スケール8-4 ワンキル館のおもてなし
「おれは手札から魔法カード《トレード・イン》の効果を発動するぜ!手札からレベル8モンスター1体を捨て、デッキからカードを2枚ドロー!」


ちら、とカードをみた城前はにいっと口元をつり上げた。


「さらにおれは手札を1枚捨て、魔法カード《ドラゴンー目覚めの旋律ー》を発動する!デッキから攻撃力3000以上、防御力2500以上のドラゴン族モンスターを2体サーチ!」


沢渡はその声にいよいよ開いた口がふさがらなくなる。沢渡が使うテーマは帝であり、家臣軸である。城前はファントムと沢渡のデュエルを観戦したことですでに知っており、まだ発売前であるにも関わらず構築を看破して見せた。それがワンキル館所属故の優秀さなのか、城前の特異な観察眼によるものかはわからない。でも、アクションデュエルであるにも関わらず、フィールド魔法を使うことができるこの大会で、沢渡が誰も知らないはずの《真帝王領域》を使ったのに反応はいまいち。もう答えはでている。強烈な帝モンスターの効果でエクストラに戻されたり、手札に戻されたりすることを考えれば、何度も特殊召喚できるモンスターを据えることが対策になる。今のデッキの構築は対沢渡を想定したものに違いない。そこまで勝ちたい相手、そうしなければ勝てない相手だと認識しているに等しい。正直悪い気はしない。


《ドラゴンー目覚めの旋律ー》の代わりになるカードはたくさんある。墓地に送ってから蘇生した方が効率的だからだ。このカードを使う余地があるとすれば、サーチ手段がすくない最上級モンスター。それも手札から特殊召喚できるようなカードくらいしかないが、混沌帝龍のためだけに投入するとは考えにくい。今まで城前が使ってきたカオスデッキは、ランク4のエクシーズ軸、ライトレイとカオスを積んだライトロード軸。入る余地がないカードである。《ドラゴンー目覚めの旋律ー》が違和感なく入る構築、それは。


「墓地に送られた《エクリプス・ワイバーン》の効果を発動!デッキから光属性もしくは闇属性のドラゴン族・レベル7以上のモンスター1体を除外する!おれが除外するのは《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》。さらに墓地の光属性の《エクリプス・ワイバーン》を除外し、手札から《暗黒竜コプラサーペント》を特殊召喚!さあとばしてくぜ、沢渡!」


城前の頭上にドラゴンが召喚される。その背中にとびのった城前は、一気に抱え上がり、最上階までたどり着いた。沢渡はげと顔をひきつらせた。せっかくの霧による攪乱作戦が水の泡だ。あんな高いところに逃げられては視界不良もいくらかましになっているだろう。案の定、アイテールがアクションカードを獲得し、沢渡の周りが明るく照らされ、闇の浸食がやむのと、はるか上空にまばゆい光がこぼれ落ちるのはほぼ同時だった。


「除外された《エクリプス・ワイバーン》の効果を発動!こいつの効果で除外されていた《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を手札に加える!さらに《暗黒竜コプラサーペント》を除外し、《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を特殊召喚!そして手札から《ダークフレア・ドラゴン》を特殊召喚。手札とデッキからドラゴン族モンスターを墓地に送ることで、沢渡の墓地のカードを除外することができる。さあ、次元の彼方に消え去れ、《冥帝従騎エイドス》!」

「そうはさせるか!俺はアクションカード《カオス・リベンジ》を発動!相手のモンスター効果を無効にし、破壊する!さらに《連撃の帝王》を発動!モンスター1体をアドバンス召喚する。《天帝アイテール》をリリースし、《邪帝エレボス》をアドバンス召喚!!手札・デッキからで魔法、罠を1枚捨てて、効果を発動!もちろん俺が選択するのは《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》だ!デッキに戻ってもらおうか!」

「くっそ、後続の妨害ができなかったか。しかたねえ、カードを伏せてターンエンドだ」

くやしそうだが、どこか楽しそうな城前の声がする。きっと頭の中で次のターンどう動くかを考えているのだろう。移動する手段を失った城前だが、駆けるその先に迷いはない。デュエル大会はもちろん、日々の練習場として使用しているフィールドだ、あきらかに地の利はあちらである。アクションカードの種類、場所の把握は主催者側の特権だ。ランダムで生成するダンジョンが設定されているならそうでもないだろうが、沢渡が空にのびる透明な階段をあがるにつれて立ちこめる濃霧ももろともしない時点で、城前はある程度把握しているとみた。これは早急に決着をつける必要がある。


「俺のターンドロー!俺は墓地の《冥帝従騎エイドス》を除外し、墓地から《天帝従騎イデア》を守備表示で特殊召喚する!そしてデッキからまた新たな《冥帝従騎エイドス》を守備表示で特殊召喚!そして、《天帝従騎イデア》をリリースし、《天帝アイテール》をアドバンス召喚!デッキから罠・魔法カードを2枚墓地に送り、デッキから《光帝クライス》を特殊召喚!そして特殊召喚に成功したこの瞬間、《光帝クライス》の効果を発動!城前、おまえのフィールドにある伏せカードと俺のフィールドの伏せカードを1枚ずつ破壊だ!」


闇の世界に光の弧を描きながら、衝撃が城前を襲う。伏せられていたカードが破壊され、城前のフィールドにはなにもない。


「ぐうっ」

「これで終わりだな!さあ、いけ!《光帝クライス》!《天帝アイテール》!城前に攻撃だ!」


「そうはさせるか!アクションカード、回避を発動!1度だけ相手モンスターの攻撃を無効にする!対象は《天帝アイテール》だ!」

「おーっと、悪足掻きをしてくるか」

「残念ながらあきらめは悪い方でね!ここでとどめを刺せなかったこと、後悔させてやるよ!」

「だがダメージは受けてもらおうか!」


光の矢が城前の足場を崩す。崩落する通路。転がり落ちるように駆け下りた城前は難を逃れたが、その余波でがれきが襲ってくる。


「いってえっ!」


2800ものダメージが城前を襲う。城前#は立ち上がった。さいわいアクションカードを落とすことはなかったが、ねらっていたカードはすでに沢渡の方が近い。城前は表情をくずさない。デュエルできる高揚感、しかも今回は城前に勝負を挑んできてくれた。ほかならぬ相手から。それは実力を認めてくれた、注目してくれている、とうぬぼれたくなるほどのうれしさだ。その事実が体の痛みすら忘れさせてしまう。城前のテンションはあがりこそすれ下がることはない。

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」


「おれのターン、ドロー。さあて、まずはこの世界にふさわしくないやつらには退場願おうか!速攻魔法《サイクロン》で《真帝王領域》を破壊だ!」


空間がひび割れる音がした。大地に隆起していた割れ目が消滅し、その光の粒子の向こうに真帝は消え去る。


「もう一度《ドラゴンー目覚めの旋律ー》を発動させてもらうぜ!よーし、きたきたきた!おれは《死者蘇生》を発動!墓地に眠りし《ダークフレア・ドラゴン》を特殊召喚する!そしてモンスター効果を発動し、ドラゴンを2体墓地に送る!さあ、時空の彼方に消え去れ!《冥帝従騎エイドス》!」

「くっ」

「《エクリプス・ワイバーン》の効果で《混沌帝龍ー終焉の使者ー》を除外。さらにこの2体のドラゴンを除外し、《混沌帝龍ー終焉の使者ー》を特殊召喚する!除外された《エクリプス・ワイバーン》の効果で手札に新たな《混沌帝龍ー終焉の使者ー》がやってきた。もうここまできたらわかるよな!おれは墓地の闇属性、光属性のドラゴンを除外し、2体目を特殊召喚する!」


城前のフィールドに一気に2体もモンスターが並ぶ。しかし、城前は先ほどのように移動するつもりはないらしい。崩落し、先がない階段から沢渡を見下ろすのがみえた。風がふきすさんでいる。光の波紋が城前の動きを知らせる。城前はカードを掲げていた。


「さあ、いよいよクライマックスだ!おれはレベル8の《混沌帝龍ー終焉の使者ー》2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!時空の果てにありし銀河よ、虚数の彼方からその姿を現せ!エクシーズ召喚!ランク8!NO.107!《銀河眼の時空竜》!」


そのあまりにも強烈な閃光の前には、沢渡やアイテールが見上げるたびに広がる光の波紋などかき消えてしまう。


「そして、銀河眼の時空竜でオーバーレイ!虚構の果てに導かれる光が新たな世界へ混沌をいざなう!エクシーズ召喚!現れろ、《ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン》!エクシーズ素材を1枚取り除き、《天帝アイテール》を対象に効果を発動!アイテールを破壊する!」

「なあ!?そんなことさせてたまるか!罠発動、《連撃の帝王》!これで俺は城前のターンでもアドバンス召喚をすることができるぜ!」

「ちょーっと遅かったな、沢渡!」

「なにっ!?」

「たしかにアドバンス召喚はできるけど、おれの銀河眼を除去するにはもう1枚発動させないとだめだよなあ?捨ててもらおうか手札にあるはずの《帝王の烈旋》をよ!おれは《手札断殺》を発動するぜ!さあ、その2枚の手札を捨ててドローして貰おうか!」


これにより《天帝アイテール》が破壊され、沢渡のフィールドはがら空きになった。


「さあ、真打ち登場といこうぜ。おれのとっておきのカードを見せてやるよ!ランク8の《ギャラクシーアイズ・FA・フォトンドラゴン》でオーバーレイネットワークを再構築!光が開闢を誘い、闇が終焉を導く。原始の創造たる混沌よ、その姿を顕現せよ!No.95!エクシーズ召喚!ランク9!ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン!」

それはあまりにも巨大で、まがまがしく、それでいて美しいドラゴンだった。

「エクシーズ召喚に成功したこの瞬間、おれはデッキからドラゴン族を3種類を1体ずつ墓地に送り、沢渡のデッキからモンスターを3体除外する!そしてエクシーズ素材を1枚取り除き、2回の攻撃を付与するぜ!そして、除外した《エクリプス・ワイバーン》の効果で手札にドラゴン族を1体手札に加える!そして光と闇を2体除外し、《混沌帝龍ー終焉の使者ー》と《ライトパルサードラゴン》を特殊召喚!バトルだ沢渡!まずはダークマターで攻撃!」

「まだだ!俺は墓地にある帝王魔法・罠カードを除外し、《真源の帝王》を発動!こいつは攻撃力1000、守備力2400の通常モンスターとなる!さらに《連撃の帝王》の効果でこいつをリリース、《怨邪帝ガイウス》をアドバンス召喚する!そして効果を発動だ!ダークマターを除外し、1000ポイントのダメージを与える!さらにダークマターが闇属性だから、手札、デッキ、エクストラデッキ、墓地から同名カードをすべて除外する!これで返り討ちだ!」

「まだまだ甘いぜ、沢渡!バトルは続行だ!《混沌帝龍ー終焉の使者ー》で《怨邪帝ガイウス》に攻撃!」

「なにかんがえてんだ、城前」

「すぐわかるさ。さあ、《ライトパルサー・ドラゴン》で攻撃だ!」

「おいおい、どうしたんだよ、城前。どこがクライマックスだよ。足し算もできないのか?まだライフは残ってるぜ?」

「だから甘いって言ってるんだよ、沢渡。《真源の帝王》は1ターンに1度しか使えないもんな?つまりもう1体呼び出せばおれの勝ちってわけだ」

「たしかにそうだけどどこから呼び出すんだよ」

「墓地からに決まってるだろ」

「墓地?墓地って・・・あっ」

「気づいたみたいだな!さあ、墓地に行った《ライトパルサー・ドラゴン》の効果を発動だ!墓地から《デッキから《レッドアイズ・ダークメタルドラゴン》を特殊召喚!追撃だ!」

勝負は決した。城前の勝利を告げるブザーが鳴り響く。誇り高き敗者と誉れ高き勝者をたたえて、世界は歓喜に包まれた。


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