番外編1

「......それ、ちゃんとした素材からできた料理だろうな?」

「いらないなら食わなくていいよ〜。さすがに俺も作ったものをおいしいと言ってもらえる人にしかあげたくないからなッ」

「......」

「今日もおいしそーなのできたじゃん。九龍、甲太郎いらないみたいだし、それもらっていい?」

「いいよ〜」

横から取り上げようとする江見から皆守は料理を死守する。素直じゃないな〜と言われるのが癪で皆守は江見を睨んだ。

「片っ端からなんの躊躇もなく新作試そうとするお前はなんなんだよ、翔」

「え?だって料理したとこ見てないし。想像するだけ野暮でしょ、こんなとこで常識持ち込んだ方が死ぬよ?映画でみたことない?いつだって適応できたやつが生き残るんだよ」

「なんでそんなに逞しいんだよ。ほんとに女か?」

「この体になってもうすぐ8ヶ月経つしな......体との融合も順調だからそのうち怪しいかもね。まあ、メンテナンスん時に要望出してみるよ」

「メンテナンスってなんだよメンテナンスって」

「聞きたい?」

「断固断る」

たしかにここは学校の調理室でもだれかのキッチンでもなく《遺跡》の《魂の井戸》である。休憩にしようという言葉と共に送られた料理に抵抗を感じているのは皆守だけらしい。それでも2人が美味しそうに食べているし、一度《遺跡》に潜ったらなかなか出られない葉佩の潜入に付き合う都合上ここで食べないのは緩やかな自殺だと知っている。だが理性が抵抗を示す。無知って恐ろしいな、人間だったんだぞこいつらと食材であろう肉を見て思う。まだ皆守は初めから知っている宇宙人とよくあることだしとスルーする《宝探し屋》だとは知らない。心のどこかで自分と同じ人間だと思いたがっているのだ。

「甲太郎〜、好き嫌いすると大きくなれないぞ〜」

「これは好き嫌いの問題じゃないだろ」

「しかたないな〜、じゃああげるよ、これ」

渡されたのはカレーパンだった。

「俺の好物をわかってるじゃないか。初めからよこせよ」

「じゃあ頂戴よ、甲太郎。私がそれ食べるから」

首を竦めた皆守はカレーパンもちゃっかりもらいながら拒否した。

「食べるにきまってんだろ」

「おいしーな、これ。九龍、これ何?」

「あ〜、それ?それは」

「やめろ、食う気がなくなる」

「えー」

気づけばもう江見の分はなくなっていた。

「ごちそうさまでした。美味しかったよ、九龍」

「ありがとう!」

「お礼いうのはこっちだって。いつもゴチになります」

2人のやり取りを見ているうちに不自然なほど静かになった皆守は特に何を言うでもなくひたすらにたべはじめた。なんというか無心だ。葉佩の料理はいつもこうである。じっと皆守を葉佩と江見が眺めていると、なんだよ、とばつ悪そうに言われた。食べ終わった皆守が包みを他の中でぐしゃっとつぶす。

「おいしかったか〜?俺すっごい気になるんですけど〜?」

「カレーの次ぐらいにはうまいかもな。カレーパンには負けるが」

封を開けながら答える皆守である。

「あははっ。それ、皆守甲太郎最大の褒め言葉だよ、九龍」

「だよな!だよな〜ッ!やったぜ!」

「なんだよ悪いかよ」

「悪くない!全然悪くないって!ありがとう!そんなに気に入ったならまた作ってやるよ〜!」

「次作る時は俺が見てる前でしてくれ、まともな食材なら手放しで喜んで食う気になれるからな」

「注文多いなァ、甲太郎は」

「あたりまえだろうが」

「ま、そんときは声掛けるからよろしくなッ!せっかくカレー鍋もらったのにオブジェにするのはもったいないし」

「言ったな?カレー作るといったな、九龍?いっとくが俺はうるさいぞ」

「わ〜かってるって」

約束しているとこ悪いが、まともな食材はたぶん盗品か《遺跡》の宝箱の中に入っているアイテム祭りになるだけで化人産の食材じゃなくなるだけでは?とはさすがに江見はいえないのだった。






呼び出された江見は目の前の光景に瞬き数回、なんのために呼び出されたか悟る。楽しそうに冷凍するための準備をしている葉佩がいて、皆守が横から忙しく口を出している。葉佩は全く気にしていないらしくその効果はゼロに近い。イライラした皆守がやり直しを繰り返している。

「え〜っと、これは冷蔵庫がカレーのストックだらけになるパターンかな?どんだけ作ったんだよ、君ら」

「初めは俺がつくってるの見てたんだけどさ〜、なんか甲太郎のスイッチが入ったらしいんだよ」

「どっからどこまで?」

「こっからが俺、ここまでが甲太郎の作ったカレー」

「地上最強とか勝手に名前つけるからだ」

「あ〜、甲太郎の地上最強と九龍の地上最強が違ったパターンか、なるほど。でもさ、3人分の冷蔵庫だけじゃたりなくないか?」

「うん、だからみんな呼んでるんだ。翔チャンがいちばん早かったんだよ」

「へえ〜」

「いつまで立ってんだ、翔。どっちがうまいか判定してもらうんだから早く座れ」

「えっ、いつの間にそんな流れに?」

「そうでもしなけりゃ、余ったやつを爆弾にしたりゲテモノ料理にしたりしかねんからな、九龍は」

「ぎくう」

「あはは」

バレる方が悪いのだバカタレ。江見はよそわれたカレーを一足先に食べることにしたのだった。

「どっちがうまい?」

「俺だろ?」

「うーん......」

「どうした?」

「私とオレで嗜好がわかれるのもなかなかないよな〜」

「今はどっちが優勢だ?」

「今は甲太郎のカレーのがおいしいかな」

「え〜ッ!なんだよそれ、なら翔チャンの分は俺と甲太郎1票ずつでよくないかッ!」

「ばかいえ、普通は一人一票ずつだろうが」

私は葉佩たちの言い合いを無視してもくもくと食べすすめる。

人間、すき焼きとカレーライスに関しては、親から遺伝的に教わってきた味を最上の美味と心得て、幼児から個人的嗜好を舌へ定着させてしまう結果、他人の味つけはどんな場合にも絶対にうまいと思ってくれない動物である。皆守のカレーがおいしいと思っているあいだは少なくても人間なんだろうなとは思うのだ。
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