咆哮1

今日は午後から大雨が降ったり止んだりとなにかと安定しない天気だったが、ふと見上げた西の空が凄いことになっていた。

綺麗な夕焼けを覆うように,黒い影のようなものが西から東に放射状に伸びている。異常現象か、地震雲かと恐ろしくなったが、翡翠が単なる珍しい自然現象だと教えてくれた。

これは太陽が沈む西の空の地平線あたりに発生した雄大積雲や積乱雲(入道雲)の影が,大気中の微細な水滴やチリ・ホコリなどによって散乱されて光の筋となって目に映る「天割れ」もしくは「後光」という現象なんだそうだ。

夏になると地平線に見える入道雲がある。こ入道雲は高さ1万5000m近くに達することもあるので、ものすごく小さく見える遠くの入道雲でも影は空にしっかりと残る。

ちなみに、天割れが見られるのは、基本的には夏の日没時の西の空。夏のよく晴れた日の夕方、青空に、ひときわ濃くなった青い部分が大河のように東西に伸び、放射状に広がりを見せ、幅広くなる数本の影の筋となって見える。しかし、大気中に水蒸気が多いと、日没時の東の空でも確認できる。

沖縄の八重山地方では、昔から天割れのことを「風の根」と呼び、大風の兆しだとされてきた?天割れのなかでも反対側の地平線にまで達したものは「天女の帯」と呼ばれ、猛烈な台風が現れる兆しとして恐れられてきたそうだ。

天気は西から変化するので、西に積乱雲や積乱雲の集合体である台風があり、大気中に水蒸気が多ければ、後で天気が大荒れになることは確かだ。昔から言い伝えられている天気に関することわざは、実は天気のメカニズムと照らし合わせると、的を射たものが多い。

「今日が真夏ならなんの問題もなかったんだけどね。今は1月だ。真冬だ。普通ならありえない。これから色んな意味で大荒れになるのは間違いないな。なにかの前触れなのかもしれない」

晴れているところは黒く見え、大気の状態が不安定となって、積乱雲によく似た雲が真冬だというのに発生している。輝度の大きい白く見える雲がある。きっと積乱雲くらい高度があるに違いない。自然現象ではありえない光景なのは間違いないようだった。

そして、夜の帳がおりる。公共機関が使えなくなる前に集まることになり、夕方に如月骨董店にに集まった私たちは公共機関を乗り継いで移動を開始した。

「え、不発弾ですか?」

「地震が終わらない中で何個も発見されたから、広範囲にわたって避難区域に指定されたようなの」

「たぶん、カバーストーリーかなにかじゃないかな?」

「たしかに。不発弾がたくさん出たとはいえ、半径1キロ避難はなかなかないよな」

私の知らない間に行政は動いていた。おばあちゃんがなにかしたのかもしれない。

不発弾発見地点から、概ね半径1キロメートル以内の警戒区域(避難区域)及びその周辺道路において、交通規制を予定していると緊急アナウンスが入ったそうだ。もちろん、そこは真神学園と天龍院高等学校。規制範囲や規制時間については、関係機関と調整を行っていたのか、異様にスムーズに早く発表されたらしい。

警戒区域(避難区域)及びその周辺地域については、案内チラシを各家庭に配り、区ホームページ、こうとう区報、こうとう安全安心メール、ネットのあらゆる通信手段、ケーブルテレビ
コミュニティFMによる放送などを行っているという。

周辺住民は地震が1ヶ月近く続いてる上の不発弾発見により、早急に避難したらしい。

そして、最寄りの駅に着くやいなや、ずっと続いていた震源地不明の不気味な余震はとうとう本震に姿を変えた。

家が時化にあった漁船の帆柱みたいに揺れる。地震で地面が揺れるので、海上で波にもまれた者のように吐き気をもよおす人もいるようで、あちこちでけが人が出ているらしい。緊急の速報が流れ始めている。ラジオや街頭テレビもまた揺れている。

大地が波のように揺れる。高速道路を歩いているときの大型トラックが通り過ぎるたびの揺れによく似ていた。揺れというよりはうねりに近い。荒波の上に浮かんだ航空母艦の甲板を歩いているようだ。

地震のたびに家はガタガタと揺れて、私達は互いの顔が三つにも四つにもダブって見えた。

そのうち、かすかな揺れであっても、じつは大地震が来るまえの予震で、いまこの瞬間にも地響きが聞こえて大揺れが起こり、部屋の隅までふっとばされるんじゃないかと身がまえるようになる。妙な緊張感でもって私達は前に進んだ。

そして、寛永寺を目前にひかえた道路で揺れは最高潮に達した。ドーンと重く大地が鳴り、鳥が姿を見せないままけたたましくさえずった。街路樹が激しく梢を揺らし、杉の花粉が豪雪地帯もかくやとばかりにいっせいに降り注ぐ。  

地中から大木が折れるような音がした。大砲のような音が轟きわたる。轟然たる大音響が大地をつんざく。
大地が破裂するのではないかと思われるほど激しい音だった。

地響きが地の底で大太鼓でも打つ不気味さで、少しずつ少しずつ大きくなり、まっしぐらに接近してくる。

そして、私達は真神学園と天龍院高等学校がある方角に光の柱が走ったのを目撃した。巨大な力でずたずたに引き裂かれた瓦礫が大地から大空に巻き上げられていく。渦をまく光がひとつの巨大な塔を構築していく。

想像を絶する大きさだった。塔を中心とした広範囲が瞬時に壊滅した。学園敷地の破壊に留まらず、衝撃により地表ごと大きくえぐられ、直径ほぼ一kmにも及ぶクレーターが形成された。さらに五km離れた地点でも数秒後にはマグニチュードの揺れが伝わり、十五秒後には爆風が吹き抜け、新宿の広範囲が甚大な被害に見舞われた。

ラジオの速報である。

雷が空から幾重にもおちてくるのがみえた。それが雷ではなく、雷を伴った《氣》であることに気づけた人間はどれくらいいたのだろうか。大地から吸い上げられた《氣》は無理やり陰陽にわけられていたために、ひとつになろうと引き合う。やがて2つの巨大な塔の間に激しい《氣》のいきかいを示すように電流が走っているのが目視できるようになった。

「あれが......あれが《龍命の塔》......」

「真神学園、大丈夫かな......?」

「実はな、アン子が犬神先生から旧校舎なんて危ないものが目と鼻の先にあるから、大丈夫なように《結界》がはってある、と聞いたそうなんだ。真神学園は陸軍の士官学校だったし、今の校舎が建てられる時に《龍命の塔》のことを知らないまま建てたとは思えない。避難する場所に犬神先生が迷うことなく選ぶなら、それだけ安全だってことじゃないかな?」

「そういえば、今回、長い間地震が続いてるし、冬休みだからって避難所の開設とかやけにスムーズだったよね。ボクの家族もみんな避難してるもん。もしかして、このこと知ってる人がいるのかな?」

「九角君のところに使えてる人や関係者に話がいっているのも大きいと思います。九角君のおじいさんは、この《龍命の塔》を巡る帝国時代の戦いの当事者だったわけですから。その跡継ぎの九角君が古文書片手に説明したら、はやいと思いますよ」

「陰陽寮も動いているしな。校長先生みたいに、俺たちが知らないだけでなにもしらない東京の人々を守るために動いている人は沢山いるのかもしれない」

「なるほどねェ。なら、ますます負けられなくなったじゃねーか、なあ?ひーちゃん」

「ああ。じいちゃん、とうさんが決着をつけることができなかったんだ。今度こそ、柳生との戦いに終止符をうつ。すべて終わらせてやる。次に引き継がせる訳にはいかない。ただでさえこんなに被害が出てるんだ、失敗したらシャレにならない。まーちゃんの東京が壊滅する夢だって正夢になっちゃうからな。それだけはできない。させちゃいけない。いこう、みんな」

私達はうなずいたのだった。

prev next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -