スケール9-6 ハローアンダーワールド4
「なあ、そんなことしなくたっておれは逃げねえぜ、ユーリ」

「僕が警戒しているのはそんなくだらないことではありません。敗者に口答えをする権利があるとでも?」

「へいへい、わかってるよ。あんだけ煽って負けたんだ、かっこわりい」

「どこがですか」

ユーリは冷ややかである。

「君が先行で召喚した《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》は、本来初動で出すべきモンスターではないでしょう。むしろ逆転を狙うときに召喚するエースにするべき効果とステータスだ。君が狙うべきだったのは、こいつだ。舐められたものですね、心底不快だ。たとえそれがワンキル館からの指示だったとしても」

城前は肩をすくめた。容赦なく踏みつぶされたインカム、回線をいじられ機能が停止し、データが吸い出される運命のデュエルディスク、連絡取れそうなものはすべて破棄され、ひび割れている。いろいろと乱雑に置かれている。今の城前はたしかになにもできない。

城前の敗北とユーリの勝利を告げるブザーが鳴り響いたとき、ユーリは真っ先に城前のところに近づいた。ソリッドビジョンが実体化するレオ・コーポレーションのシステムなら、捕食カウンターのトークンや捕食植物を実体化させて拘束が可能だが、それはできない。ソリッドビジョンしか適応されないワンキル館のシステムでは、物理的に拘束するしかないのだ。実は城前は本体ではなかった、という罠を警戒しなくてもいいのはありがたいが、ネクタイをほどき両腕を拘束するのはやや手間だった。

デュエルディスクからデッキとエクストラデッキを見てもいいか、と確認したとき、許可しなくてもみるだろ、と城前は笑う。どーぞどーぞといわれ、遠慮なくユーリはワンキル館が作成したオリジナルデッキをすべて確認してためいきしかでてこなかった。手を抜かれている、という事実しか出てこなかったのだ。城前はデッキの完成度をほめられてまんざらでもなさそうである。

「《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》、《霧の谷の巨神鳥》、《クリア・ウィング・シンクロドラゴン》、このあたりを立てておくのが定石でしょうね。どうやら君のデッキは、防御が脆弱な代わりに相手を封殺するのが本来得意なようですから」

デュエルディスクから抜かれたデータを閲覧して、ユーリはためいきである。城前がとるべき行動、いや、城前ならば真っ先にとるはずの定石とは矛盾した行動ばかりが目についてしまう。明らかにユーリたちの反応をみるため、様々な特殊召喚を達成することが指示されていた。実際それは達成され、ユーリもそれに反応してしまったのだから、ある程度あちらにはデータが流れているだろう。おそらく次は《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》を再現したカードが投入されるはずだ。捕食植物のデータも流れているだろう。それはいい、覚悟の上だから。ユーリはそれでも聞かずにはいられなかった。

「テストプレイはどうでしたか?」

「おかげでいいデータが取れたらしいぜ。今までNPC相手しかできなかったからな」

「でしょうね。本来手を組むべきレオ・コーポレーションに無断で作成している以上、ペンデュラム召喚を知っている上に、対処ができるのは僕たちだけ。数日前に遊矢とデュエルしたばかりなのに恐ろしい完成度ですが、これがワンキル館の力ですか」

「ああ、おれも驚いてるよ」

城前は笑う。その様子をみて、ユーリは城前が《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》や捕食植物といった初めてみるテーマ群やカードに城前が興味津々だった理由を確信する。いつか使うことになるカードである。本家本元の使い手から使い方を盗み取るのは、きっと上達する上で一番の近道だ。城前はそういう決闘者なのだろう。カードゲームは少なからずそういうところから入る人間もいる。ユーリたちのように自分の好みの戦い方があり、テーマがあり、デッキを作って回して経験を積み、ひたすら高みに上っていく。あるいは目標とすべき決闘者がいて、あこがれの決闘者がいて、その模倣から始めて、自分なりの強さを求めていく。城前はどちらも通ってきた決闘者特有の妙に生き生きした顔をしている。きっと頭の中ではユーリのカードをどうやって組み込もうか、どんなコンボをしようか、そういったことばかりが浮かんでいる顔をしていた。どうしようもないほどの決闘者なのは理解した。デュエルができるかどうか、敵か味方かの判断基準、というのもあながち間違いではない気がしてくる。城前はユーリを見上げる。

「そのデッキだけは手ェ出すなよ。なんかしたら容赦しねえからな」

「さすがにそれは時期尚早ですからね、今回はちゃんと返してあげますよ、城前。まだまだ敵対宣言するには早すぎますからね」

「うれしくねえ予告をどーも」

「いえいえ、どういたしまして」

そういってユーリはデュエルディスクにデッキをセットし直し、城前に返した。もっとも両手を後ろで拘束されている城前は、受け取ることができないので、ユーリにセットしてもらうことになるのだが。地味に右利き用を右腕にセットされる嫌がらせを受けながら、城前はひきつった笑みを浮かべる。意図しない設置位置だから備品が当たっていたいのだ。

「君にはいくつか質問があります。答えてくれますよね?」

「答えられる質問ならな」

「それを決めるのはこの僕だ、君じゃない。君はデュエルを挑んで負けたんです、それくらいの覚悟はできてるんでしょう、城前?僕が遊矢やユートみたいに優しいとは思ってないですよね?」

「そこまで都合のいい頭はしてねえつもりだぜ」

「ならいいんです。僕も暴力に訴えるのはあまり好きではないので、よけいな労力はかけさせないでくださいね」

「わかった、いってみろよ。ご希望の答えが返ってくるかどうかはしらねえけどな。おれはデッキを人質にしなかったユーリに対するおれの勘を信じることにする」

「そうですか、なら始めましょう」

ユーリはちら、とユーゴをみる。城前は表にでている人格しかみえない普通の人間だと判断した時点で、ユーリはユーゴに対する反応をやめていた。デュエルを始めたとたん、外部といっさいの接触が断たれた特殊部隊おなじみのフィールドにぎゃいぎゃい騒いでいたユーゴである。そちらに気を取られている暇はなかった。余裕がなかったともいう。エースであるスターヴを特攻爆弾にする戦術は、正直ユーリの好みではなかった。だが、そうせざるを得なかったのだ。あのターンのうちに決着をつけなければフィールドに《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》がいて、墓地には蘇生するチューナーがいる。第2、第3の《覇王黒竜オッドアイズ・ダークリベリオン・ドラゴン》のような強力なモンスターが呼び出されれば、不利になるのは間違いなくユーリだった。バトルフェイズ中に効果を封殺されれば捕食植物は壊滅的な被害を被るのである。高速で展開されるハイビートを叩くには、あそこしかなかった。

勝利を収めた今、ユーリはようやくユーゴを気にかけるだけの余裕が生まれている。

「なにをききましょうか」

『なんで俺の《クリアウィング》持ってるのか聞いてくれよ!!』

「・・・・・そうですね、どうして《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を持っているか聞いても?」

「おれが持ってる理由なんてひとつだろ、《それ》を元に作ったんだから」

「でしょうね。ユートは特殊部隊とも、君とも決闘している。データ収集は万全でしょう。では、僕たちのしらないオッドアイズたちも、ワンキル館オリジナルと考えた方がよさそうですね」

「考えるのは自由だぜ。ま、この《オッドアイズ魔術師》のデッキは、世界でたったひとつのおれのデッキだけどな。大事に扱ってくれよ、おれの魂のデッキなんだから」

「じゃあ、質問を変えましょうか。そのデッキはいつから使ってるんです?昨日、今日の話じゃなさそうですが」

「1年以上前から使ってる大事なデッキだよ」

「おっと、これは聞き捨てなりませんよ。想像以上に長い間、僕たちのデータは集められていたようですね」

『うっわ、まじかよ。だから俺のクリアウィングまで再現してやがんのかー、やっぱおれのデッキもバレてんだろうな』

「僕のデッキがバレていなかったのが不思議なくらいだというのがよくわかりました。では本題に入りましょうか、城前。どうして君は、いえ、君たちは僕たちのことを必要以上に知っているんです?あるいは知ろうとしているんですか?」

「それはおれに対する質問か?それともワンキル館に対しての質問かよ、ユーリ?」

「そうですね、どちらも興味があります。まずはワンキル館の人間としての君に聞いても?」

「いいぜ、教えてやるよ。それはこのワンキル館が世界で唯一のデュエルモンスターズ史料館だからだ。世界にたった1枚しかないカードだろうが、なんだろうが、こっちが把握してないカードが存在していること自体が許されない。このワンキル館がもともと、あるカードコレクターの私有地だったのは知ってるだろ?その理念は遺言なんだ。それはなによりも優先される」

「把握、ですか。それはつまり、カードではなく、データが欲しいということですか?現物は必要ない?」

「かしこいやつは嫌いじゃないぜ。手に入るならそれに越したことはねーんだけどな、世界にはどうしたって入手不可能なカードは存在するもんだ。その場合は、データさえくれればあとはこっちが総力を挙げてどうにでもする」

「なるほど、だからデュエルの邪魔をするやつは敵というわけですか」

「ああ、データが収集できねえからな」

「レオ・コーポレーションと敵対すればデータバンクの契約を切られる、僕らと敵対すればデータが収集できなくなる。だから、あくまで中立というわけですか」

「中立ですらねえだろ、今のおれ達はどっちかってーと部外者だ。対立する必要がねえだろ、目的が違うんだ。お前らがレオ・コーポレーションのシステムをつかってくれてる時点で、おまえらのデータはひとつ残らずこっちは掌握してんだからな」

「その貪欲なまでの収集意欲はどこからきてるんです?」

「さあ?さすがにそれは単なる看板にすぎねえおれは知らねえよ。なにが目的だっておれは興味ないね。ここの居心地がいいからおれはここにいるし、思惑に乗ってるんだ。もとめられればなんだってするさ、ここがおれの居場所なんだから」

「ふふっ、そうですか。それはいいことを聞きました。いずれ、ここにお世話になる時がくるかもしれないし、水面下で動いている君の後ろの存在に挑まなくてはいけない時がくるかもしれませんね。それでは、城前、君に質問しましょう。君は僕たちをどうして知ってるんです?」


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