龍脈2

「《アマツミカボシ》の一族の女が子供を産むと《宿星》の《加護》が離れて死ぬ。だから末裔たちに《力》を分割して継承させることで出産で命を落とすことはなくなった。ここまではお話したと思います」

「それが《菩薩眼》や《如来眼》といった《力》の源流にあたるって槙乃ちゃんが話してくれたものね」

「《アマツミカボシ》は大和朝廷に最後まで刃向かったから滅ぼされたんだったよな」

「本題はここからです。《アマツミカボシ》の一族は邪神の狂信者とはいえ、ただの人間です。どうやって《力》を分割したと思います?《力》とはその人の《氣》そのものに直結する、いわば魂魄の1部です」

「それは......」

「言われてみれば......」

「それこそが、かつて《アマツミカボシ》が《天御子》だった証と仰りたいのでしょう?」

「!」

いきなり御門の声がしたものだから、みんな驚いて辺りを見渡した。私は障子を開けた。五芒星が刻まれたカラスがそこにいた。

「御門さんの式神ですね」

「ここからは、私が話しましょう」

カラスが放った光が爆発したかと思うと、和室はいきなり異空間につながる。気づけば日本庭園のど真ん中にいた。

「御門、なんだよいきなり」

「申し訳ありません、緋勇さん。私も持ち場を離れる訳には行かないので、こうさせていただきました。それだけ緊急事態が迫っているということです。本来、日本の《霊的な守護》の最高峰たる陰陽寮の頭目のみが伝え聞いてきた、この国の隠された歴史を聞いたとき、あなた方はこちら側の人間となるのですよ」

「こちらがわ......?」

意味深に御門は笑うと話し始めるのだ。

《天御子》とは、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、日本神話において最初に登場する神からきている。この神は日本神話における天地開闢の際に、別天津神・造化三神の初めの1柱として宇宙に生成された存在である。


神名は天の真中を領する神を意味する。『古事記』では神々の中で最初に登場する神であり、別天津神にして造化三神の一柱。『日本書紀』の正伝には記述がなく、異伝(第一段の第四の一書)に天御中主尊(あめのみなかぬしのみこと)として記述されている。『古事記』『日本書紀』共にその事績は何も記されていない。そのため天之御中主神は中国の思想の影響により創出された観念的な神であるとされる。

平安時代の『延喜式神名帳』には天之御中主神を祀る神社の名は記載されておらず、信仰の形跡は確認できない。この神が一般の信仰の対象になったのは、近世において天の中央の神ということから北極星の神格化である妙見菩薩と習合されるようになってからと考えられている。

現在、天之御中主神を祀る神社の多くは、妙見社が明治期の神仏分離・廃仏毀釈運動の際に天之御中主神を祭神とする神社となったものである。また水天宮も天之御中主神を主祭神の一つとしている。

天之御中主神は哲学的な神道思想において重要な地位を与えられることがあり、中世の伊勢神道では豊受大神を天之御中主神と同一視し、これを始源神と位置づけている。江戸時代の平田篤胤の復古神道では天之御中主神は最高位の究極神とされている。

そのため、天之御中主神は中国の天帝の思想の影響によって机上で作られた神であると解釈されてきた。しかし天之御中主神には倫理的な面は全く無いので、中国の思想の影響を受けたとは考え難い。至高の存在とされながらも、信仰を失って形骸化した天空神は世界中で多くの例が見られるものであり、天之御中主神もその一つであるとも考えられる。

「1700年前、この地にその神を自称する集団が現れました。それが《天御子》、物部氏を始めとした神と人がまだ共に統治していた時代に突如現れた超古代文明の勢力です。大和朝廷の時代に現代と同程度、もしくは同じレベルの文明が突如出現したとして、戦争をして弥生時代の人間に太刀打ちできると思いますか?」

御門の言葉に誰もなにもいえない。

「そうして、大和朝廷は出来上がりました。まつろわぬ民と蔑まれた人々は国津神、あるいは妖怪、怪異と蔑まれ、捕らえられ、実験体にされました。数々の異能がこの国に溢れている原因のひとつはそのため。九角家も卑弥呼が捕らえられ、天御子の下に残って代々女を差し出して生き残ってこれたように。この国が神武天皇の時代から脈々と受け継がれてきたその源流は彼らにある。天御子だった物部氏からもたらされた神事が今の天皇家の祭事に深くかかわっているように、今なお影響力を残している。明治時代からは表立って動くことはなくなり、忽然と姿を消した。私も会ったことは1度もない。なぜ居なくなったのかすらしらない。ただ、彼らがいた事実を示す史跡はすべて宮内庁が管轄し、一般人は触れられないようになっています。一部を除いては、ですが」

御門は息を吐いた。

「本来この事実を知った人間は私たち側になるか、死ぬかの二択。なぜ私がそれをみなさんに話すのか、その事実を知り得る天野愛さんを抹殺対象にしないのか。それは、柳生に《天御子》の一人がかかわっているからです。否応なくあなた方は巻き込まれる可能性がある。秋月征樹様が星見の《力》でもってそれを予知してきました。ならば私ができるのは私たち側にすることです。拒否権など初めからありはしませんよ」

「御門さん、もしかして、秋月征樹さんが描いた作品に関係が?」

「ええ、そうです。あの絵にある男こそが《天御子》のひとり。死者をミイラにして復活させる技術を持ちながら、エジプトを追われた神官の一人。不老不死に魅入られた者によく似ている。柳生側にかならずあの男はいる」

「シャンを使役しているのは、あの男ですか」

「シャン?」

「あの蟲ですよ、龍君」

私は包み隠さず話すことにした。

私たちがずっと戦ってきた蟲は、魔術師が使役する地球上の生物でも、邪神の奉仕種族でもない。シャン、ことシャッガイからの昆虫は宇宙の最果てにある死に満ちた星シャッガイにある灰色の金属でできた都市に棲む知性を持つ昆虫族であり、独立種族。いわば宇宙人なのだ。

シャッガイが滅亡したのちはいくつかの星を巡り天王星(ルギハクス)に定着したが、宗教の対立から一部は地球の英国、ブリチェスター近郊にある町ゴーツウッド近くにある森を拠点としている。

口で食事をとることはなく光合成によりエネルギーを得ている。食事の必要がない彼らの楽しみはといえば奴隷に対する拷問なのだ。シャンの特殊能力で最たるものといえば情報操作。人間の脳に入りこみ、その記憶を読み取って、別の考えを植え付けることが可能である。

ただし活動するのは夜に限られ、犠牲者は昼になってふと自分の変化に気がつき困惑することがある。

とある犠牲者はシャンの見た悍ましい記憶を見せつけられ発狂に陥る。なんてこともざらなのだ。

彼らはそんな正常と発狂の間を彷徨う犠牲者の姿を見て愉悦に浸り、完全に発狂してしまったら用済みとして捨てられる。異常極まりない退廃的な嗜好を満たす事に終止し、様々な拷問機具を製造し、自分達以外の生物を虐げていた。
 
暫くして邪神信仰に傾倒し、過激なままに追求していった結果、邪神が顕現して滅ぼしてしまい、現在は宇宙を流浪する身になった。

幼虫から成虫へ変態するのに、数世紀掛かる程の長寿。 光合成により栄養摂取しており、エサを獲る為の手間がない為に、前述の嗜好を満たす事に時間を費やしている。
 
脳は三層構造になっており、3つの思考を行え、前述の口で3つの発言が出来る(これにより最多で3つの魔法を、同時に発動する事も可能)。 又、本当の意味で物質的な存在ではなく、人間等の生物を発見すると飛び掛かり、ターゲットの脳へ侵入し寄生する。

「シャンが従うってことは、あの男はシャンが信仰する邪神の狂信者かなにかですか」

「それはあなたの方がよく知っているでしょう。私に聞かないでください」

「あの男が《天御子》なのか、その末裔なのかで話がかわってくるから聞いてるんですよ」

「わかりません。代替わりしているのか、何らかの代替手段により延命しているのか。私が知るのは今なお我々からみても遥か未来の技術を平然と使ってくる集団の一人が明確な意志を持って柳生側に組みしているという事実だけです。むしろ、元《天御子》としてなにかないんですか?」

「あるわけないじゃないですか。あったら私は今ここにはいません」

私はためいきをついた。

「《天御子》内の宗教対立により《アマツミカボシ》は追放からの滅亡となるわけですが、シャンが信仰する邪神の狂信者がいたかと言われれば心当たりはあります。彼らはかつてエジプトの神官でした。当時の王がその狂信者であり、神の代行者たる邪神と契約を交わし、予知の力を奪うために殺害。その力は神官に移行し、彼らは化身に堕ちたんです。その時に流浪となり、日本に辿り着いた勢力だったんですよ」

「化身?」

「私が当事者なのか末裔なのか聞いたのはそのためです。その邪神に体を明け渡した存在に成り果てた者を人は化身というんです。私に常時《アマツミカボシ》が降臨して自我が吹き飛んだ状態といったらわかりやすいでしょうか。いや、違いますね。私に《アマツミカボシ》の信仰する神が降りてきて依代になってしまった状態です。もし柳生側についているのが当事者ならば私たちは邪神を相手しなければならなくなる」

重苦しい沈黙が降りた。

「ヒュプノスと会ってから、ずっと私は邪神の使役する翼の生えた蛇が空を飛ぶ壊滅した東京の夢を見るんです。ずっと警告だと思っていたんですが、いよいよ現実味を帯びてきましたね......」

「征樹様が見た《星見》そのものですね。《黄龍》の降臨と異界となる東京、あるいは東京の壊滅と邪神の降臨。どちらにせよ、私たちが戦わねば訪れる未来ということです」

ぱちん、と扇が鳴った。

「不本意です......非常に不本意ですが、今回ばかりはあなたと共闘させてもらいますよ、天野さん」

「そういってもらえてよかったです。この戦いが終わるまでは我慢してくださいね」

笑った私に御門は眉をよせた。

「まだいいますか、あなた......。本当に往生際が悪いですね」

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