魔人学園6

ナイトゴーントたちが詠唱しはじめた。青い無数ののっぺらぼうの羊たちが詠唱しはじめた。《駆り立てる恐怖》は次々に戦線を離脱し、蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。ネフレン=カもまた苦しみ始めている。私達がナイトゴーントを倒すよりもはやく、あれだけいた敵がめべりしていった。

「まさか、まさかノーデンス......ッ!?」

ネフレン=カが忌々しげにナイトゴーントの奉仕する神の名を紡いだ。

その名は「漁師」「狩人」「捕まえる者」を意味すると考えられている。ゴート語の"nuitan"(獲得する、手に入れる)や"nuta"(捕まえる者、漁師)。

ノーデンスの信仰を示す石碑はランカシャーのコッカーサンド・モスとグロスタシャーのリドニー公園で出土している。こうしたノーデンスの信仰地においては青銅製の腕の像や眼科医の印象などが捧げられており、これはノーデンスが医神であった事を示している。また犬の像も多数捧げられていることからノーデンスの聖獣は犬であったされる。犬は傷を舐めて直してくれるという信仰があり、これはノーデンスの医神としての性質を表している。

ノーデンスがアイルランドに伝わった物がヌアザ、ウェールズに伝わった物がシーズ・サウエレイントと考えられている。また、アーサー王伝説における漁夫王は漁師としてのノーデンスの影響があると考えられている。

ノーデンス(Nodens)は、人間に対して比較的好意的な存在と解釈される旧神の一柱である。白髪と灰色の髭をもつ老人の姿で現れ、貝殻の形をしたチャリオットを操る、海の神のような性格を持つ。

また、幻夢境(ドリームランド)の地下に広がる暗黒世界「偉大なる深淵」を治めており、「偉大なる深淵の主」(Lord of the Great Abyss)とも、「大帝」とも呼ばれる。 夢にとり憑く黒く痩せこけた顔のない魔物、夜鬼(ナイトゴーント)を召喚して使役することで知られる。


神の思考、在り方は人間に理解できないとはいえ、外なる神に比べれば比較的人間に友好的である。

グレートアビスという広大な暗黒の領域の支配者であると語られており、地球上の人々からの信仰よりも、深い眠りの中にあるドリームランドという場所においての信仰が厚い神とされる。

彼を崇拝する奉仕種族・夜鬼(ナイトゴーント)らを従えて、彼らが変身したものに乗って移動する。

外なる神の使いナイアーラトテップと対立しており、それはそれぞれに関係する人間同士の代理戦争になる事もしばしばある。

ただし「友好的」と言ってもあくまで比較的であること、神であるがため人間とは尺度があまりにも違うことや、救った後の人間がどうなろうとノーデンスにとっては知ったことではないことも忘れてはいけない。

「ふふ、ふふふふ、ふ、正気ですか......?なぜあなたが人間たちに力を貸すのです?あなた方の安住の地を奪ってきた人間共を!」

《この男の先祖はかつての故郷と同じ氣をもつ者》

《それだけで貴様に殺させるのは惜しい》

《ゆえに邪魔だてさせてもらう》

「───────緋勇龍斗の末裔ですからね、この少年は」

ネフレン=カは忌々しげに緋勇の先祖の名を口にしたのである。

世界樹(せかいじゅ)とは、インド・ヨーロッパ、シベリア、ネイティブアメリカンなどの宗教や神話に登場する、世界が一本の大樹で成り立っているという概念、モチーフ。世界樹は天を支え、天界と地上、さらに根や幹を通して地下世界もしくは冥界に通じているという。


巨大なトネリコの樹であり、世界の中心に生える神聖なものであるとされている。世界樹の枝は遥か天高く伸び、それを支える3つの根ははるか遠い世界へと繋がっているという。

世界樹はこの世界と地下世界、より上方の世界を接続する役割を果たしている。また世界樹は、サモイェードのシャーマンたちに太鼓を与え、彼らが異世界を旅する手助けをしている母なる自然のシンボルでもある。

世界樹は四方位で具現化され、さらに中心に四重世界の中央世界樹が存在しており、これが地下世界の平原と地上世界、天界を結ぶ世界軸となっている。

世界樹は、その枝に鳥をのせ、根が地面もしくは水中へ延びる形で描かれていることが多い。また地下世界のシンボルである水の怪物の上に描かれることもある。また中央の世界樹は天の川を描いたものであるという解釈もされている。

それと同じ《氣》だといわれた緋勇は目を丸くするのだ。

私は緋勇にいうのだ。

「古来より大陸に伝わる地相占術の風水において、《龍脈》とは巨大な《氣》のエネルギーの通路と解釈されてきました。そのあまりに巨大な《氣》が及ぼす影響は、しばし歴史の中で人や時代を狂わせて来ました。《龍脈》の《氣》による影響が東京の人間にも出始めて、今に至ります。古来よりその膨大な《氣》のエネルギーを手にした者は、この世のすべてを手に入れることが出来るといいます」
 
「まーちゃん......」

「《黄龍の器》は本来そういうものなんですよ、ひーちゃん。今まさにこの東京に眠る《龍脈》は18年のサイクルを経て最大のエネルギーを蓄えつつあります。あと1日もすれば、その《氣》の影響でやがてはこの東京は狂気の坩堝とかすでしょう。それらを統べて《龍脈》の《力》を手にして覇者になるのは誰か。それをこの世界は見届けてきました」

「じいちゃんとか、ご先祖さまとか......?」

「覇者になろうとしている柳生を阻止するために、あなたが立ち上がったからこそ、この東京の《龍脈》により選ばれし《宿星》が再び集ったわけです。あなたの《宿星》に導かれて。ノーデンスが、《旧神》が、力を貸してくれるのは、あなたが《黄龍の器》に相応しいからに他なりません。自信をもってください」

私は、今はもう、自分の心に忠実に従いたいと強く思った。人に決断を促すのは、明るい未来への積極的な夢であるより、遥かにむしろ、何もしないで現状に留まり続けることの不安だ。後悔の訪れはまだ先であるはずなのに、既に足許は、その冷たい潮に浸され始めていた。そこでただ、目を瞑ってじっとしていることは出来なかった。

だから緋勇に語りかけるのだ。

「わかった」

緋勇の眼は、暫時の焦燥に揺られながらも次第に獣的な決意を閃かせていく。

「やるしかないなら、俺はやるよ。ノーデンス、力をかしてくれ」

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