閑話1


「城前、城前、ねーまだー?」

「まだもなにもまだ始まってもねえよ」

「えー、ボク暇」

「おれは暇じゃねえ」

「あいにく私も暇ではないな。少し静かにしてくれ、素良」

「あーもう、こうなったら絶対長くなる流れじゃないか、城前のばーか。だからいやだったんだよ、蓮に会わせるの。ライディングデュエルできない相手に興味ないっていってて、これだもん」

「自分の好きなことに興味をもってくれる初心者を無下にするほど、墜ちた覚えはないからね」

「はいはい、わかってるよ。あーもう、ボク、つまんなーい!」

むくれながら、素良は身長差のある城前の背中に飛びつくのだ。どわっと衝撃に前のめりになるがかろうじて持ち堪えた城前は、なーにすんだ、とぼやく。あやうく舌をかむところだった、あぶないあぶない。だって暇だし、とかまってほしい子供のように、その背中の向こうにある蓮の端末をのぞき込んだ。それはライディングデュエルをしている蓮と、かつて拠点としていたと思われるレーシング場がある。大陸、ということは、城前の知っているファイブディーズのキャラに合わせるならヨーロッパあたりかとあたりをつけていたが、かねがねそれは当たっていたらしい。極東チャンピオンの卵はユーゴだったというこぼれ話までゲットすることができた。これは下手をしたらアニメより強化されたSRがあるのでは。そのギミックからライロでもよく使われる出張セットを思いだし、胸が高鳴るのは無理もない。城前が別の世界からやってきたこと、20年後の未来というべき環境からきたことは、イヴ勢力、遊矢たち、赤馬たちはすべて把握しているのだ。これが何を意味するのかというと、城前は今まで自重してきたデッキ構築のカードプールが全解禁されたことを意味するのだ。

「なあ、蓮、マジでユーゴとのデュエルのデータねえのかよ」

「残念ながら、あのときは私とユーゴの一騎打ちだったからね。この街に映像を残すような環境があると思うかい?」

「うっ、それは。まーしかたねえか、ライディングデュエルだもんな。仕方ねえ、ユーゴとデュエルして確かめるしかねえか」

蓮が己の魂ともいうべきデッキをほいほい他人に見せるような人間ではないと判明した時点で、無理強いはできない。ライディングデュエルをしたこともない初心者なら、まず同じフィールドにたつ者ではないと考えるからデュエルをするつもりはない。にのべもない言葉達である。まあ、世界大会に顔を出すような選手だったことはわかった。スタンディングデュエル用のデッキもあるようだが、蓮はライディングデュエルに強いこだわりがあるようだから、できないものはできないのだ。仕方ない。

「ユーゴとの再戦、今度はおれが見れるようなところでやってくれよ」

「はは、それはどうかな。私もプロの端くれだ、ファンサービスは大切だ。そこは認める。でもそこまで配慮はできないよ。デュエルが見れるような場所にいることを願っててくれ」

「まじかあ。自分で動けと。わーったよ、そこまでいうならやってやる。その白鯨ってテーマ、ぜってえこの目に焼き付けてかえってやるからな」

「怖い怖い。君たちの手にかかればあっという間に私の使用テーマは再現されてしまうんだろう?それは困るな」

「へへ、それがワンキル館の特権だからな。レオ・コーポレーション製のデュエルディスクを使って、フィールドを使ってる以上、すべてのデータはあそこに集約される。おかげでそれを経由しないあんたらのデュエルはどういう挙動をしたかとか、エネルギー解析とか、そういうのしかわかんねえんだよ。帰ったらユーゴのデュエルの記録検証してみるけど、正直無理ゲーだわ。再現できる気がしねえ」

カードすらみせてくれない蓮である。つれないなあ、と城前は残念そうにぼやいた。

「このデッキはライディングデュエルでこそ映えるテーマなんだ。君にはそれを目撃してもらった方が、その真価が分かるはずだからね。今ここで見せるわけにはいかないな」

「うう、仕方ねえな。今日のところは諦めてやるよ、くっそ」

はあ、とため息をついた城前は、その端末で行われているライディングデュエルを眺める。蓮ではなく、おそらくチームを組んでいた決闘者なのだろう。対戦相手との白熱したデュエルが行われている。それをみて、時々、ここはどういうことだ、とか、ここはああじゃないのか、とか。城前の知っているライディングデュエルとの差異が気になるのか、初心者のわりに玄人じみた質問ばかりをぶつけられ、少々蓮は面食らう。まるでライディングデュエルをずっとみてきたファンのような熱心さだと舌を巻いた。そりゃそうだ。世界を何度も救った伝説上のチームの奇跡をずっと3年間追い続けてきたのだ、アニメでも、漫画でも。細かなルールだってすぐわかる。アークファイブのアクションカードありのライディングデュエルともまた微妙に違うルールに、城前は頭がこんがらがってきたのかうなり始めた。あーでこーで、ああだから?うーん、と一人言のようにつぶやいている。

「城前が言ってるのは、アクションデュエル導入前の旧ルールの方だな。私の活躍の舞台は主にアクションデュエル導入後の新ルールのほうだった。だからわからなくなるんだろう」

「あ、そういう扱いなわけね。なるほど。っつーことは、ライディングデュエルに導入されてから結構たってた感じか」

「そうだな、旧ルールよりは新ルールの方がなじみ深いね」

「へえ、そうか」

面白いなあ、と城前は笑う。ワンキル館の広告塔をしているだけあって、やはりデュエルモンスターズの歴史は好きな分野なのだろう。まーたはじまった、と退屈そうにあくびをしはじめた素良とは大違いである。

「お勉強は学校でやってよね。なんでここで歴史の勉強なんかしなきゃいけないんだか。城前って変わってるよね」

「うっせえ、余計なお世話だ」

こっちは実質2回目の高校生なんだぞ、忘れかけてた詰め込み教育のつらさがわかってたまるか、と背中の少年に城前はこっそり思うのだ。

「つーか重い。いつまで乗っかってる気だよ、素良」

「城前がかまってくれるまでー」

「かまってるじゃねーか」

「ほっといてるでしょ、こっちむいてよ、ほらー」

「なんなんだよ、さっきから」

「今度こそ《外神アザトート》と《外神ナイアルラ》の前に勝つから、ボク」

「お、成長したな素良。止めようと思う時点でデュエルは終わってんだと分かったか」

「何度もワンショット決められたら嫌でもわかるっての。なにあの化け物じみた効果。おかしくない?」

「クトゥルフテーマがなんでぶっ壊れてねえと思うのか。こいつらから地球を守ってた旧神ノーデンのぶっ壊れ効果見てみろよ。終わってんだろ。おかげでほんとに禁止行きになっちまったけどな。おかげでデュエルモンスターズで地球を守ってくれる奴が不在というね」

「怖いこと言わないでよ。それよりほっら、デュエルしよう、デュエル!」

「襟ひっぱるなひっぱるな、首締まる首が!」


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