憑依學園剣風帖61

美里の《力》が覚醒し、攻撃技を手に入れた衝撃は少年にも伝わったようだ。

「驚いたな、土壇場で《菩薩眼》が覚醒するとはね。《力》自体は本来龍脈をみるしか出来ないというのに、《黄龍の器》の増強効果はここまでするのか。ならば、まず潰すべきは君だね」

少年の言葉から次々飛び出してくる意味深な言葉を緋勇は問ただそうとするが、少年は笑うだけだ。印をきる。その標的が緋勇だと気づいたのはマリィだった。

「ダメッ!!オニイチャン、アブナイッ!!デュミナス・レイッ!!」

火の星の守護者であるデュミナスが放つ、灼熱の火球が少年を吹き飛ばした。

物理攻撃の通りが悪く、弱点や有効な手を模索していた緋勇たちは特殊な《力》が少年には通用するのだと気づいた。《星の精》と《鬼》は近接戦闘を得意とする仲間にまかせ、緋勇はマリィたちに追撃を指示する。個々人で相手をするより方陣による攻撃が有効だと判明し、広範囲を一網打尽にしながら次々と仲間たちは《星の精》を屠っていく。

マリィは驚いている。肩をたたいたのはアランだった。久しぶりに聞く英語で《氣》の相性がいい者同士が同時に攻撃をしかけるとああいうこともできるのだと説明している。

「I never pardon,if you go wrong!!」

マリィは嬉しそうにいった。

「OK. Don’t be too hard on me.small lady.Go along!!」

マリィとアランは脳内に走る内なる叫びを言葉にする。

「「ASH STORM!!」」

炎の螺旋がまたたくまにあたりに広がっていき、アランの《氣》が威力を上昇させながら敵に被弾させた。あっという間にあたりの敵は倒れてしまう。

「ヘーイ、ヤッタネリトルガールッ!」

「アリガトウッ、アランオニイチャンッ!!」

ハイタッチをしたマリィをみて、16さいとは思えない幼さの少女たちに遅れをとるわけにはいかないと仲間たちは気合いが入ったようだ。

「葵オネエチャンッ!マリィとやろ!!」

手を振るマリィをみて、私は笑って美里の背中をおした。

「私は大丈夫ですから、いってあげてください。2人とも同じ信仰の力があれば、新たな《力》を引き出すことができるはずです。今の葵ちゃんならみんなの足でまといにはなりませんよ」

「───────......はいッ」

力強くうなずいた美里がマリィのところに向かう。

「葵オネエチャンッ、行クヨッ!」

「いいわよ、マリィ。でも、大丈夫?」

「Don't worry!!マリィニ任セテッ!今度ハ、マリィガミンナヲ護ル番ダカラッ!Fire!!」

「ケルビムを巡りし、燃え盛る炎の輪よ。わたしたちに守護を!」

「アポカリプス・ケルプ!!」

そこには四つの生き物の姿があった。それは人間のようなもので、それぞれ四つの顔を持ち、四つの翼をおびていた。その顔は人間の顔のようであり、右に獅子の顔、左に牛の顔、後ろに鷲の顔を持っていた。生き物のかたわらには車輪があって、それは車輪の中にもうひとつの車輪があるかのようで、それによってこの生き物はどの方向にも速やかに移動することができた。

ケルビムの全身、すなわち背中、両手、翼と車輪には、一面に目がつけられていた。まさしく知の象徴である。ケルビムの一対の翼は大空にまっすぐ伸びて互いにふれ合い、他の一対の翼が体をおおっていた。

またケルビムにはその翼の下に、人間の手の形がみえていた。それが神の手だと知ったのは、美里とマリィの信仰の力が共鳴し、《氣》を昇華して灼熱の業火としてあたり一帯をもやし尽くしたからである。

《星の精》、《鬼》、そして少年諸共広範囲にわたって降り注いだ業火は邪気を祓う。天使というにはおぞましい姿だが、神にちかづくほど人間離れしていくことをしる美里とマリィの《力》は揺るがない。

一瞬にして《鬼》は消し飛んだのだった。残されたのは黄色の宝玉だけだ。

「......くくくっ、なかなかやるじゃないか」

マリィに不意をつかれたとはいえ、怒涛の方陣の連鎖にもかかわらず少年は平然としている。

「なんつー頑丈なチビだ......」

「こんな小さいのに......なんてやつだ」

「お前、一体......」

「僕かい?そうだな......ここまでやるなら教えてやってもいいかもしれないね。僕の名前は喪部銛矢(ものべもりや)、僕は神道に精通していてね、君達の攻撃が通らないのはそのためだ」

「ものべってあの仏教を巡って蘇我氏と争ったっていう?」

「そうだ、教科書で見た事があるだろう?」

「だからって俺たちの物理攻撃まで全然通らねえ理由にはならねえだろうが!」

「くくくっ、《鬼》に力で勝負を挑むからだよ」

「なッ───────?!」

「九角より歴史はくだるが、物部の一族も政争に敗れた後逆賊として《鬼》に変じるよう呪いをかけられたのさ。《鬼道衆》にも個人的に興味があったからローゼンクロイツ学院が傘下に入るのを許可したんだ。面白いものをみせてもらった」

「逃げる気かよ!」

「僕は足止めをしただけだからな、準備が整ったようだから失礼するよ」

「てめッ......」

「京君、これ以上近づいちゃダメですッ!!喪部は《星の精》あれだけ呼んでも平然としてるんです!まだなにかあるんですよ!」

「───────ッちい!」

「くくくっ、なんだ追撃しないのかい?残念だな、餌食にしてやろうと思っていたのに」

喪部はそういって視線をなげた。

「なあ、雷角」

「足止め感謝するぞ、物部の小僧。あとは我らに任せるがいい」

「そうさせてもらうよ。君達が生きていたらいい報告が聞けるだろうね」

「小癪なことを......」

「僕のおかげで実験が再会できたこと忘れないで欲しいな」

「......」

それじゃあ、と喪部はいなくなってしまう。マリィ曰く、ローゼンクロイツ学院の屋上にはヘリポートがあるそうで、そこに向かうのではないかとのことだ。

「待て!」

「行かせるとでも?」

私達の前に立ち塞がったのは、いつの時代の雷角だろうか。

九角天戒の時代の《鬼道衆》の雷角は御神槌(みかづち)という静かに暮らしていた信者たちの村を、幕府に滅ぼされた過去のある神父だった。その光景を悪夢で見ては、信仰と復讐心との狭間に苦悩する宣教師でもあった。

明治維新を迎え、キリスト教が解禁されたあと、御神槌は《鬼道衆》の村を離れた。その後、彼は横浜の礼拝堂で宣教師としてさらに多くの人々に神の教えを説いた。異国の書物も読むようになり、彼の豊富な知識は、宣教師としてだけでなく様々な分野から助けを求められた。ようやく訪れた平和により、心の平穏を取り戻し、悪夢を見ることはなくなったようだ。

その復讐心が形を為したにしてもあまりにも姿形がない。面影がない。この雷角は一体......。

そんなことを考えながら風魔の笛をふいてみるが、やはり空気の音が抜けるだけだ。喪部は敷地内にいる間は私の《力》を使わせる気はないらしい。

「二手に別れよう、私は奴に用がある」

瑞麗先生はそういって緋勇に言葉を投げた。

「学院長の実験をとめるか、喪部を追うか、か。学院長を探すなら雷角は引き受けることになるな」

さてどうしようか。

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