少年は大きくカードを掲げる。さきほど開封したばかり、しかもスリーブも新品、なにもかもが新しい。ちら、とカードをみた少年は、これ以上ないくらいわかりやすく表情をほころばせた。いいカードがひけたんだな、と軽口をとばす城前に、うん、と素直にうなずいてしまうくらいにはテンションがあがっている。どれにしよう、と6枚のカードを眺めて、考える時間が少々かかる。じっとしててもはじまらない。さすがに手札をみながらどれを発動しろ、ではデュエルにならない。とりあえずやってみようぜ、と城前は先を促した。いつも考えておくべきことは、たくさんカードをひいて、たくさんドラゴンを墓地に送ること。そして墓地から特殊召喚すること。それだけである。それがコンセプトのデッキなのだ。それを念頭におけばある程度やるべきことは、小学生の低学年だってわかる。ついさっき、どんなカードなのか、どうやってつかうのか、城前が1枚1枚説明したのだ。わからなかったらききながらだっていい。やりながらの方が絶対に早く覚えられる。少年はやっとカードを1枚デュエルディスクの魔法罠ゾーンにおいた。ソリッドビジョンが大きく拡大したカードを表示する。
「えっと、ボクは魔法カードの《手札抹殺》を発動するよ!城前兄ちゃんもカードを全部捨てて、カードをひいてね!」
りょーかい、と手札をすべて墓地に送った城前に、少年はほっとしたように息を吐く。
「よっしゃ、《エクリプスワイバーン》が落ちたから、おれはデッキから《裁きの竜》を除外するぜ」
「あっ、そっか。城前兄ちゃんのカードって、カード捨てたらなにかできるモンスターが多いんだっけ」
「おう。カードは基本的に一回使ったら今のなしはできないから注意な」
「うーん、でも、いいや。ボク、墓地にたくさんドラゴンいくらないといけないんだよね」
「手札にそれしかねーなら仕方ねえな。そのうち慣れてきたら、やめとこ、やろう、がわかってくると思うぜ。今は気にしないでやりたいことやってみろよ。それがうまくなる一番の近道だしな」
少年はうなずいた。
「じゃあ、ボクは魔法カードの《トレード・イン》を発動するよ!このカードは手札からレベル8モンスターを1枚すてて効果を発動できるよ。デッキからカードを2枚ひくね!」
「ナオ、ナオ、なにを墓地に送るか見せるの忘れてるぜ」
「え?あっ、ごめん城前兄ちゃん。《青氷の白夜龍》だよ!」
「おっけ。一応デュエルディスクでも確認はできるけど、ちゃんと指定されたモンスターを送ってるよーっていう意思表示は大事だぜ」
「はーい。あ、また魔法カードだけど《手札断札》つかってもいい?」
「おう、もちろん。そうやってどんどんカードを使って墓地にカードを送っていったら、やりたいことができるしな。おれもドローさせてもらうぜ」
「あ、きた!ボク、魔法カードの《増援》を発動するよ!デッキからレベル4より下の戦士族モンスターをもってくるね!ボクが手にしたカードは《巨竜の聖騎士》だよ!」
「うしうし、今度はちゃんとできたな。しっかし《増援》か、さーて、結構カードをひいたし、そろそろ準備はできたか?ナオ」
「うん、できた!じゃあいくね、城前兄ちゃん」
「おう、かかってこい!」
「ボクは《巨竜の聖騎士》を召喚するよ!」
少年のフィールドに、白いマントをはためかせながら金髪の戦士が現れる。全身を覆う銀色の重装備、そして傍らには巨大な剣。記念すべき初陣である。こころなし、少年のモンスターは使い手の心情を反映してかやる気に満ちあふれているようにみえる。
「それでね、《巨竜の聖騎士》のモンスター効果を発動!」
彼はその剣を大地に突き立て、魔法陣を形成する。少年はかっこいいとうれしそうに笑うので、どこか得意げだ。しかし、えーと、えっと、とデッキにあるモンスターを確認しながら、いつまでたっても指示してくれない少年に、少々困り顔になりはじめる。待って、ちょっと待って、と少年は申し訳なさそうに焦り始めた。
「テキスト読んでよーく考えてみな。時間はいっぱいあるしな。おれのフィールドにはモンスターが2体、伏せカードはなにもない。なにを呼ぶのがいいと思う?」
「えーっとね、そうだ!デッキからレベル8の《巨神竜フェルグラント》を呼んできて、《巨竜の聖騎士》につけるよ」
「装備な」
「そうそれ、装備!」
ようやく指示をだしてくれたマスターに苦笑いしながら、彼は詠唱をはじめる。上空に大きな光の渦が形成され、ドラゴンのシルエットが現れた。
「それで、フィールドにレベル8のドラゴンがいるから、《巨神竜の遺跡》を発動するよ!《巨神竜フェルグラント》をすてて、《巨竜トークン》を特殊召喚!」
そのシルエットは、巨神竜によく似た造形の銅像となり、彼の魔法陣の中央に召喚された。
「それで、《巨竜の聖騎士》と《巨竜トークン》をリリース!」
彼の詠唱の終わりと少年の宣言はほぼ同時だった。フィールドから彼と銅像が消え去り、さきほど光の向こうに消えたドラゴンのシルエットが実体化する。
「遙かなる時を越えて、伝説の巨神竜が今ここに復活する!墓地にある《巨神竜フェルグラント》を特殊召喚!」
金色のドラゴンが降臨する。目のくらむような輝きに、城前は目を細めた。その神々しさに見とれていた少年は、初めて召喚したドラゴンに大喜びである。かっこいい、かっこいい、と自分を守るように舞い降りたドラゴンに飛びついた。その熱烈なラブコールに呼応するように、巨神竜は吼える。
「おー、できたできた。やるじゃんか、ナオ」
「いわれた通りにできたよ、城前兄ちゃん!」
「これがナオのデッキの基本的な動きだから覚えとけよ」
「うん!」
「さーて、そろそろデュエルに戻ろうぜ。なんでいろんなドラゴンからそいつを選んだんだっけ?」
「えっとね、《巨神竜フェルグラント》は、墓地から特殊召喚すると、城前兄ちゃんのフィールドと墓地のモンスターを除外できるから!」
「大正解!さーて、どれにするんだ?」
「えーっと、城前兄ちゃん、墓地みせてー」
「りょーかい。あ、《エクリプスワイバーン》にするか?」
「やだ、絶対やだ!城前兄ちゃんの《裁きの竜》強いもん!」
「あっはっは、さすがにわかったか」
遊矢と城前のデュエルをみて、ワンキル館でも1回お試しデュエルの相手をしてもらっているのだ。《エクリプスワイバーン》から《裁きの竜》にアクセスするのを少年は何度も目撃している。さすがに除外なんて城前の手助けにしかならないことをするわけがない。
「もー。えーっとね、それじゃあ墓地の《超電磁タートル》とフィールドの《閃光竜スターダスト》ね!」
「あーあ」
「えへへ。やったね!」
ね、って巨神竜に話しかけようとした少年だったが、あれ、と瞬きする。さっきまで見上げるほどの巨体だった黄金色の竜。より猛々しくなっている。さきほどより勇ましく変貌をとげていることに気づいた少年はデュエルディスクのカードと見比べる。明らかにソリッドビジョンの方が強そうだ。え、え、なんで、とうれしいけど戸惑いを隠せない少年に城前は笑う。
「さて、問題です、ナオ。今の《巨神竜フェルグラント》の攻撃力はどれくらいでしょーか」
「え?」
「ほら、テキストテキスト」
「あ、うん、ちょっと待って。えーっと、あ、除外したモンスターのレベルかランク×100アップ?えっと、」
「《超電磁タートル》はレベル4、《閃光竜スターダスト》はレベル8な。4+8は?」
「12!」
「じゃあ、1200アップだ。もともと2800だから?」
「よ、4000になるの!?」
「おう、4000だぜ。デュエルディスクを確認してみな」
もし城前のフィールドになにもなければ、ワンショットキルが可能な攻撃力である。少年の目は輝いた。
「じゃあ、ボクは《ライトロード・セイント ミネルバ》に攻撃するよ!」
「おーっと、そうはいかねえ!おれは墓地のカードを7枚除外して、墓地から《妖精伝姫シラユキ》を特殊召喚するぜ。《巨神竜フェルグラント》を裏側守備表示にしてもらおうか」
「あっ」
「これで攻撃できないな。ついでにいうと、《巨神竜フェルグラント》のモンスター効果は裏側守備表示になるとリセットされるぜ。つまりもとの攻撃力にもどる。ついでに《エクリプスワイバーン》を除外したから《裁きの竜》を特殊召喚させてもらうぜ」
「うう、残念だけど《閃光竜スターダスト》どっかやれたからいいや。ボクはカードを2枚伏せるよ。これでおしまい!今度は城前兄ちゃんの番だね!」
bkm
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