憑依學園剣風帖52
佐久間が行方不明になってから1週間がすぎた頃。
「おっはよ〜ッ!槙乃、待たせたわねッ!やっと治ったわよ、夏風邪ッ!」
「アン子ちゃん!よかった、心配してたんですよ〜ッ!」
「いやあ、あたしとしたことが。まさかここまで拗れるとは思わなかったわァ。心配かけてごめんねッ!で、今おっかけてる事件てなにかしら?」
私はさっそく遠野に事情を説明するのだ。
「なるほど〜......佐久間がねェ。いつかはやらかすと思ってたけど、ここまでやっちゃうかァ。ただの三下で終わっとけばよかったのに」
遠野は私達が調べあげた佐久間の動向をみながらいうのだ。
「お礼参りが終わってから音沙汰無しかァ。なるほどね。槙乃、ちょっとこれみてくれる?」
「火事ですか」
「そうなの。どうも近くで起こってるみたいなんだけど」
遠野は拡大写真をみせてくれた。いつものごとく電脳部をこき使っているようだ。
燃え尽くされている現場には、奇妙な幾何学模様が残されるといた。大規模、小規模にかかわらず火災が起こったあと模様があった。
「これは......」
「炎角が今回関わってるっていうじゃない?なんか魔術師もかかわってるみたいだし。なんか気になるのよね」
「すごいです、アン子ちゃん。全然気づかなかった」
「まあね。でも、槙乃だってすごいじゃない。龍麻達と人知れず沢山の事件を解決してるし、化け物を倒してる。あたしには、そんな力無いもん。だから、裏方に徹するの。最高の裏方にね」
「アン子ちゃん......」
「あたしに危険なことはして欲しくないって止めても無駄よ。本当に危なくなったときは助けてよね」
遠野はそう言って笑ったのだ。
「最近は新宿でまたこの幾何学模様増えてきたみたいね、気をつけなさいよ」
「幾何学模様......気になりますね。ミサちゃんもう学校に来てるかな?」
私は霊研にいくことにしたのだった。その途中で私はなんだかソワソワしている美里を見つけた。
「あ、おはよう槙乃ちゃん。小蒔と醍醐君みなかった?」
「おはようございます。えっ、まだ来てないんですか、2人とも?」
「そうなの......」
美里は心配そうに外を見ている。最近私達は一人で帰らないようにしていた。2人の時もあるし、みんなで帰る時もあったが、昨日はたまたま醍醐と桜井は2人で帰ったのだ。
「レスリング部室にはいってみました?」
「ええ......まだ鍵がかかっていたから、誰も......」
「心配ですね......葵ちゃん電話は?」
「いえ、校舎内を探してからにしようと思って」
「なら、私が校舎内を探してみます。葵ちゃんは電話かけてみてください」
「ええ、わかったわ。ありがとう」
私は美里と別れて校舎内を回ってみたが、さすがに予鈴がなる直前なのに2人の姿がどこにもない。走って教室に戻る途中、私は美里を捕まえた。
「ダメです、どこにもいません。マリア先生は欠席の電話は受けてるのに家庭の事情としかいわれてないようです」
「私もダメだったわ......小蒔も醍醐君も昨日から家に帰ってないみたい。ただ、2人とも昨日おうちに電話を入れてるみたいなの」
「えっ」
「龍山先生って覚えてる?」
「醍醐君のお師匠様ですよね?」
「ええ。知らなかったのだけれど、小蒔のお爺さん、龍山先生と知り合いらしくて。龍山先生から連絡があったから心配しなくても大丈夫だって......」
「今、龍山先生のところにいるってことですか?」
美里はうなずいた。そして、緋勇や蓬莱寺たちが来たことで事態は一気に動き出す。昼休みになっても2人が来なかったからだ。
蓬莱寺が今から2人を探しに行こうと言い出したのだ。《星の精》は今の時間帯なら密偵をすることはない。なら今しかないというわけだ。そしたら、美里が裏密に占いをしてもらったり、アン子に色々協力してもらったりしたらどうだといってきたのだ。緋勇が天野記者から情報提供してもらう手もあるといいだしたものだから、別れて中央公園にいくことになった。
「まーちゃんか......なんの用だよ」
「一人で行かせるわけにはいかないので」
「はッ、そーかよ。いや、お前が来るような気はしてたんだ。ひーちゃんは美里といってんだろ?女ばっかで探すとか《星の精》の餌食になるようなもんだしな。悪かったな。今は落ち込んでる場合じゃねェってのに」
「頼りにしてますよ、京君」
「......そうだな。しっかし、なんでなにもいわねェでいなくなったんだよ、醍醐も桜井も......。電話できるなら俺達に連絡よこしてくれたっていいじゃねェか......。俺達は仲間じゃねぇのかよ。俺達のこと仲間だと思ってなかったってのか」
「実は最近、中央公園近くで幾何学模様ができる火事が発生しているようなんです。気になりませんか?」
「中央公園?」
「考えてみたんです。龍山先生の家はたしか中央公園の先にありました。佐久間君の動向がわからなくなる直前、あの辺りで騒ぎを起こしています。毎回火事も近くで起きてた。もし帰りに佐久間君か《星の精》に襲われたなら、醍醐君なら龍山先生を頼るとは思いませんか」
「まーちゃん......そうだよな、あいつの考えそうなことだ。なら、行かなきゃいけないよな。あいつは心のどっかで俺達が来るのを待ってるはずだ。なんだって助けてくれっていわねえのかわからないが」
「なにか、あったんでしょうか?」
「なにって、なにがだよ」
「なにかが」
冷静さを取り戻したようでなによりである。
「真っ直ぐに向かいますか?」
「いや......ちょっと待ってくれ。まえ、如月に醍醐から目を離すな、あいつの《氣》は特徴的だからって言われたことがあるんだよ。あんときは気にも止めなかったんだけどよ」
「翡翠君が?気になりますね。ひーちゃんに声掛けてから、いってみましょうか」
「ああ。なにかのてがかりになるかもしれねェしな。よし、それじゃあ行こうぜ」
私達は北区に向かった。
「誰もいねぇな......おーい、如月ッ!ちっ、留守か......にしても不用心なやつだぜ。これじゃあ盗まれたってわからねェんじゃねェのか?」
「───────心配はいらないよ」
「どわっ!!」
「やァ、いらっしゃい」
「いるのかよ!いるなら返事くらいしやがれ!」
「すまない、ちょっと荷物の整理をしていたんだ。それにしても珍しい組み合わせだね、どうしたんだい?」
「ん?あっ、ああ......実はよォ、お前に聞きたいことがあってさ───────」
「店に入ってきた時からだいたい予想はついていたよ。やはりそうか」
「教えてくれッ!あいつになにが起こったのかっ!いったいあいつはどうなっちまうのか!」
「わかった───────僕が今から話すことをよく聞いて欲しい。これは君たちにとって、いや君たちの戦いにとってらふかく関わってくることだ......」
「人は生まれながらにして《宿星》というものを持っている。《星宿(せいしゅく)》ともいうんだが、元々は古代中国で星座を示す呼び名でもある。そして、人はそれぞれ天が決めたその《宿星》の運命のままに一生をおくると言われている。僕もそして君たちも《宿星》をもって生まれてきているんだよ」
「......」
「特に強い《宿星》をもつ人は大きな因果の流れの中にいるといってもいい。たとえば君たちのように───────。君は《四神》というのを聞いたことがあるかい、京一君」
「あー、玄武だ白虎だっていうあれか?」
「そうだ。醍醐君はその《白虎》の《宿星》をもって生まれた人なんだ」
「白虎ォ?」
東に流水あるを青龍
南に沢畔あるを朱雀
西に大道あるを白虎
北に高山あるを玄武
東に九なる柳もって小陽とし―――
南に七なる桐もって老陽とし―――
西に八なる梅もって小陰とし―――
北に六なる槐もって老陰とし―――
その四印もって相応と為し、
天地自然の理を示すもの也
かつて、この街を守護していた天海大僧正はそういった。
「そう。醍醐君はたしか杉並区の生まれだろう」
「あ、ああ」
「杉並区はこの新宿の西、白虎は西の守護の星をもっている。醍醐君は間違いなく白虎の《宿星》をもっているといっていいだろう」
「なんでそんなことがいいきれるんだよ!」
「僕にはわかるんだ」
「なんだよ、そりゃ」
「おそらくだが、不安定な《龍脈》の影響で急激に覚醒してしまったんだろう。彼は《力》にとまどっている。それは妖魔になりかけたわけでも《力》に飲まれたわけでもない。その誤解はたださくてはならないね。きっと《鬼道衆》は彼を狙ってくるだろう。急ぎたまえ、彼を救えるのは君たちだけだ」
「よし、まーちゃん。いこうぜ!」
「───────......。連絡先を教えてくれないか。なにかわかったら連絡するよ」
「あァ」
私達は如月骨董店をあとにした。
「あの時、もうちょっと話聞いてやればよかったか......?」
「なにかあったんですか?」
「あァ」
蓬莱寺は話し始めた。それは数日前の真神学園の屋上での出来事だ。蓬莱寺と緋勇は醍醐に呼び出されたという。
「なあ、龍麻、京一」
「なんだよ、大将」
「なにかあったのか?」
「お前たちからみて、最近の佐久間はどう思う?」
「しらねェよ。俺には男を観察する趣味はねェからな」
「そうか......」
「俺は今の佐久間しか知らないけど、俺が葵って呼び始めてから絡まれる回数が激増してるよ。降りかかる火の粉は払うけど、葵たちにまでやつあたりするのはいただけない」
「そうか......前はもう少し大人しかったんだがな......」
醍醐は空を見上げた。
「俺はな、2人とも。この頃よく考えるんだ。俺達がもつこの《力》はなんのためにあるんだろう......ってな」
「......」
「なんのためにか」
「《力》をもつ者と持たざる者───────、その違いは一体どこなんだろうって考えるのさ」
「ちッ。まあたお前はそんな辛気臭ェこと考えてんのかよッ。いーじゃねェか、別にどっちでもよ。別にあって困るもんでもねェだろうが。それによ、他人がもってねェモンもってるって事は、気分がいいじゃねェか」
「......はははッ。お前らしいな」
「醍醐の質問にはいまいちよくわからないところがあるから答えられないけどさ。《鬼道衆》や赤い髪の男みたいに持たざる者に持たせる奴がいるのが問題じゃないのか?俺達はたまたま《力》をもてたけど、《力》に飲まれて破滅したり、妖魔になって消えたり、俺達がいなきゃ人として死ぬことすら許されなかった人がどれだけいると思う?助けられたと思う?それだけで価値があると思うけどな。俺は二度と莎草みたいなやつを出したくない。だから俺はここにいるんだ」
「......龍麻には辛いことを聞いたな、すまん。お前のそういう所にはいつも助けられる。そう考えられるように俺もなりたいんだがどうもな......」
「ふんッ。ったりめぇだろーが、お前はひーちゃんじゃねーんだからよッ。美里もお前も余計なこと考えすぎだぜッ」
「......そうかもしれないな。だがな俺は思うんだ。人として生きていく上でこんな《力》は必要なのか......ってな。たしかに俺達はこの《力》のおかげで命を助けられたこともあった。だが、平凡な人としての生をまっとうできず、愛する者をも《力》のために失わなければならないとしたら」
「......」
「醍醐......」
「俺はそんな《力》は欲しくない。欲しいというやつにいつでも喜んでくれてやるさ」
「醍醐、お前......」
「俺はこれ以上何かを失うのはごめんなんだ」
「......」
「《力》を失って助けられない命より、失う命の方が怖いんだな、醍醐は。まあ、家族や友達危険に晒すしな......先生にもそうやって止められたよ。だから俺は一人できたわけだけど」
「龍麻は強いな......。俺は今の佐久間に凶津を重ねてみているのかもしれない。誤解がとけないまま、危うく死ぬところだったからな」
「醍醐......」
「......」
「ちッ、しょーがねェヤツだぜ。凶津が助けられたのは、紗夜ちゃんの《力》のおかげだ。忘れたのかよ、あんとき俺達一回死んでるんだぞ。ひーちゃんしか覚えてねェからんなあまっちょろいことがいえるんだッ!!」
「おい、京一」
「ひーちゃんは黙っててくれ。たしかに佐久間は俺達のことをよくは思ってねェだろうさ。特にお前と自分の実力差ってもんを感じてんだろーぜッ。お前があいつのこと心配してんのはわかるがよ───────、それが佐久間に伝わるかはわからねェぜ。やつにお前の気持ちを受け入れるだけの余裕はねェよ」
「......」
「そもそも水岐みてェに《力》をすでに手に入れちまってんだ。おせえんだよ。あんまりうだうだいってると、いざって時取り返しのつかねェことになるぜ」
「そうだな......」
「まッ、それがお前のいいとこなんだけどよ。あんまおもいつめすぎんなよ」
「そうだよ、醍醐。まずは佐久間を見つけるのが先だ」
「......」
「俺はなァ、醍醐。何が起こるかわからねェ日常の中で、絶対に護らなくちゃならないもん抱えちまったお前のがよっぽど心配だぜ」
「京一......」
「なんのための仲間だよ、醍醐。なんでもかんでも背負い込まず、ひとつくらい寄越してくれてもいいんだ」
「龍麻......」
醍醐は息を吐いた。
「すまん」
やれやれと蓬莱寺は夏空を見上げる。
「ぜってー他にはいうなよ、特にまーちゃんにはな」
「ああ、わかってるさ。余計な気を使わせてしまう。ただでさえ槙乃は前々から佐久間が《鬼道衆》に利用されそうだと心配していたからな」
「行動に起こしたのもまーちゃんだしな」
「実際利用されてんだから世話ねェぜッ!こっちがどんだけ探してるか知りもしねぇで!しかもまーちゃんの死相の原因だろ、今のタイミング的に考えてよッ!だーくそ、なんでどいつもこいつもッ!!」
蓬莱寺は苛立ったように叫んだのだった。
「えーっとォ......ごめんなさい......」
「いや......俺もごめんな。話してるうちに思い出しちまった」
「あはは」
中央公園に到着すると緋勇たちが待っていたのだった。
prev
next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -