やはり年に1度の決闘者の祭典である。フリースペースではまだ準備中だがデュエルディスクのテストプレイもできるようだ。城前はワンキル館が指定したプロトタイプしか使用できないため、いいなあ、と眺めていることしかできない。最新鋭のソリッドヴィジョンが実装された新品はうらやましい。がっくり肩を落としつつ、城前は少年とデュエルブースの一角を確保することができた。テーブルデュエルでいい気もするが、本物のドラゴンが早くみたい少年はデュエルディスクが使いたくて仕方ないのだ。アクションデュエルがだめならスタンディングデュエルがいいといって聞かない。レオ・コーポレーション協賛である。当然、使われるシステムはすべてレオ・コーポレーション側のもの。城前も設定を切り替え、実体化ができるモードにした。
ベビー・トラゴンのリュック取り出された真新しいデュエルディスクの設置を手伝ってやると、よっぽどうれしいのか少年はポージングを確認している。これをこうして、こう、とデッキをセットしたり、魔法カードをおいたり、墓地においたりするやり方を教えてやるとうれしそうにうなずいた。もしかしなくても、ファントムの目撃者として連行されたときもらったものだ。自慢げに見せびらかしてくるほほえましさはよく覚えている。ジュニア用に軽い素材でできており、柔らかい。レオ・コーポレーションのデュエルディスクであり、今年発売されたジュニア用だというのだから、城前のものよりよっぽど新しい。モンスターが実体化、少年の言葉を借りるなら、本物のモンスターが出せるデュエルディスクである。夢にまで見たデュエルができるとあって、少年のテンションは振り切れるほどに高まっていた。
「うーし、それじゃあ、やるか!」
「うん!・・・・・・あれ?城前兄ちゃん、あれいわないの?」
「あれ?」
「たたかいのーっていうの。遊矢兄ちゃんのデュエルのときは言ってたのに」
ボクのときもいってほしい、とむくれる少年に城前は笑った。
「おーけい、いいぜ。そのリクエスト受けてやるよ。戦いの殿堂に集いし決闘者たちがモンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールドを駆けめぐる!新たなる地平を目指す決闘者たちには、よりふさわしい戦いの舞台が必要だ。さあ、はじめようぜ、ヌシビト ナオ!これがおまえの初めてのデュエルだ!」
「うん!」
「ナオの初めてのデュエルの相手ができて光栄だぜ。さあ、ふさわしいフィールドに招待しよう」
少年のデュエルディスクの設定は簡易なものしかない。ならばこちらが手伝ってやるのが一番だろう、雰囲気を盛り上げるならそれっぽい演出をしないといけない。さっそく城前はデュエルフィールドを設定する。アクションデュエルではないものの、スタンディングデュエルだってデフォルトの設定を変更することは可能だ。
簡素な間仕切りで区切られたデュエルスペースが、たちまち大きな湖にぽっかりと浮かぶ無人の城に変貌を遂げる。青い空と同じ色をした湖の中央にある断崖絶壁の孤島を覆うように作られた岩づくりの城は、四方から延びる高い高い橋で湖の向こうの岸辺、あるいは森とつながっていた。
城前と少年がいるのは、その一番メイン通りと思われる通路である。穏やかな風が凪いでいる。ぽかんと口を開けたままぐるりとあたりを見渡した少年はすっごいね!と笑った。
「スタンディングデュエルだから、あんま遠くまではいけないけど雰囲気あるだろ?」
「うん!ありがとう、城前兄ちゃん!ここならボクのドラゴンたちもびゅーんって飛べると思う!」
「よーし、それじゃあ、まずは先行、後攻を決めようか。デュエルディスクをセットしたままじっとしてると、ここにランプがつくんだ。モニタにも表示されるから、確認しようぜ」
「はーい・・・・・・あ、城前兄ちゃんが先だね」
「そーだな。ちなみにナオのデッキは後攻の方が動きやすいから覚えとくといいぜ」
「そうなの?うん、わかった。覚えとく」
「それじゃおれのターン。だけど、先行の1ターン目はデッキからカードをドローすることはできない。だからおれはこのまま始めるぜ」
城前はいつもよりゆっくりとしたペースでカードを読み上げる。みるからにわくわくしている。ワンキル館にきてくれたらカオスドラゴンでデュエルしてあげられたが、今は大会用のデッキしかない。それは少年も承知の上だろうが、我慢できなかったんだから仕方ない。ならせめてドラゴン優先で召喚するか、と城前は展開を考える。
「おれは手札から《ライトロード・アサシン ライデン》を墓地に捨てて、魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》の効果を発動。このカードはライトロードと名の付いたモンスターを1枚捨てて、デッキからカードを2枚ドローして、自分のデッキからカードを2枚墓地に送る効果があるぜ」
「あ、ライデンだ!ストラクチャーデッキにあったのだよね!」
「そうそう、よく覚えてたな。あの褐色の兄ちゃんだ。ライトロードよりの構築なら入ったんだけどな、ナオのデッキにも」
「うーん、でもボク、墓地になにがあるかわかんなくなっちゃうし、魔法とか落ちちゃうの怖いよ」
「たしかに落ちるのランダムすぎるしなあ、ライロは。ほしいカードをピンポイントで墓地に送りたいならライロより魔法やモンスター効果で補った方がいい。おれみたいに墓地で効果を発動するモンスターをたくさんいれるなら考えてもいいけど、好きなようにすりゃいいよ」
「うん、そうする」
「それじゃ、カードを2枚ドローして、墓地にカードを2枚送るぜ。あ、《ライトロード・ビースト ウォルフ》が落ちたから、フィールドに特殊召喚するぜ」
少年の前に現れたウォルフは対戦相手が少年だと気づいて、得物を振りかざすようにしてからポージングする。かっこいい!と少年は笑う。どこか得意げなAIである。対戦相手により細かな反応が設定されているのがレオ・コーポレーションのAIの特徴でもある。実際、ウォルフたちが少年の前に現れたのはこれで3回目だ、学習能力が搭載されている以上、少年のデータを読み込んで知り合い程度の反応は示すのだろう。まして少年は初心者だ。高性能だなあ、と城前は思う。これだからデュエルにのめり込んでしまうのだ。
「そんで、魔法カード《光の援軍》を発動。こいつはデッキからカードを3枚墓地に送って、デッキからレベル4以下のライトロードと名の付いたモンスターを1体手札に加えることができる。おれが加えるのはライデンだ。そんでもう1枚の《ソーラー・エクスチェンジ》を発動、さっきのライデンを墓地に送り、カードを2枚ドローして、さらにカードを2枚墓地に送る。そして《援軍》を発動、デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加えるぜ。おれが手札に加えたのは《ゴブリンドバーグ》だ。おれは手札から《ゴブリンドバーグ》を召喚、モンスター効果を発動。手札から《超電磁タートル》を特殊召喚するぜ」
城前のフィールドには、赤いおもちゃのようなプロペラ機にのったゴブリンが現れる。大きく旋回したプロペラ機の仲間たちがつれてきたコンテナから大きな亀が姿を現した。すごい、すごい、一気に3つも並んだ、と少年はうれしそうだ。
「なにするの?城前兄ちゃん。やっぱり、あのお姉さん呼ぶの?」
「よくわかってんじゃねーか。ライトロードはこいつがいないと始まらねえからな。さあいくぜ。レベル4《ゴブリンドバーグ》とレベル4《超電磁タートル》でオーバーレイ・ネットワークを構築!守護天使となりし聖少女よ、その光でもってわが勝利を導け!エクシーズ召喚!ランク4!こい、《ライトロード・セイント ミネルバ》!」
きたあって少年は声を上げる。セイントミネルバから城前のデュエルが始まることを少年はよく知っているのだ。白いフクロウをつれた守護天使の少女は、少年をみてにっこりとほほえむ。
「エクシーズ素材を1枚取り除いて、効果を発動。デッキからカードを3枚墓地に送る。おっと、《ライトロード・アーチャー フェリス》が落ちたな。フィールドに特殊召喚するぜ。そしてカードを1枚ドロー」
城前のフィールドに現れたネコミミの少女に、少年は反応する。それをみた少女は得意げに弓矢を構える。褐色のお兄さんかネコミミのお姉さんが出てきたら城前はシンクロをすることを知っている少年は次の特殊召喚に期待のまなざしだ。
「ってことはシンクロ召喚するの?」
「期待されちゃやらないわけにはいかないよな」
「やった!」
「みてろよ!さあいくぜ!レベル4《ライトロード・アーチャー フェリス》にレベル4《ライトロード・ビースト ウォルフ》をチューニング!こい、ランク8!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂をふるわし友の心に轟け!シンクロ召喚!《閃光竜スターダスト》!」
鮮やかな光を纏ったドラゴンが召喚される。セイントミネルバを守るように舞い降りたドラゴンに、少年の一番の歓声があがる。やはりドラゴンが大好きなようで、目が輝いていた。
「おれのターンは、これで終わりだぜ。さ、次はナオのターンだ」
「うん!」
城前の言葉に応じるようにデュエルディスクの点灯は少年のデュエルディスクに移行する。ボクのターン、とデッキに手を伸ばそうとした少年。そしてそれを見守る城前の司会に強烈な白の残像が残る。ばち、と電流のような何かが走り、火花が散った。ふりはらおうとして尻餅をついてしまった少年は、そのままカードをばらまいてしまい顔をゆがめる。わ、と声を上げた少年にあわてて城前は駆け寄った。
「大丈夫か、ナオ!」
「だ、だいじょうぶ、大丈夫。びっくりしただけ」
「そっか、よかった。でもどっか怪我してねーか?やけどとか!」
「ぜんぜん大丈夫。すっごく近くで光ったけどなんだろう?」
「やっぱあれすげえ火花だったよなあ?フィールドの設定、天気なんていじってねーし。雷なんてありえねえし。うーん?壊れてねえ?ちょっとはずしてみ?」
「う、うん」
少年からデュエルディスクを受け取った城前は、モニタを操作してみる。一見問題なく作動し、少年と城前を安心させた。なんだったんだろう、とふたりして首を傾げる。ちらばったカードを拾い集めながら、もう一度デュエルディスクにセットした。一度デュエルを中断しようとした城前だが、今ここで待っていたら次にデュエルできるのはきっと次の日以降だ。それはいやだとごねられ、しぶしぶ続行する。
「一緒にお風呂はいったりしてねーだろうな?」
「してないよ!?」
「じゃあなんで火花」
「わかんない」
「レオ・コーポレーションが欠陥品渡すわけねえしなあ、なんだろ。へんな感じがしたらすぐやめろよ?」
「うん、わかった!」
「それじゃ、改めて頼むぜ」
「うん!」
少年は気を取り直してデュエルディスクを構えた。
「ボクのターン、ドロー!」
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