腐向け

「九龍、ひとつお願いがあるんだけどさ」

「ん〜?どうしたんだよ、翔チャン」

「卒業式んとき、帰ってくるんだろ?そしたらさ、《ロゼッタ協会》に入るための推薦状書いて欲しいんだ」

「バディとしてじゃなく?」

「オレも父さんみたいに《宝探し屋》になりたいんだ」

「それなら大歓迎だけどさ〜、それはオレみたいなって言うところじゃないのかよ、翔チャンのいけず!」

「だって父さんは引退するけど九龍は現役じゃないか。《宝探し屋》になったらランキングを争うライバル同士になるっていったのは九龍だろ。ロックフォードのスコア塗り替えたランキング1位サン」

「おーおー、もう俺のことライバル視しちゃうんだ?図が高すぎない?」

「いうだけならタダだろ、いつだって」

「よ〜し、じゃあ俺が帰ってくるまでに崩壊した遺跡の現状まとめた報告書つくっといてくれよ。その出来栄えで判断してやるからさ」

「あのさぁ......それは九龍がやるべきことじゃ?」

「なにいってんだよ、翔チャン。《宝探し屋》の下積み時代なんてだいたいこんなもんだぜ。頑張れよ」

そういうわけで三学期をまるまる使った宿題を言い渡されてしまった江見は、夜な夜な崩壊した遺跡に足を運んでいるのだった。

「ちッ…… 一服する暇もありゃしない。九ちゃんのやつ何考えてんだ、アホか」

うっかり夜遊びがバレてしまった江見は、埋められている人たちを掘り起こして蘇生を優先させたために穴だらけになっている《元墓地》にて、待ち構えていた皆守に捕まっていた。無言の圧力に屈して事情を説明して今に至るというわけである。

「《ロゼッタ協会》の《宝探し屋》だと?精神交換するはめになった元凶を倒すためなら九ちゃんの専属バディやった方が効率的に任務にあたれるんじゃないのか?」

「ま、たしかにそうなんだけどね。少なくても死ぬまではそう考えていたよ」

「......死んでから、考えがかわったってか?」

「九龍に命を預けるのがたしかに確実だ。九龍はバディが負傷することをよしとしない。自分の体ひとつで全ての責任を負いたがる《宝探し屋》だ。そこんとこが一番オレは九龍と相性が悪い。わかっただろ?オレは過程より結果を重視するんだよ」

「......たしかに、変わったな、翔。それは過程を無視しても生き返ることができるから、結果にどんな形ででも到達できるからだろ。前のお前なら絶対に選ばなかったやり方だ」

「とっさにやっちゃった時点でオレは考えてる以上に人間として致命的な感性を育んじゃったみたいでね。取り繕うのにもう労力使いたくないんだよ、疲れたんだ。だからね、考えたんだよ。こうなった以上は江見翔君の体もオレも平穏無事ではいられないからね、《九龍の秘宝》を集めることを優先しようって」

「なにをしてでも?」

「なにに変えてでも」

「......なるほどな。お前のいいぶんはよくわかった。九ちゃんもお前に執着するわけだぜ、ようやく俺も答えが出た」

「......え〜っと、皆守さん。なんすか、その手」

「いいからこい」

「いや、オレ、君たちの関係邪魔する気は微塵もないからな?嫉妬しなくてもよくないか?」

「..................いいからこい」

「あれ、さっきより力が強くなったてませんか、皆守さん。あの、皆守さん!?」

「うるせえよ。黙ってろ」

「えええ」

「どこまで往生際が悪いんだ。あの日、俺も九ちゃんもお前にいったはずだぞ、返事も返さずいつも通りに接しやがって。なかったことにするな」

「いや、だって、さ。おかしくないか?脈略がなさすぎない?あきらかに友情こじらせてるよな、君ら」

「俺の目の前で惚れた女がハサミで喉元かききって死んだトラウマがあると知っていながら、九ちゃんの剣で邪神退散させる呪文唱えながら自害したお前がいう権利あると思ってるのか。死んだ直後にようやく自覚した俺に対する当てつけか?」

「いやだから、それは吊り橋効果だって」

「それを決めるのは俺だ。お前じゃない」

「いやいやいや、そんな気持ち向けられるオレだって受け入れられるかどうか決める権利くらいあるだろ。落ち着けよ」

「言ったな?」

「あれ、なんか墓穴ほった?」

「九ちゃんが帰ってくるまでまだ3ヶ月もあるしな、遺跡探索に同行してやるよ、翔。吊り橋効果じゃないことを教えてやる。いっとくが俺は待つつもりは一切ないからな」

それは事実上の宣戦布告だった。日常風景はなんらかわらない。葉佩九龍がくる前のようによく一緒にいるようになっただけだ。ただ驚異的な開き直りを見せた皆守が、江見が少しでも気を抜くと口説き落とそうとあらゆる策略を張り巡らせるようになっただけで。

今日もまた、頼んでもないのに遺跡探索に同行している皆守に「俺から離れるな」とか「守ってやる」とかイメージとかけ離れた言葉とともに攻撃を回避させてもらっていた。

まさかここまでやるとは思っていなかった江見は羞恥で死にかけていた。

「あのさ〜、オレお前の大っ嫌いな宇宙人なんだよ、忘れてないか?」

「何をいまさら。とっくの昔になれたぜ」

「それに、江見翔クンの体に入ってるの三十路の女なんですがそれは」

「三十路は知らなかったが、んなに年上なのか」

「そうそう、だから諦めた方が......」

「別に江見翔の体を宇宙人に用意してもらえば済む話だろ。ついでに俺の好みの体用意してもらえばだいたい解決する」

「次の展開を潰されただと......!?いや、あたし帰るからね、元の次元に」

皆守は、なにいってるんだお前、という顔をして笑うのだ。

「やってみろよ、九ちゃんと俺から逃げられると本気で思ってるならな」

「えええ......」

江見はそんなやり取りを延々繰り返しながら探索するため精神的疲労の方がすごいのだった。《墓地》から男子寮に帰っても、安息の場所など宣戦布告の日から消えてしまった。ずっと男子生徒たちとかち合わないように時間をずらして一人になるようにしていた江見だったが、皆守が平然と一緒に風呂に入るようになってしまったのだ。今までは遠慮か恐怖かで絶対に近づかなかったくせにこの変わり身のはやさである。

当然就寝時間も一致しはじめ、皆守が江見の部屋に乗り込もうがまた葉佩九龍の宿題やっているのかと周りがスルーしていて意味がなかった。

「で、結局お前は俺を部屋に入れてるわけだが、ただの友達と言い張るのか?あいにく俺はお前が女だと初めから知ってたからな。男女の友情は認めない派だ」

「やっちーを全力で否定しやがったぞこいつ」

「八千穂は仲間だ。違うか」

「違いません」

「ずいぶんと余裕だな。《遺跡》だとだいぶ動揺してるとH.A.N.T.に言われてたが」

「あのねえ、本気出したら原子刀並の蹴りが炸裂するお前を部屋に入れない方法なんてある?ないでしょ?こんな夜中に騒ぎ起こしたくないに決まってるし」

「それだけか?」

「───────」

「目をそらすな」

「───────いや、その......」

「今更誤魔化すな、お前がそこら辺のやつより俺を気に入ってるのは知ってるからな」

「あたってるのが腹立つ......!」

皆守は笑った。一本一本の髪の毛をいとおしむような丁寧な愛撫だった。

「おやすみ。また会いに来てやるよ」

「いや、来なくていいよ。待ってるのが君の領分だろ?」

「九ちゃんがお前ならきっと卒業式に帰ってこないパターンだといってたからな。作戦くらい変えるに決まってるだろ」

「変なところで共同戦線貼らないでくれよ、馬鹿じゃないのか」

「耳まで真っ赤にされても説得力ないってことを覚えとくといいぜ」

どこかぐったりとしている江見を置き去りにして皆守は帰った日もあった。

あるいは。

「......絶対皆守のせいだ」

江見はベッドに寝っ転がりながら力なく枕に顔を埋めていた。

「なんだよ、あの夢......この体童貞じゃないのに......」

脱力するのはやわらかな愛撫で肉体に話しかけられる夢をみたせいだ。下着の中に指が入ってきて、男のごつごつした指でやられる、やけに生々しい夢だった。江見がやけに体があついと感じるのは、指なのにとても固く、そして熱かったからだ。それだけ激しく求めていたのだ。ひどく乾いていたのだと自覚せざるをえない。

「やっぱ男子高校生の性欲なめてた......抜けたらなんでもいいのかっての......」

身体の中に電流のようなものが走り、背面のすみずみまで揉みほぐしていく指が、ひとつの部分にだけは触れようともしない。その窪みのすぐそばを指が 掠めていくたびに息が止まる。何かのはずみにふと開かれて空気と視線にさらされるのを感じると、不随意な 収斂 が身体を駆け抜ける。またいつ果てるとも知れないマッサージがはじまる。触れられない部分が触れられないために何倍にも肥厚し、肥大し、発熱し、発赤していく。そのままで目を閉じ、身体をまかせきっている。夢想のなかで、無造作な、優しい、容赦ない手。快感はまるで拷問のようだった。

自分から知らない間に大きく脚を開いている。それでも触れてこようとしない。

ようやく腹にたどり着いた指先が、触診するように臓腑のかたちを探った後で、どこにも触れられず、じろじろと見つめられるだけでしばらく放っておかれる。

まるで拷問のような夢だった。

「いやだって甲太郎絶対童貞じゃん......どんだけ夢みてんだよ、あたし......」

認めるわけにはいかない。夢は願望だと言われようが断じて認められない。そもそも指が1人じゃなかったなんてまずありえないのだ。

「あー......学校行きたくない......」

江見は頭をかかえたのだった。
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