憑依學園剣風帖5

放課後になった。

私達は緋勇がまた佐久間に絡まれていないか心配になって隣のクラスにいそいだ。なんだか教室がざわついている。

「なんだか騒がしいみたいですけど、どうかしましたか?」

「もしかして緋勇君になにかあったの?!」

「あ、槙乃にアン子ッ!大変だよ〜ッ、そのまさかなんだ!緋勇君が佐久間たちに連れてかれちゃった!」

その時の状況をことこまに教えてくれてるのは桜井小蒔(さくらいこまき)。真神学園高校3年C組で弓道部部長。ボクっ娘で、元気で活発という対照的な性格ながら美里葵の親友でもある。6人兄弟の長女であり、弟想いの心優しく面倒見のよい姉でもある。弓術を身につけ、戦闘時には遠距離攻撃ユニットとして欠かせない存在。宿星は「悌星」。

「あ〜もう!なんでこんな時に限って京一いないのよ〜ッ!」

「ごめんなさい、私がいたのに止められなくて......」

「葵さんは悪くないですよ。隣の席だからお世話やいてただけなのに、勝手に嫉妬した佐久間君が悪いんですから。ね、元気だしてください」

「そうだよ〜、もし緋勇君がいなかったら、葵が連れていかれたのかもしれないんだからッ!」

どことなく浮かない表情の女子生徒の名前は美里葵(みさてあおい)。真神学園高校3年C組の真神学園の生徒会長を務める才媛であり、容姿端麗にして品行方正、人望も厚く心優しい「学園の聖女」。うん、実に昭和の香りがする。

「そうだ、葵ちゃん。醍醐君を今すぐ校舎裏に連れて行ってあげてください!葵ちゃんがいけばきっと醍醐君も緊急事態だってわかってくれますよ!」

「それいい考えね。あたし達は先生呼んでくるわ!」

「それじゃあボクも葵と一緒にいってくるよッ!葵、いこう!」

「みんな......ありがとう。ええ、はやく緋勇君のところへ醍醐君を連れていかなくちゃ」

私達は手分けして教室を後にした。

「保健室の先生、呼んだ方がいいかもしれませんね」

階段途中で私は呟く。

「あ、やっぱり槙乃もそう思う?」

私はうなずいた。取材で先に緋勇龍麻の《力》について聞いていた私達はどう考えてもただの不良である佐久間たちがどうにかできるとは思えなかった。

「緋勇君はきっと《力》を出し惜しみしないはずです。私達があっさり信じたし、受けいれたから。醍醐君たちもきっとそうです。つまり」

「あはは、いい気味じゃない。人を好きになるのは勝手だけど自分から声をかけられないからって、仲良くしてる男子に嫉妬してリンチなんて男の風上にも置けないもの」

遠野は悪い顔をしている。職員室につくなりマリア先生ではなく犬神先生に声をかけ、一緒に来るよう急かしている。きっと頭の中では物凄い勢いで損得勘定が働いているはずだ。犬神先生がようやく重い腰をあげたとたんに廊下を走っていってしまう。きっと緋勇と助太刀に入った蓬莱寺の大暴れについて激写するはずだ。

「遠野のやつ、もう行ったのか......」

犬神先生は呆れている。

「校舎裏です。行きましょう、先生」

「そうだな」

玄関で靴をはきかえ、先を急ぐ道中で不意に犬神先生が私に言葉を投げた。

「今日転校してきた緋勇龍麻は......あれか。お前が待っていた5人目か」

私は笑ってうなずいた。

「そうですね、私が見つけた《宿星》の新たな継承者たちです。一堂に会するのはこれが初めてですね。蓬莱寺京一君、醍醐雄矢君、美里葵ちゃん、桜井小蒔ちゃん、そして緋勇龍麻君。これで5人目です。裏密ミサちゃんと私を入れたら7人だけど。よかった、ちゃんと来てくれて安心しました。これで肩の荷がひとつ降りました」

「......あいつらは無自覚ではあるが《宿星》の《力》に目覚めつつあるからな」

犬神先生の指摘通り、ある者は体の底から力がみなぎってくる不思議な感覚に戸惑い、己を見失うことのない本当の意味での強さを求め。ある者は漠然とした不安に何もかも見失いそうになる錯覚を覚えて、支えてくれる誰かを求め。またある者は大切なものを掴みとり、道を切り開いて進むために使わせてもらうと不敵に笑う。

運命の輪はすでに回り始めている。宿命という熾烈な戦いの渦に誰も彼もを巻き込みながら進むだろう。すべては《宿星》の導くままにというやつだ。

結局のところ宿命というやつは人の在り方でどうとでも変わるんだけども。

「古来より大陸に伝わる地相占術の風水において、《龍脈》とは巨大な《氣》のエネルギーの通路である。そのあまりに巨大な《氣》が及ぼす影響は、しばし歴史の中で人や時代を狂わせて来ました。《龍脈》の《氣》による影響が新宿の人間にも出始めています。古来よりその膨大な《氣》のエネルギーを手にした者は、この世のすべてを手に入れることが出来るといいます」

「今回の奴らは若すぎる......本当に大丈夫なのか」

「心置き無く戦えるように支援するのが私の役目ですから。違います?」

「《アマツミカボシ》が随分と付き合いのいいことだな」

「そういう約束じゃないですか。だいたい人のこといえるんですか、犬神先生」

「......ふん」

「あはは。今年、この東京に眠る《龍脈》は18年のサイクルを経て最大のエネルギーを蓄えつつあります。その《氣》の影響でやがてはこの東京は狂気の坩堝とかすでしょう。それらを統べて《龍脈》の《力》を手にして覇者になるのは誰か見届けたいと思います。覇者になろうとしている柳生を阻止するためにこの東京の《龍脈》により選ばれし《宿星》が再び集うわけです。《龍脈》より得た《力》を使い、定められた宿命に導かれて」

私は決意を新たにするのだ。

「本来《如来眼》に目覚めるはずだった人間は、18年前に母親が死んだことでいなくなりました。私が知る世界とはすでになにもかもが違っている。《アマツミカボシ》を降臨させようとしたのが誰かわからなかった以上、また何者かが暗躍するのは目に見えていますから。この世界に生を受けることが出来なかった女の子の名前を借りましたからね、少しでも彼女のようになれたらいいなと願っています」

「......そいつは初耳だな。《如来眼》の女が槙乃という生徒になるはずだったのか」

「あれ、いってませんでしたっけ。実はそうなんですよ」

犬神先生はなんとも複雑そうな顔をしている。

そして私達はようやく校舎裏にたどり着いた。そして広がる完全にのされた不良たちとぐったりしている今回の騒動の首謀者になるはずだった佐久間の暑苦しい光景。傷一つ負っていない緋勇と蓬莱寺。制止に入るどころか佐久間がやられるまでずっと待っていた醍醐。ハラハラしながら見ていた美里と桜井。そしてカメラかたてにホクホク顔の遠野。

「いや、もうひとつの通称を教えてやろう。誰がいいだしたのか、この学園はこう呼ばれるようになった。ようこそ、魔人学園へ」

次の号外はこの光景で決まりだなと私は思った。


1998年、東京。退廃と歓楽、希望と絶望の交差する街───────新宿。その街にある都立真神学園高校。旧い歴史をもつその高校に、ある日、1人の転校生がやってくる。

転校生の到来に好奇の瞳を注ぐ級友たち。学園の聖女(マドンナ)と呼ばれる美里葵も例外ではなかった。しかし、それを快く思わない佐久間という不良。

放課後、呼び出された平凡なはずの転校生はリンチを受ける瞬間、驚くべき技を見せるのだった。転校生、緋勇龍麻は《氣》を込めて戦う古武道の使い手だったのである。

なんてどうだろうか。

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