前日譚1
社会人である城前が貴重な連休を遊戯王大会の遠征に費やそうと決めたのは、久々にバイクに乗りたかったからだ。バイクに乗るなら自動車を運転する経験を積んでからじゃないと事故りやすいとサークルの先輩にアドバイスされてから、城前が念願のバイクを入手できたのは社会人になってからである。仕事の都合でなかなか乗れないが、定期的に手入れをしては貴重な休みをツーリングに費やしていた。地方から都市で行われる遊戯王の大会に出場するため、遠路はるばるバイクに乗ってやってきた城前は、敷地内の駐輪場にバイクを止め、受け付けに向かった。予定していた時間通りについたが、駐輪場から会場が思った以上に広大で距離があり、初めてやってきた城前は、いまいち道が分からずスタッフを捕まえて案内してもらったのである。ここで受け付けをしてください、とスタッフに案内され、白いテントをくぐった城前を受け付けのスタッフが出迎えた。

「こんにちは、大会に参加したいんですけど、まだ大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ。大会に参加されるのは初めてですか?それともご経験がありますか?カードをお持ちでしたら、こちらにお願いいたします」

「あっ、はい、わかりました。すいません、久しぶりだから忘れてた」

城前が慌ててデッキケースからカードを取り出すと、受け付けの人がそれを受け取り読み取り装置に通す。すぐそばにあるパソコンに表示されるはずのデータが読み込みエラーを表示する。あれ、とつぶやいた彼は何度もカードを通すがエラーコードが表示される。ID番号を入力して城前の名前を入力してみたようだが、該当する人間が見つけられなかったようだ。隣のスタッフも何度かデータを呼び出そうとしてみるが、ことごとく失敗してしまう。困り切ってしまった二人に城前は頬を掻いた。二人は申し訳なさそうに頭を下げる。

「申し訳ありません、こちらで大会を行うのは初めてでして、データの接続が上手くいかないようです。しばらくお時間頂けますか?」

「お手数おかけして申し訳ありません。おかしいな、さっきまではちゃんと出来たのに」

「あー、いいですよ、お気になさらず。久しぶりにカード引っ張り出したから、ぶっ壊れてたんですよ、きっと。もうすぐ大会始まっちゃうし、再発行お願いできますか?」

「え、でも、よろしいんですか?今までのデータが反映されませんが……?」

「いいですよ、そんな大したデータでもないし。いい機会だから新しくします」

「ありがとうございます。それではこちらにご記入いただけますか?」

「あ、はい、わかりました」

特設されているテーブルと椅子に案内された城前は、渡されたA4用紙に記入しようと腰掛ける。プラスチックの板が置かれているようで、下には初めて遊戯王の大会に参加する人向けのルール説明が書いてある。用紙の書き方もあったので、それにのっとって項目を埋めた。どの部門で出場するか、という項目で鉛筆が止まる。お馴染みのスタンダードなデュエルにくわえて、アクションデュエルという項目があったからだ。アニメでお馴染みの単語である。なにかのイベントだろうか。

「あの、すいません。アクションデュエルって、あの(アニメで出てくる)アクションデュエルですか?」

故障の原因を必死で突き止めようと躍起になっていたうちの一人が、城前に話しかけられて顔を上げる。城前がトラブルになりかねない事態を問題にせず協力的だったため好印象を持ってくれたのか、うれしそうによってきた。

「はい、そうです。あのMAIAMI市が世界に誇るアクションデュエルです。こちらの会場で初めて開催することになったんですが、よろしかったらいかがですか?」

「え、事前の申し込みとかいらないんですか?」

「はい、誰でも気軽にアクションデュエルを体験していただこうと思いまして、飛び入りの参加も大歓迎ですよ。スタンダード・デュエルとアクションデュエルは別の部門なので、どちらもご参加いただけますが、いかがですか?」

そういえばこの街は漢字が違うが同じ「まいあみ」市である。アニメの舞台となったとネット上でまことしやかにささやかれている街でもある。なにかとアニメとコラボをした大型イベントを企画し、成功を収めていることが評判になっていたから城前も遠征先に選んだ経緯がある。もっと調べてくればよかった、と城前は思った。もしかしたら、ネットや雑誌で告知された大型イベントだったかもしれない。アクション・デュエルとかいうんだから、某お台場の大型イベントのように特設ステージで実際にデュエルしてるような体験ができるのかもしれない。これは乗っからざるをえない。城前は大きく頷いた。項目にでかでかと〇をしてスタッフに提出する。

「カードの再発行までお時間をいただきますので、アクション・デュエルのルールを説明させていただきますが、よろしいですか?」

「あ、はい、お願いします」

なかなか手の込んだイベントのようだ。細かなルールがあるなんてすごいな、と感心しながら、向かいに座ったスタッフの話を聞く。スタッフは特設ステージを上から俯瞰した大きな紙を出してきた。これはなかなかの大作である。

「それでは説明させていただきますね。アクション・デュエルとは、レオ・コーポレーションが開発した技術により可能となった質量を持ったソリッドビジョンを利用して行う新感覚のデュエルとなります。通常のデュエルと違い、デュエルで使用するカードはすべて実体を持って現れます」

アニメの設定を説明に盛り込むとは、この企画を考えた人は相当力が入っているとみた。ますます公式の大型イベントの気配がする。もっと調べておけばよかったと城前の後悔は深まるばかりだ。アニメを見ている人間にはたまらない演出だろう。

「プレイヤーのみなさまは、アクション・デュエルの会場でデュエルをしていただきます。このアクション・フィールドは、アクションデュエルが終わるまで、他の方が入ることはできません。危険ですので、出入りされませんようお願いいたします。この中からランダムでアクション・フィールドが選ばれます。広大な草原、大海原に沈む神殿、星が輝く塔、幻想的な光景が広がりますので、ぜひその非現実もお楽しみいただけたらと思います。これもすべてソリッド・ビジョンです」

へえー、すごいですね、という城前の言葉と乗ってきた笑顔にスタッフもやり気を出したようで、説明に力がこもる。会場までソリッド・ビジョンと言い切ったということは、某ネットアイドルのように3Dの映像を駆使した本格的なものでも導入しているのかもしれない。特設ステージに案内されるのは変わらないだろうが、実際にデュエルしている気分になるには十分すぎる演出だろう。せっかくアクション・デュエルをしているという設定でデュエルを楽しむのだ、勝手に誰かが入ってきたら興ざめにもほどがあるから、いいルール喚起である。これは駐輪場から大会の会場まで遠すぎるわけだよ、と城前は納得した。

「プレイヤーのみなさまには、アクション・フィールドに設けられているいくつかのルートを移動しながら、デュエルをしていただくことになります。モンスターに乗ってフィールドを駆けまわったり、罠、魔法で妨害をしたり、アクション・カードを拾ったり、アクションデュエルでしかできないデュエルをお楽しみください」

「あ、すいません。質問いいですか?」

「はい、なんでしょうか」

「アクションカードって、モンスターにとってもらっちゃだめですか?こう、ジャンプしてとってもらう、的な」

「そうですね、アクションカードの出現する場所によっては、モンスターとの連携が必要となる場合がございます。ですが、アクションカードはプレイヤーさまの手札にあって初めて有効となりますので、その途中で取られたり、紛失されたりした場合は無効となります」

「なるほど、モンスターにとってきてもらうのもありだけど、取られちゃったら意味ないってことか。わかりました」

「ありがとうございます。アクションカードをどうされるのかは、プレイヤーのみなさまにお任せいたします。使用する、しない、とる、とらない、すべてプレイヤーのみなさまの考え一つでデュエルは大きく変化いたします。アクションカードは、アクションデュエルを面白くするためのエッセンスにすぎませんので、どうか気負いなさらずに楽しんでいただけたらと思います」

「なるほどー。初めてなんで、うまく扱えないと思いますけど、がんばります。えーっと、そうだ。アクション・カードって、どういう扱いになるんですか?」

「アクション・カードはスペルスピード2の速攻魔法として扱います。通常魔法としては扱いませんので、ご注意ください。フリーチェーンですので、いつでも発動することができますし、なにかのカードに発動にチェーンして発動することもできます」

「わかりました、どのフェイズでもいいってことですね。使わなかったらどうなります?使えなくなるとか?」

「いいえ、普通の速攻魔法と同様に、コストや効果、手札制限などで墓地に送られたり、除外されたりされない場合は手札に残ります。拾ったターン内での使用といった制限はございません。なお、使用されたアクション・カードは墓地に送られます」

「わかりました。ってことは、手札に1枚しかもてないってこともない?」

「はい、そうですね。そのような制限はありません。もしかしたら、発動条件に枚数を要求するものもあるかもしれません。アクション・カードは、アクション・フィールドのどこかに合計4枚おかれています。場所は固定ですが、こちらからお教えすることはできませんので、あらかじめご了承ください。アクション・カードは1ターンに1度、プレイヤーのお二人のうち、どちらかしかひけませんのでご注意ください。魔法カードとトラップカードの2種類ございます。デュエルを有利にするもの、不利にするもの、それはカードをとらなければわからない仕様となっております」

「そっか、手札の制限じゃなくて、ターンの制限か。だいぶんルールが違うんだな……わかりました、ありがとうございます」

「ご不明な点がございましたら、お気軽にスタッフの方にお申し付けください」

はい、とうなずいた時、×××からお越しの城前様、という呼び出しが聞こえる。カードの再発行ができたようだ。


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