「みんな静かに〜。それじゃあ3のCでやる出し物を決めたいと思います。まずはなにをやるか決めましょうか」
は〜い、といつになくやる気に満ちた生徒たちに雛川先生は嬉しそうである。
「はいはいは〜いッ!あたし、喫茶店やりたいで〜す!」
やっちーが真っ先に手を上げた。高校一、二年は無難なものばかりやっていたから、最後の學園祭ということで気をてらったやつをやりたいらしい。
お化け屋敷は隣のクラスがやりたいという噂をききつけたのか、却下された。あたりまえだ、そのクラスは神鳳がいるのだ。本物が出るなんてちゃちいお化け屋敷がたちうち出来るわけがない。
被服が得意なサークルや部活の人間がいる訳でもないため、自動的に無難なやっちーの意見に決まったのだった。
実際にカフェをすると決めたならば、まず考えなくてはいけないのがコンセプトと名前だ。
実際に営業しているカフェでも「猫カフェ」や「メイド喫茶」、「爬虫類カフェ」など色々なコンセプトがある。
學園祭で普通のカフェをやっても良いのですが、皆の記憶に残る思い出にするために、少し変わったコンセプトにしても良いだろう、とみんな考えたらしい。
一番お店の宣伝になるのはやはりお店の名前なので、どういうカフェなのか一目で分かるような名前が最適だ。もしくは興味を引けるもの、最低限カフェだと分かれば名前でふざけてみても良い。
・メイド喫茶
・執事喫茶
・男装喫茶
・妹喫茶
・魔女っ娘カフェ
・OLカフェ
・病院カフェ
・監獄レストラン
・ヴァンパイアレストラン
・男の娘カフェ
・戦国カフェ
・学校カフェ
・宇宙人カフェ
・探偵カフェ
ネタも込みでいろんなネタが浮かんできた。いうだけタダである。それから消去法で消えていき、私の推しだった宇宙人カフェは皆守あたりの猛反対で却下された。解せぬ。葉佩に無理やり連れてこられたわりに真面目に参加してることにびっくりだよ私は。ドラマ CDだと当日までガン無視してたっぽいのに。
「じゃあ、なにを担当するか決めましょうか。接客か調理でわけましょう。飾り付けはみんなでやるとして」
「私、接客やりた〜い!ね、白岐サンもやらない?」
「えっ......ええ、私は構わないけれど」
「じゃあ俺もするか。女子ばかりだとクレーマーが出たら大変だからな」
「ありがとう夕薙クン。九龍クンはなにするの?」
「俺?俺はね〜、コスプレも楽しそうだけど、料理やりたいな」
「料理か〜、九龍クン上手だもんねッ!ハンバーガーおいしかったし!」
「お、九龍が調理担当か?なら仕入れ任せられるな。他のクラスよりいい材料がつかえるぞ」
「任せてもいいかしら?」
「は〜い、ヒナちゃん先生!」
「九龍がやるならオレもやろうかな、仕入れとか1人じゃ大変だろ?」
「助かるぜ、翔チャン」
「ちょっと待て」
さっきまでボーッとしていた皆守が口を出した。
「九龍に翔だと?嫌な予感しかしないから俺もやる」
「お、意外にやる気がある奴がいるぞ」
「......意外ね」
「皆守クンもやってくれるんだ!意外〜ッ!ふけるとかいいそうなのに〜」
「......うるせえな」
この誰もお前には期待していなかったのに感である。思わず笑ってしまった私に皆守は睨みつけてから舌打ちをした。日頃の行いというやつである。雛川先生は嬉しそうに名前を書いていく。
「え〜、嫌な予感ってなんだよ、嫌な予感って!失礼なッ!」
「前科しかないんだよ、お前は」
「いたい!」
「しかも甘やかすだけ甘やかして放置なんて無責任なことしやがる翔がついたらストッパー誰もいないだろ......なに考えてんだよ......。どいつもこいつも餌付けされやがって」
「じゃあ食材の管理よろしくね、甲太郎」
「ああ、流通経路からなにからしっかり管理してやるよ。食材の管理方法を間違えてしまうと食中毒に繋がりかねないからな」
「食中毒だけかなあ」
「わかってんなら九龍をとめるの手伝ってくれ......」
「え、いやですけど」
「翔......お前な、ほんとお前そういうところがだな......あーもういい。心配して損した」
「え?」
「......なんでもねえよ」
皆守は葉佩をみた。
「あのな、一度食中毒を学校から出すと次の年からは學園祭で模擬店を出すことが出来なくなるんだぞ。いいな?せっかくの學園祭なんだ、しっかりと皆が楽しめる場は守れよ、九龍」
「甲太郎の口からそんな言葉がきけるとはな、ははは」
「うるせえ、何も知らないと呑気でいいよな、まったく......」
はあ、と皆守はためいきをついた。
「安心してくれよ、甲太郎ッ!俺頑張っちゃうからな!手伝ってくれよ!」
「たかが仕入れになんで気合いを入れる必要があるんだよ......」
先が思いやられるとばかりに皆守は頭をかいた。
カレーの仕込みに付き合わされた経験上わかるが、どうやら皆守の要領の良さや真面目さはカレーだけでなく材料などにも及ぶようだ。さすがは未来のカレー仙人である。どっかで店でも開くのかもしれない。
そうこうしているうちに、接客組はコスプレなどをして楽しい雰囲気のカフェをやりたいので内装は手作り、衣装は借りてくる、と決まったらしい。やっちーが演劇部に衣装を借りてきてくれるそうだ。
実際にお店で使っているようなものを使うのは予算的にも教室のサイズ的にも難しい。実際にカフェでも使われていそうなものの中で學園祭の予算でも買えそうなものを先生にお願いするらしい。
コーヒーメーカーあたりはマミーズに借りてくるらしい。エスプレッソやミルクも出すことが出来るから、この1台でコーヒー、カフェラテ、カプチーノ、エスプレッソと4種類のメニューを提供することが出来る。
どうやらメニューはホットサンドにするらしい。デザート系とおかず系で別々に具材を用意しておくだけで簡単にメニューを増やすことが出来るから合理的だ。火を使うわけではないので教室でも安心して使用できる。
必要な材料はメニューから逆算して考えるということで、予算オーバーしないようにどんどん仕込み班に割り当てられた私たちに意見がよせられてくる。葉佩のやる気は尋常ではないくらいに充ちていて、皆守はこれを全部監督しなきゃいけないわけだ、がんばれ。え、私?一日とはいえそれなりの準備は必要だろうから人手だよ、人手。
「それじゃあいってみよー」
「言ってる傍から《遺跡》にいくな。やっぱり仕入れって《遺跡》じゃねえか......」
「ちっちっち〜、違うよ甲太郎。クエストこなして報酬にもらうんだよ」
「あのな、なんでまたそんな遠回りなことを......。んな事しなくても買えばいいだろ?」
「わかってないなあ、甲太郎はッ!夕薙がいってたじゃないか!最高級の素材が欲しいって!ならやろうぜ〜!お宝が俺を呼んでいる〜ッ!」
「なんだよやる気なのはいい......なんで方向性が間違ってるんだ......」
「俺にとってはこれが最適解!」
ぐちゃぐちゃいってる皆守を連れて現れた葉佩はニコニコしながら縄ばしごをかけた。先に降りていくと今日は違うんだと言われた。
「クエストこなしたら行きたいとこがあるんだ」
いつものように《遺跡》でクエストをこなしたあと、葉佩につれられて、《魂の井戸》に向かうと紫色の蝶がとんでいた。それになんの躊躇もなく葉佩はふれる。
「おい、なにし......」
「ここは......」
明らかに空間転移だった。
「ここはランダムな異空間でさ、入る度に出現敵や宝箱、地図や井戸の位置などが変化するみたいなんだ。9階ごとに魂の井戸があるから、そこまでは地上に帰還出来ないからよろしくね」
「は?」
「え?」
「下の階に進むほど強い敵やボスが出現するけど入手アイテムも良くなるからね。お目当てのリストが埋まるまで帰れないよ〜!題してお目当ての食材手に入れるまで帰れま10!」
どっかのテレビ番組みたいなことを口走った瞬間に葉佩目掛けてわりと本気な皆守の蹴りが炸裂した。