神への長い道2


「《タカミムスビ》......《タカミムスビ》で間違いないよ、九ちゃん」

「こいつが江見睡院先生の中にいるやつの正体か......」

「おい、2人とも。講釈たれるのは歩きながらでも出来るんじゃないのか?大和があの先にいるってんなら、早く行かないと神鳳の二の舞になりかねないぞ」

皆守が苛立っている。大和から果たし状が来たのに悠長に今まで踏破してきたエリアに寄り道しているからだろう。天孫降臨を再現した碑文や発動したあとのトラップ、壁画、床。紅海のアカウントが停止している今、現地で確認しなければならないから仕方ない。

「気持ちはわかるけど、落ち着いて、甲ちゃん。ここを見てからじゃないとあの先は危険だ」

「なんの関係があるんだよ」

「大ありだよ。オレの御先祖様の記述が魂の霊安室へ繋がってたんだから、この《遺跡》に関係あるやつが登場する場面はなんらかのギミックがあるはずなんだ」

「だから天津神と国津神でどう描かれてるか調べ直したいっていったんだ?」

「そうだよ。あの先には間違いなく父さんか、母さんがいるはずなんだ。母さんは父さんを助けようとして失敗したんだから、大和を助けるためにも二の舞になる訳にはいかない」

「......わかったよ。で、なんで《タカミムスビ》なんだ?」

「アマテラスの側近中の側近だからだよ」

「やっぱそうなるよな〜......喪部銛矢の祖神は天津神側だもんな〜、しかもアマテラスの系譜」

「オレの御先祖様はスサノオとアマツミカボシの混血で、かつては天津神側だったから《遺跡》に忌み嫌われてる。その上、スサノオの系譜だから喪部銛矢に嫌われてる。この《遺跡》は天津神によってつくられたとみて間違いないね」

「アマテラスの系譜が中心でね」

「......わかりやすいように説明してくれ」

「早い話が大和朝廷は宇宙人に支配されていたからこの《遺跡》がつくられたんだよ」

「普通は日本神話だとアマテラスが主人公だけど、実は魔王が憑依していました的な超展開なわけだな」

「もっとそれらしい例えないのかよ、九ちゃん」

「わかりやすいようにっていったの甲ちゃんだろ!?」

「あはは。ともかく、この《遺跡》においては国津神と天津神の関係は逆転することになるんだ」

私は口を開いた。大国主など、天孫降臨以前からこの国土を治めていたとされる土着の神(地神)を「国津神」、天照大神などがいる高天原の神を「天津神」という。

天津神は高天原にいる神々、または高天原から天降った神々の総称、それに対して国津神は地に現れた神々の総称とされている。ただし、高天原から天降ったスサノオや、その子孫である大国主などは国津神とされている。

日本神話において、国津神がニニギを筆頭とする天津神に対して国土(葦原中国)の移譲を受け入れたことを国譲りとして描かれている。ヤマト王権によって平定された地域の人々が信仰していた神が国津神に、ヤマト王権の皇族や有力な氏族が信仰していた神が天津神になったものと考えられる。

だから、天御子という超古代文明に支配された大和朝廷に侵略された人々が国津神、天御子側の勢力がアマテラスということになる。これを前提に読みとかなければならないというわけだ。

「白岐が《六番目の少女》たちから守るよう言われる上に青森出身だろ?白岐は国津神の系譜なんだよ、きっと」

「そうなってくるとアマテラスの側近たる最高司令官が怪しくなってくるわけだ」

「卑弥呼とその弟の関係とよく似てるって説もあるらしいから、なおさらね」

「えっ、まじで?王手じゃん」

「......青森県か」

「喪部がきたとなると、ニギハヤヒの神話をまた洗い直さなきゃなあ......この先になにがいるのかわかるかもしれない」

「それはまた今度だね」

「で、なんでタカミムスビになるんだ?対になるカムムスビは?」

私はタカミムスビについて説明する。

タカミムスビは一番最初の「天地開闢」から「オオクニヌシの国譲り」くらいまでは影が薄い神だ。一方、カムムスビは、出雲神話の時に大活躍しているコトから、元々は別の地方の神様だったんじゃないかと言われている。

タカミムスビが活躍し出すのは、国譲りでアマテラスがワガママを言い出すあたりから。タカミムスビは常にアマテラスの近くにいて、アマテラスの指示は一度タカミムスビに通してから、他の天つ神に伝えられている。

実は、この2柱のカンケイが卑弥呼とその弟のカンケイに似ている。という事で、アマテラスは卑弥呼、タカミムスビは卑弥呼の弟が元ネタ説。なんてのもある。

「《タカミムスビ》は本来は高木が神格化されたものを指したと考えられているんだ。ムスビは生産・生成を意味する言葉で、創造を神格化した神でもある。そいつに符合する宇宙人が父さんが残した古文書にあったんだ。おそらくその宇宙人を模してつくられたやつを《タカミムスビ》と呼んでるはずだ」

ウボ=サスラについて、詳細は伏せながら説明する。本来のウボ=サスラはは粘液と蒸気のなかに横たわっている手足のない不定形の存在であり、アメーバのようなものを吐き出している。冷たくじめじめした洞窟の中に潜んでおり、その洞窟の入り口は南極大陸の氷の割れ目かドリームランドの凍てつく荒野の秘密の入口など探検隊くらいしか行き着かないような場所にいる。

また、古のものはウボ=サスラの体組織からショゴスを作り出したといわれている。

「スライム生み出したのがそいつなら、まんまじゃん......」

葉佩は嫌な顔をした。

「あの古文書には空間と空間を繋げる門の呪文についても書かれていて、父さんはかなり調べた形跡があるから、そいつは《遺跡》のどこかにいるわけじゃない。どこかに門があるんだよ」

「なんでそう言いきれるんだ?スライムはかなり侵食してきてるじゃないか」

「それは封印がとけて活性化してるのもあるとは思うんだけど、そいつが《遺跡》のどこかにいる場合、オレたちはただじゃ済まないんだ。そいつに近づくだけであらゆる物質が溶解するんだよ」

「とける?」

「アメーバ以下の存在に成り下がるんだ。本家はオレたちの先祖だから近づいたら本来の姿に戻ると言われてる。真意はわからないけどね、会ったやつはみんな失踪してるから謎の中だ。ただ、《タカミムスビ》は模造品だから《黒い砂》を取り込んだことがある人間はとける可能性がある。阿門がいってた一夜にして《黒い砂》の影響を一度でも受けた人間がいなくなるのはそのためだと思うよ」

皆守は塩でもなめたような苦いジリジリした狼狽の色を隠せない。言葉が見つからないのか胃が焼けるような焦燥が透けて見える。じっとしていられないほどの焦燥を感じる。何もできないもどかしさに苛立ちだけが募り、無意味な視線で、落着きなく四囲あたりを見廻わしてから、壁画に身体を向けてしまった。

「甲ちゃん、気持ちはわかるけど落ち着こうぜ」

「......あァ、わかってるよ」

久しぶりに皆守がアロマを吸った。そりゃそうだ、こんなこと言われてまともでいられるわけがない。ただ言わなくてはならないのだ、特に皆守には。これからのことを考えてもらう上で。私は続ける。

「《タカミムスビ》の門をここに作ったのは《龍穴》の真上に《研究所》をつくるためだ。《タカミムスビ》の落とし子や他の邪神の遺伝子、古代の人間を遺伝子操作して《永遠の命》について研究したんだと思うよ。本来制御出来ないはずの遺伝子操作ができる邪神まで操作できたみたいだから、出来ないことはなにもなかったはずだ。監視カメラですら影響がでるはずの《タカミムスビ》をどうやって操作出来たのかわからないけど」

「なんか、実験動物みたいだな」

「だから、邪神の名前を出した時に違うと笑ったのかもしれない。それは《タカミムスビ》にしかわからないよ。本来白痴とされてる邪神を模倣したくせに自我がある理由も。ただ素材になった宇宙人の中には学習能力があるやつもいるから1700年の歳月は短くないのかもしれない」

私はため息をついた。

「ここで九ちゃんに残念なお知らせがある」

「今までのくだりでこれから相手しなきゃならないやつについて戦慄してんだけどまだあんの?!」

「むしろここからが本命なんだ。私はがみた過去夢が正しいなら、私の先祖が《タカミムスビ》の門の作成に大きく貢献してた。彼女は《タカミムスビ》に《遺伝子操作の研究のすべて》を《九龍の秘宝》として守らせてる」

「はい?え、ちょっとまってくれよ、はいっ!?」

「そうとしか考えられないんだよッ!モデルの邪神は知性を敵に奪われて、まわりを浮遊する碑文に封じられてるから白痴だって言われてるんだからッ!」

「えええええッ!?勘弁してくれよ、俺の目的その《九龍の秘宝》なんですけどッ!?やだっ、帰りたい!」

「逃げるのはなしだよ、九ちゃん。《遺跡》の封印が風前の灯火の今、門だけが無事な理由がどこにある。門が開いたが最後、元《生徒会執行委員》
も《生徒会》も、一度でもファントムやスライムに接触した人間は例外なく消滅することになる。こんな東京のど真ん中で《タカミムスビ》がもれ出してみろ、どうなるかくらいわかるだろ」

「まじか......まじですか......いや封印といた責任はとろうとは思ってたけどさァ......責任が想像の100万倍重いんですけどォ......」

「ここまで封印といたのは九ちゃんの一助もあったわけだから、最後まで責任とろう。大丈夫、私も一緒だ。父さんや母さんみたいに土壇場で危機的状況に気づいて門を閉じるしかなかったなんて結末だけにはさせないから」

死刑宣告をした自覚はある。皆守も葉佩とは違う意味で顔色が悪かった。

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