龍脈3

龍山先生は、新宿中央公園にいって破戒僧の楢崎道心(ならさきどうしん)を尋ねるよう私達にいった。18年前の戦いののち大陸に残ると会話していた仲間だという。

「やつは18年前、東京で柳生に造られた《黄龍の陰の器》を弦麻と共に倒した男じゃ。わしは大陸で弦麻たちと会ったから詳細はやつに聞いてくれんか」

緋勇はうなずいた。

「もう夜も遅い。明日にするとよかろう。気をつけて帰るんじゃよ」

「龍山先生も気をつけて」

「うむ」

緋勇たちがどうやって帰るか話しているさなか、槙絵に声をかけられた。

「愛さん。申し訳ないのだけれど、私はこれから龍山先生と御門君と大切な話があるの。これから本格的にうちに帰ることができなくなりそうでね」

「わかりました。しばらくは家に一人になるってことですね」

「初めはいつもどおり、そのつもりだったんたんだけれど......」

「なにかありました?」

「いえね?御門君とあなたから《天御子》について話を聞いた今、柳生がどれだけ本気なのかわかったわ。18年前、ここまで《天御子》がかかわってこなかったのは、きっと準備期間にすぎなかったから。でも今は違う。緋勇君の《宿星》をわざと高めることで仲間であるあなたの《宿星》も高まり、あなたの影響を受ける仲間たちもさらに《力》が強くなっている。さらに予知夢のこともある。今まで以上に一人になる時間が出来るのはどうかと思うの」

「えーっと、でもおばあちゃんは話し合いがあるんですよね?」

「そうなのよ。陰陽寮がかかわってくるから、あなたを連れて行っていらぬ軋轢になるのも問題だから......」

「でも心配と」

「ええ。だから、急でどうかと思うのだけれど、誰かのおうちに泊まってはどうかしら」

「えええッ!?でも、しばらくは忙しいんですよね?おばあちゃん」

「本当に申し訳ないのだけれど......」

「ええ......」

なんとか大丈夫だと丸め込もうとしたのだが、柳生側の強大な敵の正体が明らかになった今、時須佐槙絵の精神状態は狂気にも似たつよい強迫観念のスイッチが入ってしまったらしい。私が《天御子》に狙われていることはしっているのだ、最適解を今の今まで講じることができなかった自分を責めたてているのかつらい表情をしている。こうなると時須佐槙絵の意志を覆すことはてこを動かすより難しくなってしまう。

途方に暮れる私に美里が声をかけてきた。

「そういうことなら、うちの母に連絡しましょうか?」

「いーね、いーね!うちも聞いてみるよ!一回泊まりにおいで!」

「女性陣に任せるか」

「そーだなッ、さすがに俺今首つっこんでること家族にいってねーから連絡したらえらいことになるしよッ」

「うちも母子家庭だからな......」

「俺一人暮らしだけどさすがになー。他の女性陣に声かけといてくれるか?2人とも」

「りょうかーい」

「わかったわ」

「ありがとうございます、葵ちゃん。さっちゃん」

「へへッ、なんか友達の家泊まり歩くって家出少女になったな、まーちゃん」

「家族公認だから家出じゃないですけどね......」

「ありがとうね、美里さん、桜井さん。ほかのお仲間にもよろしく伝えてちょうだいな。いきなりごめんなさいね、愛さん」

「いえ......私も御門君に無断で《天御子》について話すわけにはいかなかったですから......」

「本当に仕方ないとはいえ、今までなにもなくてよかった、としかいいようがないわね。なにもなくてよかったわ」

美里たちが双子に電話を借りている。

「ごめん、まーちゃん!今夜は無理だって!明日からなら大丈夫なんだけどっ!」

「ごめんなさい、槙乃ちゃん。さすがに今からは難しいみたい」

「ですよね......急な申し出ですもん、仕方ないですよ」

ついでに他の子達も諸事情があったり、そもそも電話が繋がらなかったりでダメだった。

「龍麻、槙乃を......」

「馬鹿醍醐、なにいってんだ!」

「そーだよっ!いくらなんでもデリカシーなさすぎだよッ!」

「む......?」

蓬莱寺が醍醐を引きずっていく。

「ひーちゃんが桜井を泊まらせたらどう思うよ?そのうちめんどくせーしみんなに迷惑かかるからって同棲の流れになったら!」

「そ、それは......わかった。京一、すまん」

私は苦笑いした。さすがに1週間後のクリスマスに告白イベントを控えている美里と緋勇の間に水を差すようなマネはしたくない。

「明日から、でいいですよ、おばあちゃん。それより携帯電話貸してくれませんか。翡翠に話したいんです。《天御子》とか《アマツミカボシ》のこととか。龍君がみんなに話してくれるとは思いますが、翡翠には私から」

「そうね。心配だけれど、そうしましょうか。はい」

私は携帯電話を受けとり、電話をかけた。

「もしもし、如月です」

槙絵の携帯電話だからか、妙にかしこまっている翡翠に笑ってしまう。

「もしもし、愛です」

「愛?なぜ時須佐先生の携帯に?なにかあったのか?」

「実はですね、今大切な話が龍山先生からあったところなんですが......」

私は翡翠に《天御子》が古代日本においてどういう存在だったか。今なおどんな地位を築いているか。御門がどうして私を毛嫌いしているのか。《アマツミカボシ》が《天御子》の中でどういう存在で、どういう経緯で私の世界に逃亡するに至ったのかを全て明かした。

「..................」

「一気に話してしまってすいません、ついてこれていますか?」

「......すまない、想像以上に大きな話になったものだから、ぼんやりとしか」

「あはは。聞きたいことがあったらなんでも聞いてください。龍君たちが今、手分けしてみんなに似たような感じで仲間たちに電話をかけているところなんですよ。翡翠には私から話しておきたかったんです。ずっと幼馴染として私に協力してくれていましたから」

「そうか......わかった。話してくれてありがとう。あとでまたゆっくりと話してくれないか」

「そうですね、いくらでも時間はとりますよ。おばあちゃんが忙しいみたいで、しばらくは一人になるからと泊まり歩くことになりそうなんで」

「......たしかに、その話を聞いたあとで、今までどおりにはいかないだろうな」

「あはは......。さすがに急すぎて今夜は無理っぽいんですよね。明日なら、さっちゃんのところにお世話になれそうなんですが」

「今夜?」

「あ、はい。おばあちゃん、今から御門君と龍山先生と陰陽寮に用があるみたいでして。さすがに私はいけないです」

「......そうか」

「はい」

「今、どこにいるんだ?」

「今ですか?龍山先生のお話が終わったばかりなので、みんな雛川神社にいますよ。まあ、このまま帰ったら、また丑三つ時に們天丸さんとお話することになるので大丈夫だとは思いますが」

「..................」

「翡翠?」

「なあ、愛」

「はい?」

「うちに泊まらないか?」

「..................はい?」

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