劉瑞麗

劉 瑞麗(りゅう るいりー)は、中国出身の天香学園の保険医兼カウンセラーだ。名前の正式な読みは「ソイライ」で、「ルイリー」は愛称。凛とした物腰で大人の雰囲気を持つ美女。おみ足が美しい真っ白な中国服に白衣というどこのエロゲですかといわんばかりのスタイルの良さが最大の特徴だ。

「で、だ」

その日、昼休みであるというのに保健室は閑散としていた。いつもならば、数人の生徒がたむろしているものなのだが。今日に限って、そこにいたのはたった一人だけだった。 私である。瑞麗(ルイリー)先生が皆守たち保健室の常連たちを追い払ってしまったのだ。扉をしめ、鍵をかけ、はたからみたら何が始まるんだろうという青少年のドキドキがあるだろう。私に浮かんでいるのはもっぱら冷や汗だったが。

「やあ、江見。再三の呼び出しをガン無視してたようだが、ご機嫌いかがかね?」

「だってカウンセリングされるような覚えはないんですよ、瑞麗先生」  

取って付けたような愛想の良い声と笑みで、私はそう言った。とたんに瑞麗先生の端正な顔にしわがよる。

「無理して笑う必要はない。特に、私の前ではそんなモノ、何の役にも立たんぞ」

「やっぱりですか」

「そうだ」

やはり心理学ガン振りのカウンセラーにして氣を操るためオーラがみえるという特殊能力の前には私の仮面は無意味なようだった。

「わかってますよ。でもこれは日本で生活するには一番効率的なんだ」

今度こそ、私の表情は抜け落ち、人形のように冷たく生気のないモノに変わる。私じゃない体、しかも異性の体を違和感なく操縦するのはやっぱり疲れるのだ。瑞麗先生がしなくていいといってくれるのは助かる。

「効率的、か。それは著しく偏っている氣のバランスと関係があるのか?この学園に来る前に何かあったのかい?」

「そんなに乱れていますか」

「ああ。だから意識していないと無表情になってしまうんだろう。思考と体の連動が上手くいっていないようだ。なにか不調はないか?」

「不調しかないですよ、そりゃ」

そりゃそうだ。いきなり九龍妖魔学園紀のラスボスに襲われかけて助けられたはいいが精神交換という形でこの世界に飛ばされ、男になって全寮制の学園に放り込まれたのだから。

「ふむ。ここまで氣が滞っているのは見た事がないな。氣は外界と常に行き来しているもので、それが活発な状態を元氣という。何らかの理由でそれが妨げられた状態を病氣というんだが。その場合、君は病気といえるだろう」

私は瞬きした。

「氣は澱みがなく循環しているのが正しい状態だ。でも、普段の生活の姿勢や、考え方や、行動などささいなことがきっかけで氣が滞る。体調だけではなく周囲との人間関係に様々な不調が出る。ここまで停滞しているのは初めて見る。良くまともな生活ができるな、君」

「え、そんなにですか」

「ああ、そうだとも」

「流れを良くしたら戻りますか」

「ううむ......その体と精神のギャップを解決するのは難しいかもしれないな、すまないけれど」

「ああ、それに関しては問題無いですから、大丈夫です。原因と解決法はわかっていますから」

「......やはり、なにか呪いのたぐいかい?」

「呪いではないですね、緊急事態だったので。これは隠れ蓑というか匿い先というか」

「にしては、18年振りに父親に助けを求めたくなるほどの事態ではあると」

「まあ、そうですね。否定はしません。助けてほしいのは事実ですから」

「ふむ......乖離性障害かと思ったんだが、精神と肉体のまとう氣がまるで異なる。やはり君は江見くんの中にいるんだな?女性なのに難儀なことだ」

にやり、と瑞麗先生は笑った。

「ついでにいうと、助けを求める上で江見睡院との共通点が欲しい時点で察しはつくが......《宝探し屋》の体に一般人が入ってしまうのは大変だっただろう。我々の機関に助けを求めてもよかったのではないかな」

「そこまでバレるんですか」

「わかるさ。江見睡院は我々の業界じゃ有名な《宝探し屋》だったからね。もちろん家族がいたなんて話は聞かない。あやかったのかと思ったが、ストレートに父親という設定で紛れ込んでくるとはさすがだ」

「あはは」

笑うしかない。瑞麗先生は《M+M機関》という怪異を探して狩る組織の異端審問官(エージェント)なのだ。《ロゼッタ協会》が宝探し屋のギルドとして秘宝を求めて墓荒らしをするたびに封印が解かれて、インディ・ジョーンズの冒険みたいなことになるたびに化け物とかが出現するため迷惑している。時に協力することもあるが敵対することもある機関なのだ。

「最初に助けてくれたのが《ロゼッタ協会》だし、この体を持ち主に返すまでは現状維持をしなくちゃいけないんですよ」

「そうなのか。なかなかに大変そうだね。ちなみにだが江見睡院が先祖のペンネームを文字ったコードネームだってことは有名だからね。先祖の江見水陰といえば文学作品を皮切りに、通俗小説、推理小説、冒険小説、探検記など多岐に渡る分野に作品を残し、硯友社、博文館など数々の出版社で雑誌の編集発行に関わったことで有名な人物じゃないか」

「詳しいですね」

「18年前に行方不明になるまでは《M+M機関》は彼に何度も煮え湯を飲まされたからな。嫌でも調べたくなるものさ」

瑞麗先生は笑った。

「先祖の影響で彼は考古学的な探検に興味を示し、各地の貝塚や遺跡を発掘して出土品を蒐集する趣味があり、そこから《ロゼッタ協会》に所属するようになったようだからね」

「江見睡院さんの家には敷地内に太古遺跡研究会が組織されてて、太古遺物陳列所を自宅の庭に造っているので影響を受けたといいやすかったんですよ」

「父親に同行して日原鍾乳洞探検や、戸隠山・富士山などの雪中登山にいったともいえるしな。にしては若すぎる息子だが」

「だからこそ探しに来たといえるじゃないですか」

ゲーム内では江見睡院の消息は不明だが、この世界だと歴史の先生として潜入後に行方不明となっているから仮死状態とはいえ生きているのは間違いない。だから私は江見と名乗ろうと思ったのだ。助けられると思ったから。私が名乗れば葉佩九龍だって生きているかもしれないから探してくれる、助けてくれるかもしれないと思ったから。あとはそう、葉佩九龍以外に唯一最深部にまで到達しながら行方不明になった宝探し屋並の実力を得たいという意味を込めて。

ようするに私が五十鈴と相談して作り上げた江見翔という存在自体が葉佩九龍に仲間だとわかってもらうためのてっとりばやい手段だったのである。ついでにこの学園にスムーズに入り込むためのキャラクターでもある。

「でもよくわかりましたね。隠し子かもしれないのに」

「名前にダジャレを使っておいてよくいうよ」

「やけに詳しいですね、瑞麗先生」

「ふふ......いや、な、弟がよくいってたから」

ああ、あの大阪弁の弟さんか。ちなみにそちらは東京魔人学園の登場人物だし、瑞麗先生の所属機関自体は派生漫画にでてくるキーワードだったりする。シェアワールド全開である。

「この国には《醒睡笑》と書いて《せいすいしょう》と読む江戸時代前期の咄本 (はなしぼん) があるそうじゃないか。著者が幼年時代から耳にしたり読書によって得た笑話を集めたもの、しかも笑話集として最古のものの一つで,しかも最大。そもそも江見睡院がコードネームなんだ、その息子が江見翔なんてどう考えても狙ってるだろう」

「これでも笑とかいてショウって名前になるはずだったのを全力でとめた結果なので褒めて欲しいですね、むしろ」

「ふふふ、そうか。《ロゼッタ協会》の連中の中には面白いやつもいるんだな。だが、君の家族は大丈夫なのか?いきなり成人女性が失踪したら心配しないかい?」

「《ロゼッタ協会》の人(の体を借りているイスの大いなる種族)が協力してくれるので大丈夫です」

「そうか......ならいいんだが」

瑞麗先生は私の頭を撫でた。

「同じ女性として今の状況には大いに同情するよ。辛くなったらいつでも来なさい。カウンセリングしてあげよう」

「ありがとうございます」
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