憑依學園剣風帖12
歓迎会は、乾杯から。そして、たわいもない話が弾む。醍醐に迷子になったのかと心配され、遠野になんかあったのかと目をキラキラさせながら言われた。蓬莱寺が隣に座って、適当なことをでっち上げてくれたのはいいが背中を叩かないでほしい。痛い。
私と蓬莱寺は遅刻したため罰ゲームになった。ひだまりのうたを歌ったら、歌って踊れと言われたのでSPEEDのデビュー曲をうろ覚えてやったら、蓬莱寺がノリノリで舞園さやかのデビュー曲を熱唱してきた。なんで対抗心を燃やされるんだろうか、それがわからない。
美里と緋勇が何かあったらしいく、遠野に張り付かれて桜井にとめられていた。相談に乗っていたら、緋勇に抱きつかれたんだろう、たぶん。アオハルでいいなあ。
そんなことを思いつつ、マリア先生にすすめられたたこ焼きを方張っていると、保護者を兼ねているマリア先生が、緋勇君に話題を振った。うーん目の保養万歳。
「遠野さんから強い、と聞いたのだけれど、どうなのかしら」
「マリア先生に褒めてもらえるなんて、光栄ですね」
遠野は、まだネタが足りないのか茶々を入れる。マリア先生は強さについて、説いている。大人って、複雑だなあ、と思いながら、お茶を飲み干した。セクシーポーズを決める蓬莱寺に思い切りお茶を吹いたのは、不可抗力。酒飲むなっていったのに、飲んだんだろうかこの男。
縁もたけなわ、といったところで、恐れていた事態が起こってしまった。突如、悲鳴が夜桜舞う空を切り裂いたのだ。
私と蓬莱寺、緋勇はほぼ同時に立ち上がる。醍醐も様子を見に行きたいようで身を起こす。美里、桜井、遠野、と女子生徒まで立ち上がったことで驚いたマリア先生か危険だと止める。だか全員で説き伏せ、それでも説得させきれず、結局全員で駆け付けた。美里はマリア先生が心配なようだが、実は始祖の吸血鬼だから全然心配いらない。マリア先生のことは任せて、とカメラを構えながら意気込む遠野のこと、よろしくお願いします。
待ち受けていたのは、ゾンビのように青白く目が充血してギョロギョロしているサラリーマン。「無魂症」と呼ばれる生気を発しない体質でもないと、こうやって村正に操られる呪いを受けることになるのだ。そして今どき珍しい野良犬らしい野良犬の大群が私たちの前に立ち塞がる。
血塗れの村雨を片手に大暴れしており、手をつけられない状況である。血の臭いに当てられたのか、何匹もの野犬が花見客に吠えかかり、おののいて散りじりになった結果、そこの空間だけが異様な雰囲気を放っている。公園に、とても人間が発する声とは思えない、獣の咆哮が響く。
「へー、東京って野良犬いるんだな」
「いいえ、みたことないわ緋勇君」
「ほんとか?」
「うんうん、そんなわけないよ。ペットが脱走したとかならあるかもしれないけど、こんなに人を襲うような凶暴なやつだったらとっくに駆除されてるよ」
「みたところ狂犬病のようだな」
「初めて見たわ......」
「もし、いるとしてもこんなにいるなんて……おかしいわ」
一様に肯く仲間たちに、沈黙していた緋勇くんが進み出た。
「なるほど......ただの野良犬って訳じゃなさそうだ」
「たくさんいるな」
「どっからきたんだろう?」
桜井たちの言葉にげげげという顔をしている蓬莱寺である。
「なァ、なァ、時諏佐ッ!まさかみんな蟲とかいわね〜よな?」
《如来眼》の影響で目の色がおかしくなっているからか、蓬莱寺は私がなにかいう前に察したらしく、まじかよッと言葉が返ってきた。
「蟲?」
「実はみんなと合流する前にこの人がいないか見て回っていたんです。そしたらこいつが襲ってきまして。見ていてくださいねッ」
あーだこーだいっている暇はない。実物を見てもらった方が早いだろう。私は距離をとった状態で木刀に《氣》を巡らせ、一番近くにいる個体にぶつけてみせた。激しい衝撃にさらされた野良犬は擬態がとけて無数の蟲が宙を舞う。巨大な蚊柱のようにも見えた。
私はわかるのだ。《アマツミカボシ》の本能がささやきかけてくる。ハスターの狂信者だった《アマツミカボシ》が情報提供をしてくれる。
こいつは《這うもの》、数千もの蛆や蟲で出来ている奉仕種族である。その蟲は何となく人の形に見え、絶えず蠢いているという。昔からホラー映画などを見ると芋虫状のものに覆われたような人間の姿を幾度となく見ることになることから恐怖そのもののように思える。
這うものたちは言葉を話すことはできないが文字を書くことはできるという。クトゥルフを崇拝していることから深きものどもとの繋がりもある。はい、アウトである。柳生の用意した刺客のひとりに深きものと繋がりがあるやつがいるのだ。もう緋勇たちに気づいて監視にきたらしい。
深きものはハスターと敵対勢力であるクトゥルフの勢力下にいる種族だ。《アマツミカボシ》の転生体であるせいか私の《力》はこいつらを相手にすると威力が増すらしい。《アマツミカボシ》の殺意は濃厚である。この身体をつくり、緋勇の母親を誘拐未遂し、時諏佐家の跡取りを殺した組織の気配がするというのだから無理もない話だ。《如来眼》も《菩薩眼》も《アマツミカボシ》が大切にする子孫のひとりなのだから。
「《氣》をうちこむとダメージがとおります。距離をとって絶対に近づかないでください。こいつは人を襲います。食い殺されますよ!」
私が叫んだ時だ。サラリーマンが笑い始めた。そして襲い掛かってきた。
「警察が来る前に片付けるぞ!」
緋勇の烈しい指示が飛んだ。
緋勇の指示で、すばしっこい野良犬たちをノックバック効果のある技を中心になぎ払う。団子状態にしてから、方陣で一気に殲滅する。詠唱を済ませた美里の援護で攻撃力を上げた桜井が遠距離から、私たちが届かない範囲を牽制してくれる。どうしても瞬時の移動が遅く、接近戦に特化している醍醐はおびき寄せの役を担ってくれる。これ以上頼りになる壁役はない。進み出てきたサラリーマンから一撃を食らい、うめく醍醐に、美里があわてて《力》をつかって回復する。
「せっかくの歓迎会を台無しにされたんだ。ただじゃおかないぞ」
緋勇は高らかに叫んだ。すると、にたあと笑ったサラリーマンが緋勇をみつめるのだ。
「百数年の時を超え───────今なお、衰えることを知らぬ切れ味よ......。そればかりではない。その刀身は、紅の鮮血を浴び、芸術の如き、げんようさを増しているではないか......」
うっとりとした様子で妖刀村正に指を這わせる。指先が切れてしまうが気にせず血を這わせていく。その不気味さに私たちは戦慄するのだ。サラリーマンは緋勇たちではなく、誰かをみている。そして村正を高々とかかげた。
「天戒よ......。常世の淵で、見ているがいい。貴様が護ろうとした、この街がお前の子孫によって混沌に包まれていく様をなッ......!!貴様の街は、人の欲望によって滅ぶのだ......。さあ......殺すがいい。くくくくくッ......あははははは!」
桜吹雪が舞い散る中、やけに堂々とした声が響き渡った。
「さあ、血を吸えッ!そして新たなる《力》をえるのだ!そしてこの街に───────東京に混沌と混乱をもたらすのだッ!」
血しぶきがまるで噴霧器で吹き飛ばしたように広がるにもかかわらず、流した者の痛みの強さとは比例しないらしい。サラリーマンがこちらに走ってくる。緋勇は戦闘態勢に入った。
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