夜があけたら6

「おはよう」

「............あァ」

「どうしたのさ、甲ちゃん」

「......朝は翔ちゃんなんだよな」

「え?」

「昼休みちょっといいか?」

「うん?うん」

私たちは売店でパンと飲み物を買い、屋上に向かった。

「なァ、翔ちゃん。聞きたいことがあるんだが」

「なに?」

「夜に《訓練所》に潜ってるが......そのとき、お前の身体を操ってるのはあれか?宇宙人か?」

「ありゃ、バレた?よくわかったね。皇七から近づかないように言われてるのに」

「《生徒会》の見回りは継続してるからな。一般生徒がこないように」

「なるほど〜、見ちゃったんだね」

「そうだ。......なァ、翔ちゃん。それは調査のためだよな?」

「そうだね」

「その間はなにしてるんだ?」

「私?私はね、元の世界に帰ってるよ。《天御子》が怖くて家族にも友達にも会えてないけど。《天御子》がなにやら不穏な動きをしてるから気になってね」

「翔ちゃん......」

皆守は意を決したような顔をして口を開いた。

「皇七から聞いたぜ、翔ちゃん。未来ってのは知ると宇宙人に一生追いかけられるらしいな。翔ちゃんの仲間の宇宙人は精神交換でそれを防いでるって話だが、その人間にとっても未来の話の場合はアウトなんだろう?1300年なんて途方もない未来だからだろうが......翔ちゃんにとってはこの学園の今は未来じゃなかったんだよな?まさかとは思うが翔ちゃんは来た時代が違うのか?いや......世界自体が違うのか?」

「驚いた。瑞麗先生以外に気づく人がいるとは思わなかったよ」

「───────やっぱりか......嫌な予感はしてたんだ。出会ったころみたいだったからな。無表情の翔ちゃんが挨拶したのに反応すらしなかったからな。1度や2度じゃない。《訓練所》で会う時はいつもそうだ」

「あーなるほど、そりゃバレるね」

「いつか、《天御子》を倒したら翔ちゃんはいなくなるわけだな」

「そうなるねえ」

「翔ちゃんはそれでいいのかよ」

「うーん、私はずっとそのつもりだからなあ。それにそんな先のこと考えても仕方ないってのもある。終わりが見えてきたらまた考えも変わるかもしれないけど。帰るとしても縁ってのはそう簡単に切れちゃうものじゃないよ」

「それでもだ。俺は嫌だ。この10ヶ月、翔ちゃんにはどれだけ助けられたと思ってる。俺はなにひとつ返せていない」

「甲ちゃん、二兎を追う者は一兎をも得ずだよ」

「翔ちゃん」

「大袈裟なんだよ、甲ちゃんは。今すぐいなくなるってわけじゃないんだから。気づいちゃったみたいだからね、その時がきたらちゃんというよ」

「そういう問題じゃないんだ」

「どういう問題?」

「だから......」

「だから?」

「俺が嫌なんだ」

「あはは、そんなに友達だと思ってくれてうれしいよ。ありがとう、甲ちゃん」

笑う私に皆守はためいきをついた。

「わかった。翔ちゃんがそのつもりなら、そうしとけばいい」

「うん、そうするよ」

「俺は嫌だから九ちゃんにいうし、いや、《ロゼッタ協会》にいうが、それは俺がすることだから関係ないよな」

「待って」

「なんだ」

「待って待って待ってなんでそうなるんだよ、やめてよ。ややこしくなるじゃないか」

「なにあせってるんだよ、翔ちゃん」

「焦るに決まってんでしょうが」

「ああ、そうだ。もっと適役がいたな。大和と七瀬に」

「待って待って待ってたんまたんまたんま、マジでやめて。シャレにならないからやめて。特に大和はややこしいことになること請け合いだからそれだけは勘弁してよ!なんだよ、甲ちゃん!いきなり!」

たまらず叫んだ私に皆守はそれみたことかとばかりに笑うのだ。

「人間はその気になればなんだってできるんだと。変えることができるんだと教えてくれたのは、お前だぜ、翔ちゃん。俺を変えることは誰にも出来ないとそう思っていたが、間違ってると風穴を開けてくれたのが九ちゃんなら、あんたは俺が歩き出せるように見守ってくれた。俺を救い出せるのは俺しかいないんだと2人して教えてくれたんだ」

「うん......それは良かったとおもうけどさ、なんでそれがそうなるのさ......??」

「こないだ、ようやく手紙を書いたんだ。切手を購買で買って、封筒にいれて、ポストに投函するだけでひとつきかかった。だが、翔ちゃんが宇宙人と精神交換してると気づいたその日のうちに全部終わってた」

「そ、そうなんだ......?」

「あァ。最初に助けてくれって言ってもらえたのは俺だったのに、最後まで翔ちゃんは頼ってくれなかったよな。まあ無理もないが。今もそうだ。理由はよくわかってる。九ちゃんに追いつく意味でも俺は過去を償うために歩き出さなきゃならない。自分を救えないものに誰も救いを求めるわけがない」

「買い被りすぎだよ、甲ちゃん」

「お前の最小評価っぷりはもう筋金入りだから聞き飽きたんだよ、俺は」

そして笑うのだ。

「阿門がいってたぜ。人と人の出会いは引力のようなもんだと。巡り会うべくして生まれた者は何が起きようといずれはどこかで巡り会うってな。俺は九ちゃんや翔ちゃんと巡り会ったのは偶然だとは微塵も思ってない。それは必然だ。なら、あっさりお別れってのはどうなんだ?」

「いやだから、それは......」

「エゴっていいたいんだろ?わかってるさ。だが、自分の言葉で自分の感情を話せるといいねといったのはお前だぜ、翔ちゃん」

「うん、その点はよかったね、とは思うよ。ただ予想の斜め上すぎてびっくりしてる」

「そりゃよかった。翔ちゃんはどうも未来の知識と《如来眼》のせいで先読みする癖がついてるみたいだからな。一般人の感性が戻ってきたとはいえ、目の前の相手をナチュラルに無視して物事を進める癖がまだ抜けてないらしい。ならあーだこーだ考えるより初めからこうして話した方が早いんだな。10ヶ月もかかっちまったぜ」

「嫌なことに気づかれちゃった......」

「覚悟しろと何度も俺はいったぜ、翔ちゃん」

「めんどくさい事になったのは自覚してるよ!」

「そういうわけだから、これからもよろしくな」

「よろしくされたくないよー!!」

「こっちは何十回考えてもそこからなんの発展もしない問いを飽きずに巡ってきたんだ。色々なことを今も思うけど、そんなことしてたら翔ちゃんも九ちゃんもいっちゃうからな。お馴染みの順路での堂々巡りを辿るくらいなら、行動に起こそうと思っただけだ」

「そっか......うん、気持ちはよくわかるよ。理解者が現れて嬉しいんだよね。ずっといたいんだよね。ただ甲ちゃんは重いというか、極端すぎるんだよ!私はそこまで甲ちゃんに責任持てないよ!」

「そこを気にしてくれるだけ翔ちゃんはやさしいよな。九ちゃんは解体屋だから廃材に考慮はしてくれないぜ」

「ああうん、まあそうだね......甲ちゃんの光にはなってくれないだろうね......だから甲ちゃんは自分で自分を何とかしなくちゃいけないんだ」

「ああ、だから俺なりに前に進もうとしてる訳だが」

「そこになんで九ちゃんだけじゃなくて私まで入るのかっていってるんだよ!」

「しるか、そんなこと」

「いや、そこは知っておこうよ」

「答えだした頃には予告無く消える癖になにをいいやがる」

「そこまで私は薄情じゃないよ」

「どうせいうのは帰る段取りが出来たらだろ。現に俺が指摘するまで誰にも言わないままちょくちょく元の世界に帰ってんじゃねえか」

「うっ......」

詰め寄られて私はバツが悪くて目を逸らした。

「そらみろ」

「ああもう、なんで九ちゃん今ここにいないんだよ!!九ちゃんがいないからってなにとんでもないこと言ってんのさ、甲ちゃん!」

「九ちゃんは関係ないけどな」

「うっそだろ、お前」

私はたまらず聞き返す。なんという稚拙な独占欲だ、厄介な。私はため息をつくしかないのだった。
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