閑話2
割引シールの山から救出してきたベーコンを細長く切り、ひたすら等間隔の隙間を空けて並べていく。そして、横にしたベーコンを上下にくぐらせる。どんどん縦のベーコンと横のベーコンが並び、まるで座布団のような四角いベーコンの塊ができあがった。まるで編み物のようだが、城前は生まれてこの方編み物自体したことがない。キッチンにフランスパンしかないめんどくさがりは、よくネットでググったものを見よう見まねでやってみるのだが、こうやって作ったサンドイッチが異様に美味しそうで再現したら案外上手にできたので暇なときたまにやるのだ。もちろん、こんな贅沢にベーコンが使える日に限る。ベーコンの塊をはしからくるくる丸めていき、フライパンに戻すとき、そのまま広げるのだ。じゅうじゅう焼ける美味しそうな香りが漂ってくる。自分から溶け出してくる油がベーコンをかりかりにしていく。低温でやらないとジブリに出てくるような、異様に美味しそうなやつはできないから困る。ここに卵を落としたいのを我慢して、フライパンから離れた。途中で袋を止めるプラスチックが行方不明になり、結んだり輪ゴムで縛ったりしたが、硬くなってしまった食パンを出す。一人暮らしだとなかなか消化できないが、朝はいちいちご飯を炊く気力が起きないためついついパンを買ってしまう。今回もその犠牲になってしまった食パンを出し、適当なコップを手に取り、ぐぐぐと力任せに押しつける。くるくる回すとそのうち異様にへこんだ食パンができた。

丸い食パンは小さく切って皿に並べて電子レンジに放り込む。

フライパンでいい感じに焼けたベーコンからは、じゅわじゅわと美味しそうな音と焦げる香りが漂い、ふつふつと出てきた油で焼ける泡がはじけている。それを隅の方に追いやり、上からチーズをのっける。そして無理矢理作った平地にバターを溶かし、穴の開いた方の食パンをふたつ並べて、ぎゅうぎゅう上から押しつける。そして焦げ付かないよう回してから、卵を落とすのだ。くりぬかれた穴の中で卵がふつふつと焼かれていく。白身がどんどん熱さを増す。

ちん、とレンジに呼び出しを食らった城前は、レンジから皿を出すとバターを掛けて混ぜ合わせる。そしてまたレンジに放り込んだ。

そしてあわててフライパンに戻り、しばらくしたら食パンをひっくり返すのだ。参考にした動画はチーズをのっけたベーコンもひっくり返していたが、べったりとくっついたチーズでえらいめにあった教訓からやらない。ここまでくるとベーコンはだいぶ縮んでしまう。でもかりかりで美味しい。そして、それをもう一度ひっくり返した食パンの上にのせるのだ。かりかりに焼けたベーコンとチーズとかもう犯罪的な絵面である。美味しいに決まっている。そして、その上からもうひとつの食パンをのっける。いつもなら贅沢すぎて絶対やらないが、今日は冷蔵庫がやれといわんばかりの中身しかなかったんだから仕方ない。致命的に緑が足りないので、ユーリに買わされた野菜ジュースの余りとお説教に懲りて意識的に買うようになったサラダをパックのまま並べればそれなりの朝食になる。

さっさと出せとレンジから呼び出しをうけたので皿を救出、城前は砂糖をかけて混ぜるとそのまま傍らに並べた。

「さーていきますか」

よいせっと半分に切る。半熟の卵に挟まれたチーズが溶け出し、単純においしそうしかでてこない。我ながら上手くできたのではないだろうか。普通に考えたらベーグルとかドーナツの甘くない奴を買ってくればいい気もするが、割引シールのやつしか買わない城前には縁遠い選択肢である。いつもならブランチ代わりに食べてしまうのだが、そうも言ってられないのが悲しいところだ。

「うわあああ!最高の焼き加減じゃん、城前天才?」

「だろ?このチーズがやばいんだよ」

「早く食べよう、城前!チーズが全部溶けちゃう!卵もとけちゃう!」

「わーったわーった、だからせめて手を洗ってこいよ、遊矢」

「うん、わかった。先に食べるのなしだからな、城前!?」

「早くしねーとやらねえ」

「わああああっ、そんな断面みせといて反則だよ!すぐいく、今終わらせるから、待っててくれよ!」

ばたばた脱衣所に走って行った侵入者に城前は笑うのだ。ユーリに負けたから貸しだといったはずなのだが。これきりだ、次はないとも。ただデュエルはいつでも受け付けるといったのは城前である。デュエルしにきた、をデュエルしてあげるからここに住ませてくれと勘違いしているのではないかと城前は思う。ただ数日前に遊矢たちがこの世界にやってきてからずっと拠点にしていたアジトは崩壊し、実質ホームレス状態なのはほかならぬ城前も知っている。柚子ちゃんのところに転がり込むのかと思っていたのだが、どうやらイヴ達と接触を試みていたことをしっかり目撃していた遊矢はこっちを優先することにしたらしい。なら、それなりの立ち位置があるだろうに。ふたつ皿を並べながら城前は思う。

なんでこいつ、おれが帰ってくる前に平然と居座ってんだと。

城前を待っていたのだろうか、ソファの上でうつらうつらしていた遊矢を目撃したときの脱力感ははんぱなかった。揺さぶったら起きたが、いつぞやのように連日の徹夜のように疲労をため込んでいるのか、いろんなことが一気に起こりすぎて精神的につかれているのか。城前がなかなか帰ってこない間、いろいろとぐるぐるしていたようで、城前の私室は遊矢にあらかた詮索されつくしているようだった。これはユーリから話が行ってるな、と嫌でも察した城前である。それにしたってこの無防備さはなんなのだろう。普通はもっとこう慎重にいこうとするだろうに。これは遊矢に押し切られたな、と城前が遊矢と一緒の空間にいるにもかかわらず出てきもしないユーリ達を確認して、ご愁傷様と思うしかない。敵対はしていないけれども、味方ではないとはっきり明言するような背後が不明瞭すぎる自分になぜそこまで入れ込むのか、正直城前は分からなかった。ここまで信頼してくれるのはむずがゆいし、悪い気はしないんだけども。ぼんやりとしている遊矢は城前が帰ってきたことだけを確認できたのがそんなにうれしかったのか、名前を呼んでへにゃりと笑ってそのまますとーんと眠りにおちてしまったのだ。お人好しの城前である。そんな14歳をたたき出すわけにもいかず、ベッドに押しやったのだ。

そして、いつかと同じようにシャワーを浴びてこいと指示して、洗濯物を洗っている間ぶかぶかの服を貸してやり、今こうして朝食をとろうとしてるのだ。あ、おれも人のこといえねーわ、とわいてくるのは自嘲めいた笑みなのか、それとも悪い気はしないという友情なのか、城前にもわからなかった。スーパーの人が刻んだネギを散らして、城前はしれっと遊矢のコップにまた青汁を注いだのだった。

「手、洗ってきたよ、城前!まだ、まだ食べてないよな!?な?」

それは温かいご飯が縁遠い生活を送っていた少年に気まぐれで情をかけたら懐かれたような状況に似ている気がして、さすがに城前は案件じゃねーかこれと冷や汗が浮かんだのはここだけの話である。

「ネギ、全然かかってなくない?」

「つけて食べるんだよ、こうやって」

でろーんとしているチーズをすくって手づかみで食べ始めた城前に、味がついてないんじゃ、といいながら遊矢も手を伸ばした。

「もうこんなの犯罪だよね、美味しいって食べる前からわかってたもん。奮発してくれた?」

「まー、ひとりで食べるよか、だれか居た方が手をかけなきゃなーっておれでも思うよ。さすがにな。なんで女の子じゃねーんだって話だけど」

「さすがにこの状況で女の子だったらいろいろやばくない?」

「それ自分でいうか普通?転がり込んどいて?」

「だって城前なら追い出したりしないだろ?」

「まあ、な」

「だろ?」

えんえん伸びていくチーズがなかなか途切れない。遊矢は忙しそうだ。城前はインスタントのスープでもつけてやりゃよかったか、とガラにもなく思う。

「コーヒーしかねえけど飲むか?」

「牛乳ある?」

「ねえよ、そんなの」

「じゃあ砂糖かミルク」

「カフェラテなら」

「砂糖は?」

「一応あっけどよ、お子様かよ」

「まだおれ14だよ。どこ?」

「そこ」

「スティックのやつだ。城前ブラック飲むの?カフェラテめっちゃ余ってるけど」

「ブラックじゃねーと目が覚めた気しねーんだよな」

「うっわ、ほんとに飲めるんだ。かっこつけじゃなくて」

「おいこらどー言う意味だそれ」

「そのままの意味だけど」

「よしそこになおれ」

「えー、なんだよそれ。褒めてるんだよ?」

「はあ?どこに褒める要素があったんだよ、おまえな」

あきれ顔の城前に、遊矢は笑う。

「ちゃんと野菜食えよ」

「ユーリみたいなこというなよ、城前」

「うっせえ、チェンジされたら面倒だからな。ほらくえくえ。おれも頑張って食うからほら」

「たしかにチェンジは困るな、そうする」

「そうそう、素直が一番ってな」

「ナチュラルに嘘つける人にそんなこと言われても困るんだけど」

「大人は嘘をつく生き物なんだよ、知らなかったのか?」

「まだ17の人がなんかいってる」

「ははっ」

城前が野菜ジュースを飲んで、安心したのだろう。緑の飲み物に口をつけた遊矢は盛大に顔をしかめたのだった。


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