鞍馬天狗2

いよいよ修学旅行当日である。

「うふふふふふ〜、おはよう、まーちゃん。今日は〜占いどおり〜絶好の修学旅行日和〜」

「おはようございます、ミサちゃん。そうですね、ほんとに綺麗な秋晴れ。班行動も支障ないですね、よかった。でもみんな災難ですよね。インフルエンザとか、入院とか」

「うふ、うふ、うふふふふふふふ〜。ほら〜、あたしの言ったとおりでしょ〜、まーちゃん。みんな、これない〜。だから、あたし達の邪魔をする者はいない〜」

「あ、あはは......」

「今からいよいよ、あたし達の夢が動き出す〜。わくわくする〜」

東京駅から新幹線にゆられること2時間半、私達は京都駅にやってきた。班ごとにならび、先生たちの話を聞くことにする。

「───────それでは、ここからは班別の自由行動とします。各自が責任を持って行動してください」

「具体的には他人に迷惑をかけない。事故を起こさない。みっともない真似をしない。───────以上だ」

「それでは、各班とも夕食の時間までには宿に到着するように。では、解散」

私達は事前に旅のしおりに載せるために申請していたルートを辿って京都観光をすることになったのだった。

京都駅から烏丸線にのり、19分ほどゆられて今出川駅の南口を出る。南口にある案内看板に従って進んでいくと10分ほど歩いた先にあるのが白峯神社だ。

白峯神宮の社地は、蹴鞠の宗家であった公家、堂上家と飛鳥井家の屋敷の跡地である。摂社の地主社に祀られる精大明神は蹴鞠の守護神であり、現在ではサッカーのほか、球技全般およびスポーツの守護神とされ、サッカーをはじめとするスポーツ関係者の参詣も多く、社殿前にはさまざまなスポーツ選手から奉納されたボールなどが見られる。

「ここが白峯神社ですか......」

「う〜ふ〜ふ〜、なんだか不思議なところ〜」

白峯神社は、崇徳上皇が保元の乱に敗れて讃岐国に流され、その地で崩御した後、天変地異が相次いだことから上皇の祟りとされ、上皇が葬られた白峯陵の前に、上皇を白峯大権現として祀る御影堂が建立された。

幕末の動乱期、孝明天皇は異郷に祀られている崇徳上皇の霊を慰めるため、その神霊を京都に移すよう幕府に命じたが、まもなく崩御した。子の明治天皇がその遺志を継いで現在地に社殿を造営し、1868年に御影堂の神像を移して神体とし白峯宮を創建した経緯がある。

1873年には藤原仲麻呂の乱に巻き込まれて淡路国に配流され、その地で崩御した淳仁天皇の神霊を淡路島から迎えて合祀し、官幣中社とした。1940年に官幣大社に昇格し、神宮の号を許され白峯神宮と改称したそうだ。

「もっと禍々しいイメージでした。ここはなんというか、清廉な空気が流れていますね」

「サッカーブームで〜、参拝客が増えてるからじゃないかな〜?若い人が〜多いから〜神様も〜満更じゃないんだと思う〜。縁切寺や〜五稜郭は〜また雰囲気が〜違う気がする〜」

「金毘羅さんとかも行きたいですが、時間がないですしね......仕方ありません。今回はご報告に参りましたし」

「そうそう〜」

私達はきっちりと参拝をすませる。せっかくだから色んなボールのお守りを買い、お土産を確保する。食べ物は宿にお土産コーナーがあったはずだから郵送の手続きをしなくては。

「あ、招き猫」

「招き猫のストラップがどうかしたの〜?」

「え?あ、はい。この招き猫、玉がサッカーボールで珍しいなと思って」

「買うの〜?なんか意外〜。まーちゃん、こういうの好きなの〜?」

「翡翠が好きなんですよ、招き猫。商売繁盛だから」

「あ〜、なるほど〜」

「修学旅行のお土産これにしよう。すいません、これください」

アルバイトと思われる巫女さんに会計してもらい、いよいよ本命の鞍馬寺である。

また烏丸線にのり、国際会館でおりる。次は30分近く待ち時間を経て、バスで30分ほどゆられてから上在地で降りて、8分ほど歩いたらようやく鞍馬寺である。



「鞍馬」という地名の由来には、諸説ある。一説によると、この地は鬱蒼としていて昼間でも暗い場所だったので、「暗く」、「魔」が住んでいる場所ということで「暗魔」と呼ばれていたそうだ。

その後、鞍馬寺の創建に関わった「藤原伊勢人」の夢の中に貴船の神が現れ、「北の方に霊地がある」という夢告を受け、藤原伊勢人は鞍を置いた白馬に導かれてこの地を探し当てることができた。そこから「暗魔」⇒「鞍馬」となった、という説がある。

また、別の説によると「クラ」はかつて谷や山中に露出した岩盤を意味していて、こういうところには神が出現する場所とみなされていた。つまり神の座くら。そして「マ」は場所や空間を意味する。そこから「クラマ」は「神のいるところ」ということになる。

「鞍馬」の由来は他にも多くの説あって、何が本当なのかはわからないが、鞍馬は平安京の真北に位置することもあり、都人にとって特別な場所だったのは間違いない。

牛若丸こと源義経は、7歳ごろからここに預けられ、武術の修行をしたといわれている。普通は寺に預けられると「信仰」の道を歩むことが多いが、義経の場合は武芸の道を歩んだ。その時代は僧兵という、武力を持った僧の集団も力を持っていた時代。鞍馬山も武の側面を持っていたわけだ。

平治の乱で父・義朝が破れ、兄・頼朝は伊豆へ流されるのだが、母・常盤御前はそういう中で義経を鞍馬に預けた。あえてこういう場所を選んだということは、いつの日か、源氏の再興を願ったのかもしれない。

そして、義経と武芸の稽古をしたといわれているのが、山の精霊、天狗だ。
鞍馬山ではところどころに義経や天狗にまつわる場所があって、その史跡巡りをするのも面白い。

鞍馬寺の入り口の仁王門にたどり着いた。ここで愛山費300円を支払って中に入る。入ってすぐのところにある普明殿はケーブルカー乗り場になっているが、今回は九十九つづら折りの参道から歩いて本堂へ向かう。

普明殿少し歩いたところに鬼一法眼社が見えてきた。

「鬼」という名前が入っているのもありますが、「法眼」というのも何か特殊な能力がありそうな名前だ。鬼一法眼は京都一条戻橋の近くに住んでいたとされる陰陽師。文武に優れる兵法家で、中国から伝来した兵法書「六韜三略りくとうさんりゃく」を秘蔵していた。それを牛若丸に授けたという。

六韜三略と言ってもピンと来ないかもしれないが、虎の巻という言葉は誰もが知っているだろう。実は、六韜三略に由来する。六韜三略の虎の巻は、兵法の極意が書かれている章だった。

武田信玄が鞍馬寺に「虎の巻」を見せてくれるよう求めたのは有名な話だ。信玄は兵法の極意が知りたかったというわけである。

一般に、牛若丸に兵法を授けたのは天狗だとされているが、実は陰陽師経由で鞍馬に持ち込まれ、牛若丸と天狗の伝説につながったのかもしれない。

奥にある赤い建物が鬼一法眼社の社殿だ。


鬼一法眼社の横には「魔王の瀧」というものがあって、ちょっとした瀧の上に魔王が祀られている。

鬼一法眼社の鳥居は、先に紹介した鳥居の写真を見るとわかるのだが、本殿のある方向ではなく、なぜか魔王の瀧の方に向いている。理由はわからない。

鞍馬寺本殿の地下は誰でも行けるのですが、御覧の通り真っ暗で不気味な雰囲気で行く人は少ないみたいだ。宝殿の一番奥には、鞍馬寺で信仰されている三尊尊天がいらっしゃって、壁には骨壺のようなものがずらっと並べられていた。

鞍馬山の教えというのは、人を含めてこの世の存在するあらゆるものは全て、宇宙エネルギー・宇宙生命の現れであって、私たちは宇宙生命によって生かされているということが前提にある。

ここで「宇宙生命」を鞍馬寺の本尊である「尊天」に置き換えると、わかりやすい。

つまり、私たちは生かされていることに感謝して、全ての生命を大切にし、自分達の生命を宇宙生命の高さにまで進化向上させるために力強く生きていこう!というのが鞍馬の教えだ。


本殿金堂に安置されているご本尊の前に置かれている御前立。普段はこちらがご本尊代わりとなっている。ご本尊は「護法魔王尊」、「毘沙門天」、「千手観音菩薩」が三身一体となったもので、「尊天」と呼ばれている。

境内で配布されていたリーフレットによると、尊天とは、この世に存在するすべてを生み出す宇宙生命、宇宙エネルギーで、その働きは慈愛と光明と活力となって現れる。

護法魔王尊:活力(大地の霊王)
毘沙門天王:光明(太陽の精霊)
千寿観世音菩薩:慈愛(月の精霊)

宇宙エネルギーの中でもパワーの強い、大地、太陽、月が信仰の対象というわけだ。このようなエネルギー体を信仰しているからこそ、鞍馬寺には大きなエネルギーが流れて、パワースポットになっているのかもしれない。

「毘沙門天」は四天王の一人で、東西南北四つの方角のうち、北方を守護する武神だ。四天王の一人として祀られるときは「多聞天」と呼ばれるが、一人だけで祀られる時は「毘沙門天」と呼ばれる。左手には仏舎利を納めた宝塔、右手には先が三つに分かれた三叉戟さんさげきという武器(または宝棒)を持つのが多い。境内にも毘沙門天の眷属である「虎」がいる。

こういう門前には獅子と狛犬が置かれていることがよくあるが、鞍馬寺では阿吽の「虎」が睨みを利かせている。

この魔王尊は650万年前、人類救済の使命を帯びて金星から鞍馬山に降り立ったといわれている。鞍馬山はそれ以来、護法魔王尊が波動を発する場所となったそうだ。魔王尊は16歳から年をとることがない永遠の命を持っている。といっても、本殿金堂に祀られている御前立像は、ひげを生やして鼻が高く、羽根が生えているという翁姿。
決して若々しいとは言えないが、魔王尊は姿形を自由自在に変えられるのだそうだ。魔王尊は、天狗の総帥なんです。

なんでもここは、大地のエネルギーと天のエネルギーが融合して、新しいエネルギーが生まれる場所なのだとか。

護法魔王尊の力が満ちているのはここだけではない。本殿金堂からさらに歩いて30分ほどの場所に、奥の院魔王殿がある。

本殿金堂までは毘沙門天信仰の形が前面に出ていましたが、ここから先は魔王尊の信仰、夜の信仰へと色が変わっていく。

今でも深夜になると魔王殿には行者が集まって、祈りを捧げたり、行を積んでいるのだそうだ。魔王尊は、昼は大地の底にいて、夜になると姿を現すのだとか。だから夜は山に霊気が満ち溢れるのだそうだ。夜の山ですから真っ暗闇で山道を歩くことになると思うのですが、なかなか興味深い話である。


本殿金堂の裏手にある門をくぐるとこの道があるのですが、くぐると空気がガラッと変わって、霊気を感じる。魔王殿へ向かおうとするものにパワーを発しているようだ。警告だろうか。

ここから魔王殿へ向かう道には、源義経の史跡が多く点在している。

まずは、入り口から2〜3分歩いて、霊宝殿を過ぎたところにある「義経公息つぎの水」。

立札によると、義経公が毎夜、奥の院のある僧正が谷に剣術の修行に通ったとき、この清水を汲んで喉を潤したそうだ。義経は昼間は由紀神社近くにあった東光坊で学問を修めていた。夜になると天狗の住処とされる僧正が谷に行き、剣術の修行をしていた。平家打倒の思いを心に秘めて、毎晩ここから湧き出る水を飲んでいたのだろうか。

800年以上経った今も水は湧き出ているが、今も飲めるかどうかはわからない。

さらに進むと、「義経公背比べ石」がある。この地で修行をして十年余り、16歳になった牛若丸は、奥州平泉へ行くことになる。その時にこの石で背丈を比べ、自分の成長を感慨深く胸に刻んだ。石の大きさは120〜130cmほど。ここを訪れた当初はちょうどこれくらいの背丈だったのだろう。

背比べ石あたりで山のピークに達し、ここから「僧正ケ谷」に入っていく。その下り道の手前にあるのが「木の根道」という、木の根っこが地表を這う不思議な空間が広がる。

場所によっては根が浮いている。なぜこんなに浮いているのかというと、このあたり一帯の砂岩が、マグマの貫入で硬化しており、表土が浅く、木の根が深く入れないのだそうだ。それでも生きている木の生命力はすごい。木の根の道をまっすぐ行くと、大杉権現社がある。

人の少ない場所ですが、ここは護法魔王尊のエネルギーが高い場所なのだそうだ。ここには、樹齢約1000年の護法魔王尊影向の杉が祀られていたのですが、裏に回って見てみると、木の中ほどから倒壊していた。昭和25年の台風で倒れたみたいだ。

この周りにはベンチがたくさん置かれている。

この場所は大杉苑瞑想道場とも呼ばれていて、瞑想をしに来る人も多いようだ。倒壊した後もなお、パワーを発しているということだろう。

木の根道を過ぎると下り坂で、下ると不動堂に到着する。ここに祀られている不動明王が祀られている。この仏像は、伝教大師 最澄が天台宗を開く前に、その志を遂げるために一刀三礼で刻んだといわれている。つまり、仏像を彫る木にノミを一回入れる毎に三回礼拝する、というとてつもなく時間がかかりそうな彫り方だ。

また、この場所は牛若丸が天狗と修行をし、兵法を授かった場所とされている。あたりを見渡すと背の高い杉の木だらけだ。天狗といえば、杉の木を飛び移る様子を思い浮かべるが、まさにそのイメージにぴったりな場所だった。不動堂のすぐそばには、義経が眠る義経堂がある。

義経は奥州で非業の死を遂げたが、その魂は鞍馬に戻ってきているという。僧正ケ谷をさらに下ると、ついに奥の院魔王殿に到着だ。

見てわかるように、奇岩がゴロゴロと転がっていて、魔王殿はそんな岩の上に建てられている。魔王はここに降り立った、といわれている。しかし実は、魔王信仰について書かれた古文書は一切ないそうだ。こういう奇岩の上に建てられているのを見ると、古代の磐座信仰につながるものがあるのかもしれない。

「魔王」という言葉の響きは物々しいが実際に来てみると怖い場所ではない。そもそも魔王は、地球を守るために降りてきたのだから、良い精霊に違いない。その証拠にここはたしかに霊地だった。

「うふふふふふふ」

裏密がさっきからテンションが高い。

「さすがは霊山と名高い鞍馬寺〜。大天狗が居城を構えるだけはあるわ〜。絶対に霊薬見つけ出してやるんだから〜」

私は苦笑いしながら、裏密に参拝を先にしようとうながした。そもそも私は4月から10月までの《鬼道衆》との戦い、これからの柳生との戦いについているかもしれない們天丸に報告しにきたのだ。九角家を始めとしたかつての仲間の末裔たちは悲劇から守り抜いたから安心してくれと。あと半年間の戦いを頑張るから見守ってくれと。

ふらふらどこかに行きそうな裏密を捕まえながらとりあえず私は賽銭を弾んだ。ご利益はわりと期待している。

長い長い参拝をおえて目を開ける。ざあっと風が吹き抜けた。あたりを見渡してみるが誰もいなかった。

「あ〜!!」

「ど、どうしました、ミサちゃん!?」

私があわてて振り返るとなにやら古い紙切れをみて驚いている裏密がいた。メガネをあわててかけ、まじまじとみている。

「うふ」

「ミサちゃん?」

「うふふふふ」

「あの、大丈夫ですか?」

「うふふふふふふふふふふふふ」

「み、ミサちゃん......?」

「やっぱり〜あたしの読みは〜あたってたみたい〜」

「へ?」

「赤い髪の男のこと〜、們天丸って天狗も〜、気になってるみたいよ〜」

「それってどういう?」

「実物は〜くれなかったけど〜霊薬の〜作り方〜教えてくれたみたい〜」

「!?」

「うふふ〜、まーちゃんは〜なにがほしいっていったの〜?」

「えっ......まさか、聞いてたんですか!?私、願掛けのつもりだったんですけど。昔の仲間の末裔は守り抜いたから安心してくれっていう報告と、最後まで戦いを見守ってくれって......」

「うふ、うふふ、うふふふふふふふふふふふふふ」

「ミサちゃん?」

「あたし、し〜らな〜い」

「ミサちゃん?!ちょっと待ってくださいよ、なんなんですか!?えっ!?」

「さ〜、帰ろ〜。集合時間までに宿に帰らないと〜犬神先生に怒られちゃう〜」

「気になることいい残しておいてかないでくださいよッ!ミサちゃーん!!」


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