皆守からの告発によりセクハラ案件を暴露された葉佩は、厳しい視線を一心にあびながら手を挙げて発言許可を求めた。元の姿になったら処刑となることがすでに確定している保健室にて、瑞麗先生が許可した。これ以上の失言は許さんと目を光らせている皆守(私が宇宙人だと認めたせいか微妙に距離がある)の殺気をあびながらいうのだ。《生徒会執行委員》からの一騎打ちを申し込まれているけどどうしようと。
「誰だ?」
「真里野剣介(まりのけんすけ)っていってた」
その言葉に誰もが顔を見合わせるのだ。
「あの人、《生徒会執行委員》だったんですね」
「よりによってあの男かよ......」
「なんてタイミングの悪い......」
「えっ、マジでそんなにやばいやつなのか?」
葉佩の言葉に私たちはうなずいた。
真里野剣介は生徒会執行委員のひとりで、生徒会長によって呪われた力を自身の宝と引き換えに与えてもらった人物だ。引き換えにした宝は古い手紙、彼にとってかけがえのない大切なものらしいが、本編にてどう大切なのかは語られていない。 もしかしたら師匠は女性なのかもしれない。このあとのことを考えると。そして宝と引き換えにした呪われた力はなんでも斬ってしまう力。
本人曰わくモノには間というものがあるらしく、力を得てそれが見えるようになりそれを断てば何でも真っ二つらしい。
剣道部部長だけあって剣術において比肩する者のない存在だ。武士道を重んじる義理堅い性格で卑怯な行為を嫌う。 ゆえに正邪といった白黒はっきりした観念の持ち主であるため、《生徒会》の命令にすら疑問を感じたら従わない。ただし利用するにはわかりやすく、御しやすいが、敵に回すと恐ろしい存在になる。
彼は武士である。 それはもう立派な武士である。 學園にも剣道着で通う武士である。 とても義理堅い武士である。 白米をあげたら刀をくれる武士である。等価交換?なにそれおいしいのというレベルで自分の好きな物をくれる者には最大級の礼という骨の髄まで武士である。
容姿は剣道着に木刀を携えたまさに武士といった出で立ち。 さらに眼帯までしているが隻眼というわけではない。
では何故、眼帯をしているのか。どこぞの剣道隊長のように眼帯に自分の霊圧を喰わせているわけでもない。 何故、眼帯をしているのだろうか、その謎は未だ明かされていない。もしかして厨二病なのかもしれないと私は疑っていたりする。
「それ、延期できないんでしょうか」
葉佩と入れ替わっている七瀬があたりまえのように聞いてきた。そりゃそうだ。中身が葉佩とはいえ真っ向からやり合うのは七瀬の体である。無事であるとは到底思えない。
「それが、そうもいかないんだよ」
葉佩が見せてきたのは果たし状だった。えらい達筆で読むのに苦労したため、H.A.N.T.で解析したらしい。そこには人質がいるから余計なことを考えずに1人でこいとかいてある。
「人質?」
「正々堂々と決闘申し込むような真里野が人質?」
「おいおい、まじか」
「そんな......」
「タイゾーちゃんの時もそうだったけど、俺の事を悪い《宝探し屋》だって唆しながら《執行委員》を焚き付けてるやつがいるらしいんだよね」
「私に手紙を送り付けてきたやつとは別みたいだね。江見睡院の字体を完璧に模写したところでH.A.N.T.にかかれば真偽がすぐにわかる。この字体は新規みたいだし」
「つまり、その人が果たし状を送り付けてきた?」
「まあ、言われてみれば最近の《生徒会執行委員》は規則に違反する前の未遂者ですら粛清しているようだからな。今までは融通がきいたのに理由なき厳罰化をしては學園内の不満を煽っているのかもしれない」
「それで《生徒会執行委員》が槍玉にあげられるってわけか」
「実に巧妙な誘導だな」
とりあえず七瀬の体のまま、葉佩は行くしかないようだ。
「......九龍さん、どうか生きて帰ってきてくださいね」
「任せといてよ、月魅」
葉佩はいつもみたいに笑った。
とはいうものの、葉佩はいつもとはあまりにも違う七瀬の体に悪戦苦闘していた。いつもより動きにくく、パワーも足りない。やはり男と女の体は違う。江見はどれだけ苦労したのか透けて見えるようだ。十分な武器と防具を装備していかなければならない。
七瀬の体力を考えたら重たい装備は出来ないので、一度戯れに鏡の前でつけたガーターベルトを装着してみる。やっぱりガーターベルトは女の人の体に装備すべきものだ。
「やあ〜ん」
H.A.N.T.の音声がやたらとえろくなった。なんか体が軽くなった気がする。主に俊敏さあたりが。そこそこの威力を発揮しそうな気配だ。笑ってスカートの下のガーターベルトをもう一度動きやすいように調整してから、爆弾をいくつか仕込んでいるのを確認する。
「さあて、いきますか」
七瀬はコンタクトすら持っていない眼鏡愛好家なせいで、暗視ゴーグルごしでは裸眼を強いられるからかなりぼやけた世界が広がっている。
「うあ〜、これはやばいな。慣れるまでクエストこなすか」
一人で墓地の穴をくぐって中に入るとじめじめした空気が襲ってくる。いつもの剣は重すぎて使えなかった。ゆえにいつもは高いからと溜め込んでいる銃火器と鞭でびしっとしたらまぁ、どうにかなるんじゃないだろうか。鞭のしなりを確かめて、頷いてみせる。誰も見ていないしぐさに意味なんてない。
「お?」
暗視ゴーグルの映像がアップデートされた。この区画に存在している敵情報にそれぞれの攻撃範囲や移動範囲が明瞭になる。
「おおおッ!」
葉佩はテンションがあがった。
「翔チャンありがとうッ!」
それは本来江見が同行したときだけ発生する表示であり、葉佩はそれが江見睡院の息子である江見翔の技術だと思っていた。どうやらあたっていたらしい。
「これなら七瀬の体でも安心だ」
階段から転げ落ちる実験を明日に控えている今、これは一時的なものですぐに七瀬にこの体を返すことになる。
白い皮膚の下から青い血管が透けて見える。太陽をろくにあびたことがない女性の柔肌だ。褐色のが好みだなと笑って、ドアを開いていく。暗視スコープの頭の大きさが少し違う。
やっぱり無傷というわけには行かず、裂傷だとかなんだとかかわいい制服も破れていく。あー、賠償しなくちゃなと葉佩は思った。
ようやく慣れてきた頃、葉佩は真里野剣介のところにいくことになった。
制服のスカートから太ももがちらつく。そこにセットしてある爆弾をひとつ。それぞれの仕草ひとつに真理野が動揺するのがわかる。真面目実直な性格から察するに、ルパン三世にでてくる五右衛門みたいな性格らしい。男なら欲情するかもしれない、とふと思う。色仕掛けのつもりは毛頭ないけれど。
あっけに取られた顔をした真理野が「調子が狂う」とか言いながら七瀬をみつめてくる。どうやら色仕掛けはH.A.N.T.の音声もふくめていっているらしい。ならば少しでも魅了効果がないかと期待してみたのだか、全然狂っていないまっすぐな剣捌きが飛んできた。よくいうよ、と思いながら葉佩はムチを奮った。
「こーるみーくいーん、なんちゃって」
まさか完膚無きまでにボコボコにしたせいで真里野が七瀬に惚れることになるなど思いもしなかったのである。