魔人学園5


まずは供給元を絶たなくてはならない。私は《アマツミカボシ》との交信を一時的に増幅させて《加護》を得た。

「星の葬列」

北辰の星辰が揃い、星辰の位置が変わったためネフレン=カの崇拝する神が休眠状態となる。一時的に彼と邪神の交信が途絶える。これで《駆り立てる恐怖》のさらなる増援や無尽蔵な魔力供給は絶たれた。

それに気づいたらしいネフレン=カは私を見て笑った。

「驚きましたね、《アマツミカボシ》の転生体よ。かつてのように邪神のみに許された所業にまで手を出し始めましたか。あなたはもはや人間ではなくなっている」

「そんなこと、今はどうだっていいですよ。あなたを退けて、この世界を守ることが私が召喚された理由なわけですから。人間じゃなくなるかどうかなんて、あとから悩めばいいことにすぎません」

私は《アマツミカボシ》の《加護》を緋勇たちにも与える。

「おもしろくなってきましたね。ならば、ふさわしい舞台を用意しましょうか、旧校舎では少々芸がないですからね」

ネフレン=カは呼吸するように呪文を唱えた。たったそれだけで、ノータイムで私達の世界は一変する。

あたりはまるで宇宙のように広い広い空間だった。遠くでは星々がきらめくのに、あたりは銀河系も何もない。ただ浮遊しているわけではなく、しっかりと足がついているのは平面の空間が存在しているからだろう。視認できないが謎のパネルが設置されているような感覚である。こつこつと冷たい音がする。音がする時点で宇宙ではない。息ができる時点で宇宙ではきっと無い。

私達は油断することなくぐるりとあたりを見渡した。張り詰めた緊張感の中、私は出来うる限りの《アマツミカボシ》と契約を交わしている眷属を召喚し、陣形を作る。

その刹那、突然の閃光と轟音がとどろく。反射的に私たちは目をかばった。強烈なまぶた裏の残像が消え去る頃、ようやく視界が回復した私たちがみたのは、視界を覆い尽くす《駆り立てる恐怖》を護衛替わりに従えるネフレン=カの姿だった。

 
「強壮なる使者よ。百万の愛でられし者の父よ。あなた様の臣、ネフレン=カはここにおります。どうかそのお姿をお表しください」

呪文の詠唱が始まった。

私は凄まじい違和感に身体を震わせた。声こそ人間だがその口調には別人のような威厳とカリスマ性を感じる。まるで人間の口を借りて別人がしゃべっているようだったのだ。

そして、その声に応えるかのように、この場には全く場違いな音が聞こえ始めた。澄んでいるが、どこか神経をかきむしられるような単調な音。それは、フルートの音に聞こえた。それに呼応して星が今まで鳴き喚いている。嫌だ。聞きたくない。あの音は人間が聞いていい音ではない。

私は《アマツミカボシ》の《氣》を変質させ、即座に一撃を放つ。《駆り立てる恐怖》が私の攻撃の壁となり、塵となって消えてしまった。

「崇拝している邪神を呼ぶ気です!止めてください!!召喚されたが最後、東京の壊滅だけじゃすまなくなる!!」

私の絶叫に如月たちも加勢してくれる。

私はずっと耳を塞いだかったが、たとえ耳を削ぎ落としたところで音はずっと聞こえ続けるだろう。そもそもあれは音ではない。人間の感覚では捉えられない何かが、音として聞こえているにすぎない。頭の中でなっているのだ。それが肥大化するにつれて、完全なる闇が近づいてくる。

星明りや月の明かりすら入らない暗闇だ。そもそもここはネフレン=カの幻覚なのか。私たちが蹲っている場所は本当に旧校舎なのか。そんな私の不安を嘲笑うようにフルートのような音は続いた。

《駆り立てる恐怖》を屠っていくものの、数が多すぎてネフレン=カに近づけない。こうしている間にもネフレン=カが唱える呪文の声が大きく、高くなっている。その声は、狂喜しているように感じられた。そして次の瞬間、空間におぞましい瘴気が入ってきて、一箇所に集合し始めた。全くの闇の中だったが、私は確かにそれを感じた。

そして瘴気が集まっていった場所には、完全な暗闇のはずのこの場所よりもさらに黒い影が表れ、その中に三つの赤い光が出現した。それは、目のように見えた。

「ナイアルラトホテプ......」

緋勇がつぶやいた。無意識だった。真の神は戻ってきたのだ。彼はその神官、ネフレン=カと共に世界を統治する。緋勇がみたあの石室で見た光景が再現される。

このままではいけない。そう思っているのに重厚なプレッシャーのせいで思うように体が動かない。もうダメなのかと本気で思った。その刹那。

「───────ッ!?」

緋勇のもっていた《旧神の印》が異様な光を放ったかと思うと、くだけちってしまった。

そして、その光から声がする。

《ドリームランドだからこそ封印を見逃し、統治を許したにすぎぬ》

《なにゆえ、この世界に舞い戻ろうとしている、矮小なる存在よ》

《この地にふたたび足を踏み入れることは我が許さぬ》

《本来、あるべき場所へと還るがいい───────》

ナイトゴーントはドリームランドと覚醒の世界の両方で見られる種族だ。解剖学的には人間に似ているが、皮膚はクジラの様であり、蝙蝠のものに似た翼を持ち、 顔がある筈の所には何もない。牛のような角と長い尻尾を持っている。 時々トライデントを持っているが、それ以外なんの道具も武器も持っていない。

夜鬼は通常荒涼とした、人類からずっと離れた場所で見られる。 彼らの領土に立ち入るものがあれば、夜鬼は彼らを奇襲し、空中に持ち上げる。 侵入者が抵抗するなら、大きい棘のある尾で攻撃し、抵抗を続けるならば、かなりの高さから落下させる。

抵抗しない者は、奇妙で危険な場所に連れて行かれ、ドリームランドに放置されることが多い。 口がないため喋る事もないが、意外にも知性はあり、簡単な言語であれば指示を理解できる。

夜鬼を召喚するには夜に旧き印を描いた石を必要とするが、召喚の手順を知っている者はいない。 つまりヒュプノスが召喚したのだろうか?

いや、《我が神》ではなく《我が》といっていたはずだ。

私は驚くしかないのだ。このナイトゴーントたちは明らかに《旧神》の《加護》を受けている。《駆り立てる恐怖》を咆哮ひとつで粉砕し、召喚されかかっていた《ニャルラトホテプ》の魔法陣をかきけし、呪文をかきけす力は本来ナイトゴーントにはないはずなのにだ。

驚く私たちなどいにも介さず、ナイトゴーントは《駆り立てる恐怖》を駆逐し始める。私達もあわてて戦いに参入したのだった。

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