憑依學園剣風帖51

私達は桜井の最後の試合を応援しにやってきたはいいのだが、広大な敷地の女子校にすっかり迷ってしまった。どうにかこうにか校門に逆戻りである。

「だーくそッ、桜井の野郎なんで弓道場の場所書くの忘れてんだよッ!まったく、そそっかしい奴だぜ。ここでこうしていても埒があかねェし......。とりあえずどうするよ、ひーちゃん」

「また迷子になったらいみないし、だれかが校舎に入ってみるか?受付の人に聞いたらわかるだろ」

「よっしゃ、なら俺がッ!」

「きょーちゃんは俺達と大人しくしてような〜」

「お前がいったら話がややこしくなるから絶対にいくな」

「だーくそっ、離しやがれ2人ともッ!お嬢様が俺を呼んでんだよッ!」

「あはは......じゃあ、聞いてきますから待っててください。葵ちゃん、あとのことは頼みます。ここ女子校ですから龍君たちだけだと怪しまれますし」

「ええ、わかったわ」

「おう、よろしくな、まーちゃん」

私は急いで校舎にむかう。受付の人にパンフレットをもらって印をつけてもらった。帰ってくるとなにやらトラブルになっている。こちらにまで声が聞こえてくる大きさだ。

「おいコラッ、そこのッ!!人のガッコでなに騒いでやがんだよッ!見慣れねぇ制服だな。どこのモンだ!?」

「なんだ、てめェ」

「こっちがさきに聞いてんだッ!返答次第じゃ痛い目みるぜッ」

「おい......なんだかすげぇ女が出てきたぜ」

「う、うむ......」

「こいつに比べりゃ、桜井の方がまだ、カワイイもんだ」

「桜井だって?お前ら、まさか小蒔の知り合いか?」

「あァ、さっちゃんは俺達の友達なんだ。クラスも同じだし、よく遊んでる」

「さ、さっちゃんッ!?めっちゃ仲良さそうだなッ??ふーん......そんなに仲良い小蒔の友達ねェ......。あいつにこんなガラの悪い友達がいるとはね」

「お前こそ、なにものなんだよッ!?ここはお嬢様校じゃねェのかよ」

「おッ、お嬢様じゃなくて悪かったなッ!!お前らこそ、用がないならさっさと帰れッ!!」

「なッ......なんだとォ〜ッ!!」

「こら、よさないか、京一!!」

「きょーちゃん白熱しすぎだぞ」

「あ、あの......」

「ん?」

「私たち、今日は小蒔の最後の試合を応援にきたんです。ゆきみヶ原と方にはご迷惑はおかけしませんから、弓道場の場所を教えて頂けませんか?」

「......あんたもしかして、美里葵か?」

「えッ......は、はい」

「そうか。あんたのことは小蒔から聞いてるよ。へー、ふむふむ。なるほどねェ」

「あっ......あの......」

「小蒔が惚れるのも無理ねェなァ。噂通りの美人だぜ」

「あの......」

「はははッ、わりィわりィ。弓道場ならそこを左に行った建物の裏にあるぜ?急いだ方がいい」

ようやくついた私は笑うしかない。

「お待たせしましたッ!っ......て、雪乃ちゃんじゃないですかッ!」

「その声はまさか......やっぱり槙乃じゃねェかッ!?なんだよなんだよ、アンタら小蒔だけじゃなくて槙乃の友達だったのかッ!それならそうと早く言えよなッ!槙乃もだぞ、小蒔と友達ならなんで一緒に遊ばなかったんだよ、水くせぇなァッ!」

ばしばし肩をたたかれてしまう。

「小蒔ちゃんの友達って雪乃ちゃんたちだったんですね!知らなかったんだから仕方ないじゃないですか。でもまさか会えるとは思いませんでしたよ。てっきりもう会場にいるものだとばかり」

「いやぁ、オレもそのつもりだったんだけど先生から呼び出しくらっちゃってさ」

「なにィッ!?まーちゃん、お前こいつと友達なのかッ!?」

「まーちゃッ......!?おいおい槙乃、俺がいうのもなんだがマジで友達は選んだ方がいいぞ......?」

「んだとこらー!」

「まあまあ、京君もおちついてください。雪乃ちゃんは翡翠君と同じく幼馴染なんです。実家が雛川神社という歴史ある神社で、巫女さんなんですよ」

「そうなんですか!?すごいですね」

「ありがとうなッ、美里さん。さすがは小蒔の親友だ。どいつもこいつもコイツか巫女ッ!?って反応しやがるからな、そこの木刀バカみたいに」

「誰がバカだよ、誰がッ!」

「おっとこうしちゃいられないな。雛乃と小蒔の最後の対決見に来たんだろ?時間が無いから案内してやるよ。きなッ」

そういって雪乃は私たちをよぶ。走っていってしまうものだから、私たちも全力疾走する羽目になったのだった。

「アン子とさっちゃん足して割ったら雪乃だな」

「まったく、類は友を呼ぶとはまさにこの事だぜ。槙乃も似たようなとこあるしよォ」

「ははは、とにかく急ごう。もう桜井の試合がはじまっているかもしれん」

ギリギリ間に合った最後の試合にて、桜井はあっとうてきな実力を見せつけた。あんなに離れた小さな的によくあてられるものである。みんなで感想をいいあっていると桜井がやってきた。

「お待たせしました、小蒔様」

傍らには雪乃そっくりの少女がいる。

「もうッ、様はやめてよ」

「ふふふ、そうは参りません。小蒔様はわたくしの大切な人ですもの。こちらが小蒔様がいつも話してくださるご学友の皆さまですの?」

「うん。同じクラスの葵と醍醐クン、それから緋勇龍麻クン」

「初めまして、皆さま。わたくし、織部雛乃と申します。今後ともよろしくお願いいたします」

「それで、隣のクラスの......」

「まあ、槙乃様。小蒔様のお友達でしたのね」

「えっ、そうなの槙乃ッ!?なんだァ、友達ならもっと早くにいってよ!」

「知らなかったんですよ〜ッ!雛川神社はおばあちゃんの繋がりで幼馴染なんです。翡翠君みたいに大事な話があるときくらいしか行かないんですもん。学校に来たのはこれが初めてなんですよ。だいたい私もさっき知ったばかりなんですよ、雪乃ちゃんに案内してもらって」

「あー、なるほどッ!ボクもよく相談に乗ってもらうもんね。わかるよその気持ち」

「こっちこそよろしくな」

「ええ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」

「あのー、桜井さん、誰か忘れてないでしょうか」

「あははははッ、雛乃。こっちが一応友達の京一ね」

「俺は一応かッ!!」

「ふふふ」

「それにしても、雛乃さんてさっきの人に似てるわ」

「うむ、俺もそう思っていたところだ。雰囲気は全然違うがな」

「あれ、もしかしてみんな、雪乃に会ったの?雪乃はね、雛乃の双子のお姉ちゃんなんだ。まっ、性格は雛乃と正反対だけどね。長刀部の部長で薙刀の師範代の腕をもってるから、京一なんて簡単にのされちゃうかもね」

「そいつは大袈裟だぜ、小蒔」

「あッ、雪乃」

「よッ」

桜井と雛乃のあいだに飛び込んできた雪乃は笑った。

「なあ、まーちゃんの幼馴染ってことは、やっぱり事情を知ってるんだよな?」

「あ、もしかして、2人とも《力》を?」

緋勇たちの言葉に2人は頷いたのである。そして女子校を後にした私達は、そのまま荒川区の雛川神社にやってきた。400年前に立てられた立派な神社である。雪乃は雛乃が難しい話をする気配を察知するやいなや掃除をしてくると言っていなくなってしまった。

《力》について桜井は相談したことがあったらしい。

「わたくしと姉様は二人でひとつの《力》。弓と薙刀、携える武器は違えども志は同じですわ」

そういって巫女の姿で私たちを客間に通してくれた雛乃は、この神社の謂れを話し始めた。

この地方の武家にいた侍がいた。心優しく、民を思い、慕われていた。ある日、道に迷った女を助けた侍は変わってしまった。女に恋をしたからだ。女は都の姫君で、許されぬ恋だった。侍は自分の身分と無力さを呪い、この土地に眠る龍神を起こし、姫を奪うために三日三晩都に嵐を起こした。都の軍勢は侍の屋敷に攻め込んだが、侍の姿はなかった。そこにいたのは醜くもおぞましい異形のもの達。それはだいちの裂け目から現れた鬼と自らも鬼になった侍だった。やがて鬼はうちとられ、屋敷は焼かれた。そして、人々は屋敷跡に社をたて、霊を弔った。それか織部神社のはじまり。

どこかで聞いた話である。

「緋勇様、あなたは光も闇も共存する険しい道のりの陰の未来、あるいは光の下でみなが生きていく道のりの陽の未来、どちらをお望みですか?」

「じいちゃんがいってたんだ。この世の森羅万象は陰と陽からなる。その理を違えることはなんびとたりとも叶うことは無い。陰は陽を離れず。陽は陰を離れず。陰陽相成して、初めて真の勁を悟るって。光には影が伸びるようにきってもきれない関係だ。なら、陰の未来がいいんじゃないかな」

「へぇ、アンタのじいちゃんいいこというじゃないか」

「俺の親代わりだからな」

雪乃と雛乃はうなずいた。満足いく答えだったらしい。2人は仲間になってくれた。


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