神への長い長い道3

《遺跡》の壁の松明が途切れた。ここからは先は江見睡院以外は辿り着けなかった未踏の地だ。真の闇が広がっているが、暗視ゴーグルが視覚・聴覚・触覚を補ってくれる。皆守は夜目が利くだろうが、さすがに明かりが全くない状況では、さすが満足に歩くことさえできないだろう。

葉佩は皆守に明かりになるようなライトを持たせた。だが細かい状況判断はできそうにない。

「まどろっこしいな......」

私たちのやり取りを眺めていた皆守が、イラついた声を上げた。

「なにかいるよ」

回廊の前方、床面中央。大き目の岩かとも思ったが、明らかに人工物だ。中には何も見えない。いや、どろりと溢れる闇よりも濃い黒の粘性、これが本体か。視覚だけに頼っていたら、闇に同化し何も見えなかっただろう。

私の射撃は正確にそれを捉えるも、ダメージを与えた様子はない。ならこちらか。私は宝石を切り替えて、焼いてやる。

「おい、翔ちゃんッ!」

首根っこを掴んで後ろにひきずられる。無理やり闇の中に引き摺り込もうとした黒い液体がさっきまでいた場所に水たまりとなって四散した。奇妙な浮遊感に包まれたあと、私は皆守の腕の中にいた。

「どこ見てんだ」

「ありがとう、甲ちゃん」

「俺のバディはお触り禁止なんですけどー?マナーがなってない野郎は消毒だ!」

葉佩が爆弾をなげる。あたりは一瞬にして腐敗臭が焼ける匂いが充満していった。



そこから先はただひたすらに長い長い回廊だった。《タカミムスビ》の落とし子たちが蠢いている不気味な空間で満たされ、いくつもの石室では世話役の巫女たちがいた。その先で巨大な門の前にはファントムと夕薙が対峙していた。

「......まんまとここまで誘導された気がするが......まあいい。今夜の墓地はいつもより異様な雰囲気に包まれている。やはりきて正解だったな」

「我は、この《遺跡》の奥底───────深い闇の彼方からこの念を送っている者。我が名はアラハバキなり......。お前は我を目覚めさせた者ではないな......貴様は何者だ?我にその氣を感じさせぬとは......。《魂》なき《墓守》とも違う......。お前は死人(しびと)か?」

「死人(しにん)は墓で眠るものだ。俺はただの───────人間だ。お前のもつ《宝》の力を授かりにきた。神の叡智を集積した偉大なる《秘宝》の力を......」

「クックック......、それほどまでに我が《宝》を望むか。お前が口にしたのであろうに、何を憤る必要がある?何を嘆く必要がある?お前もまた大いなる《力》へと一歩近づいたのだ。人の子とはいつの世も変わらず愚かな者よ。大いなる《力》を巡り血で血を洗うか。いいだろう。《秘宝》が欲しければ我が元まで辿り着け。そして我に《秘宝》を得るにふさわしいかどうか我に示してみせよ。成し遂げた暁にはお前に《宝》の力を授けよう」

「やれやれ、やはりその《秘宝》の力っで奴はそう簡単には手に入らないらしいな。しかし、だ。ファントム、アンタはこの門に何の用だ?深淵の奥底から開放されたいならここは無関係だろ」

「......お前にいう言葉はない」

「お前は何者だ?さっきアラハバキと名乗っていたがまさかお前は......アラハバキ神だとでもいうつもりか?」

ファントムは笑うだけだ。

「アラハバキ神は縄文時代末期から弥生時代初期に、東北地方で信仰された異形の神だ。宇宙人、あるいは宇宙服を模して作られたとも言われる遮光器土偶は、アラハバキ神を崇めた民であるアラハバキ族によって作られた神の像だという。この名には諸説ある。元々はアラビア語のアラー(神)とバーキィ(永遠)から成ったもので、永遠の神を意味するとも言われている。宗教改革によってエジプトを追われた太陽神がインドから中国に伝わり、そこで龍神としての性質を得て、日本にもたらされたという。永遠の名を持つ龍神───────広東語では、永遠を意味する数字が九であることから、九龍───────と。そう呼ばれることもある......」

夕薙はアラハバキと名乗ったファントムを問いただす。

「まさかお前は、九龍の氏神なのか?だから九龍を仲間にしようとしているのか?お前が九龍をこの學園に呼んだのか?」

「そんな訳あるかッ!!」

叫んだのは葉佩だった。

「九ちゃん?」

「おい、どうしたんだよ......九ちゃ」

「夕薙、今すぐその質問を取り消せ。いくらお前でも許せない。こんなやつが俺の氏神なわけあるかッ!!」

「九龍......いや、だから俺は関連性を聞こうと......」

「んなもんあるわけないだろ、俺はそもそも日本人じゃない。俺の名前は九龍城から取ったって聞いてる。俺たちがこの世界に存在する証としてようやく香港籍を取得できた悲願の場所だって聞いてる。九龍城がアラハバキ神と関係あるなら話は別だが、俺に氏神なんてものはないッ!守護神なんて俺の人生において存在を感じたことは1度たりともないッ!」

激高した葉佩は吠えた。

「九龍......」

「クックック、お前が我を目覚めさせた者のようだな、人の子よ......」

アラハバキ神は高笑いした。

「ちょうどいい、貴様らのどちらが《秘宝》に相応しいか早々に決着をつけてはどうだ?」

「それもそうだな」

「なっ!?」

やはりこうなってしまうのか、という気分になるが、夕薙は己にかけられた呪いを解くためにそれだけ必死なのだ。方法を模索する中でこの學園の呪いについて噂を耳にして、縋るような思いで今ここにいる。ならば生半可な気持ちで同情することも感傷に浸ることも失礼だろう。私にできるのはただひとつしかない。

「大和......メールであった通りなんだね......。君がそのつもりならオレは全力で止めるよ、友達として」

私の言葉に夕薙は顔をゆがめた。

「君を利用するために近づいたっていうのに優しいな、君は。軽蔑すらしてくれないのか」

「全部、知ってたからね。初めから」

「............さすがだ、翔」

夕薙は葉佩を前にたちふさがる。

「九龍───────悪いが今ここで、俺と戦ってもらうぞ」

「いいぜ、大和ッ!その代わりどうしてなのか、あとからたっぷり教えてもらうからなッ!」

「......いいだろう。お前のその想いが本物なら......お前の持てる力の全てで俺を倒してみろ。お前のその手で《しんじつ》を手に入れて見せろ。俺も俺の信念にかけて手加減はしない」

「は、言ってくれるじゃないかッ!手加減なんて生ぬるい気持ちな時点でお前は負けてることおしえてやるよッ!」

「ならばその力、見せてもらうぞッ」

夕薙は全力でかかってくるつもりのようだ。私は《如来眼》により空間を把握する。門は大気の流動がないから現時点では開くことはできないようだから、その先に逃げる事は考えなくていいだろう。

夕薙は広範囲におよぶ月のエネルギーを集めた衝撃波の《力》がつかえるから、距離を取りながら確実なダメージを狙っていく方がいい。一度《遺跡》を離脱したことで葉佩の武器の消費はなく、準備は万端だ。なら、私が雑魚を一掃してから弱点をさぐる過程で伝えていったらいけるだろうか。

「九ちゃん、カガチが6体いるから注意して」

「了解ッ!大和は俺に任せてあとはよろしくっ!」

「わかった」

皆守は葉佩についていき、私は雑魚の殲滅にかかる。私はまずは挨拶がわりに背中の刺青に弾丸をぶちかました。

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