「ほんとに役員みんな集めてきたんだ〜?本気だな、阿門」
「ああ」
「了解、了解。そこまで言うなら俺はなにもいわないよ。で、俺は何すりゃいいのさ?」
「新聞部部長に任命する」
「あーはいはい、そういうことね。《生徒会》に情報提供する立場の人間として3年間よろしくね、みなさん。といっても俺は役職もらえなかったし〜、主に新聞部として会うことになると思うから最初で最後かもしれないけどね」
握手を求められ、皆守は拒否した。
「うーん、参ったな。君が実働なんだろ?俺の情報1番使うの君だからね?」
そういわれてしぶしぶ握手した。それが出会いだった。
「阿門様とどういう繋がりなの?親しそうだけれど......」
「ああ、幼馴染ってやつだね。皇七一族は阿門一族に代々《力》をもらう代わりに手足となる契約をしてるんだ」
「!」
「あ、余計な気を回さなくていいからな、俺女の子が好きなんだ」
「それはそれは......」
「......どうかしらね」
「ほんとだよ。だから皇七家は俺の代で終わりなんだ」
ニコニコ笑いながら言い放ったのが最初だった。
「それからずっと《生徒会》の監視体制は皇七が管理してるはずだ。具体的にどうやってるのかは知らなかった」
「ほんとに?」
「あァ」
「まあ、さっきの反応みるに甲ちゃんが知らなかったのは事実みたいだからいいけどね。でもさァ、阿門は《訓練所》のこと知らなかったわけだろ?皇七ってほんとはどんな家なんだろ〜な〜」
「さあな......」
「ま、聞いてみるのが1番早いか。よーし、とうちゃ......」
「待て、九ちゃん」
「ん?どったの甲ちゃん」
「どうやら先客がいるらしいぜ」
葉佩は皆守と物陰に隠れることにした。
「八坂さん、八坂さん。あの時、なにしてたの?」
「よくぞ聞いてくれました!実はさ〜、血相変えた《生徒会》のみなさんが、必死でスコップもって掘り返してたからスクープの匂いがしたんだよ。だから気合い入っちゃって。だって地震のあとに謎の光の柱だぜ?宇宙人でも出たのかってテンションあがってたときにこれだからさ」
テーブルの上にはたくさんの写真がある。
「ま、《生徒会》の許可がないと発行できないけどな〜」
「なにをしている」
「お、噂をすれば阿門じゃーん。なーなーこないだの墓を掘り返してたやつ、記事にしていい?」
「却下だ」
「まじかあ......仕方ねーなあ」
がっくり肩を落とした皇七はしぶしぶ写真を片付ける。
「あれ、その箱なあに?」
「ああこれか?《生徒会》ファンクラブ用のストックだよ、ネタには事欠かないからな。これでもトップだから」
「えっ、八坂さんって《生徒会》ファンクラブの会長だったの!?」
「非公式だけどな〜。こういうのは要領よくやらなきゃ損だろ?なにごともさ」
ふっふっふ、と笑う皇七に八千穂は意外だとばかりに目を丸くした。
「皇七、次の記事について話がある」
「あ、あたしお邪魔みたいだね。じゃあそろそろいくね!」
「またなー」
「うん!ばいばい!」
去っていった八千穂を見送って、皇七は阿門を見上げた。
「で、話ってなに?」
「先程送ったメールの件だ。《生徒会》は今後《遺跡》付近の立ち入りを全面的に禁止する」
「原因はどうすんの?崩落?地盤沈下?」
「調査中だがだいたいその辺で落ち着くだろう」
「あの光はどう説明すんのさ。かなり目撃者いるんですけどー?」
「太陽柱(たいようちゅう)だ」
「朝焼けなのに?」
「ああ」
「まーた無茶苦茶なことを簡単にいってくれちゃってもー、記事書く身にもなってくれよなー」
「それができるのがお前の《力》だろう」
「まあね。ペンは剣より強し、だ。えーっと太陽柱ね」
皇七はポケットのメモを取り出すとかきはじめた。
「大気光学現象の一種で、日出または日没時に地平線に対して垂直方向へ、太陽から炎のような形の光芒が見られる現象を言う。ダイアモンドダストと同じ原理だ」
「えーっとちょっと待てよ......あ、ほんとだ。すごい、それっぽいじゃん。よくもまあ見つけてこれたな」
「葉佩からの提案だ」
「ほうほう!ほんといいこだよね、葉佩。感心するよ」
「で、なんのつもりだ」
「なにが?」
「俺は待機しろといったはずだ。なぜ勝手に森に向かった」
「うっわ、聞いてたのかよお前」
「迂闊にも程があるぞ」
「仕方ないだろ、境のじいさんが本性表しやがったんだからさ」
「なんだと?」
「あのおっさんも《ロゼッタ協会》の《宝探し屋》だったぜ」
「!」
「ほらよかった。たぶん、あの爺さんが探してたのが阿門が知らなかった《遺跡》の入口なんじゃねーかな。ほら見る?」
阿門は苦い顔をした。
「俺が阿門のふりになるようなことするわけないだろ、ちったー落ち着け」
皇七は朝焼けの中、墓石に隠してある入口に入っていく境をうつした写真をみせた。ためいきをついたあと、阿門は口を開いた。
「《親衛隊》の件だが......」
「おー、もしかしなくてもそれが本命か?」
「《生徒会》や執行委員の顔がわれている今、學園の平穏を取り戻すためにもお前の《力》が必要になる。引き続き頼む」
「了解。まあ、仕方ないとはいえ外部機関の出入りが激しくなっちまったもんな、おつかれさん」
「皇七」
「なに?」
「この中に入ったか?」
「いんや?」
「用務員以外に入ったやつは?」
「あー......《石研》の石田が見つけたみたいだな。ほら」
初めから準備してあったとおりに写真を渡してくる皇七に阿門は視線をおとした。
「それも《予知》か?」
「まあね。最近、電波の受信がすこぶる悪くてさ、ポンコツにも程があるんだけどやっと繋がったと思ったらこれだよ。勘弁して欲しいよな。《予知》出来なくなったらまた周りがうるさくなるってのに」
皇七は肩をすくめた。
「それほんとかよ、皇七」
「おっと......」
「葉佩に皆守か......」
「なんか魔術に傾倒してるみたいだけどさ、《訓練所》全体に認識阻害の魔術かけといてそれはどうなんだよ」
「───────!」
「うあ......よりによってこのタイミングで来るか......」
「おい、皇七」
「皇七、それはどういう意味だ」
「どうもこうも......こっちの台詞だよ、葉佩。なんで《宝探し屋》ってやつはやぶ蛇したがるんだろうな?こっちがどんだけ苦労して守ってると思ってんだ。江見の言葉を借りるなら、未来を見るって行為は万物の法則に反するんだよ。それをしたが最後永遠に宇宙人におっかけられることになる。俺の一族は代々そうやって守ってきたんだ」
「あれ、その様子だと《訓練所》開けたのは皇七じゃないのか?」
「そんなわけないだろ?誰が開けるんだ」
「でも《長髄彦》に頼まれちゃってるしなあ」
「それは百歩譲って許すよ。でもずっとは待たないし、それ以上は許さない。イスの技術があるなら考えたが江見が離脱したから交渉する気は無い。俺は誰も殺したくはない」
「話が見えないんだが......」
「皇七があの《訓練所》の管理者の末裔ってことでいいんだな?」
「まァ、そういうことだね。天竺の果てからこの地に追放された神官の末裔だ」
「!?」
「俺だって知ったのは3年前だよ、皇七の当主になってからだ。盟約の関係とはいえお家騒動に巻き込むわけにはいかなかったんだよ」
「..................」
「お家騒動って?」
《悪魔憑き》という言葉が日本で一躍巷間に知れ渡るようになったのは、1973年に制作された映画『エクソシスト』がきっかけである。世界中にセンセーションを巻き起こし、空前の大ヒットとなったこの映画によって、多くの日本人は初めて「悪魔憑き」という現象と、それに対処する「祓魔師=エクソシスト」という存在に触れた。
『エクソシスト』は実際に起った事件をモデルにしていると噂されたものだが、もちろん娯楽の殿堂ハリウッド製のホラー映画であるから、その内容にはおどろおどろしい誇張や派手な演出がふんだんに取り入れられていた。つまり、あの映画で描かれるエクソシストと悪魔との闘いは、必ずしも現実に即したものではなかった。
少なくても皇七八坂(すめらぎやさか)にはそうではなかった。
一般的に悪魔憑きとは憑依の一種で、心身を悪魔に乗っとられたかのごとく周囲に害悪を及ぼす行動、またはそのような行動をとる人のこと。
悪魔憑きの者は、凶暴に振る舞い、邪魔な人を滅ぼしたり呪い、本来その人が決してしないような行動を取ったり、周囲の人にも同様の行動を取るよう仕向けたりし、その結果周囲の人々との良好な関係が破綻したりその人の魂が破滅に陥る(自殺など)といわれる。また、悪魔憑きの周囲では、自然・動物も異変を来たすともされる。
悪魔憑きと誤解される原因として、パニックのような極度の興奮、トランス状態、睡眠時遊行(いわゆる夢遊病)といった心理状態・現象に起因するもの、てんかんの発作のように身体的疾患に起因するもの、統合失調症、妄想性障害、解離性障害、双極性障害、虚偽性障害、ミュンヒハウゼン症候群など精神疾患に起因するもの、アルコール依存症や幻覚剤など薬物の影響によるもの、単に意図的な演技によるものなど様々なものが考えられる。
科学的見地からみた悪魔憑きへの対応としては、科学的には悪魔憑きの原因として、一時的な興奮状態のように時を経れば収まるものから、適切な医療処置が必要な深刻なものまで様々なケースが考えられる。
皇七家にとってはいずれでもなかった。皇七家はかならず女が生まれる。男は生まれない。そして長女は代々16歳になるとかならず気が触れてはるか未来から来たと主張する女の精神に乗っ取られてしまうのだ。本来の精神は食い潰され消滅してしまう。そして、皇七家はその女の知識により代々繁栄してきた。バブルも失われた10年も乗り越え、これからくる情報化社会に向けて動き出している。
「......お前は男だろう」
天香学園初代校長が勲章を授与された式典のあと、阿門邸で開かれたパーティにて阿門帝都はそういった。
「そうだよ、本家に男は必要ないから俺はスペアにもなれない。これから生まれてくる《悪魔憑き》になる運命の妹になにもしてやれない。俺は生まれてすぐ分家に里子に出されたからな」
《悪魔憑き》って知ってるか、と声をかけてきたのは、主賓たる初代校長がつれてきた孫だった。いずれ阿門家のために《力》になるからと顔合わせにきたのだ。使用人かと思っていたらまさかの同い年の少年だったから驚いたのだ。《力》になるの意味をまだ阿門は知らない。
「あんたの《力》でなんとか出来ないか?」
子供同士の交流目的のため、端の方で内緒話をしても執事はニコニコとしているくらいで誰も気にはとめない。
「《力》......?」
阿門がこの邸宅に来るのは久しぶりだった。未熟児として生まれた阿門は体が弱くいつもは天香学園の敷地外にある邸宅に母親と執事と住んでおり、今回の晩餐会のため久しぶりに父親と顔を会わせたのだ。そのためまだ阿門家の秘密について次期党首でありながら阿門はまだ知らなかった。
阿門の様子を見た皇七は肩を落とした。
「ごめん、まだ知らないみたいだな。《力》について教えてもらったら、思い出してくれ」
残念そうにいわれてしまい、阿門は問い返した。
「なぜお前が阿門家の秘密を知っているんだ?女しか受け継がない力なんだろう?《悪魔憑き》は」
にやっと皇七は笑った。
「よかった、阿門家の次期当主様はちゃんとおツムが回るらしい」
「なぜ試すような真似をした」
「当たり前だろ、俺はいずれアンタの傀儡になるんだ。それとひきかえに忌み子として抹殺されるところを保護されるとはいえさ、馬鹿だったら嫌じゃないか」
「傀儡......?」
「いずれわかるさ、いずれな」
「さっきの相談は嘘なのか」
「それは嘘じゃないよ。俺が一子相伝の《悪魔憑き》なのが認められないで追放した本家に取り残される運命の妹が可哀想なのは事実だ」
「お前はどうしたいんだ」
「俺が皇七家の当主になりたい。そりゃそうだろ、誰が好きで16になったらお前は死ぬっていわれながら、可哀想だからって蝶よ花よと育てられたいと思うんだよ。妹は16になってもまともなままなんだぜ、悲惨すぎる。それまでにはなんとかしたいんだ」
「まさか、それも見えているのか?16で《悪魔憑き》になるのに、もう才能に目覚めてるのは何故だ?」
「知らねーよ、そんなこと。男が《悪魔憑き》になるなんて前代未聞らしいからな、早熟すぎて覚醒しかかってんじゃねえの?そのうち俺の体から皇七八坂は死ぬんだ。なら残された妹のためになんとかしてやる方が優秀な兄ってやつじゃないか」
「..................俺になにを望んでる」
「俺を肉体的に女にして欲しいんだ。そしたら全部丸く収まる。《悪魔憑き》のせいで体がかわったことにすればいける。あとはこの計画に関する記憶をアンタに差し出せば完了だ」
「......そんなことが、できるのか?」
「できるさ、アンタは阿門帝等なんだから」
皇七の計画がいかに自己犠牲に支えられているかを阿門が思い知るのは、のちに父親から《墓守》という重大な使命を引き継ぐことになる数年後のことである。
「皇七......思い出したのか」
「《墓》の呪いが解けたから俺も解放されたんだよ」
「......そうか」