スケール15 闇よりの使者
「おにいちゃーん!」

ナオが知っている顔を見つけたのか、ぶんぶん大きく手を振りながら、城前をぐいぐい引っ張っていく。

「ナオ!」

ナオの大声が届いたらしい。癖のある赤い髪と黄色い前髪という特徴的な配色をした髪型、まごうことなき決闘者である男の子が顔を上げた。真っ赤な服には大きく星のマークが描かれ、腰のあたりまでのびる白いマフラーがみえる。周囲にいた個性豊かな男の子、女の子は友達だろうか、彼らに声をかけ、ぞろぞろとこちらに向かって歩き出すのが見えた。やがて城前のまえにはたくさんの小学生、あるいは中学生が並ぶことになる。まるで引率の先生の気分だが違うのだ。

「探したんだよ、ナオ!どこにいってたのさ!」

「えへへ、ごめんね、お兄ちゃん。城前兄ちゃんに決闘のやり方教えてもらってたら遅くなっちゃった!」

ね、と満面の笑みを浮かべて城前を見上げてくるナオは、どうやら素良に身体を乗っ取られて決闘したこと、サイコ決闘者の片鱗が開花したかもしれないことを話す気はみじんもないようだ。口をしたが最後、城前が世界大会の代表者選考会という大事な大会を棄権することをナオは誰よりも恐れているようだ。ここまで背中を押されては城前もそう振る舞わざるを得ない。

「そーだぜ、ナオ。うちに来てくれれば、いろいろデッキ構築とかゆっくり教えてやれるっていったのに、我慢できないとかいうから。決闘ブースでさっきまでデュエルしてたんだよな」

「うん!城前兄ちゃんと一緒にカード買って、デッキ作って、戦い方教えてもらってたんだよ、ボク!だから、これからはボクもみんなとデュエルできるよね!」

じゃじゃーんってデッキフォルダを得意げにかかげたナオをみて、彼らはびっくりしている。どうやらナオが誰にも内緒にしているというお母さんのこぼれ話は本当だったようだ。

「城前って、あの、カオス使いの城前さん!?」

「ワンキル館の城前さん!?」

食いついたのは男の子たちだった。紅一点の女の子はあんまり興味がないのか、わからないのか、きょとんとしている。ナオの兄の手を引き、誰なのか質問している。驚いている兄の方は、どうやら城前のことを知っているようで、どういうデッキを使う高校生なのか教えている。こうなると有名税も案外悪くないなと城前は思うのだ。

「お?おれのこと知ってるんだ?」

「当たり前だよ!だって、だって、城前さんのデュエル、この前テレビでみたもん!」

「裁きの竜でふっとばすのかっこよかったです!」

「ありがとな」

遊矢と初めてデュエルしたとき、参加した赤馬コーポレーションの大会のことだろうか。大会の模様がテレビで放送されたはずである。懐かしいなと思いながら城前は笑った。テレビの向こうでよく見る有名人を前にした一般人の反応を向けられると、どうも気恥ずかしくなってしまう城前である。広告塔をしているのだから、知名度はふつうの高校生決闘者よりあるのは当たり前なのだが。

「いいなー、いいなー、ナオ、城前さんが決闘の師匠だなんてずるいよ」

「えへへ、いいでしょ!」

「いや別におれは師匠ってわけじゃねーけど」

「でもアドバイスくれたし、一緒にデッキ作ってくれたし、これからも遊んでくれるよね?」

「まあ、ナオは友達だしな?」

「うん、友達!だけど、先生でもあるよ!」

「そんだけ説明うまくねーぞおれ」

「いいの!ボク、決めたから!今決めたから!城前兄ちゃんがボクの先生ね!」

「いやいや勝手に決めるなよ、ナオ」

まんざらでもなさそうに笑う城前を見て、OKがもらえたと判断したナオは先生って呼んだ方がいい?なんて無邪気に聞いてくる。いやいややめてくれ柄じゃない、とさすがに城前はとめた。不満げなナオである。どうも城前と友達以上の何かがほしいらしい。兄たちにうらやましがられるのがそんなにうれしいのだろうか。よくわからないが城前は先生や師匠って考えるのはいいけどよぶのはやめてくれと念押しした。

「ふっ・・・・・・ついにこの時がきたか。待っていたぞ、我が宿敵!」

ずいっと進み出てきたのは、これまた特徴的な配色の髪型をした男の子である。前髪の一房だけ紫、他の髪の色は銀色、長めの髪からは凛とした切れ目がのぞいている。ナオの兄と同じように腰まである長い紫のマフラーをしており、ノースリーブの全体的に青と黒でまとめられた服を着ている。両腕を拘束具のように黒いリボンが交差しているのは、じつに中学生で発症する黒歴史を彷彿とさせた。

「待ちわびたぞ、混沌の使者城前!いや、光と闇の統合されし混沌という時空から舞い降りし使者よ!俺と同じく覚醒し、魂の誓願である力に目覚めし者よ!俺の名前は黒田、遙か彼方よりの闇からの侵略者だ!お前と戦える日を楽しみにしていた!」

城前は思わず口元がゆるむ。周囲の子供たちはまたはじまったという顔をしているのがまたおもしろさを加速させている。どうやらこの子は現在進行形で黒歴史を発症中のようだ。それなら乗ってやるのがいいだろう。決闘者は黒歴史をはいてなんぼである。さいわい、城前がメディアに顔を出すときは、不遜な態度をとるキャラが定着しているのだ。きっとこちらを求めているのだろう。城前は不敵な笑みを浮かべた。

「威勢のいいガキは嫌いじゃないぜ、挑戦者。俺に相手をしてほしいんなら、名前を名乗れ」

「ぐぬう、なんという威圧!それでこそ俺が挑む相手としてふさわしい!俺の名前は黒田××、ダーク黒田と呼べ!」

「いいだろう、覚えておいてやるよ、ダーク黒田。おれが敗北の味を教えてやるから、それまでせいぜい勝ち進むんだな」

「共に闇に落ちし混沌を宿す者同士、惹かれ会うものがあるということだな。いいだろう、その言葉、そっくりそのまま返してやる!」

「待ってるぜ、挑戦者。その威勢の良さがどこまでつづくか見物だな、あははっ!」

ひとしきり笑った後で、城前は時計を確認する。

「さて、もうすぐ時間だ。失望させてくれるなよ、ダーク黒田。お前もヴェルズ使いだというのなら、おれが唯一従う女のテーマを使うんだ。生半可なデュエルをしてみろ、全力でぶっとばしてやるよ。覚悟しておけ」

きっとナオが言っていた、今年から中学生になり城前と同じコースに初挑戦するナオの兄の友達はこのダーク黒田だろう。ヴェルズといえば、ワンキル館の館長が好んで使うテーマなのである。城前が今回使用するライトロードにとって天敵とも言うべきテーマであり、エースを擁するテーマ群なのだ。宿敵という言葉は間違いなくあっている。城前からの発言に背中がぞくぞくしたのか、黒田という少年はもちろんだ!と威勢のいい言葉をかえした。中学生でヴェルズを使うとはなかなか珍しい少年だが、きっと中二的な世界観とヴェルズのテーマとする侵略者、宇宙人、そういった設定がお気に召したのだろう。それなら城前も求められているカオス使いとしてデュエルに挑むだけである。こういうのはノった者勝ちなのだ。羞恥はあとからついてくる。

開会式をはじめるというアナウンスが場内に響きわたる。参加者は集まるよう促され、城前はゆっくりと歩みを進める。

「城前兄ちゃん、がんばってー!」

「ああ、がんばってくるぜ」

ウインクひとつ、手を振った城前に、ナオは大きく手を振って見送った。



prev next

bkm
[MAIN]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -