魔人学園9

私達は疲労困憊だった。如月骨董店にに着いた頃には深夜2時を回っており、早く寝たいという思考だけが支配していた。お風呂に入って寝る支度をしておやすみなさいする。ただそれだけのルーティンだったため、次の日、昼の10時頃に起きてきたとき、緋勇がいることに一瞬固まるが、そういえば一人になるのは危ないし泊まれと私と翡翠で押し切ったんだったと思い出す。

「おはようございます、ひーちゃん」

「あ、うん、おはよう。まーちゃん、ごめん」

脱衣場の洗面台からどいてくれた緋勇に甘えて私は身支度を整える。事故を防止するために私は部屋で着替えるのがルールだったのだ。

「はい、どうぞ。昨日はよく眠れましたか?」

「寝すぎて頭がボーッとしてるけど、12時間後には戦いがまってるんだもんな。どうにかするよ」

「あはは」

「まーちゃんはどう?大丈夫か?俺たちはノーデンスの《加護》が受けられたからいいけど、まーちゃんはそうじゃなかっただろ?」

「ノーデンスがナイトゴーントたちを貸してくれたので、退散の呪文に必要な魔力をだいぶ肩代わりしてくれたようなんです。思ったより体が軽いです。これなら戦いに参加できそうです」

「よかった。戦いが続けざまになるけど、頑張ろうな」

「そうですね」

私達が話しているとこえがした。

「2人とも、ご飯が出来たから食べよう」

「おはようございます、翡翠」

「なんかごめんな、泊まらせてもらった上にお昼まで」

「いいんだよ、気にしないでくれ。ネフレン=カを倒せたとはいえ、本命はまだなんだ。なにかあったら大変だからと泊まるよういったのは僕だからね」

私はあわてて配膳を手伝うことにする。

「龍麻、新聞をとってきてくれないか?」

「わかった」

「翡翠、ひーちゃんの食器どうします?」

「ああ、そうだね。こちらの引き出しから客人用の食器をだしてくれ」

「わかりました」

緋勇が帰ってくるころ、準備は完了していた。

「いただきます」

私達は合掌して食べ始めた。

「誰かの家に泊まるの久しぶりだな」

「そうなんですか?」

「ほら、俺一人暮らしだろ?京一とか遊びに行く理由作るの楽だし、気を遣わなくていいからってよく入り浸ってたんだよ。なにかあっても家から抜け出すのに理由でっちあげなくていいからさ」

「なるけど」

「翡翠んとこはまーちゃんいるから気軽に泊まれなくなったしな。馬に蹴られる趣味はないんだ」

「龍麻」

「ひーちゃん」

「おー怖」

ケラケラ笑いながら緋勇は茶化してくる。私はためいきをついた。

「ひーちゃんだって人の事言えないんじゃないですか?会いたい人がいるんですよね?」

「そうだな。美里さんという人がありながら担任教師と一夜を明かすとか、どの面下げて逢いに行くのか気になるところだ」

「お前らもいたじゃん!誤解を招くようないいかたやめろよ!悪意あるなあ!」

「喧嘩を先にうってきたのはひーちゃんですよ」

「やめてくれ、そんな話広まったら柳生との戦いの前に女性陣に殺される!!」

私達は顔を合わせて笑ったのだった。

そして、緋勇はやはり美里に逢いに行くとのことで、お昼もそうそうに如月骨董店を後にしたのだった。

今夜の10時に如月骨董店前に集合して装備を一新したり、アイテムを買い占めたりしたいという。翡翠は品揃えを強化しておくよといったので、私も蔵からアイテムを並べる作業におわれることが確定したのだった。





緋勇を見届けてから、ふと思い出したように翡翠がいった。

「......愛はいいのかい?誰かに会いにいかなくても」

「え?なんでです?特に用事はないですけど」

「いや、君がいいならそれでいいんだ。決戦前の貴重な時間を僕と過ごしてくれるというのなら、それはそれとして嬉しいからね」

「!」

言われて始めて私は今の状況に気づくのだ。外堀を埋められて、すでに翡翠の家にいるのが当たり前になりつつある今、翡翠から離れて会いたい人がいないことに気づくのだ。それを指摘してニコニコしている翡翠の気持ちをいやでも察してしまい真っ赤になってしまう自分がいる。

「さも当然という顔をしていてくれるなら、これ程嬉しいことは無いね。でも、これがあたりまえだと思われると困るからいうけれど、僕は君のことが好きだからそう思うんだよ、愛」

「......わ、わかってますよ、わかって」

今まですっかり忘れていたんだけども。もうだめかもしれない。そんなことお見通しだとでもいいたげに翡翠は笑っている。

「今朝起きたとき、無償に不安になったんだ。《天御子》であるネフレン=カを倒した今、君がこの世界にいる理由はなくなったじゃないか。柳生たちとの闘いを前に、私がいなくても大丈夫だろうから、っていなくなりそうな気がしてね」

「さ、さすがにここまできといてそれはないですよ、翡翠ッ!私はそこまで薄情じゃないですッ!!」

「そうだね。今の君なら僕に返事をしないといけないし、場合によってはみんなにちゃんとお別れをいわなければならない、って考えるだろう。僕が気持ちを告げる前は、そうだな......ふとした拍子にいなくなって置き手紙だけのこしてあるような、そんな雰囲気があったんだよ」

「えええッ!?」

「なんとなくの話だよ、イメージの問題だ。卒業式まではなに食わぬ顔で登校しておきながら、卒業して別れ別れになった瞬間にしれっともとの世界に帰っていそうな、そんなイメージがつきまとっていたんだ。今はそんなイメージではなくなっているけどね。そういう意味では想いを告げてよかったよ。手遅れになるところだった」

「どんなイメージですか、それ。御伽噺の話じゃないんですから」

「でも少し前の君だったら、何も言わずに帰ってしまっていただろう?みんなのまとめ役が龍麻なら、愛は参謀役として的確なサポートをしてきたと思う。でもそれだけだ。新たな仲間が加わる度に仲間内の繋がりはどんどんできていったが、君はどうだい?最初から友達だった真神学園のみんなくらいじゃないか?ずっと仲間にしようと頑張ってきた《鬼道衆》の九角たちにすら仲間以上に仲良くなろうとはしなかったじゃないか。初めは僕と同じように使命に真面目に向き合っているだけかと思っていたけれど、僕にはどんどん他者と関わる大切さを説きながら、当の君は一線越えようとは一度たりともしなかった。やはり、君は初めから元の世界に帰ることを前提に立ち振る舞いを決めてきたんだね。前いっていたように、絆されると困るから。情が湧いてしまうと帰りにくくなるから。それはあたってる。君はほんとうにお人好しでほってはおけない性質をしているから予防線としては最適解だったと思う。気付いてよかったよ、ほんとうに。手遅れになるところだった」

「出来たら、もうちょっと気づくのが遅れて欲しかったです......」

「ほらやっぱりそうだ。僕が思いを告げたから、もう君はその段階でそれに向き合わないといけないと思ってる。一辺倒な終わりだけ考えていればよかったのに、それだけではダメになった。君には怒られるだろうけど、君の優しい性分につけ込ませてもらうよ。悪いけど」

「ほんとにタチ悪いですね、翡翠」

「こうでもしないとこっちを見てくれないからね。《如来眼》の性能と平行世界の知識により、君はどうも先読みする癖がついているようだから。君が考える如月翡翠から外れたことをしないとダメじゃないか」

「いや、たしかにそれはそうなんですけど」

「それだけ僕も必死ってことだよ。君はどうも言わないとわからないようだからいうけども」


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