劉瑞麗2
瑞麗先生が来日してから数日後、緋勇たちに会いたいということで私達は如月骨董店で待ち合わせをした。劉一族についてはまだ触れないつもりのようで、家出同然に日本に留学したことを怒られたのだと話した。瑞麗先生の今回のメインはローゼンクロイツ学院と《鬼道衆》の繋がり、そして《菩薩眼》である美里への注意喚起、緋勇たちに警告する意味があったようだ。
《鬼道衆》の背後に国際的なテロリストがいると判明したことで、どんどん敵の規模が大きくなっていく。それをひしひしと感じた緋勇たちは真剣そのものだった。
もっともあんまり話を聞いちゃない人もいたわけだが。
「なんだよお前の姉ちゃん美人じゃねーかッ!なんで紹介してくれねーんだよ!」
「やめとき、やめとき、瑞麗ねーちゃん料理からっきしやねん!キッチン前に立たせたらなにできるかわかったもんじゃないで!かーちゃん、立ち入り禁止にしとったもん!わいの借りとるアパートに押しかけてきたのかって、料理ができひんからやでッ!」
「弱点がある方が可愛いじゃねーかッ!」
「それだけちゃうで!わいが育てとった鶏夕御飯用にしめよったんや!かーちゃんたちにゆうてあの子だけは除外してもろとったのに!!そんな野蛮な女は京一はんにはもったいないで!」
「おい、阿弦。なんの話をしているんだ?私のことみたいだが」
「───────ッ!!」
「身内の恥をぺらぺら話すんじゃない」
瑞麗先生は少し恥ずかしそうにしている。その余波をもろにくらってしまった劉は頭を抑えたまま悶絶している。蓬莱寺は聞かなかったことにしてくれないか、といわれてぶんぶん頭をふっていた。鼻の下が伸びている。蓬莱寺の好みの女性像に近いんだろう。にやにやしている。仲間に姉を無条件で褒め倒されるのはむず痒いのか、それともとられるかもしれない意識からか、劉の減らず口はとまらない。
「ほらァ〜すぐ暴力にうったえるゥ〜ッ!」
「違う。これは教育的指導というんだ」
「あいたっ!」
やれやれといった様子でため息をついた瑞麗先生は私を見た。
「槙乃さん、本当にこいつは《宿星》に目覚めているんだろうか?」
「不安になるのもわかりますが、劉君の《力》は《宿星》によるもので間違いないですよ」
「うむ......そういわれてしまうと無理やり連れて帰る訳にもいかないか......」
「だからそーいっとるやんけ、最初からァッ!わいだっていつまでも子供ちゃうで、瑞麗姉ちゃんッ!」
「───────このッ」
「うぎゃッ」
「姉の心弟知らず、だね」
「ほんとね」
「美里はん、小蒔はん、堪忍してーやッ!わいはちゃ〜んとわかってるで!わかっててやったんや!」
「なお悪いんじゃないか、それ」
「まったくだ」
「ふえ〜んッ!」
「ふふ、どうやらここにお前の味方はいないようだぞ、阿弦。大人しく諦めるんだな」
しょんぼりした劉は渋々頷いたのだった。
「兄弟喧嘩はおわりましたか?」
「ああ......君が当代の如月骨董店の店主だろうか?営業妨害をしてすまないね。お邪魔しているよ。しばらくは私も利用させてもらうつもりで緋勇君たちに案内してもらったんだ」
「龍麻には連絡を受けています。ゆっくりしていってください。ただ、くれぐれも商品に傷は......」
「ああ、もちろん。そうだな......じゃあ、手始めにこの一帯のものを勘定してもらえないだろうか」
「え?」
「なにせローゼンクロイツの規模が大きすぎて移動と調査だけで資金はあるが手持ちがこころもとなくてね。所属の組織からの搬入はまだ時間がかかるだろうから、揃えたいんだ。カードは使えるかい?」
「いや......うちは現金だけ......」
「そうか、ならいくらだろうか」
如月の目が急にかがやきだした。
「す、すげぇ......大人買いだ」
「悪魔祓いの仕事をしているということは、その手の専門家だろう?その瑞麗さんが大人買いするということは、ここにあるものはそれだけの価値があったのか」
「値下げ交渉すらしないとかすごい......」
緋勇たちがザワついている。如月は毎回値引き交渉から入る緋勇たちばかり相手にしているからかみるからに嬉しそうだ。瑞麗先生は如月骨董店の品揃えが気に入ったのか、しばらくは贔屓にさせてもらうと笑っている。
ああ、なるほど。ここから国際的な市場に需要を見つけて進出を考え始めるわけか。インターネットに詳しい相方とはやく巡り会ってもらわなくてはならないがいつ学校にいくんだろう、如月。
そんなことを考えていると、瑞麗先生が私のところにやってきた。
「美里さんだけじゃない、槙乃さんもだ。気をつけるんだよ」
「そうですね......なぜ今更私を探しているのかわかりませんが......。不老不死が目的なら、死者蘇生ができる葵ちゃんならわかりますが、私の《力》にそこまでの......」
「実験を再開する目処がたったのかもしれない」
「《アマツミカボシ》のですか?」
「ああ。《鬼道》では《人の魂魄》の降魔は成功したが、《神霊》の儀式は失敗した。それが君が呼ばれて、《アマツミカボシ》を呼べなかった理由だろう。それが可能となれば話は別だ。君はかつてより《アマツミカボシ》と親和性が高まっているし、《宿星》が活性化している今、かなり成功が見込めるんじゃないか」
「......ローゼンクロイツ学院だけじゃ無理そうですね」
「だから私に調査をするよう辞令が降りたのさ」
「なるほど。瑞麗さんはそれが《レリックドーン》だと思っているんですね?幹部クラスの誰かが?」
「いや......うちもそこまでは掴めていないんだ。どうもこちらが把握している幹部クラスの連中に目立った動きはない。むしろ、日本校は業績の乏しさから閉校の危機にあった。たしかにジル・ローゼスの私財を投じて設立した当時はかなり話題になったんだが、噂の影響やきな臭い動きからどうも厳しい運営を強いられているようだ。《レリックドーン》としても見切る寸前だったようだから、《鬼道衆》の傘下に入ることで扱いが変わったようだ」
「......誰かいるんですね」
「そうだ、誰かいるんだ。《レリックドーン》から誰か派遣されている。私達が把握していない誰かが」
「......嫌な予感しかしませんね。でも、これで対応することができます。ありがとうございます」
「力になれたようでよかった」
「おばあちゃんに伝えてみます」
「......」
「瑞麗さん?」
「なぜだろうな、君はやけに行動に迷いがないように思うんだが。まさか心当たりがあるのかい?」
「あまりいい思い出がないっていったじゃないですか、つまりはそういうことですよ。ただ年齢的に考えてまずありえないはずなので裏取りしないといけない」
「なるほど、本来の世界で敵対したことがあると。君は国際的な機関に所属していたのか?」
「私が憑依していた男の子が、がただしいんですがそうですね」
「参考までに聞いても?」
「怒らないでくださいよ、《ロゼッタ協会》です」
「ほう、よりによって毎回私達に後始末を丸投げする《ロゼッタ協会》か。明らかに君は私達の組織にくるべき人材だと思うんだが......」
「色々あったんですよ」
「そうか......向こうの世界の私はずいぶんと控えめだったんだな」
「なんでそう思うんですか?」
「我ながら《M2機関》の非現実さは自覚している。それに来須が色々と迷惑をかけているようだからね、身内贔屓をさしひいても私を全面的に信頼してくれるのはなかなか戸惑いがあるんだ。時須佐先生すら私が入ろうとした時には難色を示したからな」
「なるほど......。あたってますね。あちらの世界でもこちらの世界でも、瑞麗さんは心強い味方であり大人でしたから」
「そうか。そういってもらえると嬉しいよ。ありがとう。これからよろしく頼むよ、槙乃。失望されない程度にがんばるとしよう」
瑞麗先生はそういって私を撫でたあと、勘定が終わったらしい如月のところにもどっていったのだった。
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