空から落ちてきた歴史3

「よォ、九ちゃん。その......ちょっと付き合ってほしいとこがあるんだが。一緒に来てくれるか?」

「甲ちゃんがわざわざそんなこというなんて珍しいな。ど〜した?またなんかあったのか?頼ってくれるなんて嬉しいなァ〜!」

「まったく、お前って奴は......。行先ぐらい聞くだろ、普通。まァ、そこがお前らしいっていえばお前らしいが......」

「んん?だって甲ちゃんがそんなこというなんて、ただごとじゃないだろ?」

「まァ、即答するとは思ってたが。そんなにお前が心配するような場所じゃないから安心しろよ」

「そうか?ならいいんだけど」

「悪いな。実は、職員室なんだ」

「へ?」

葉佩は目が丸くなった。

「まったく......高校三年生にもなって、職員室に呼び出しとは格好悪くて、人に言えたもんじゃないからな。今までの教師の時は無視していたんだが......今回のテストで国語が赤点とっちまってな......」

「あ〜......初日の三限目だったもんな〜......眠気が最高潮なやつ......!俺も久しぶりに平均点とっちまったわ」

「九ちゃんはいいよな、テスト悪くても温情があるんだから」

「そりゃ授業サボろうとしたり、宿題テキトーにやったりしてる訳じゃねーもん」

「ぐっ......」

「蓄積が違うよ、蓄積が」

「はあ......」

「もしかして補習?」

「単位やらねえと言われちまってな......。だが俺はどうも職員室ってのが苦手でな......。1人だとどうも億劫になっちまいそうだから見守ってて欲しいんだよ」

「りょーかいッ!そういうことなら任せとけッ!逃げようとしたら全力で止めてやるよ!」

「全力じゃなくてもいいが人の目があった方がいいと思っ......いや、そこまで全力じゃなくていいからな。銃火器しまえ。はあ......九ちゃんに殺されないうちに行くとするか」

葉佩と皆守は連れ立って職員室に向かったのだが、皆守は職員室の手前で皆守の足が止まる。

「う〜ん......」

ガシガシ頭をかいている。

「開けてやろ〜か?」

葉佩がドアをあけようとしたとき、あわてて皆守がドアをあけた。

「おおう、甲ちゃんがんばったな」

「......あのなァ、少しは心の準備をさせてくれよ」

「え〜?甲ちゃんのいう見守るってただ見てることじゃないだろ?だからそうして欲しいのかと思って」

「......はあ」

皆守はため息をついた。そして職員室に足を踏み入れる。葉佩に付き合ってもらっといて悪いが、やっぱり行くのはやめようかと考え始めていたところを見抜かれてしまった。皆守自身わかってはいるのだ、今更律儀に出向く必要は無いだろう、適当に誤魔化せばいいと思考が誘導してくる一方で。

いつ《レリックドーン》が強襲しにくるのかわからないし、葉佩が《遺跡》の新しい区画に潜ろうとするのかわからない。今の状況を考えたら葉佩と共にいた方がいい。補習なんて悠長なことをしている暇はないと冷徹な理性が両断してくる。怠惰な本能を少しだけ皆守の意思が上回った。

「失礼しま〜す」

「......」

「ヒナちゃんセンセ〜ッ!甲ちゃんときたよ〜」

「おい、九ちゃん」

「皆守くん、来てくれたのね。ありがとう。葉佩くんが連れてきてくれたのかしら?」

席を立って近づいてきた担任に皆守はがしがし頭をかいた。

「違うよ、甲ちゃんが自分で行こうとしてたとこに俺がくっついてきただけッ。な〜?」

「九ちゃん......。まあ、そんなところだ」

「あらあら、そうなの?本当に2人は仲がいいのね。じゃあ、皆守くん、奥の応接室に行きましょうか」

「あれ、補習がどうのじゃなくて?」

「それもあるんだけど......」

「俺は別にどこでもいい」

「そう?なら......」

雛川はこのままだと卒業に必要な単位が本当にギリギリになるため、救済措置を講じたいといってきた。葉佩の影響で全ての科目の授業の出席率が上がっていたことから、更生の余地ありと教師間では評価がかわってきたらしい。

皆守は単位をとるのに必要な授業時間数が少し不足の程度にまでなっているため補習。成績不良のため追試や課題提出が課されることになるという。

ただ、瑞麗先生の診断で病名がついている上に診断書が出ている。その分を欠席にカウントしない。そうでなければ、出席日数は補うことはできなかっただろうとのこと。

「補習、追試......いつだ?受けることは受けるが放課後はよして欲しいんだが」

「え?でも......」

「雛川もわかってんだろ、九ちゃんの《遺跡》探索、だいぶ佳境なんだよ」

「甲ちゃん......ッ!」

「ふふっ、そうね。この課題、来週までに提出してもらってもいい?そうすれば冬休みと三学期の放課後でどうにかできるかもしれないわ」

「......こんなにか」

「ええ、こんなに。皆守くん、いつも来てくれないから増えに増えてこの量なの」

ほかの科目の課題まで預かっているとは準備がいい雛川である。

「......わかった、やる......」

皆守はげんなりとした様子でため息をついた。

「ところで2人とも、ちょっとしたアンケートに協力してもらえないかしら。あなたたちにとって、一番興味があるのはどれかしら。古典?言語学?受験?それ以外?」

「俺は古典かな〜。この国の歴史あんま知らないから新鮮なんだ。すっごい楽しいよ」

「まあ、そうなの?古文って文法が難しいから敬遠されがちなんだけれど。そういってもらえるなら、カリキュラムにもっと取り込んでもいいかもしれないわね。ありがとう、葉佩君。参考になったわ」

「こんな話した後でアンケートとか言われてもな......」

「うふふ、皆守くんって正直な子ね。先生の前でそんなことをいうなんて。でも、勉強は学生の本分よ。先生も楽しく学んでもらえるように努力するあら、一緒にがんばりましょうね」

「......あァ」

「それじゃあ俺たち失礼しま〜す」

「はい、来てくれてありがとう。皆守くん、課題はそれぞれの先生に渡してね」

「......わかった」

葉佩と皆守は職員室を出た。

「まったく、今日は朝から散々な一日の始まりだ......これ以上サボれないとは思わなかった......」

「手遅れじゃなくてよかったじゃん。寝坊しないよう起こしに来てやるから安心しろよ!」

「叩くな叩くな、お前は手加減てものを覚えろ」

「え〜、いいじゃん。甲ちゃん本気で嫌なら避けられるだろ〜」

「あのなァ.....。ああくそ、今から保健室って気分にもならないな......よかったらちょっと屋上に寄っていかないか?」

「え、屋上?あ〜、そうだなッ!太陽の光浴びたらちょっとはやる気出るかもしれないし?」

「ああ、たまにはまともに朝日を拝んでみたくなったんだ。行こうぜ、九ちゃん」

皆守に誘われて葉佩は屋上に移動した。

「日が昇るのもずいぶんと遅くなってきたが、この時間になるとさすがに明るいな。お前が転校してきてもう3ヶ月か、もう12月だもんな」

「あっという間だよな〜。甲ちゃんたちと初めてあった時のことほとんど記憶の彼方だわ」

「それはどうなんだよ、少しは覚えてろ」

「え?だって毎日が楽しすぎてさ〜、あっという間にすぎちゃうから」

「お前はまァ、そうだろうな。毎日楽しそうだ。お前が来てからというもの、俺のペースは乱されっぱなしだ。妙な事件に巻き込まれるわ、授業への出る率は上がるわ、八千穂はよりうるさくなるわ。なあ、お前、多少は責任感じてるんだろうな?」

「え〜ッ、じゃあ責任とって結婚する?」

「そんな顔して誤魔化すな。お前、この状況楽しんでるだろ......。ったく、お前とクラスメイトになった自分の運命を恨むぜ」

「でも悪いことばっかりじゃなかっただろ?甲ちゃんからすれば、過呼吸になっちゃったりして散々かもしれないけどさ」

「そうか......それなりに気にしてはいたんだな。まあ、あれに関しては感謝してるんだ。別枠だろ。まあ、なんだかんだで俺自身楽しんできたようはフシはあるしな。......ちッ。去年までの俺なら間違ってもこんな台詞吐かなかったはずなんだがな......。その......悪かったよ。いきなりこんなこといって。少し気がたってたみたいだ」

「やっぱり俺の影響大きいだろ〜、責任とろうか?」

「調子に乗るな、阿呆」

「痛い!」

「やれやれ......人が真面目に話してる時には茶々をいれるんじゃない。ところで九ちゃんは卒業することが目的でこの學園にいるんじゃないことはわかってるんだが......その先は何か考えてるのか?」

「え?《宝探し屋》するぜ?これからも。これは俺の全てだし」

「やっぱりそうか。お前はすでに天職ってのを見つけてるのかもしれないな。世界を股にかけてお宝探し、か......。なんていうか......楽しそうだよな、そういうのも」

「そういう甲ちゃんはどうなんだよ」

「ここを出て、どうするのか、か?したいことなら漠然とだがあるぜ」

「やっぱあの人のお墓参り?」

「───────......そうだな。あの時、俺は九ちゃんたちに全部任せて何一つできなかった。最期を見ることができなかった。今度は......」

「大丈夫だよ、甲ちゃん。さっきみたいに自分から行動すればだいたいのことはなんとかなるんだからさ」

「はははッ。お前のいいたいことはお前の顔見れば一発でわかるな。そうか......」

「そうそう、人間ってのはさ、何を考えるかで出来てるんだよ。俺たちはだいたいそっから始まってるし、世界は作られてるんだ」

「九ちゃんがいうとそんな気がしてくるから困るぜ」

皆守がアロマを吸おうとした時だ。

「ん、雪か?」

「うわ、やばいやばい。逃げようぜ、甲ちゃん。風邪ひく」

「そうだな、今の時期わりと洒落にならないからな」

そして、3階の教室に移動した葉佩たちは、チャイムがなるのを待っていたのだが。

「黒い雪......?」

ベランダに出た葉佩は手を伸ばす。

「違うな、鉄みたいなものが混じって......砂鉄かな?」

「..................」

あっという間に校庭が黒く染めあげられていく。登校している生徒たちの傘がよく目立つ。それを見ていた葉佩は目を丸くした。

「九ちゃん、あれはッ!」

「瑞麗先生に連絡しなきゃ、なんだよあれッ!?」

「化人か?」

「神鳳とか夷澤んときみたいな《黒い砂》の暴走......?んなわけ......まさか、喪部がなんかやったのか!?」

葉佩がメールを送信後、すぐに返信がくる。

「翔チャンと阿門が......」

「時計塔だと......?またいってたのか」

「みたいだね」

「なあ、九ちゃん。あいつの江見睡院を救うための儀式ってのは、そんなに時間がかかるのか」

「そりゃそうだよ。《如来眼》なら龍脈の恩恵が受けられるはずなのに、精神力をつかう術式しか使い物にならないみたいだしね」

「今、こんだけ大規模な悪魔祓い発動して、それは足りるのか?」

「どうだろうね」

「だよな」

「これ以上翔チャンたちに負担かける訳にもいかないし、行こうか」

「そうだな」

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