スケール13 デュエリストトーナメント1
世界大会にむけた代表選考会予選の招待状が届いた帰り、ポストをあけてみた城前は頭を抱える。予約していたチケットが無駄になってしまったことを思い出したのだ。もちろん代表者選考会の会場では様々なイベントが催されているから、最悪予選落ちしてトーナメント戦が行われる翌日に見に行くことも可能である。さてどーするか、と考えていた城前だったが、公式サイトで行われるイベントを確認していたところ、ふと思いだす。あのときの少年にデュエルの初心者講座の付き添いを約束してそのままだったと。メールを送ってみたら、電話でもいいよと笑顔のスタンプが送られてきたので、さっそくスマホを手にする。

「どーしたの、城前兄ちゃん」

返事はすごくはやかった。

「こないだ、デュエルモンスターズ始めたいっていってただろ?今度の土日、あいてるか?」

「あ、覚えててくれたんだ!初心者講座っていうの、つれてってくれるんだよね?」

「そうそう。世界大会の代表選考会なんだけどな。てっきり関係者以外は入れないかと思ったら、会場の外では結構いろんなイベントしてるみたいなんだよ。初心者講座のブースもあるみたいだし、よかったらチケット譲るぜ?」

「え、いいの!?」

「招待状きちまったからさ、いらなくなったんだわ」

「ってことは、城前兄ちゃんも予選でるの!?すごい!」

「も?あ、もしかして、近くに招待状くるくらいすっげえ子がいるのか?」

「うん、そう。僕のお兄ちゃん、去年の小学生部門の優勝者なんだ」

「えええっ!?すっげえな!?なんだよ、それならお兄さんにデュエルモンスターズ教えてもらえばいいじゃねーか」

「だってお兄ちゃんには内緒にしてるんだもん。デュエルできるようになって、びっくりさせたいんだ」

「そっかあ、なるほど。そういうことならつきあうぜ」

「ありがとう!えへへ、デュエルやってみたいって思ったのは、遊矢兄ちゃんと城前兄ちゃんのデュエルみたからだよ!」

「うれしいこといってくれるじゃねーか。そーか、そーか。前回優勝者なら今年の世界大会の代表には内定してんだな。大会にはいかないのか?」

「うーうん、去年準優勝だったお兄ちゃんの友達がね、今年シニア部門に初挑戦するんだって。みんなで応援に行くっていってたよ」

「今年シニアってことは、中1か。もしかしたらおれと当たるかもな」

「そうだね!」

「お兄さんたちと一緒に行かなくてよかったのか?」

「チケット当たらなかったから、お留守番の予定だったんだ、ボク」

「あー、そっか。そりゃよかった。じゃあ、チケット送るから住所教えてくれよ」

「えっ、城前兄ちゃんきてくれないの?一緒に回ろうっていってたのに」

「いやだってお兄さんたちと行かなくていいのか?」

「へへ、内緒にするんだ。大会の予選でボクがいたらみんなびっくりするでしょ?お小遣いいっぱいためてるんだ。がんばってデッキ作る!」

「そっか、わかった。そういうことなら、おやすいご用だぜ。大会の日に迎えに行くから、お母さんかお父さんがいたら代わってくれるか?」

「うん!」

お母さんとかわるね、と無邪気に少年は笑った。開口一番、彼女は平謝りである。どうやら少年と城前の電話をずっと聞いていたらしい。留守番だといってはいたが、テレビで生中継をかじり付いている予定だったから、いきたいいきたいとうるさかったので助かる。けど、わがままを聞いてもらって申し訳ない、と受話器の向こうの女性はいう。この日はなにかと予定が重なり、両親は同行することができないらしい。一番上の小6の息子と合流してもらえれば、と彼女は提案する。たしかに予選が始まってしまえば城前もずっと一緒にいることは難しくなるだろう。応援するとはいえ、まだ低学年の男の子を一人にするのはあぶない。彼女は長男に事情を説明する気のようだ。いざというときのための連絡先を聞いておくことにして、城前はバイクで行く気満々だったが、早めに起きて歩いていこうと決めたのだった。

そして数日後。

ぴんぽんとチャイムが鳴る。

「おはようございます」

モニタごしに声をかけると、ドアが開いた。

「おはよう、城前兄ちゃん!」

ベビートラゴンのリュックを背負った少年がかけてくる。

「おう、おはよう。今日も元気いっぱいだな」

「うん!へへ、いこうよ!」

「そうだな」

玄関から追いかけてきた女性が母親だと城前は知っている。付き添いで何度か顔を会わせるうちに顔見知りになったのだ。今日はよろしくお願いします、と笑顔で見送られ、城前は気持ちばかりがはやる少年と会場に向かって歩き出した。

「そーいや、ドラゴンが好きなんだよな?お兄さんはドラゴン使いなのか?」

「うーうん、違うよ。ジェムナイトっていうきらきらしたモンスターがいっぱい出てくるデッキ使うんだ」

「ジェムナイトか」

「お兄ちゃんがデュエルモンスターズ始めたのは、いろんなデッキが貸してもらえる大会で優勝したからなんだけどね、そのときのデッキがジェムナイトなんだって」

「へー、そうなのか。まあ、一番最初のデッキって思い入れが段違いだもんな」

「ボクはお兄ちゃんが使ってたドラゴンのデッキ、かっこいいと思ったんだけどなあ。真っ黒で赤い目のドラゴンとか、白くて青い目のドラゴンとか」

「お兄さんのお友達にドラゴン使いはいねえの?いるんならいらないカードとかもらえばいいんじゃないか?」

「いないんだー。えっと、今日、お兄ちゃんたちが応援にいくお友達はヴェルズっていうモンスターだし、妹さんはワームっていうの使うんだ。宇宙人なんだって。それで、サイキックって言う超能力使えるモンスター使う人もいるし、Xセイバーって言うかっこいい戦士つかう人もいるよ。でも、みんな去年4位まではいったから、今年は予選じゃなくて明日のトーナメントから出るんだって。だから、今日、予選に出るのはヴェルズ使うお兄さんだけなんだ」

「結構すごい子たちばっかりだな」

「みんな去年はじめたばっかりなんだよ、すごいね」

「一緒に始めようとは思わなかったのか?」

「だってボク、デュエルみるのが好きなんだもん。お兄ちゃんたちは立ってするデュエルやるけど、ボクはごーって飛ぶドラゴンがみたいんだ」

「アクションデュエルかー、さすがにちょっと早いかもな」

「うん、城前兄ちゃんたちのデュエルみたら、たってやるのもかっこいいって思ったんだ、ボク。一番前でかっこいいモンスターみられるなら、やってみたい」

「そっか、がんばれよ」

「うん!」

電車を乗り継ぎ、バスに乗り換え、しばらく歩くとようやく招待状と入場券に記載されている巨大なビルにたどり着く。レオコーポレーションという看板があるから、きっと傘下の企業なのだろう。見上げるほど大きいビルである。ひっくり返りそうになりながら少年は無邪気に笑っている。ぐるぐる回る扉を通り、看板通りに歩いていけば大会の会場を整理しているスタッフたちが見え始める。

「じゃあ行くか」

「うん」

整理券をもらい、時間を確認する。余裕を持ってきたためか、百番台には入ることができそうだ。QRコードを読みとり、時間を確認する。アナウンスされていた時間になれば、もう人だかりでいっぱいだ。城前たちの持つ番号の入場開始を告げるアナウンスが流れ、城前たちは長蛇の列に並ぶ。どこかでみたことがあるような気がするが、他人のそら似というやつだろう。城前はCMを熱心にみている少年からいろいろとカードについて聞かれ、それに答えながら順番を待つ。やがて最前列にやってきた。

「いらっしゃいませー。デュエリストトーナメントへようこそお越しくださいました」

にっこりと笑う少女は、城前のよく知る禁止制限行きのバスのガイドと雰囲気がよく似ているがコスプレだろうか。

「入場券をお持ちの方はこちらへ、招待状をお持ちの方はこちらへどうぞ」

「あとで合流できる?」

「はい、できますよ。招待状の方は予選等に関する諸注意がございますのでお時間いただきますが大丈夫です」

「わかった!いってくるね、城前兄ちゃん」

「おう、先に待っててくれ」

「はーい!」

「弟さんですか?」

「え?いんや、違うよ。にてないだろ?お兄さんを驚かせたいんだってさ。おれは付き添いと予選出場」

「はい、かしこまりました。それではIDカードをおかしくださいませ」

差し出したカードがスキャンされる。

「カードをお返しいたします。それでは混沌使いの城前さん、どーぞこちらへ」

ガイドの女性はにこりと笑った。

「おーそーいー!」

ようやく受付のアーチから出てきた城前を待ちかねた少年が突撃してくる。

「ごめんごめん、先にエントリーすませてたら遅くなっちまった」

まさか印鑑がいるとは思わなかったんだよ、と城前はぼやく。代表選考会の案内状、産科の意思を確認する書類、そしてデッキ内容を申請するシート、身分を確認するためIDカード。すべて提出することでようやくIDと名前が表示されたネームプレート、デッキケース、スリーブがもらえる。着用を義務づけられているため、すでに城前の胸元にはワンキル館とは違うデザインのロゴが入ったネームプレートがぶら下がっていた。デッキをもらったスリーブに入れ直し、スタッフに提出する手間がかかってしまったのである。

「何時から始まるの?」

「なんか1時間ほど遅くなるみてえだな。10時半くらいじゃね?」

「そうなんだ」

「まー、受付やって、デッキ作って、スタッフがデッキチェックするから遅くなるのも無理ねえだろ。まだ時間あるし、どうする?お兄さんとこいくか?初心者講座?」

「えっとね、開会式でお兄ちゃんたち見つけられると思うから、先に初心者講座受けたいな。それでカードほしい!」

「気に入ってくれたみたいでよかったぜ。ドラゴン使いたいって言うからさ」

「うん、ありがとう城前兄ちゃん!この前、城前兄ちゃんがデッキ作ってくれたでしょ!ボク、あのときみたいなデッキが作りたいんだ。かっこいいドラゴンいっぱい出せるやつ!《アークブレイブドラゴン》とか!」


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