憑依學園剣風帖24
私達真神学園新聞部は、現在進行形で、目黒区内で頻発している女性の連続誘拐事件を追っていた。きっかけは新宿区桜ヶ丘中央病院でアルバイトをしている紗夜から相談を受けたからだ。夜、アルバイトから帰るのが怖い、どうしたらいいだろうかと。
進行性骨化性線維異形成症(しんこうせいこつかせいせんいいけいせいしょう)
舌をかみそうな病名だが、紗夜は取材ノートにわざわざ書いてくれた。
結合組織に発生する稀な遺伝子疾患であり、発症率は200万人に1人といわれている。2007年に日本においても国指定の難病として認定されるほどだ。ちなみに1998年時点ではIPS細胞の研究が本格化する前のため、まだ不治の病扱いである。
身体の矯正メカニズムが線維性組織に起こす難病であり、筋肉や腱、靭帯が骨組織に変化して硬化し、関節が固定されて動かなくなる。外科的治療は手術自体の侵襲によって周囲組織の骨化が促進されることになるために通常行う事ができない。
数年に渡って骨組織が増殖して関節を固定するため、患者は歩くことや食事、呼吸さえも自力で出来なくなってしまう。この疾患は一般に骨化することで内部組織を押しつぶし、最終的には死に至ることになる。患者は30歳までに身体を動かすことが出来なくなり40歳以上命を長らえさせることは稀である。
この病には特徴があり、短く大きな足の親指がある、生まれつきの外反母趾、進行性骨化性線維異形成症骨組織を構成するに至る最初の症状は10歳前に起こる。腫瘍状の塊が一夜の内に発生するといったものがある。
だが、今回桜ヶ丘中央病院に緊急搬送された男性をはじめとした、誘拐を目撃して警察に通報したり、犯人を追いかけたり、格闘したりした善良な市民は、いずれの症状もないという。にもかかわらずだ、この病気とよく似た症状だそうだ。
「藤咲さんの《力》によく似た状態異常ってことですか?」
「いえ......《氣》による治療も効果がなくて、かなり強力な呪術の類だろうって。細胞の組み換えが異常をきたしているそうです」
「やだ......それってあれよね、ガンみたいな?」
「はい、初期症状はガンに間違えられることもあるそうです。このままだと徐々に石化が進み、心臓が石になり、動きを止めたその瞬間に......。今は点滴と構成物質で石の進行を抑えていますが、完全に止めることができません。助けるには犯人を探すしか......」
私と遠野は顔を見合わせた。
「犯人と格闘しただけでこれってまずくない?誘拐された人たちどうなるのこれッ!?」
「たしかに......。無数の石ころが転がっていたのは、まさか犯人に触れた雨が石化したからでは?」
「しっかしあれよね。目黒区から新宿区にまで広がってるとなると、比良坂ちゃんが怖がるのも無理ないわ」
私の言葉により、紗夜はいよいよもって青ざめてしまう。不安そうに見上げられ、私はうなずいた。
「英司さん、仕事が終わるの遅いですもんね。どうしても都合がつかない時には電話してください、紗夜ちゃん。私が車出してもらいますから」
私の言葉にようやく紗夜は安心したように笑ってくれたのだった。そして、今に至る。
「それは〜、邪眼(イビルアイ)の一種だと思うけど〜。槙乃ちゃ〜んみたいな〜」
「そっか〜、たしかに言われてみれば槙乃って、《力》使う時に目の色変わるもんね」
「みんな、逃げてくださいッ!私の目に封じられた邪鬼がッ!私が抑えているあいだに早くッ!」
「あははッ、いきなりなによ、槙乃〜ッ。《力》使いながら言わないでよ、それっぽすぎるじゃないッ!」
「う〜ふ〜ふ〜、槙乃ちゃ〜んはァ〜邪鬼程度だったら倒せると思うよ〜」
「ミサちゃんにまで言われてるじゃないッ!あははッ!そーよねッ、槙乃の《力》だったらそこら辺の悪霊だったら焼き尽くしちゃいそうだわ」
「そ〜そ〜。邪眼っていうのは〜、妖術、魔術の類の実施にあたって基礎となる重要な観念であって〜邪悪なる方を施行する力や〜視線によって、他者に邪悪な力を投射することのできる力をもつ〜ということを表すオカルト用語なの〜。エルワージーは〜、邪眼は魔術の基盤であり、起源であると示しているし〜。マクラガンは邪眼とは強欲と羨みをもった目であり〜、強欲な視線は、巨石をもふたつに割るとしているわ〜」
「ええとつまり、相手を石にすることは可能だし、睨むだけで呪いにかけたり、触っただけで人を病気にしたりできるってこと?」
「槙乃ちゃんもそうでしょ〜?」
「たしかに槙乃は《氣》を見るだけじゃなくて、《氣》を操作することもできるもんね」
「そ〜。メデューサが有名どころだけど〜、もともと美しい地方の女神だったのに、嫉妬した中央の女神アテナによって醜い魔物に変えられたの〜。美しい娘や女神たちへの羨望、妬み、恨み、つらみ、それら全てが無機質な石に変える力となった〜。邪眼の持ち主の意思次第ってことね〜」
「なるほど......上手く使えば槙乃みたいに使いこなせるってことねッ!」
「そうだよ〜なんとかとハサミはつかいよう〜」
「わかりやすいからって私ばっかり例えに使わないでくださいよ、2人とも」
「だって槙乃だし」
「槙乃ちゃんだし〜」
私は肩を竦めた。変なところで意気投合しないで欲しいものだ。
「ってことは〜、今回の犯人も何かを恨んだり、妬んだりしてる可能性が高いってことね」
「そうなるね〜」
「ふむふむ、やっぱりメデューサよろしく美醜にコンプレックスがあって嫉妬ってことかしらね?どう思う?槙乃」
「う〜ん、どうでしょう?たしかに誘拐された被害者の性別はみんな女ですし、可愛かったり、美人で評判だったりするみたいですが......。被害者の年齢の範囲が広すぎません?小学生の子も混じってるじゃないですか。女性ひとりでは難しいのでは?」
「そこつかれると痛いんだけど......誰も誘拐犯を見てないのが痛いわね、やっぱり。単独犯か複数犯かすらわかんないなんて」
「でも〜《力》に目覚めた人が〜メデューサみたいに魔物になる《力》だったら〜、1人でもできると思う〜」
「ミサちゃんの言う通りね。今までの傾向からして、《力》に目覚めた人はみんな同じ《力》に目覚めた人と徒党を組むか単独犯みたいだし。今のところ、同じ《力》に目覚めることは確認してないから、単独犯の線が濃厚か」
「誘拐はいずれも墨田区内で行われているから、近隣住民が犯人ですね。犯行の時間帯はいずれも夕方から明け方にかけて。平日の朝から昼間にかけて行われた形跡はありません。つまり」
「いつものごとく、あたし達と同じ学生か、似たような生活サイクルの人ってことね。う〜ん、龍麻くん達に頼むにはまだ情報が足りないわ......」
「どうします?情報収集は手詰まり感がありますが......」
「う〜ん、ここまできたらやるしかないわね」
「アン子ちゃん、嫌な予感がするんですが......」
「槙乃、実はあの写真ね、うちのパソコンにバックアップがとってあるのよ」
「───────ッ!!」
「お願いッ!」
「アン子ちゃん......」
「ね?ね?龍麻くんたちにやっつけてもらえば一石二鳥でしょッ?なんならあたしがやってもいいから守ってね?」
「アン子ちゃん、その聞き方はずるいですよ。《力》に目覚めてないアン子ちゃんにそんな危ないことさせられるわけないじゃないですか」
「だって相手はきっと《力》に目覚めてるのよ?槙乃が囮したらバレちゃうじゃないの。槙乃の《氣》は冬の金星だか北極星みたいだそうじゃない。夜に出歩いてたらバレちゃうわ。それに校長先生に怒られちゃうし」
「それはそうですけど......」
「そういうことなら、アン子ちゃ〜ん。これあげる〜。鏡の盾っていうんだけど〜、ギリシャ神話でペルセウスがメデューサを倒したときに使った磨き抜かれた神楯をモチーフにしたアクセサリーなの〜」
「ほんとに?ありがとう、ミサちゃんッ!」
「がんばってね〜」
それは石化を跳ね返すアイテムだ。やはり裏密はよくわかっている。
「そうそう、槙乃ちゃ〜んにも同じのあげる〜」
「あ、私にもですか?ありがとうございます。助かります。如月君のところで買うと12万するんですよね」
「え゛ッ!?そんなにするの、これッ!?」
「売っちゃだめだよ〜?命には変えられないんだから〜」
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