胎動3

私は放課後に入るやいなや遠野に呼び出されて新聞部にいた。なんでもワダツミ興産による大規模な談合事件にひとくぎりがついたので、今まで後回しにしていた仕事を一気に片付けたいらしい。部会やPTAの広報誌に使う写真の提供や新しい真神新聞の修学旅行特別号の配布。真神学園は定期的に部活ごとにわかれて会議を行う通称部会があるのだが、私と遠野しかいない新聞部はサークル扱いなので対象外なのだ。今年も後輩が入ってくれなかったので私達が卒業したら廃部になる運命だが遠野はまだ4ヶ月あるからと新入部員を諦めてはいなさそうだった。

なんだかんだで慌ただしくしていると内線がかかってきた。

「はい、新聞部の時須佐です」

「犬神だが、そこに遠野もいるんだろう?どっちでもいいから職員室に来てくれ。PTAから追加の仕事の依頼だ」

「あ、はい、わかりました。すぐ伺います」

私は内線電話をもどした。

「どうしたの?犬神先生から呼び出し?」

「PTAから追加の仕事だそうです。いってきますね」

「あ〜、たぶんイベントの写真でなんか使えそうなのないかっていうアレね。今日からたしか花園神社でお祭りあるじゃない?それの写真とるから待ってくれっていっといて」

「去年、生徒会のみなさんにお願いしたやつですっけ」

「そうそう、個人情報やら肖像権やら許可取りや加工がめんどくさかったやつね。今年はどーしよっかなァ、そーいや美里ちゃんたち部会の後遊びに行くとかいってたわね。撮らせてもらいましょっか。あたし、捕まえとくからよろしくね、槙乃」

「わかりました」

私は急いで職員室に向かう。犬神先生からの依頼は、やはりPTAの広報誌につかう写真の提供だった。遠野と決めたばかりの段取りを話すとPTAの役員に話を通してくれるらしい。たすかる。

「よォ、時須佐。ついでだからお前にちょっと話がある。応接室にこい」

「は、はい......?」

私はそのまま職員室の奥にある応接室に連行された。

「こないだの中間テストの採点をしてたんだが......いつもよりかなり点数が下がってる。最近眠そうだからそのせいだろうな。他の先生からも体調が悪いのかと心配されてるぞ。このままだと成績も下がりかねん。なにかとお前は過労の難があるからな、少しは周りを頼ることを覚えろよ」

「うっ、ご、ごめんなさい......」

「どうせあの馬鹿天狗のせいだろうが......もっと会う時間を早めるなり、機会を減らすなりしろ。お前の負担になるのはあっちも不本意だろうからな」

「はい......そうします......」

犬神先生はためいきだ。

「そもそも相手は大妖怪だ。先入観から好意的にみるのは危険だ、なにを考えているのかわかったもんじゃない。距離は保つように。いいな」

「はい」

「そのわりにはものを受け取ってるようだが」

「如月骨董店でちゃんと鑑定してもらってますよ。今のところ、私達を心配してくれてるだけですよ、きっと」

「......あの天狗がなんの目的もなしにものをあげるわけがないだろう」

犬神先生はどこか遠い目をしている。

「兎に角だ、くだらん事にばかり首を突っ込んでいないで、少しは勉強もしろよ。最低でもギリギリのラインを守ってるのと、今までの人徳からみんな心配してるが、ずっとこのままだと今後に関わる。それはお前も困るはずだ」

「はい......気をつけます......」

「学生の本分は勉強だということを忘れるなよ。話は以上だ」

肩を叩かれて私はがっくりと肩を落としたのだった。

「あんまり調子に乗って足元をすくわれんようにしろよ」

そして職員室から出ようとしたらマリア先生とすれ違った。

「あら、時諏佐さん。ちょうど良かったわ、少しいいかしら」

「はい?」

手招きされた私はそちらに向かう。

「実は気になっていたのだけれど、あなた達の取材に最近協力してくれているルポライターって天野絵莉っていわないかしら」

マリア先生が見せてくれたのは前の新聞だ。ワダツミ興産による大規模な談合事件について大々的に取り上げたのだ。名前は伏せているがフリールポライターのm記者とあるから察する人は察するのだろう。

「あ、はい、そうです。《力》に関する事件で知り合ったんですよ。私よりアン子ちゃんか龍君に聞いた方がわかると思います」

「やっぱりそうなの......わかったわ。実は絵莉は私の友達なのよ。最近忙しいとなかなか連絡がとれなかったのだけれど、こんなことに首をつっこんでいたのね」

「あはは......」

「遠野さんね、わかったわ。話を聞いてみないと」

「あ、でも私たち、これから花園神社に取材にいかないといけないんですが」

「あらそうなの?奇遇ね、私達も遊びに行く予定をしているのよ。新聞部の活動も兼ねているのなら、私も行きましょうか」

「ほんとですか?PTAの広報誌に載せる写真を取りに行くんですよ、今から。マリア先生たちが被写体になってくれるなら大歓迎ですよ」

「あらあら、私でいいのかしら?」

「もちろん。また売り上げ更し......あ、新聞じゃなかった」

「ウフフ、ならまた声をかけて頂戴。職員室にいますから」

「わかりました!」

そのまま新聞部に戻ってみると、美里と桜井が来ていた。部会が終わってから教室前で出待ちしていた遠野に連れてこられたらしい。緋勇は醍醐と蓬莱寺が先に教室に戻って、花園神社の祭りに現地集合と伝えているそうだ。遠野に話を振るとでかしたと言われた。隠し撮りして売りさばくより労力は格段にへったから喜ばれてなによりである。

「マリア先生も来てくれるんだッ!?やったね!」

「みんなでいった方が楽しいものね。PTAの広報誌って、去年みたいにアン子ちゃんたちが撮ってくれるのよね?なら協力させてもらうわ」

「よかった〜ッ!ありがとうね、2人とも!美人に撮るから安心してよ。さあて、そうと決まれば着替えなきゃだよ、葵」

「うふふ、そうね。小蒔もよ」

「えっとォ〜、僕はいっかなァ〜ッて。浴衣きたらあんまりもの食べられないし、動きにくいし〜」

「そんなこといわないの。持ってきているんだからもったいないわ」

「ええ〜......」

美里に背中を押されて新聞部の奥に桜井もつれられていく。

「しまったわね、あたしとしたことが。こんなことなら夏祭りの時みたいに槙乃にも浴衣持ってきてもらうべきだったわ。まさか美里ちゃんと桜井ちゃんが浴衣学校に持ち込むとは思わなかった......。恋ってのはすごいのねェ」

「ええッ!?私は新聞部ですよ、アン子ちゃん」

「今年最後だし、あたし達が写ってる写真の1枚や2枚構いやしないわよ」

「どさくさに紛れて裏で売りさばくつもりですね?そうはいきませんよ、アン子ちゃん」

「うっ、ばれたか〜......」

「もう、アン子ちゃん」

雑談していると可愛い浴衣姿の美里たちが現れた。

「さすが、様になってるわね〜。龍麻君たちに見せるのがもったいなくなってくるわ。せっかくだから今のうちに何枚か撮らせてよ」

さっそく遠野が美里たちの写真をとり始めた。桜井は落ち着かないのか恥ずかしそうにしている。

「よく似合いますよ、2人とも。きっと龍君たち喜ぶと思います。はやくみせにいきましょう」

「マリア先生にも声掛けないとね〜」

「なんか気合い入りすぎって言われないかなァ?雛乃たちが巫女さんのアルバイトしてるから、是非浴衣できてくれって言われたんだけど、やっぱり恥ずかしくなってきたよ......」

「似合うんだから問題ないですよ。もっと気合い入った人達がたくさんいるんですから」

「そうそう、はやく会場にいきましょうか。目立たなくなれば気になんかならなくなるわよ」

私達は美里と桜井をそのまま職員室に連れていく。

「アラ、可愛い浴衣ね、2人とも。よく似合ってるわ」

「ありがとうございます、マリア先生」

「えへへ、ありがとうございます」

「2人とも、制服も持っているのでしょう?遠野さんたちも撮影機材があるのなら、車を出してあげるわ」

「ほんとですか!?ありがとうございます〜」

「ウフフ。そのかわり、少し寄ってもいいかしら?友達と浴衣でいくと約束しているの」

「マリア先生も!?やったー!」

「おそろいですね、マリア先生」

「マリア先生に美里ちゃん、桜井ちゃんの浴衣姿ッ!これはいいわ〜、絵になる!いくらでも待ちますよ〜。ああもう、ほんとになんで槙乃浴衣持ってこなかったのよ!」

「まだいいますか。それを言うならアン子ちゃんだって」

「あたしはいいのよ、持ってないもの。でも槙乃はもってるじゃない」

「そうね、こうなると残念だわ」

「ね〜」

「葵ちゃんにさっちゃんまで......」

「ウフフ、今から時須佐さんのおうちにも寄ってあげましょうか?」

「え゛」

「いいですね〜!」

「やったね、みんなお揃いだよッ!」

「えええッ!?」

「それなら、まずは時須佐さんのおうちに行きましょうか。案内してくれる?」

「はーい、それならあたしが」

「ほんとですか......ほんとに私も浴衣の流れですか......えええ」


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