預言者たち4

放課後のことだ。阿門はふたたび新聞部に割り当てられている教室に訪れた。皇七は号外と称して新しい暗示の呪文が組み込まれた天香新聞の構成がだいたい出来たようで休憩していた。

「なんの目的って大袈裟だな〜、他意はないよ、他意は。怖い顔してなんだと思ったら......。阿門が神鳳を《生徒会》に引き入れた時点でそういう方針なんだって思っただけだっつーの」

「方針?」

「學園のために《力》貸してくれそうだったら、敵対してても受け入れるってやつ。神鳳が近づいてきたとき、その目的忠告したの俺だからな?忘れてたとは言わせないぞ?」

「阿部を學園の監視体制に引き入れたのはそういう意図があったからだといいたいのか?」

「そうだよ。いつもいってるじゃんか、阿門の不利になるようなことは絶対にしないって。心外だな〜も〜」

「なら、なぜ俺に......いや、《生徒会》に言わなかった」

「なにを?」

「阿部が《アビヒコ》の末裔だということをだ」

「それは......」

「それは?」

「阿部が皆守みたいなやつだったからだよ」

「なに?」

「生まれながらに《墓守》に向いてる人種」

「それは......」

「生まれながらに空虚をかかえたまま生きてる人間。ただ漠然と寿命を決めてなんの躊躇もなく周りをばっさり切り捨てて死にそうな人間。皆守が離脱した直後の《生徒会》にそんな爆弾案件投げるわけにはいかなかったんだよ、体制の過渡期だったし」

「問題ない人間だったと?」

「もちろん。阿部は生まれた瞬間から先祖のために生きてる人間だったからさ、ほっとけなくて。母方の姓を名乗るとか身分を隠してるわけでもなく、堂々と入学してきて阿部家の貴重な文献を次々に學園に寄贈して。なんだと思って調べてみたら、逃げてきたっていうじゃないか」

「逃げてきた?誰からだ」

「喪部銛矢だよ」

「!」

「《アビヒコ》も《ニギハヤヒ》の部下のひとりだった訳だから、その《氣》の流れは変わらない。だから感知されたっていってたよ。一族を守るために自分が囮になってひたすら逃げ回っていた先でこの學園を進学先に選んだって話だった。代々阿部一族は《アビヒコ》を降ろす家系らしいんだよ、これが。《悪魔憑き》としては親近感湧いちゃうじゃん?」

「お前はその家系を自分の代で終わらせるつもりなのにか」

「だからだよ。俺みたいに《悪魔》を返り討ちにするために邪教に手を出したら、先祖を救うためにどうにか負の遺産を破壊しようとする先祖思いな子孫を殺しちゃった俺には眩しすぎた」

「八坂ッ、それはいったい......」

「いや、大人の話はちゃんと聞くべきだよねって話だよ。なんでみんな馬鹿正直に体を明け渡すのか不思議でならなかったんだ。簡単な話だったんだけど。いつも間に合わなかったんだよ、俺達が《悪魔》って呼んでた子孫は。《訓練所》の《墓守》って使命から解放されない限り、皇七一族は未来を知ろうとする連中が邪神に目をつけられるのを防ぐために一生を捧げようとする運命は変わらない。たったそれだけをつたえるために信頼をえるために未来予知に似たことをしてきた。ひきかえに寄ってくる宇宙人に対する排除方法を伝えてきた。子孫はいつでも先祖のことを考えてきたのに、いつしか信頼は歪な信仰をよび歪曲し、平気で自分の子供を捧げるようになった。そりゃそうだよな、女の子ひとり捧げれば皇七一族は安泰なわけだから。それを俺はこの手で終わらせたんだ」

皇七は自分の手をみつめる。

「俺は邪教の魔術に手を染めた。子孫の魂を奪い取って俺が乗っ取った。死にたくなかったんだ。死にたくなかったんだよ」

「いつだ......それはいつだ、八坂」

「16の時だよ。ほら、《悪魔憑き》になった日。当主になった日」

「なんで言わなかった。たしかにあの時は《生徒会》の過渡期だったかもしれない。だが、お前ひとりで抱え込める案件じゃないだろう」

「わかんない......わかんないよ、そんなこと。俺はずっと16の誕生日が命日だと思って生きてきたんだ。死にたくない一心で《悪魔》を殺して、その魂の記憶を奪い取ったんだ。そしたら、やっと死にたくないって抗ってくれるやつが現れたって喜ばれたんだよ!意味がわからない!初めから子孫は死ぬ気だったんだ!魂を上書きしたから、俺に時々そいつに送られるはずだった未来の子孫の家族から言葉が送られてくる。真相を知らされた時点で俺は宇宙人に追われない体になっていた。どうしろっていうんだ!今でこそ、江見のおかげで帝等はなんの疑問も抱かないまま話を聞いてくれるだろ?でも3年前のあの日、話したところでどれだけ聞いてくれたっていうんだよ!!」

皇七は、阿門の襟もとを、力まかせに――極度な怒りをこめた腕で――捻じ切るほど締めた。今までの積み重なってきた不平や不愉快が一時に大爆発して、洪水が決壊する勢いで阿門に喰ってかかった。

今にも泣きそうな顔でまくし立てる皇七に阿門は名前を呼ぶことしか出来ないのだった。





「───────というわけだ。皇七は阿部に許可したから《訓練所》があいた。《長髄彦》の件は知らなかったから、たまたまが真相らしい。阿部は《アビヒコ》の息子を解放してやりたいという願いを叶えるために《訓練所》に潜っているようだ」

阿門の話を聞いた葉佩は険しい顔である。

「《天御子》も喪部銛矢もそうだけど
ほんとに関わった人間を不幸にしかしない連中なんだな......。でもよかった、阿部って悪いやつじゃなさそうだな〜。よし、今度会ってみることにするよ」

「そのことなんだが、皇七から条件があるそうだ」

「え、なになに?」

「《訓練所》の壁画に関しては、翔を通してなら交渉する気があるらしい。だから、退院したら連絡してくれと」

「了解、了解ッ!翔ちゃんも知らない間にまたひとり救ってたんだと知ったらすっげー喜ぶと思う!奇遇だな〜、翔チャンからもメールがあってさ。翔チャンを精神交換した宇宙人の力があれば、やばい宇宙人を回避出来るから《訓練所》の攻略に集中してくれってあったんだよ〜。よし、これで懸念材料は阿部だけだなッ!」

「......そうだな」

阿門はどこかほっとしたように笑った。そして皇七から聞いた阿部の進捗を聞いて驚くのだ。葉佩の先をいっている。

「しっかしすごいなァ、阿部のやつ。話を聞いてるかぎり素人なんだろ?なのに先行っちゃうとか才能ありすぎないか?これは《ロゼッタ協会》が欲しがりそうな人材だな〜」

「む......そんなにか」

「喪部銛矢に追われてるってところも気になる。話が聞きたいな〜」

「おい、葉佩」

「ん〜?」

「一応聞くが、お前にその気がなくても、《ロゼッタ協会》が阿部を喪部銛矢探知機に使う可能性は0か?」

「《レリックドーン》や《エムツー機関》に拉致されて人体実験されるよりはマシだと思う。特に喪部銛矢はめっちゃその気みたいだし」

「おい、葉佩。場合によってはうちの生徒に危害を与える気だとしてうけてたつぞ」

「やだな、言葉の綾だよ言葉の綾。でもこの學園卒業してからは阿門の管轄外だよな。よし、了解」

「......通りで八坂が黙っていたわけだ」

「あっはっは、なんでかみんな忘れがちだけどさ、俺は救世主じゃなくて《宝探し屋》だからな?そこんとこ一番忘れちゃいけないと思うよ」

「そのとおりだ。肝に銘じておくとしよう」

阿門は呆れたように笑ったのだった。

「お前のようなやつだから、救われたんだろうな」
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