憑依學園剣風帖25

緋勇たちは遠野の頼みに押し切られ、連続誘拐事件の犯人を現行犯で捕まえるための囮作戦を毎日行うことになってしまった。仲間たちを集めて3つのチームにわかれて、囮をひとり、残りが見張り、あるいは周りの見回り、そして一網打尽にするというシンプルかつ気の長い話だ。面倒くさがっていた蓬莱寺のいう通り、なかなか犯人らしい人物像が見えないまま、1週間がたとうとしていたある日の夜のこと。

緋勇たちが待ち伏せする中、通行人を襲ったのは《力》に目覚めた人間ではなく、蟲が擬態した男だった。外のかわは人間そのもので、ただの暴漢かと思い、止めに入った瞬間に、緋勇たちはその邪悪なる《氣》に気がついた。女性を先に逃がして取り囲み、距離をとって攻撃してみると、噴き出したのは血ではなく、無数の蟲だった。明らかにこちらのことがわかっているからこその足止めである。

「剣掌・旋ッ!!」

遠心力を懸けて木刀の先より放つ発勁が竜巻上の衝撃波となり、大地を薙ぐ。

「だああ〜ッ!こんにゃろッ、往生際悪すぎだぜッ!仕留め損なった!わりぃがトドメ頼むぜ、緋勇ッ!」

「まかせろ。───────円空発ッ!」

遠心力を懸けて放つ発勁が、波紋にも似た衝撃波となり、空を破砕する。ようやく仕留めることができた頃には、桜ヶ丘中央病院前の通りに出てしまっていた。

「あ......」

少女の目の前で蟲の大群は一瞬にして消滅した。

「なッ!?人ッ!?やっべぇ............見られちまったもんはしょうがねーか。なんにせよ、怪我なくて良かったぜ。驚かせちまって悪かったな、お嬢さん」

「ごめん、怖い思いさせて。大丈夫だったか、比良坂さん」

緋勇は紗夜のカバンの土埃をはらい、渡しながら手を差し伸べた。

「......ん?」

「誰かと思ったら、緋勇さんと蓬莱寺さん!」

「おおおッ、なんだよ、紗夜ちゃんじゃね〜かッ。って緋勇、返り血かぶってんじゃねーか。紗夜ちゃんの制服が血だらけになんだろうが」

「そうか?」

「だあーっ、ハンカチ使えよ、いくらなんでも袖はねーだろ袖はッ」

「じゃあ貸してくれ、京一」

「......いや、俺も持ってねーんだけどよ」

「助けていただいて、ありがとうございます。あの、これ......ハンカチ......」

「ああ、ありがとう。借りるよ」

「ゲッ、パトカーの音だ!騒ぎを聞いたやつが通報したのかもしれねェッ!ずらかろうぜ、緋勇ッ!」

「ああ、そうだな。比良坂さんもはやく。また新手が現れるかもしれないからな」

「あ、はい」

「今日は災難だったな、紗夜ちゃん。まっ、悪い夢でも見たと思って早く忘れちまえ。な?」

「あ、ありがとうございます......」

「どうしてこんな時間に?今日はお兄さんがくるんじゃなかったのか?」

「いつもはそうなんですけど......病院に電話がかかってきて、兄さんが急に用事が出来てしまったみたいなんです。だからバスで帰ろうと思って」

「なるほど......それは災難だったな」

「しっかし、これでハッキリしたな。犯人は紗夜ちゃん並に可愛い子だったら小学生まで狙う変態やろーだってことが」

緋勇たちは遠野たちが囮作戦を決行しているであろう公園に急いだのだった。



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