如月骨董店

「《ペンは剣よりも強し》!......な〜んてよく言うけどねッ。実際のところその《力》を発揮できる場所なんて本当に限られてくるわ。槙乃の分かるでしょ?あ〜あ、あたしにも、目の前の人や、大切な人を護れるイヤなヤツなんてバーン!......ッて、やっつけられる、そんな《力》があったらなァ〜」

「アン子ちゃん......。そうですね、もしそうだったら私は真っ先にアン子ちゃんに相談していたと思います」

「やっぱり〜ッ!そうじゃないかと思ってたのよ!オカルト絡みになると目の色変わったみたいに前のめりになる槙乃がめっちゃ大人しいから逆に心配しちゃってたんだからね〜?あたしに気をつかってくれたんでしょ?バレバレなんだから!」

「あいたっ!」

「今の槙乃にはデコピンで十分よ。変なとこで遠慮しちゃってさ〜。調子狂うじゃない。あたし達親友でしょ〜?《力》があるかどうかで壊れちゃうようなヤワな強度じゃないでしょーに」

「アン子ちゃん......。あはは。ほんとにアン子ちゃんにはかないませんね......その鋭さはほんとに天性のものだと思いますよ。私がどれくらい助けられたか」

「や、やだ......たしかに変な遠慮はしなくていいとはいったけど、馬鹿正直に真正面から褒め殺しにしないでよッ!槙乃美人だから微笑まれながら至近距離で言われると心臓に悪いんだからッ!」

「なんでそんなに距離とっちゃうんですか、傷つきますよ」

「笑っていうことじゃないでしょッ!も〜!」

遠野は私の肩をばしばし叩きながら笑うのだ。

「アン子ちゃんは《力》がなくても、私たちと一緒にいられるわけですから、《力》があったら戦う時も一緒にいられるのは間違いないですね。それだけのバイタリティがありますもん」

「でしょッ!?槙乃なら、わかってくれるって、おもってたのよ!《力》があれば、あたしも一緒にどこまでもみんなと歩いて行ける。そう、おもうんだけどね〜......って、ちょ、ちょっとォ! 何であなたが、そんな顔するの? …もしかして心配してくれた?」

「そりゃしますよ、親友ですもん」
 
「フフッ、ありがと。でもきっと大丈夫よッ。もし───────あたしに《力》があったとしても、それに振り回される程、あたしはバカじゃないわ。むしろ振り回してやるのよ!」

「あはは。なんででしょうね、簡単に想像ができます」

「そしたらさ〜、きっと槙乃とも方陣が組めると思うのよ。美里ちゃんや緋勇君みたいにねッ!」

「そうですねッ!」

「でね、槙乃。あたし達親友なわけじゃない?」

「はい」

「じゃあなんで王蘭高校の如月君の実家を知ってるのよ?あたし初めて聞いたんだけど?」

「如月君のおうちと時諏佐家って昔から付き合いがあるんですよ」

「幼馴染とかいうやつじゃないのそれ?」

「そうともいいますね」

「なんでそんな大事なこと今まで黙ってたのよ、槙乃〜ッ!?」

「今のアン子ちゃんみたいなことになるからですよッ!バレたら最後骨董店に押し掛ける女の子で営業妨害になるじゃないですかッ!そんなことになったら怒られるのは私なんですよ!」

「うっ......一理あるわね」

「ただでさえウチの生徒にまた迫られたと愚痴られたばかりなんですよ、私。いつの間にか個人情報が流出してて、霊研で占ったら相性がよかったから恋人にしてくれとかなんとか」

「あ〜......真神学園でも人気だもんね、如月君」

「だからこういう機会でもないと骨董店を他の人になんて教えられないですよ。私が出禁になるじゃないですか」

「ふ〜ん」

「なんですか?」

「いや〜、真神学園もなかなかイケメン多いけど、槙乃って噂聞かないから興味ないのはオカルト大好きなせいかと思ってたけど、如月君で目が肥えてるからなのね」

「それはないです」

「即答なんだ」

「幼馴染ですけど、お互いに意識はしてないですよ。だいたい如月君には彼女が......」

「えっ、それほんと?」

「彼女のひとりやふたりいるでしょう?」

「そっちか......」

「店先で立ち話をされる身にもなってくれないか?冷やかしなら帰ってくれ」

「あ、ごめんなさい、如月君」

「やれやれ......めずらしく訪れたと思ったら大所帯じゃないか。なんのようだい、槙乃さん」

「私がくる理由はいつも同じですよ、骨董店に用があるんです」

「いや、それはわかっているんだが......こんなに大勢なのは初めてだろう」

「ひとりじゃ運びきれなくて」

「なんだ?時諏佐家の蔵からなにか出てきたのかい?それなら電話のひとつでもしてくれれば......」

「出処不明の物品ばかりでして」

「......ほう?」

私が旧校舎の化け物たちが落としたアイテムを渡すと目の色が変わる。

「お茶を出そう。入りたまえ」

態度がガラッとかわった如月に緋勇たちは驚いている。

如月翡翠(きさらぎひすい)は元禄時代から続く如月骨董品店を若くして営む青年だ。美形であるため王蘭のプリンスと呼ばれているが、店の方が忙しく学校には通っていない。 仲間に武具やアイテムを調達してくれるが、友達価格のサービスは一切してくれない商売人の鏡である。

厳格な祖父によって厳しい修行を送ってきたせいか、性格は冷静でかつ実務的。使命感にとらわれやすく、仲間と衝突することもある。

先代店主であった祖父は彼に店を譲って数年前に失踪。母は幼い頃に他界、考古学者の父は音信不通で、以来ひとり暮らしを送っている。 徳川幕府に仕える隠密・飛水(ひすい)家の末裔で、水を操る力を持ち、その力で江戸の町を護ることを任務としている。

ノリの良さはあるが、仲間であろうと金は取る。 戦闘ではアイテム面では優秀だが、打たれ弱いのが難点。

時諏佐家と如月家は新政府の樹立に尽力した実績から今も太い繋がりがあるのだ。そのため如月は幼少期から私《アマツミカボシ》が時諏佐槙乃として《如来眼》の《宿星》の役割を負う為に養女になったことを知っている。彼が私をさんづけなのは、出会ったころから一切外見が変わらないホムンクルスだと知っているからだろう。

上客になると察したらしい如月は明らかに態度が改善する。自己紹介をはじめたみんなを見ながら、私は立ち上がった。如月は茶道部の部長だ。茶をいれるということは、準備がそれなりにいるだろう。座布団やらなんやら準備しはじめた私に如月は笑うのだ。

「あいかわらず君はよくわからないな......。どうしてそんな親しさでいられるのかよくわからないよ。君の世界で僕と親しかったとしても僕は君を知らないわけだから......複雑にはならないのかい?」

「世界が違っても如月君は如月君なわけですから。関係に変化はあれどまた仲良くしたいと思うのが友達でしょう?」

「初対面からそういう態度でこられると困惑するしかなくなるわけだが......」

「でも悪い気はしないでしょう?」

「まあ......否定はしないよ」

「私は《アマツミカボシ》の《妙見菩薩》の側面がよく現れていると言われたことがあるんですよ。《玄武》の《宿星》をもつ如月君に与える影響は甚大なものになるはずですからね。迷惑をかけるのはわかってるんだから、少しでも負担を減らしたいと思うのは当然では?」

「理屈ではそうなんだろう。だが正直、未だに自覚できないでいる」

「これから嫌でもわかりますよ。《宿星》の目覚めは始まりましたから。今日からずっとお世話になると思います。よろしくお願いします」

「───────!......ということは、君が連れてきた真神学園の友人たちはただの付き添いというわけではなさそうだね」

「そうですね。今日お邪魔したのは、みんなの装備や武器を一式揃えたいからでもあるんですよ」

如月は瞬き数回、口元が緩んだ。

「なるほど......悪い話じゃなさそうだ。ただ、客人は彼らだからね。いくら槙乃さんの紹介でも僕が力を貸すかどうかは見極めてからにさせてもらうよ」

「わかってます」

「まあ、悪い予感はしないがね。特に......あの輪の中心にいた緋勇君だったか?彼がリーダーなんだろう?集団の質はリーダーを見ればすぐに分かる。ただ......遠野さん、だったかな。彼女にはくれぐれも骨董店に関することは他言無用で頼むと伝えてくれよ」

「わかりました」

私は苦笑いするしかないのである。緋勇辺りに伝えたら芋ずる式にみんな総出で記事にするのは止めてくれるだろうから心配は微塵もしていないのだが。

「さて、お茶を運ぼうか」







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