憑依學園剣風帖57

マリア先生に呼び止められた美里は、今日、職員室に幼い女の子から真神学園の女子高生の腕時計を拾ったという電話があったと知らされる。孤児院設立のバザーに参加していた人のはずだから誰か教えて欲しい、渡したい、といわれたらしい。とても張り切っている様子だったという。心当たりはないかと聞かれ、美里は正直にバザーのボランティアに参加して、父から贈られた愛用の腕時計をなくしたと話した。バザーにはボランティア部の学生もたくさん参加していたため、制服で参加していた美里をみて真神学園の生徒だとはわかったが名前まではわからなかったのだろう。

「うちに渡しにきたいって話なのだけど......」

「女の子がわざわざ届けに来てくれるなんて......。もう見つからないとばかり思ってました。ありがとうございます。喜んでって伝えてください」

「わかったわ、伝えておくわね。電話をくれたのはマリィ、マリィ=クレアちゃんだそうよ。なんでも孤児院の支援で中学に通えているから、バザーでボランティアに来てくれたり、寄付したりしてくれた美里さんの落し物だと知ってお礼がいいたくて電話したそうよ。らたどたどしいけど日本語が話せるみたいね」

「そうなんですか......孤児院の......」

「ええ、よかったわね、美里さん」

「はい。マリィちゃんですね、わかりました」

「そういうわけだから、放課後になったら玄関前にいてちょうだい」

「わかりました」

マリア先生は職員室に戻っていく。

「よかったね〜、葵ッ!良い行いをしていれば、いずれ良い結果が起こるってやつだね!なんていうんだっけか、因果応報じゃないし、塞翁が馬はなんか違うし」

「それをいうなら善因善果(ぜんいんぜんか)ね。小テストに出なかった?」

「あ〜、そうそう、それだッ!ボク、間違えて因果応報って書いちゃったんだよね〜ッ。葵、ボクもマリィちゃんに会っていいかなぁ?どんな子か気になるよ!」

「そうね、いいと思うわ」

教室に戻る道中、そんなことを話していた2人は背後から視線を感じた。

「ふっふっふー、いいこと聞いちゃった〜ッ!ねえ、それ取材させてくれない?アラン君の特集記事なかなか評判よかったのよね〜ッ。可愛い女の子なら男子の購買率も上がるだろうしッ」

「ほんと抜け目ないなァ、アン子」

「うふふ、私はいいわ。でも、マリィちゃんは日本語があんまり得意じゃないみたいだから、取材させてくれるかどうかはわからないわ」

「いかにも英語話しちゃいそうな名前してるもんねェ......。よーし、また槙乃にたのもーっと。んじゃあとでね2人とも!放課後声掛けるからよろしく〜ッ」

軽く肩をたたいて遠野は去っていく。美里と桜井は顔を見合わせて笑ったのだった。



放課後になり、美里たちが玄関前にいってみると、黒猫をかかえた小学生くらいの女の子が校門の前で不安そうな顔をしてウロウロしていた。金髪に緑の目をした女の子で、外国人学校に通っているのか見たことも無い制服を着ている。帰っていく生徒達からジロジロみられるのが怖いのか、それでも美里とすれ違ってはいけないと思っているのか。距離を保ったまま、髪の長い女子高生ならじっと見つめて美里かどうか確かめようとしているようだった。

「あの......」

弾かれたように少女は顔を上げた。

「もしかして、マリィ=クレアちゃん?」

「ウン......マリィ。マリィ=クレア......」

「私は美里葵。はじめまして」

「......まして......アオイオネエチャン......」

「こんにちは、マリィちゃん。ボクは桜井小蒔。葵の友達なんだ、よろしくね」

「コマキオネエチャン......」

「うん、そうだよ。その子可愛いね、名前なんていうの?」

「メフィスト......」

「そっか、メフィストっていうんだ。いい名前だね」

「ウン......アリガト......」

マリィはようやく笑顔をみせた。そしてスカートのポケットから腕時計を取り出し、美里に渡してきた。

「コレ......アオイオネエチャンの......?」

「ええ、そうよ。間違いないわ。ほら、後ろに名前が書いてあるでしょ?」

美里は腕時計を裏返して文字盤の真裏を指さした。そこにはローマ字で美里葵と書いてあり、誕生日が刻まれている。

「ウン......シッテル......ヨカッタ......。ダカラマリィ......コレ、トドケニキタノ......」

「小さいのにえらいね、マリィちゃん」

恥ずかしそうにマリィは俯いてしまう。口元は緩んでいるから嬉しそうだ。

「ねえ、マリィちゃん。新聞って知ってる?」

「シンブン......?ウン、シッテル......。毎朝、届クノ、マリィシッテルヨ」

「私達の学校でも新聞を作ってるんだけどね、マリィちゃんにお話を聞きたいそうなの。いいかしら」

「マリィの?マリィ、ナニモシテナイヨ?」

「お待たせしまし」

「そんなことないわよ」

「!」

マリィは驚いたように飛び跳ねたかと思うと美里の後ろに隠れてしまう。

「こら、アン子」

「アン子ちゃん、声が大きいわ」

「あいさつからしようって言ったじゃないですか、アン子ちゃん。抜けがけはなしですよ」

「おっと、ごめんごめん。あたしは大丈夫よ、マリィちゃん。新聞作る人なの、あたし達。あたしは遠野杏子、アン子でいいわ。こっちが」

「時須佐槙乃です。よろしくお願いします」

はいどうぞ、と私は真神新聞を渡した。それは学校の文化祭や体育祭を取材した時の特別号であり、毎年完売しているものだった。写真もカラーでたくさん使われるため、マリィでも楽しい雰囲気がわかるだろうと思っての配慮だった。マリィは食い入るように新聞を見ている。

「アン子オネエチャン......槙乃オネエチャン......マリィも......ココにのるの?」

「ええ、そうよ。マリィちゃんがいいならね」

「マリィはいいよ......メフィストもいい?」

メフィストと呼ばれた黒猫は逃げもしないで遠野のカメラをじっと見つめている。そして一声にゃあと鳴いた。

「よかった、準備万端みたいですね」

「よーし、それじゃあ撮りましょうか。桜井ちゃんと美里ちゃんの間にマリィちゃんが、はい、おっけー。そのまま、ハイチーズっ」

遠野は何枚か写真をとった。

「マリィちゃんにも出来たら送ってあげるわ。住所教えてもらっていい?」

「ウン」

遠野は取材ノートにマリィの住所を書き込んだ。

「じゃあ早速取材させて欲しいんですが」

私が話そうとした時、意を決したようにマリィが口を開いた。

「葵オネエチャン、槙乃オネエチャン」

「なあに、マリィちゃん」

「どうかしましたか?マリィちゃん」

「明日......」

「明日?」

「明日、学校イッチャダメッ!オニイチャン、イッテタカラ、マリィ頑張ルノッ!自分ノヤルベキコトガワカッテルナラ、反抗スルコトモ大事ダッテ言ッテクレタモンッ!!マリィ、葵オネエチャンにも、槙乃オネエチャンにも傷ツイテ欲シクナイッ!」

マリィに抱きつかれ、美里は驚きのあまりかたまるのだ。

「マリィ、マリィね、ローゼンクロイツ学院高等部ナノッ!ジル学院長ガネッ、2人を誘拐シロってミンナニイッテタノ!!!」

「えっ、マリィちゃん、高校生なの!?」

「ウン......孤児院デ......魔法カケラレタリ......オ薬ノンダリ......手術シタリ......マリィカワラナクナッチャッタノ......16ダヨ」

私達は顔を見合わせたのだった。


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