デュエルディスクが点灯しない。いつまでたってもブザーが鳴らない違和感に、故障かなと素良は戸惑いがちに城前を見上げる。なんでこんなときに、という顔をしている素良に、あー、と城前は頬を掻いた。
「どーしたのさ、城前」
「ここっておれの次元を再現してんだっけ」
「そうらしいね。ボクもよくわかんないけど」
「じゃああれだ。ここはじゃんけんで勝負だ、素良」
思わず素良はずっこけた。
「えええっ、世界大会なのにじゃんけん!?なにそれ!」
「仕方ねえだろ、おれの次元にはデュエルディスクねーんだよ!」
「いろんなカード作る技術あるのになんでないのさ!?おかしくない!?」
「うるせえ、余計なお世話だっつーの!」
「もおおお、気分的に盛り上がってきたとこだったのにー!仕方ないなあ、わかったよ。じゃんけんしてあげる」
じゃんけんぽい、と世界大会の会場でまさかのじゃんけんという衝撃に見舞われてしまった素良は、ここまで微妙な気分になるじゃんけんは初めてだとぼやいた。勝利をかざった素良はどーぞどうぞと後攻を選択する。じゃあお言葉に甘えて、と城前は先行となる。
素良が相手である。しかもその上司は城前の次元についてすでに学んでいる。それを前提に控え室でデッキを構築したらしい城前は、素良が今まで見たことがないカードを駆使してがんがんカードを回す。手札が悪いとぼやいた城前は《ライトロード・セイント ミネルバ》、《武人帝ーツクヨミ》、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を並べたところで展開が止まる。《フレシアの幻惑魔》と《深淵に潜む者》をさらに並べる展開を諦めた。うひゃあ、容赦ないね、と素良は目を丸くした。本気だせって言ったのはそっちだろ、と城前は笑う。望むところだ。
そして戦況をととのえる嵐の静けさが訪れた。事態が大きく動いたのは3ターン目からである。
「それじゃあ、ボクのターンだね!いくよ、城前!」
「おう、かかって来いよ!真正面から叩きつぶしてやらぁ!」
「威勢がいいのは嫌いじゃないよ、倒しがいがあるしね。さーて、どう崩しにかかろうかな。ドロー!」
素良はデッキからカードを振り抜く。
「ボクは《ファーニマル・ベア》を墓地に送って、モンスター効果を発動するよ。デッキから《トイポット》1枚を選んで自分の魔法、罠ゾーンにセットすることができるんだ」
デュエルディスクから出てきたカードを引き抜いて、魔法罠ゾーンにセットした素良は、即座に発動を宣言した。
「永続魔法《トイポット》を発動!このカードは@ターンに1度、手札を捨てて発動することができるよ。デッキからカードを1枚ドローして、それが《ファーニマル》モンスターだったら、手札から特殊召喚することができるんだ。ちがったら墓地にいっちゃうけどね。ボクが引いたのは《ファーニマル・ドッグ》だから特殊召喚するよ。さーて、《ファーニマル・ドッグ》が特殊召喚に成功したから、デッキから《ファーニマル・オウル》をサーチして、手札に加えるよ!」
「お、さっそくドロー加速コンボか」
「あ、知ってるんだね。ファーニマルと戦ったことある感じ?」
「うーん、どっちかっつーとそのドローギミックをみたことある感じ?」
「それはちょっと聞き捨てならないな、城前。それって出張ギミックってことでしょ?たしかにこのコンボは強いけどさ、ファーニマルにしかできない動きだってあるんだよ?」
「え?あ、ああ、ごめんごめん。そういうつもりじゃねーんだよ。ファーニマルってかわいいじゃん、見た目。おれの周りには使い手がいなかったっつーか」
「まあ、たしかにボクが使うのと城前が使うのはイメージ違うよね。シラユキ使ってるくせになにいってんのって話だけど」
「うるせえな、優秀じゃんシラユキ」
「カード効果しか見てないのも城前らしくていいと思うよ、ボク」
「おいそれどういう意味だ」
くすくす笑う素良は、展開を再開する。
「で、ボクが《トイポット》の効果で捨てたのは《ファーニマル・ウィング》!このカードはボクのフィールドに《トイポット》があるとき、1ターンに1度だけ、このカードと《ファーニマル・ベア》を除外して、もう1枚ドローするよ!さらにフィールドの《トイポット》を墓地に送って1枚ドローするよ!そして墓地に行った《トイポット》のモンスター効果を発動!デッキから《エッジインプ・シザー》を手札に加える!」
「ここまで召喚権つかってねーとかほんとつえー動き」
「わかる?やっぱ似たような環境の人からの評価ってうれしいね。この時代の人たちってそこまで分かってくれないから物足りなかったんだ。キャンディ食べながらだって勝てちゃうくらいには退屈だったよ」
「おいおい、デュエル飯はやめとけ。カードが汚れるだろうが」
「つっこむとこそこ?否定しないんだ?」
「いやだって、ほんとはバニラ融合や儀式が生まれた時代なんだぞ?そこにエクシーズ、シンクロ、融合なんて特殊召喚のギミックぶち込んでみろよ。そんなの追いつけるわけねーじゃねえか」
「追いつけた人たちが捕獲部隊にいたわけだけどね」
「まあな、そこは否定しねえよ」
「やっぱ城前から見ても黒咲先輩と沢渡先輩って見所あるデュエリストだった?」
「ったりめえだろ」
「気が合うね。ボクも案外気に入ってたんだよ、あの二人。実力ある人は好きなんだ。倒しがいがあるから!」
素良はカードを掲げる。
「さあいくよ、ボクは手札から《ファーニマル・オウル》を召喚して、モンスター効果を発動!このモンスターは1ターンに1度、特殊召喚、もしくは召喚に成功したとき、デッキから《融合》1枚を手札に加えることができるんだ」
「やっぱきやがったか」
「これがないと始まらないからね!さらに手札から《ファーニマル・シープ》を特殊召喚するよ!ボクは手札の《エッジインプ・シザー》とフィールドの《ファーニマル・ドッグ》で融合召喚!今1つのなりて新たな力と姿を見せよ!融合召喚!現れ出ちゃえ!自由を奪い、闇に引き込む海の悪魔!《デストーイ・ハーケン・クラーケン》!」
「げっ」
「あはは、まだまだいくからね。手札を1枚デッキに戻して、墓地にある《エッジインプ・シザー》のモンスター効果を発動!守備表示で特殊召喚するよ。そして《融合回収》を発動。手札に加えた《融合》をもう一度発動!《ファーニマル・シープ》と《エッジインプ・シザー》で融合召喚!悪魔の爪よ!迷える羊を生贄に一つとなりて新たな力と姿を生み出せ!融合召喚!現われ出ちゃえ!深淵よりきたりし悪魔!《デストーイ・デアデビル》!」
初めて城前の表情が戸惑いに変わる。ファーニマルで3000打点の衝撃である。だが素良は勘違いしたようだ。
「そんなに嫌なの?《デストーイ・ハーケン・クラーケン》の効果。ちょっと邪魔な《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》どけるだけじゃないか」
「《武人帝ーツクヨミ》狙わないってことは、その伏せカードはカウンター罠なんだろ、どーせ!」
「大当たり!ついでだから覚えてかえってね。カウンター罠発動《デストーイ・マーチ》!ボクのフィールドにある《デストーイ》モンスターを対象にするモンスター効果、罠、魔法カードを無効にして破壊するよ!ついでに《デストーイ・ハーケン・クラーケン》を墓地に送って、エクストラデッキからレベル8の以上の《デストーイ》融合モンスターを融合召喚扱いで特殊召喚するよ!現れ出ちゃえ!全てに牙向く魔境の猛獣!《デストーイ・サーベル・タイガー》!そしてモンスター効果で《デストーイ・ハーケン・クラーケン》を特殊召喚!これで直接攻撃できないデメリットは解除!ついでに《デストーイ・サーベル・タイガー》のおかげでお互い攻撃力は400ポイントずつアップ!これでどっちも《武人帝ーツクヨミ》の攻撃力を超えられた!さあいくよ、城前!2体で《ライトロード・セイント ミネルバ》と《武人帝ーツクヨミ》で攻撃だ!」
「まずは《ライトロード・セイント ミネルバ》が破壊されたから、デッキから3枚カードを墓地に送らせてもらうぜ」
「うう、嫌な感じだなあ。シラユキ出せるのに出さないの?」
「まだそのときじゃねえからさ!おっと、《ライトロード・モンク・エイリン》が落ちたから《デストーイ・ハーケン・クラーケン》は破壊だ!」
「でも《デストーイ・サーベル・タイガー》は倒れないよ」
「知ってるよ!くっそ−、めんどくせえベエルゼ耐性だなおい」
「耐性つくのは3体融合したときだけなんだから当然でしょ」
「踏み倒しといてよくいうぜ!じゃあ、おねんねしてもらおうか!」
「うげ、やっぱここで来るんだ」
「あたりまえだろ、通してたまるか!こちとらユーリに似たような状況で《置換融合》使われて負けてんだよ!墓地からカードを7枚除外して《妖精伝姫シラユキ》を特殊召喚だ!そしてモンスター効果を発動!《デストーイ・サーベル・タイガー》は守備表示になってもらおうか!」
「うぐぐ」
「これがシラユキライロたる所以だぜ。ついでに《エクリプス・ワイバーン》が除外されたから、《混沌帝龍》を手札に加えさせてもらうぜ」
「げーっ、また嫌なカードが手札にくわわっちゃったなあ。どうしよう。でも
「まだなんかあるか?」
「ないよー。仕方ない、せめてシラユキだけでも破壊するか。デアデビルで攻撃するよ!そしてモンスター効果を発動!1000ポイントダメージを受けてね」
「いってえなあ、くそ」
「これでライフは同じだね。デッキカードを1枚伏せてターンエンド」
「さあ、まだまだデュエルはこれからだ!」
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