『深淵の闇より解き放たれし魔王よ、その憤怒を爆散させよ《えん魔竜レッド・デーモン アビス》!』
『泰山鳴動!山を裂き地の炎と共にその身を曝せ《えん魔竜 レッド・デーモン ベリアル》!!』
『孤高の絶対破壊神よ!神域より舞い降り終焉をもたらせ!《えん魔竜 レッド・デーモン カラミティ》!!』
城前のターンだというのに展開される怒濤の連続シンクロ召喚。ナオのデッキから繰り出されるシンクロモンスターは、城前を戦慄させるには十分だった。いずれのカードも城前がこの世界に持ち込んだ経緯からワンキル館がデータを保持しているが現物は城前のカードだけのはずなのだ。本来、漫画版ファイブディーズの番外編で公開されたモンスターであり、口上であり、ナオを通してデュエルを行っていた正体不明の決闘者がこの世界の人間であるなら絶対に知りようがないカードたちのはず。城前と同じ世界の人間、あるいは城前のデータをハッキングしなければ出てこないはず、の数々である。どこでそのカードを手に入れたのか、血相変えて叫ぶ城前に、デュエルで勝ったら教えてやってもいい、とナオの声で誰かがささやいた。
「おれが目的なら今すぐナオを解放しやがれ、関係ねえだろ!」
ナオを人質にとるなんて卑怯にもほどがある。そう続ける城前に、ナオの向こう側にいる誰かは首を振った。
「勘違いしないでくれない?ボクはこの子に憑依するつもりはなかったんだ。君を観測するのに、どうして表にでてくる必要があるのさ?ボクも正直、想定外にもほどがあるんだよね。なんかこの子、サイコデュエリストの卵?だったみたいだね。ボクが介入したから、なーんか覚醒しちゃったのかな?」
「はああっ!?なんだよ、それ!ナオは大丈夫なのか!」
「大丈夫、大丈夫、心配いらないよ。ちょーっとばかしボクと同調しちゃってるから、面倒なことになるかもしれないけど。この決闘が終われば、決闘のフィールも終わるしね。そうすればボクもこの子から離れることができるよ。あーあ、でも怒られちゃうなあ。イレギュラーなことがまーた増えちゃった」
「なんだよ、さっきから。つまり、ナオを助けるには、さっさとお前を倒せばいいってことだな、話ははえーや。てめえがどこの誰なのか、なんでおれを観測なんて気持ちわりいことしてんのか、話してもらおうじゃねーか!」
《SPYフレームロード・Ω》の効果によって墓地に戻った《妖精伝姫シラユキ》を駆使して、猛攻を防ぎきった城前に、ナオは小学生にあるまじき笑みを浮かべる。不気味さに寒気すら覚えながら、城前はターンを宣言、一気に攻勢をかけた。《錬装融合》により1枚ドローを追加し、《ライトレイ・ディアボロス》で裏側守備表示にした《えん魔竜 レッド・デーモン カラミティ》をエクストラデッキにバウンス。《BFー精鋭のゼピュロス》の効果でディアボロスの効果を使い回し、セットカードをバウンス。《妖精伝姫シラユキ》と《BF-精鋭のゼピュロス》で《NO.39ホープ》から《No.39ホープ・ザ・ライトニング》にアクセス。《創世の予言者》を召喚し、《カオス・ソルジャーー開闢の使者ー》を墓地から回収、《ライトロード・モンク エイリン》と《BFー精鋭のゼピュロス》を除外し、《カオス・ソルジャーー開闢の使者ー》を特殊召喚。彼が作り上げた布陣を真正面からなぎ倒し、勝利をもぎ取ることになる。拍手喝采で勝利をたたえた彼は、その煌々と光るまなざしを城前に向け、口を開いた。
「思った以上にやるんだね、城前。さすがは混沌使い。ボク、おどろいちゃった」
「さあ、お望み通り勝ってやったんだから、名乗れよ」
うーん、どうしよかなあ、と頭の上で腕をくみ、ナオは大きく伸びをする。
「ボク的には、誰が相手だろうがどんな布陣でも真正面からなぎ倒して、封殺しようとするとこ、すっごい好きだよ。ほんとはこの子のハッキングしたデッキじゃなくて、ボクのデッキとデュエルしたかったくらい。でもさ、まだだめって言われてるんだよねえ」
「はあっ!?おい、約束と違うじゃねーか」
「ボク、まだ本調子じゃないからさ。また今度ってことでいい?」
「だめに決まってんだろ、ふざけんな!だいたい、あのカードはどっから手に入れやがった!」
「どこもなにもボクが使ってるのはレプリカだしー。所詮はデータ上の存在だし?あのカードは城前のだろ?世界でたった1枚しかない、制作者不明のカードの1つ。なら出所は決まったようなもんでしょ?」
「ワンキル館にハッキングしやがったのか」
「もっと簡単な方法あるじゃない。今度からはデュエルディスクのデータ、ユーリに抜かれないようにしなよ、城前」
「っ・・・・・・!」
「あはは、そんな怖い顔しないでよ」
「あいつらのデュエルディスクは共有のはずだ。おれのデータを抜いたってことは、あいつらのデュエルディスクをハッキングしやがったんだな、お前」
「それは別の決闘者がやったんだけどね」
「そーかい、そうかい。ここでまさかの第3勢力のご登場か、おれの前に現れた理由は何だよ、警告か?」
「んー、それもあるんだけど、今回はたんにボクが興味あっただけ。だから志願したんだ。あーあ、うまく行けば、この子を通して何度も城前とデュエルできたのにな」
「あいにくおれは年上の姉ちゃんしか興味ねーんだよ。ったく、なんでおれにデュエル挑んでくるやつは男しかいねーんだ!」
「あっはっは、だってずるいじゃん。沢渡先輩も黒咲先輩もデュエルしたのにボクだけデュエルしないままってさ。仲間外れはひどくない?」
ウインクするナオに、城前は目を見開く。
「いいね、いいね、その反応。できたらもっと愕然として欲しかったけど、まあいっか。久しぶりだね、城前。ボクだよ、わかる?」
「まさかとは思うけど、紫雲院か?」
「おおあたり!よかった、覚えててくれたんだ?レオ・コーポレーションで会ったきりだったから、忘れられたらどうしようって思ってたんだけど、覚えててくれて何よりだよ」
「おれの記憶が正しけりゃ、お前、ファントムの捕獲部隊にいたんじゃなかったのかよ?パソコン使えそうな雰囲気はあったけど、だからってナオのデュエルディスクハッキングするこたねえだろうが。ファントムとの関連調べたいならおれんとこに来いよ」
「しらばっくれちゃって。もうわかってるんでしょ、城前。ボクがレオ・コーポレーションの陣営じゃないってこと」
「《えん魔竜レッド・デーモン》シリーズをあんだけ使いこなす融合使いがいてたまるか。捕獲部隊にシンクロ使いはいないって赤馬社長に聞いてっからな。シンクロが使えるやつが味方にいるんだろ、紫雲院」
「さっすが、そこまで看破してくれてうれしいよ。ほんと、どっからあんなにおもしろいカードたくさん手に入れたのさ、城前」
「答える義務はねえな」
「ま、そうなるよね。城前はファントムにも、レオ・コーポレーションにも中立を宣言してるみたいだし。たぶん、ボクが誘ってもやだって言うのは目に見えてるからさ、趣向を変えてみようと思ったんだ」
「来てくれないなら、探させようってか?ふざけんのもいいかげんにしろよ」
「でも惹かれるものがあるんじゃないの?城前。もし、ボクがここでこの子から分離して、どこかに消えたら。《転移装置》っていうの、ずっと探してるんでしょ?」
城前はさっと血の気が引いた。
「盗み聞きとは関心しねえな、紫雲院」
「それは半年前の城前に不用心だって言うべきだと思うよ。どこでだれが聞いてるかわからないのに、大会荒らし回ったり、ワンキル館に不法侵入したやつに好き勝手したりしてたでしょ。そいつらが聞いてるのみじんも思わないとか軽率じゃない?」
「はは、まじか。黒咲といい、紫雲院といい、よくわかんねえ繋がりしやがって」
「あの堅物と一緒にしないでよ、失礼だなあ」
ナオは挑発的なまなざしを城前に投げる。
「ボクを見つけてみなよ、城前。そしたら、ボクたちがもってるもの、貸してあげてもいいよ」
「上等だ、やってやろうじゃねえか」
「じゃあね、城前。今度はボクのファーニマルとデュエルしよう。いっとくけど、ボクは強いよ」
ウインクひとつ、がくりとナオの体がぶれる。あわてて駆け寄った城前の腕の中に倒れ込んだナオはどうやら寝ているようだ。ほっとした城前の目前にカードが突きつけられる。
「はい、これ。ボクたちの居場所見つけるヒントとしてあげるよ」
差し出されたのは、《転生竜サンサーラ》《えん魔竜レッド・デーモン アビス》《えん魔竜レッド・デーモン ベリアル》《えん魔竜レッド・デーモン カラミティ》。解析でもなんでもしてね、とシンクロモンスターを差し出され、城前はうけとる。もともとは城前の持っているカードのデータを勝手に拝借して作ったコピーカードなのだ。バカにされているとしか言いようがない。1週間ほど前に似たようなことをやった身としては、ユーリたちはこんな気分だったのだろうか、と気が遠くなったりするがそれはそれ、これはこれだ。
「この子にあげてもいいかもね」
「ふざけんのもいい加減にしろ。これから自分なりのデッキを見つけてこうってときに邪魔しやがって」
「だからこれは事故だっていってるでしょ。まさか意識が同調するとは思わなかったんだよ」
「どうだか」
「信用されてないなあ、ま、仕方ないけどね。だいたいさ、城前のせいなんだからね。これでも優しい方だと思うんだ、ボク」
「は?」
「せっかく赤馬社長からペンデュラム融合のカードもらったのに、邪魔してくれちゃって!ファントムが城前んとこにいったもんだから、ボクがどんだけ待つはめになったと思ってんのさ!!ボクが予告状だしたの朝だったのに、デュエルできたの夕方だったんだよ!?半日も待たされることになったんだからね!」
「・・・・・・あ、あー!もしかして柚子ちゃんが呼びにきてたあれか!」
「もしかしなくてもそうだよ!おかげで沢渡先輩たちにどんだけバカにされたと思ってんのさあっ!!なんか知らないけどボクがペンデュラム融合したら、ユーリって奴がマジギレして出てきたし!バカにされるの2度目だっていってたけど、絶対城前でしょ!城前が《オッドアイズ魔術師》でナメプなんてむちゃくちゃなデュエルするからでしょっ!?こっちの身にもなってよ、バカ!」
「あっはっは、まじか。そんなことになってたのか、ご愁傷様!」
「ほんとだよ!!ペンデュラム召喚があそこまで再現できてるなら、なんでレオ・コーポレーションに技術提供しないのさ!おかげでボクたった二種類だけしかもらえなかったんだからね!!」
「でも紫雲院に渡せるくらいには解析終わってんだろ?ならわざわざデータ開示しなくたってもう大丈夫だろ」
「そういう問題じゃないって。ペンデュラムモンスターだけじゃデッキは回せないでしょ」
「そればっかりはおれだけじゃ決められねえしなあ。館長通してくれ。アポに応じるかは知らねえけどな」
「むう」
「だいたい、せっかくの試作品を持ち逃げしてんじゃねーよ紫雲院」
「あはは。ボクが別陣営の人間だって知っていながらカードくれた赤馬社長って太っ腹だよねえ」
「だから3枚しかくれなかったんじゃねーの」
「どーだろねえ。赤馬社長はファントムが記憶喪失だってしらないっぽいし?」
「記憶喪失だろうが関係ないんじゃねーの。遊矢がどんな存在か、もう知ってるんじゃね?」
「うーん、そうだとしたらうまく煙に巻かれた感じかなあ?ボク、赤馬社長に真正面から正体聞いたら、遊矢に聞いてみろっていわれたんだよ。私は話す気はないってさ。まるで遊矢がぜんぶ知ってるみたいな言い方だった。あれはファントムが目的があってGODを探してると思ってるよ、きっと」
「ほんとか?遊矢のやつ、記憶喪失だぞ。かなりの深刻な」
「みたいだねえ。でも、赤馬社長って思ったより感情が表にでる人なのは、城前が一番よく知ってるでしょ?城前が思ってるより、もっと感情的な理由で動いてる気がするよ、ボク。だいたいさ、黒咲先輩から聞いたよ。ほんと強烈な一言いうよね、城前ってさ。地雷原でタップダンスするの好きなの?」
「しっつれいな。おれが爆弾投下すんのは、安全圏にいるときだけだぜ?」
「レオ・コーポレーションの応接間で赤馬社長といるときのどこが安全地帯なのさ」
城前はそのときのことを思い出したのか、どこかたのしそうに笑っている。素良はじと目である。
「それにしたって、ファントムってなーんか空虚抱えてるよね。過保護なユーリたちが一生懸命守ってる感じ?それがGODを追い求めてる原因だなんて皮肉だよね。とんだマッチポンプだよ」
「まあ、たしかにデュエルしてるときの遊矢はとたんに幼くなるからな。周囲に求められてる自分とホントの自分をわけていたいお年頃なんだろ。そーなるまでの経緯を考えると頭痛くなるからしねえけど。ま、いろいろあったんだろ、ファントムたちにもさ」
「他人事だね、城前」
「遊矢たちのことは気に入ってるけど味方じゃねーし」
「ボクは?」
「気に入ってたけど、今はちょっとムカつく」
「それって遊矢たちとは違う興味の持ち方してくれたってことだよね。じゃ、ボクはここらへんで退散するとしようかな。じゃあね、城前。待ってるよ」
素良の周囲に謎のエフェクトが生まれる。先ほど何度も目撃した閃光だ。強烈な火花、発光音、そして熱。魔法陣の向こうに素良は消えてしまった。光の粒子が次第に散見していく。ぐっすり寝ているナオを背負って、城前は時計をみる。
開会式を始めるアナウンスが流れた。
「う、」
「大丈夫か、ナオ?」
「城前兄ちゃん?あれ、ボク、どうして?」
「覚えてねえのか?」
「うーん、まだぼうっとしてる。でも覚えてるよ、ボクの中にボクじゃない誰かがいて、城前兄ちゃんとデュエルしたのは覚えてる。城前兄ちゃんが助けてくれたのは覚えてる。どんなデュエルだったのか、ぜんぜん覚えてないけど、城前兄ちゃんがボクを呼んでくれたのは覚えてるよ」
「そっか、それだけで十分だぜ。無事でよかった。でも大丈夫か、ナオ?体調悪いなら家帰る?」
「え?でも城前兄ちゃんは?」
「さすがに友達おいて大会は」
「だめ!」
「え?」
「ぜったいだめ!城前兄ちゃんのデュエルしてるとこ、ボク見るの大好きなんだもん!ボクのせいで大会でないってなったら、絶対だめ!ボクは大丈夫だよ、城前兄ちゃん!ボクもう歩けるもん!おろして!」
「ちょ、お、おい、あばれんなって、うわっ!」
「はじまるっていってるよ、城前兄ちゃん!はやく、はやく!ほーら!はやく!」
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