憑依學園剣風帖45
「槙乃ちゃ〜ん、ちょっといい〜?」
それは夏休み中の登校日のこと、私は裏密に霊研に呼び出されていた。
「実は〜、槙乃ちゃ〜んの運勢を占ってみたんだけど〜、死の暗示が出たの〜。心当たりはな〜い〜?」
「ぐ、具体的にはどんな......?」
「真神学園の制服着てたから〜、たぶんいつものみんながいる中ね〜。槙乃ちゃ〜ん、炎角にやられてたみたい〜。水晶が割れちゃったから〜、それ以上はわからなかったの〜。ごめんね〜」
裏密はいうのだ。まれにその人が亡くなる瞬間の映像が見える時がある。基本的には、亡くなるのが見えても、その本人には言わない。ただ、気を付ければ防げそうだと感じる時だけ、本人に忠告する。
人の運命は産まれる時に、死ぬ瞬間も決まっていて、それを変える事は出来ないと思われがちだが、忠告が功を奏して、助かる場合があるなら口にする。裏密ひとりの力じゃ、いち個人の運命までも救う事は出来ないのかしれない。そこにそれ以外の助けが加わった時、その人の死の運命は、回避出来るのだ。それが裏密の持論だった。今回はさいわいそれに値したとのこと。
「死ぬ瞬間が見える場合〜、ほとんどが3ヶ月以内の出来事なのよね〜。ただ〜、今回はほんとに近い時期みたいだから気をつけて〜」
「わ、わかりました......ありがとうございます。ミサちゃん」
「うん〜、あたしも槙乃ちゃ〜んが死んじゃうのは嫌だからね〜。火に気をつけて〜」
「正直心当たりしかないんですが......あはは」
「ひとりには〜ならないようにね〜」
「了解です......」
炎角が私を殺しにくるような直近の出来事として、まず浮かんでくるのは佐久間関連だろうか。美里が緋勇と急速に仲良くなり、それにイラついた佐久間は今年に入ってから謹慎処分と問題行動を繰り返している。そのうち退学になるんじゃないかとの噂もたつレベルであり、レスリング部として醍醐から話しかけられるたびに荒れているのを目撃している。
炎角に目をつけられた佐久間は《鬼道》により《力》をあたえられ、桜井を襲撃して人質にとり、醍醐ひとりを真神学園に呼び出して戦うことになる。桜井がナイフを突きつけられて人質にされた醍醐の怒りが頂点に達した時、醍醐に眠る《白虎》の《宿星》が覚醒状態となり、《鬼》に変生してしまった佐久間を殺害してしまうのだ。醍醐は覚醒中の記憶がないため、佐久間が《鬼》になったことを覚えておらず、気づけば佐久間を殺していた。人としてしねただけマシだったのだが、醍醐は佐久間を勢いあまって殺したと勘違い、真面目実直な醍醐に耐えられるわけもなく、桜井の目の前からいなくなり、消息不明になる。そして数日後、登校してきた桜井から事情を聞いた緋勇たちは醍醐の行方を探すことになるわけだ。醍醐は師匠のもとに身を寄せていたのだが、その先にいるのが炎角なのだ。
普通に考えるなら、師匠、龍山邸での戦闘の際に私たちにまた魔の手が忍び寄るのだろう。佐久間の失踪から端を発するわけだ。用心に越したことはないなと考えていた矢先、私はホームルームで佐久間たち不良グループが昨日から行方不明になっており自宅にも帰っておらず、このままだと警察に捜索願を出すことになると犬神先生が話すのを聞いた。
「もし見かけたら先生に報告するように。いいな?」
はーい、とみんなが返事する中、私はすでに事件が始まっていたことに固まるのである。放課後のチャイムがなる中、ざわめきの中一人残された私はこんな時に限って夏風邪で休みの遠野にため息なのだ。一番頼りたい親友がいないのはつらいものがある。
とりあえず行動に起こすしかないだろう。私は立ち上がり、隣のクラスに向かう。その途中、部活に向かう桜井と醍醐、生徒会に向かう美里とすれ違った。つまり緋勇とサボり魔の蓬莱寺しかいないのだ。
「よォ、槙乃じゃね〜かッ。一人でどうした、珍しいな。アン子はどうしたんだよ?」
「アン子ちゃんは夏風邪を拗らせてお休みなんです」
「へえ、そんなこともあるんだな。アン子が休みなんて珍しい。風邪とは無縁だと思ってた」
「だな〜ッ!あいつも人の子だったのか」
「京一君、アン子ちゃんに怒られますよ」
「槙乃が黙っててくれりゃあいいんだよ!あ、マジでいうなよ!?余計な火種はごめんだぜッ!」
「あはは」
「どうしたんだ、槙乃?」
「いえ......実はおふたりに相談したいことがありまして」
緋勇と蓬莱寺は顔を見合わせた。
「か〜ッ、真面目だねェ。佐久間がいなくなることなんかしょっちゅうじゃね〜か。可愛いオネェチャンならいざ知らず、な〜んで野郎の捜索なんざしなきゃなんね〜んだよ......」
「でも、槙乃にでた死の暗示はどう考えても《鬼道衆》の仕業だろ、京一」
「そうだけどよッ!槙乃、そんなんだから佐久間みて〜な野郎に勘違いされるんだぜ?」
「ん?なにかあったのか?」
「よく考えてみろよ、龍麻。今年に入ってから隣のクラスの新聞部が自分がトラブルを起こすたびに家に帰っているか電話してきたり、どこを拠点にしてたりするのか調べにきてたらどうおもうよ。新聞記事にするのかと思ってたらどうもそんな気配はないと来たぜ」
「それは怖いな」
「アン子だったらそ〜だなッ!でも槙乃だぜ、槙乃。オカルト事件ばっか追いかけてるこいつが自分たち追っかけてるんだぜ」
「別の意味で怖いな」
「だろ〜?俺だったらこの時点でなんかあんのか聞くからなッ!脈アリを疑ってもおかしかね〜けど、思わせぶりな態度は全然みせね〜し、ただの同級生を心配しているようにしか見えない。ぜってーなんかあると思うよな?」
「たしかに。槙乃のことだから、俺達には見えないなにかが見えてるのかもって考えるな。俺も」
「でも佐久間たちは槙乃の《力》をしらね〜わけだ。槙乃は助けようと動いてるだけなんだけど、脈アリじゃね〜かって思っちまうわけだ」
「なにかと思ったら、そんなことですか。《鬼道衆》のことを考えたら、私たちの周りにいる人達が巻き込まれる可能性が高いから気にかけてるだけですよ。思わせぶりな態度にならないように気をつけてはいますが、謝った上でお断りはしてますし」
「本人はいたって真面目だかんな」
「なんていうんだ?」
「私、オカルトが恋人なんです」
「槙乃らしいな」
「私、具体的なアクション起こされないと反応しない主義なんです。いちいち深読みしてたら新聞部なんてやっていけませんよ。ただでさえその気になれば相手の感情《氣》から読み取れるのに」
「なるほど......槙乃は意識し始めた時点でモロバレなわけだな」
「《力》は制御出来てますから大丈夫ですよ。発動さえしなければなにも変わりませんから」
「あんまりバッサバサと切り捨てるもんだからほんと学校以外の交友関係謎だったんだよな〜。懐かしいぜ」
雑談を交わしながら、私たちは佐久間たちがよく屯している渋谷などを重点的に回ってみた。
「珍しい組み合わせだな、センパイ方」
「雷人君。どうかしたんですか?」
「いやァ、ちょうどいいや。真神の佐久間っているだろ?今どこにいるか知らねぇか?」
「!」
「奇遇だな、雷人。俺達も佐久間を探してたんだ」
「なんだなんだ、そっちでもお尋ね者なのかよ。こっちはいつだったか、歌舞伎町で返り討ちにあったのを根に持ってお礼参りにきやがってさ。ちょっとした騒ぎになってんだぜ」
「ほんとか?」
「おう、ウチの連中みんな病院送りになっちまってなァ」
「佐久間君......あと半年なのに退学になっちゃうかもしれませんね......」
「そりゃ違いねぇな。ずいぶんと派手に暴れたみたいだぜ。とんだ大立ち回りだ。俺は《選ばれたんだ》とかなんとかがなり立てやがってたらしい。ヤクでもやってんじゃねーかってレベルだ」
雨紋がいうには佐久間はかつて自分が負けた相手を片っ端から襲っているらしい。渋谷だけでかなりの騒ぎを起こしている。蓬莱寺たちはいつもと明らかに違う佐久間の動向に眉をひそめた。
「声が聞こえたんだってよ」
それはそれは得意げに語っていたそうだ。
《お主の抱くその怨念は、我らが鬼道の恩恵を得るに相応しい。限りなく我らに近き魂を持つものよ。さあ、解き放つのだ。そして、なぶり、殺し、そして喰らうが良い。おもいのまま奪うが良い......。恐れることは無い。選ばれし者よ。さあ、己の内に渦巻きし暗き念に身を任せるがよい》
《恨め───────》
《恨め───────》
《殺せ───────》
《さあ、堕ちるがいい───────》
《クックック......変生せよ》
《さあ、堕ちよ》
その言葉の導くままにうなずくと、その瞬間に佐久間はすさまじい頭痛から解放され、《力》を手に入れたというのだ。
「おいおいおい、まじかよ。それってまさか......」
蓬莱寺は笑い飛ばそうとして、そうもいってられないことに気づいてしまう。
「莎草と同じ......ッ!」
緋勇が殺気立つ。
「那智さんがやってた《鬼道》と同じ......!!」
私たちの反応に雨紋は苦虫を噛み潰したようなかおをした。
「やっぱりそうだよなッ!?ヤベぇと思ってたんだよ!で、肝心の佐久間はどこだ?」
「んなのしらねェよッ!今から探しにいくとこだッ!」
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