魔人学園1


地下鉄九段下駅から徒歩5分。明治維新から大東亜戦争まで、246万余柱の戦歿者を祀り、国家のために尊い命を捧げられた人々の神霊を慰め、その事績を永く後世に伝えることを目的に創建されたのがここ、靖国神社である。

桜の名所としても有名で、桜をあしらった合格祈願のお守りは縁起がいいと受験生たちに人気だ。

毎年初詣には約20万人もの人々が訪れることもあり、私達が早めにきたためまだ人はそこまで混んではいなかった。

参拝をすませた私達は、これで厄落としが出来たらいいのにと軽口をたたきながら敷地内を歩いた。初詣というにはまだ夜中まで数時間あるわけだから、今年1年の締めくくりにきたと考えた方がよさそうである。

「熱心にお願いしていたようだけど、愛はなにをお願いしたんだい?」

「何って、決まってるじゃないですか。みんな生きて帰ることが出来ますように、ですよ。もちろん、これからの闘いに終止符をうって」

「そうだな、まちがいない。僕達は勝たなくちゃならない。次の世代に柳生との闘いを引き継がせてはいけない。それはこれから犠牲者が増えるってことにほかならないからな」

「そうですね」

「それにだ、万が一そうなったら、君はその闘いに向けて18年間また闘い続けなきゃならなくなる。きっと僕の知らない子達と高校生活を送ることになるだろう。そんなこと、僕は耐えられそうにないからね。答えを聞かせてもらわなくちゃならないんだから」

「翡翠......私は......」

「今はまだいいよ。全てが終わったら改めて聞かせてくれ」

「..................わかりました」

境内にある「遊就館」では、英霊の遺品や遺書をはじめ戦争に関する史資料が展示されており、平和について改めて考える機会をくれる。

ただ、今は物々しい雰囲気につつまれている。つい先日、何者かが遊就館に侵入し、今の時期に行われている宝物殿の展示会にあった五十六ゆかりの品を盗んだのだ。しかも駆けつけた警備員が殺されたため、強盗殺人として捜査されている。凶器の形状から織部神社の神主が同じく五十六ゆかりの品を盗まれそうになり、犯人ともみ合って大怪我をしたため、連続強盗殺人としてニュースになっていた。

そのためか、宝物殿は立ち入りが禁止され、警察官が黄色いテープの周りをかこう異様な雰囲気に包まれていた。

「......どう思う、愛」

「柳生の仕業でしょう。道心先生によれば真神学園の創立には五十六たちが深く関わっていたといいますし、《黄龍の器》を完成させて行う一連の儀式の品が奉納されていたのではないでしょうか」

「やはりそう思うかい?織部神社の御本尊は僕も見たことがなかったからね、《龍脈》そのものを祀っていたのだとしたら納得がいくよ」

「いよいよですね」

「そうだね」

私は《如来眼》を発動させた。

「......《氣》の流れがおかしいですね」

「やはり、柳生がなにかしているのだろうか」

「靖国神社でこの《力》をつかったのはこれが初めてなので断言は出来ませんが、本来《将門公の結界》を弱体化させ、《鬼門封じ》の《結界》を展開するには《龍脈》の《力》は不可欠のはずです。でも、今の《龍脈》の流れは明らかにおかしいです。本来ここに集まるべき《氣》が別のところに流れている」

「どの方角だい?」

「あちらですね」

「都庁......新宿区の方か......」

「はい。あちらに本来こちらにくるべき《龍脈》が捻じ曲げられ、無理やり流れ込んでいます。相当強力な術式が使われていますね。これでは《結界》の強度が保てない」

「なるほど......だから陰陽寮や時須佐先生たちが連日家に帰れないほど奔走している訳だな」

「そうですね......。ここまでくると《東京の結界》自体がいつまで持つかわかりません。ここが破壊されたら、《将門公》の《結界》しか東京の《霊的な守護》を担うものがなにもなくなってしまう」

「それは怖いな......。そうか、新宿区......」

「実はですね、翡翠。ひーちゃんも気にしていたんですが、谷中霊園で火怒呂と戦った時に、彼は五重塔について触れたじゃないですか。結局あれはなんだったんだろう、と」

「五重塔か......。そういえば、征樹が描いた絵には都庁によく似た建物に黄金色の龍が巻きついていたな。《黄龍》を降ろすのに、塔がなにか関係が......?」

「聞いてみます?九角君に。この国で一番最初に《黄龍》を降ろした一族なわけですから、なにか文献が残っているかもしれません」

「そうだね、彼ならなにかわかるかもしれない」

「們天丸さんもいるはずですから、150年前のことなにか教えてもらえるかもしれませんし」

「ああ、そうしよう」

私は電話をかけた。

「なるほどな、いいセンスしてるじゃねぇか。今ちょうど古文書引っ張り出してきたところだぜ」

そういって九角は笑った。

「いいこと教えてやるよ。邪馬台国では卑弥呼が住んでいた神殿には必ず塔がたっていたらしい。《大地の氣》を集め、空高くに放出するためだ。地中にて起動し始めた塔は、大地のエネルギーを吸い上げ、一昼夜のあとに地上に姿を表す。塔の出現により、大地の力はさらに増幅され、天翔する龍の如く、一点の高みへとかけ上る。それを受けて、《黄龍》は降臨したそうだ。己を受けいれるに相応しい器の待つ場所へと。てめーはこないだまで、うちの一族が《天御子》側にいた世界にいたんだろ?等々力不動の祭壇にはなにがあった?塔みてーなもんはなかったか」

そう言われて私の脳裏にはまだ記憶にあたらしい祭壇がよぎるのだ。

「どうやらあたりらしいな。都庁がそれをモデルに作られたってんなら、そっからみてどこに《龍脈》は流れてる?そこが《龍穴》のはずだぜ。塔はそっから起動する。その中央が降臨の場所だ」

「新宿区に流れているようですね」

「なら、答えは出たも同然じゃねぇか。陸軍が新宿区にふたつも士官学校を設立してんだからよ」

「まさか、真神学園......?」

「そのまさかだぜ、如月。そしてもうひとつが......」

「天龍院高校ですね、今年廃校が決まっている」

「そういえば柳生は赤い制服を着ていたって話だったな」

まちがいない。龍の塔の起動位置に存在しているのだ。

「魔人学園てのは的を得ているわけか」

「私達が夜な夜な通っていた旧校舎がその真上にあるというわけですね」

「だからあれだけの化け物が......!」

その時だ。すさまじい揺れが私たちを襲った。

「大丈夫か、愛!」

「は、はい、なんとか」

「これは......ただの地震じゃなさそうだな」

「......《結界》が......」

「なにかあったのか?」

「......《結界》が悲鳴をあげてます......」

翡翠は息を飲んだ。

「このままじゃ壊れちゃう......」

「まずいな、どれくらいもちそうだ?」

「わかりません、わかりませんけど、数日もったらいい方じゃないでしょうか」

「来てよかった、地震が来てからじゃ遅かったな。九角のいうことが正しいなら一昼夜、つまり1月1日に《黄龍》が降臨するってことだろう。まだギリギリ間に合う。猶予はまだありそうだな」

「そうですね、今から帰って《黄龍》がどのあたりに降臨するのか調べなきゃ」

「真神学園と天龍院高校の間か......地図を見ないとわからないな」

私達は1度自宅に帰ることにしたのだった。道中で緋勇たちに連絡を入れる。どうやら龍山先生から似たような話をされたようだ。明日は忙しくなりそうである。

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