはさせるか。トラップ発動、RR−レディネス。このターン、フォース・ストリクスは戦闘では破壊されない!」

「そうこなくっちゃな!さあ、見せてくれよ、黒咲!お前の最高のプレイングをさ!この布陣を突破してみてくれ!おれはカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

「ふん、その程度の壁を前に決闘者の闘志は潰えはしない!俺のターン、ドロー!俺はフォース・ストリクスの効果を発動、バニシング・レイニアスをサーチ!さあ、見ていろ、城前克己!俺はバニシング・レイニアスを召喚する。そして効果を発動!デッキからさらにバニシング・レイニアスを特殊召喚!そして手札から永続魔法、RR―ネストを発動、デッキからバニシング・レイニアスを特殊召喚する!」

「レベル4が3体か、よし来い!」

「俺はレベル4のバニシング・レイニアス3体でオーバーレイ!雌伏の隼よ、逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ!反逆の翼、翻せ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク4、RR−ライズ・ファルコン!そして、オーバーレイユニットを1つ取り除き、城前、貴様の俺から見て右側のホープドラグーン1体を対象として、効果を発動!ライズ・ファルコンの攻撃力は、ホープドラグーンの攻撃力分アップする!」

「その厄介な効果は発動させねえよ、トラップ発動、スキル・プリズナー!その効果は無効だ!」

「ならば次の手を打つだけだ!俺は手札からRUM−レヴォシューション・フォースを発動!獰猛なる隼よ、激戦を切り抜けしその翼翻し、寄せ来る敵を打ち破れ!ランクアップエクシーズチェンジ!現れろ、ランク5!獰猛なる隼よ、激戦を切り抜けしその翼翻し、寄せ来る敵を打ち破れ!ランク5!RR−ブレイズ・ファルコン!ブレイズ・ファルコンは貴様にダイレクトアタックすることが出来る!いけ!」

「ぐうっ……!」

「ブレイズ・ファルコンが貴様にダメージを与えたことで、モンスター1体を破壊することができる!」

「その厄介な効果は発動させねえよ、ホープドラグーンの効果を発動!その効果を無効にし、破壊する!」

「何度も同じ手を食うと思うか。俺はストイック・チャレンジを発動、対象はそのホープドラグーンだ」

「なんだとっ!?」

「これでホープドラグーンは破壊された!よって貴様のフィールドにはオーバーレイユニットがないホープドラグーンのみが残る。オーバーレイユニットを1つ使い、効果を発動!貴様のホープドラグーンを破壊し、500ポイントのダメージを与える!」

「っ……!」

「これで俺のターンは終了だ。これで貴様のフィールドはお望み通り平地と化したが……さっきの余裕はどうした、この程度なのか?俺を失望させてくれるな」

「なにいっちゃってくれてんだよ、黒咲!感動しちゃって言葉が出てこなかっただけだっての!やっぱデュエルはこうじゃなくっちゃな!さすがはプロ志望、やるじゃねえか!面白くなってきたぜ、おれのターン、ドロー!」

城前はいよいよ笑みを濃くした。

「おれの勝ちだ、黒咲」

「なに?」

「おれは死者蘇生を発動!よみがえれ、ホープ!さあ、いくぜ!おれはRUMを捨て、ホープドラグーンにランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」

黒咲は城前が空高く掲げたエクシーズカードを持つ手が禍々しい光を放つのを見た。99、と刻印された光が浸食する。先程黒咲の前に立ちふさがったホープドラグーンがふたたび降臨する。その圧倒的な存在感に思わず黒咲は息をのむ。先程のソリッドビジョン化して、城前の背後から降臨した2体のホープドラグーンも圧巻だったが、1体しかいないはずのこちらの方がフィールドを制圧する気迫があるのは何故だ。そして、禍々しい彩色を放つあの99の入れ墨のような文様は一体。黒咲の表情に気をよくしたのか、城前の展開は止まらない。

「おれは手札からガガガシスターを召喚する!その効果により、デッキからガガガリベンジをサーチ、そして発動する!墓地に眠りしガガガマジシャンを蘇生し、特殊召喚する!そして、ガガガマジシャンのモンスター効果発動!自身のレベルを7に変更する!そしてガガガシスターのモンスター効果により、2体のレベルは9となる!さあ、準備は整った!2体のレベル9モンスターでオーバーレイネットワークを構築!さあ現れろ、ナンバー9!皮肉なる運命よ、今こそ銀河を飲み込む異邦となりて我が天命を照らせ!天蓋星ダイソン・スフィア!」


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