憑依學園剣風帖19

「おッ、あいも変わらず揃ってるわね、皆の衆。おっまたせ───────ッ!」

「おせえぞ、アン子。時諏佐が入院したって言ったのお前だろ〜がッ。なんでお前が一番おせェんだよ」

「なによ、京一ッ!辛気臭い顔してッ!あんたはのーてんきさだけが取り柄なんだからしっかりしてよねッ。せっかくのお見舞いが台無しになるじゃない」

「俺は、お前と違って、悩み多きふつーの高校生なんだよッ」

「あら、失礼ねッ。あたしだって悩みぐらいあるわよッ。たまには目覚ましや原稿から逃れて───────思いっきり眠りたいときもあるんだから」

「ははははッ、バイタリティーの塊の遠野の口からそんな台詞が聞けるとはな」

「お前にも人間らしいところがあったとはね......」

「なによッ。一体あたしのことなんだと思ってんのよッ!ふあァ〜あ......。昨日だって一晩中原稿書いてたから眠くってしょうがないのよ。龍麻くんだって、一日中寝てたいこともあるわよね?」

「目覚まし止めて二度寝は最高だよな」

「やっぱり、そうよねェ。1日でいいから、誰にも邪魔されずに......いけないっ。ますます眠くなってきた」

「でも夢もみないでゆっくり眠りたいっていうの、ボクよくわかるなあ......」

「つうか、時諏佐はダウンしたのに、なんでおめェはピンピンしてんだよ」

「知らないわよ、そんなの〜ッ!あたしに降り掛かったら調査できたってのに敵も空気読まないわよね〜。まあ、覚めない夢は悪夢でしかないわけだけど」

最近、墨田区で原因不明の突然死や謎の自殺が多発しているのだと遠野はいう。初めこそ1週間で6人というペースだったのだが、いまや24人という尋常じゃないペースである。実は警察も公表していないのだが、仕入れた情報によると死んだ人間には、奇妙な符号があるのだ。夢を見ながら死んでいく人、夢を残して自ら命をたつ人。全ての人が夢に関わって命を落としている。

前日の夜まで変わりなかった人が朝の布団の中で冷たくなって発見されたこと。自殺者の中に夢に悩まされていた人が多かったこと。夢見のせいで気が狂って自殺に及んだ人もいる。しかも、その全ての事件が墨田区とその周辺で起きている。犠牲者は学校関係者や高校生に多い。

「槙乃がいうには幽体離脱の可能性もあるらしいのよ。植物状態の人をお見舞いにいった時にいってたわ。魂の一部が拉致されてるんじゃないかって」

遠野の情報に緋勇たちは顔を見合わせた。

「で、時諏佐はどんな感じだったんだ?」

「槙乃がいうはね、毎回同じ夢をみるらしいのよ。破壊され尽くした東京の真ん中で翼が生えた少年を助けようとするけど消えちゃう夢なんだって」

「へえ〜、なんか変わった夢だね。天使っていえば葵ってイメージだけど。あ、そういえば、葵も最近変な夢みるっていってなかったっけ?」

「えッ......えェ......」

「それほんと?いつから?」

「ええと......たしか墨田区のおじいちゃんの家に遊びにいってから......」

墨田区。今までの話の流れのせいだろうか、嫌な予感がするらしい美里は顔色が悪い。その言葉に緋勇たちは顔を見合わせた。

「美里、どんな夢だった?よかったら聞かせてくれないか?槙乃が墨田区に調査にいってから繰り返し悪夢をみて入院したなら、美里も無関係じゃないかもしれない。心配なんだ」

緋勇に心配され、至近距離から顔を覗き込まれる。うっすらと顔を赤らめた美里はおずおずとうなずいた。

「また......この景色......。毎晩同じ夢ばかり......。ここは一体どこなの......。誰か......」

一面砂漠の世界が広がっていて、青い空ばかりが広がっているのだという。

《美里葵》

どこかで聞いたことがあるものの、思い出せない。男の子の声がする。声変わりはしているようだから、中学生以上の男の子の声がする。

「───────!?誰なの?」

美里が呼びかけても返事が帰ってきたことは一度もない。声だけが聞こえる。

《おいで》

その声の先には埋もれた公園の遊具があり、一番奥には砂まみれの玉座があった。どこかで見たことがある公園なのだが、広大な砂漠に遊具だけ埋もれていて、花壇も樹木もないために美里は思い出せない。

「あなたは、一体......」

《おいで、美里葵。僕のところへ》

「お願い......姿を見せて。私をここからだして......。お願い......」

「ダメだよ。そこが一番安全なんだ。だってボクが......このボクが見守ってるんだから。安心して、葵......。ボクが君を護ってあげる。誰にも君を汚させはしないよ......」

美里は怖くてたまらなくなる。体が動かない。いうことを効かないのだ。そして、このタイミングでいつも美里は体が金縛りにあい、気づいたら磔にされているのだという。

「ねェ......いつまでもそんな女相手にしてないで、そろそろ始めようよ」

少女の声が下からするが美里は体が動かないため、見ることができない。

「あ、亜理沙......」

「で───────?今日はどいつにするの?」

「や、やっぱり、あいつだ......。だって僕の上履きを焼却炉に捨てたんだ。ボクは止めてっていったのに......。あいつらわらいながら......」

「そうよ......。許しちゃダメ......。復讐するのよ......。おんなじ苦しみを味あわせてやるの......」

「う......うん......」

「あなたの心の苦しみを判らせてやるのよ......」

「ど、どんな風にしようかな......?」

「フフフッ、あなたの思うままに......」

「......」

「あなたの......望みのままに......」

「誰か......誰か......助けて......」

美里は必死で祈るのだ。

『聖者は十字架にくくられました。聖女はどうなるのかな』

すると決まって幼い少年の声がするのだ。知らない声だった。

『人間の分際でボクの領域を侵食するなんていい度胸してると思わない?』

恐怖のあまり涙で前が見えないために美里は少年の顔を見たことがない。

『せっかく君たちが夢の国と繋がらないようにしてあげてるのに』

ただ真横で囁かれているような近さである。

『ボクの世界を侵したんだ、それなりの報復は受けてもらうよ。助けて欲しいならいわれた通りに死んでみせてくれ』

それは舌をかみきってだったり、自分の《力》を使い果たして化け物になったり、毎回違うのだが死にたくない美里は必死だった。そして今日も美里は目を覚ました。

「話してくれてありがとう、美里。磔にされた挙句に死を強要されるのか......つらい夢だな」

頭を撫でられて、美里は泣き出してしまう。

「その少年が首謀者で、美里を慕っているが歪んだ保護欲から守ろうとしているようだな」

「で、その女が唆してるパターンだな?いい度胸してんな、俺たちに喧嘩を売るとは上等だぜッ」

「もしかして、それに怒ってる誰かが死を強要してるとか?」

「美里の夢というより、《力》の持ち主の夢の中に引きずり込まれているみたいだな。そして、さらにやばいところに迷い込まないようにしている誰かがいるんだが、かなり怒ってる」

「助けてくれるだけじゃないってのが日本の神様っぽいわね、必ず見返りを求めるあたりが」

遠野は今回の事件について調べるために本を読み漁ったようで、夢占いもどきをしてくれた。

夢の世界の砂漠は、大きく次の3つを象徴しているという。見通しがつかない状況、孤立、潤いのない状態。目の前に荒涼とした砂漠が広がる夢は、見通しがつかない状況を象徴している。未来に対する不安や恐怖を抱いている、あるいは絶望的なピンチに陥っている可能性を暗示している。

また、砂漠は孤立無援の状況を象徴することもある。誰も理解してくれる人が見つからず、自分の殻に閉じこもりがちになっている。

さらに、砂漠は生命の源である水が枯渇した状態、いわば、潤いのない暮らしを送っていることを意味する場合もある。早急に何かをする必要がある。

砂漠が目の前に現れる夢や、砂漠の真ん中にポツンといる夢は、周囲から孤立した状態に追い込まれるサイン。場合によっては、すでに孤立してしまっていることを表す。このまま行けば、苦しい展開になる可能性が高い。

「もしかしなくても、《力》の持ち主はいじめにあってるんだろうな。そして少女は《力》を使って報復するよういった理解者。美里を夢の中に連れていくのは現実世界がつらい場所だから守ろうとしている」

「もしかして、夢の中で死んじゃったら、その通りに死んじゃうやつ?」

「なるほど......だからいじめに加担したり、見て見ぬふりをした連中に報復しまくってやがるのか」

「でも、被害者多すぎない?もう100人に行きそうなんでしょ?」

「......その男の子が怒ってるんじゃないかしら」

「たしかにありえるかもね〜」

遠野曰く。夢占いによると砂漠の夢で人にあうときは、その人物があなたを陥れている張本人であるという暗示。もしくはその人物があなたの救世主であるという暗示。

夢で見た相手の印象や会話の内容にも注目して、どちらの意味を表しているのかを判断する必要がある。

砂漠で出会った相手に対して良い印象を抱いた場合、それは貴方を助けてくれる協力者や支援者である事を暗示となる。困ったり窮地に陥った際にはその相手に応援をお願いする事で、乗り切る事が出来る。

砂漠で出会った人に対して何となく嫌な印象を抱くなどした場合、その相手が現実でも邪魔をしたり、物事が上手く行かない原因になっている。第一印象だけではなく、相手の話していた事やその内容なども良く思い出して、どちらの該当者なのか見極める。また人ではなく砂漠で動物に出会った場合も同様の解釈となる。

「どう思う?」

「......怖かった、とは思うの。でも、二人の会話を聞いているとどうも悪い人じゃなさそうだなとは思っていた、気がする......」

「幼い男の子は?」

「そちらの方がなお怖かった......普通の人間じゃない気がして......。2人は《氣》を感じ取れるけど、頭がね、《氣》を探ろうとするのを拒否するの。知っちゃいけない、気づいちゃいけない。心がそう叫んでいるようで......」

「つうか、美里を助けたいならなんだって磔なんだよ」

蓬莱寺の疑問に遠野は答える。

「磔にされて身動きが取れず、一方的に痛みや苦しみを味わっている恐怖は、今あなたが現実で置かれている状況を表します。苦しいのに逃げられないプレッシャーを意味しているのです。自分が十字架に磔になり死んでしまう夢は、運気好転を意味しています。物事がうまくいくことを示しています。辛かった試練を乗り越えて新しく再スタートがきれそうです。新しい自分、新しい生活に変わります。気持ちは先を見ているようです。ですって。案外夢占いだと死ぬことは悪いことじゃないのよね」

「つまり......私の深層意識がそうさせているということ?」

「ただ、それは夢占いの話だろ?美里は《力》のあるやつに何回も気に入られてるから、怖くなってるのもあるはずだ。無理やり夢の世界にとどめようとしているから、キリスト教徒の美里には、苦行、あるいは拷問のイメージでそうなっているのかもしれないな。まだ1ヶ月もたってないんだ、無理しないでくれ」

「......ありがとう、龍麻君......」


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