スケール4−2 飢えた刺客
沢渡と素良がレオコーポレーションに戻った時、すでに赤馬はペンデュラム召喚の研究のため社長室には不在だった。研究室に足を運べば、報告を口頭で伝えるよう指示がとぶ。沢渡の謝罪から始まった報告はつつがなく終わり、退出を促される。相変わらず取り付く島がない社長だが、今修練場にいけば面白いものが見れるだろうと笑うのがみえた。めずらしいこともあるものだ、と素良と沢渡は顔を見合わせる。そのアクションフィールドを観覧できる別室に向かった二人は、フィールドをモニタに映した。


そこにはスタンダードデュエルを行なう黒咲と城前がいる。


「なんでデュエルしてんだ、こいつら」

「ボクに聞かれても知らないよ。それより、あの城前ってやつ、沢渡先輩のデッキにものすごく詳しかったよね。実は知りあい?」

「そんなわけねーだろ。しらねーよ、あんな奴」

「にしてはすっごい嬉しそうな顔してない?」

「あいつが見る目のあるデュエリストだということは確かだな!わかってるぜ!」

「なんの話してんのさ。そもそも城前の言葉を借りるなら、あんな展開で逆転を許しちゃった沢渡先輩は一流じゃないってことだよね」

「んだとーっ!?」

「それよりさ、まだ流通してないデッキなのに、カード見ただけでデッキの構築や回し方が分かるなんてさすがはワンキル館ってとこ?あそこって治外法権っていうか、勝手が違うっていうか。何度か調べてるんだけど、ガラパゴスの癖に内部がさっぱりわからないんだよねえ」

「くっそぉ、あの時モンスターさえ破壊されてなければ、耐えられたんだ!次のターンさえ回ってくればクライスでペンデュラムなんて一瞬で粉砕できたのに!やっぱり俺の敗因はアクションカードを取りに行かなかったことか?いや、あんなところ、今の俺には取れない。そうだ、あの時アクションカードさえ俺が取れてれば勝てたんだ!」

「ちょっと、沢渡先輩。ボクの話ちゃんと聞いてる?結構真面目な話してるんだけど!」

「あ?そんなの城前に聞けばいいだけの話だろ!ファントムだってとっ捕まえて吐かせればいいだけの話だ!」

「やっぱ人の話聞いてない!そうじゃないよ!ボク達がここに集められてから一カ月、ハッキングの指名手配犯を捕まえろって言われてるわけだけどさ、なんか違和感あるんだよね。ボクが調べた限りでは、ファントムはハッキングを悪用してるようには思えないよ。むしろ被害者を助けてる」

「はあ?なにいってんだ。私的な利用でハッキングしてるってこと自体が犯罪なんだよ、わかってねーな。それがよかろうが悪かろうがハッキングしてる時点でそれは犯罪なんだよ。好き勝手していい理由にはならねーだろ」

「それはそうだけどさー、ボクが言いたいのはそう言うのじゃなくて。城前にしろ、ファントムにしろ、あの社長が目を付けてる人間について、ボクたちは何も知らされてないのが嫌なんだよ。なんか隠してるみたいでもやもやする」

「まだ話す時じゃないってことだろ」

「あるいはボクたちにまだその価値が見いだせないってことかもね、沢渡先輩の失敗のせいでまた遠のいた感じかな。あーあ」

「なんだとー!くっそぅ、今に見てろ。必ず見返してやる!そう言うわけだから俺は行くぜ!黒咲への報告はお前に任せた!」

「ちょ、どこいくのさ!?」

「トレーニングルームだ!次は負けねえぞ、榊遊矢っ!」


沢渡はモニタリングルームから去ってしまった。置いていかれた素良は、もおー、と最後まで聞いてくれなかった後姿を睨みつつため息をつく。このあいだ黒咲に話したら赤馬のたくらみなど興味はないと一蹴されてしまったし、ほんとに大丈夫だろうか、この特殊部隊。先が思いやられる。


仕方ないので素良はモニタ越しにデュエルを見届けることにした。今いいところなのだ、どうせなら最後まで見たい。ファントムと城前のデュエルは中断してしまったし。でも、城前のデッキってこんなのだったかな、と素良は疑問符が飛ぶ。ファントムとのデュエルではライトロードにカオスモンスターとライトレイモンスターを積んだ混合デッキを使っていた。今はあきらかにエクシーズに特化したデッキを使っている。でてくるモンスターがすべてレベル4で統一されている。サイドチェンジでもしたのか、いくつもデッキを持っているのか。カオスというデッキは、闇と光のモンスターが入るデッキなら投入が検討できるため、テーマ混合が当たり前。カオスモンスターのためのデッキではなく、既存のデッキにカオスモンスターを突っ込んだデッキが今は主流だ。そのせいでカオスモンスター3種が入ればそれは間違いなくカオスデッキだという主張がまかり通るあたり範囲が広すぎて特定できない。光と闇のテーマが生まれる限り、派生はどこまでも生まれるよくわからないデッキでもある。いろんな謎を内包しすぎてよくわからないというのは、城前克己というデュエリストをよく表している気がした。


「……やっぱり知ってるんだ、ワンキル館ってすごいなあ」


ファントムと城前のデュエルでも感じた違和感である。はじめて黒咲というデュエリストと戦っているくせに、意識したプレイングしまくりである。RRはいくつかデッキに派生がある。まるで初めからデッキの内容がわかってるみたいな挙動が目につく。極端な話、詰将棋を見ている気分である。実際にやられたらムカつくに違いないが、黒咲が不機嫌ではない理由は城前が余裕のない中必死でプレイングしているのがわかるからだろう。城前の扱うテーマは、今の環境を斡旋しているテーマに比べると地力がおちるから、プレイングで必死にカバーするしかないのはわかる。つねに最善の手が打てるロボットではない。白熱したデュエルもお互いのデッキの性質から、あっという間に終わってしまう。ブザーが鳴り響いた。デュエルの興奮冷めやらぬ城前が黒咲にもう一回と詰め寄るのが見える。まんざらでもなさそうな黒咲である。これではマッチ戦になってしまいそうだ。このターン数ならこれから行けば丁度終わっているだろう。素良は踵を返した。






素良がデュエルフィールドに入ると、城前が黒咲に詰め寄っているのが見えた。今のはノーカンだと必死で主張している。城前のデュエルディスクにはモンスターがあるのに、フィールドにはない。このデュエルフィールドの不備がどうとかいう声が聞こえる。どうやら城前が召喚しようとしたモンスターがデュエルフィールドに反映されず、召喚されない扱いとなってしまい、それが決定打で負けてしまったようだ。ずいぶんと珍しいものである。レオコーポレーションのデュエルフィールドに反映されていないカードを使ってしまったなんて。海外版のカードを使用すればありえるミスだが、城前のモンスターは日本語表記である。見たことがない絵柄だが。これはまた面白いものがみれたなあ、あのワンキル館のカオス使いがこんな初歩的なミスで負けるなんて。モニタには黒咲にWINNERという言葉が並んでいる。もう終わった3戦目。後攻ワンキルだったようだ。残念見たかったのに。まあちょうどいいと素良は呼びかけた。


「ちょっと来て!報告あるから!」


勝ち誇った笑みをこぼしながら黒咲は城前を払う。なんだよもー、と納得いかない様子で城前はモンスターを見ている。デュエルディスクにぺちぺちしているが、やっぱり反映されない。疑問符が飛んでいる。


「なにしたの、城前」

「関係ないだろう。それよりなんだ」

「ケチ、教えてくれてもいいじゃん。実はさ」


素良が黒咲に手短な報告と社長からの伝言を伝える。黒咲は舌打ちをした。デュエルの借りはデュエルで返したい、と主張する決闘者が後ろにいるのに、時間が許さないことがむかついたのだろうか。まあそんなことどうでもいいので、仕事を終えた素良は城前のところに向かう。ふあ、と大きく欠伸をしている城前は、乱暴に目じりをぬぐった。


「なあ、レオコーポレーションのデュエルフィールド、アップデート早くしてくれよ!おかげで負けちまったじゃねーか!」

「あはは、わかったよ。社長に言っとくね」

「えーっと……?」

「ボクは紫雲院素良だよ、特殊部隊の一員なんだ。よろしくね」

「あーうん、よろしくな紫雲院。なあ、そろそろ帰っていいか?おれ」

「いいと思うよ。それより、そんなに眠いの?なら仮眠室あっちにあるけど使う?」

「えっ、いいのか?」

「いいよ、いいよ。どうせ今の時間帯なら誰も使ってないしね。あ、でも出るときは内線でボクたちにつないでくれる?出口まで案内するよ。迷子になるでしょ?」

「マジで?サンキュー、助かるわ」

「さっきのデュエル見てたんだけどさ、よくわかったね。RRってまだ一般に流通してないテーマなんだけど。デュエルするの初めてでしょ?」

「まーな、これでもカードを見る目はあるんだぜ」

「さすがはワンキル館のカオス使いってとこかな?さあ、案内するから行こうよ」

「わかった。じゃーな、黒咲。おれの本気はこんなもんじゃねーってこと教えてやるよ!今度はうちで勝負だ、黒咲!待ってるぜ!」

「負け犬は黙ってろ、再戦して欲しければそれなりの態度があるだろう」

「んだとー!?黒咲、てめえ!これはそっちの不備じゃねーか、こんなのノーカンだノーカン!」

「敗北は素直に認めてこそ、強くなれるんじゃなかったのか、城前」

「遠慮しまーす。おれの辞書にそんな言葉はねーんだよ!だいたいファントムとのデュエル邪魔しやがって、ふざけてんのはそっちだ!」

「自業自得という言葉を辞書で引け」

「うっせえ、狂犬!」


素良は思わず笑った。なんで笑ってんだよ、紫雲院!と城前が抗議する。黒咲は踵を返して先にフィールドを後にしてしまった。ごめんねと謝りながら同じフロアに存在するという仮眠室に案内された城前は、大きく欠伸をする。内線の使い方を教えてもらってから、間仕切りのカーテンを閉めた。おやすみーという言葉を背に素良は部屋を後にする。


いつまでたってもかかってこない内線。さすがに気になって仮眠室をのぞいた素良は、空っぽなベッドに辺りを見渡す。沢渡はずっとトレーニングルームにこもっている。もしかして黒咲が案内を申し出たのだろうか。考えただけで鳥肌がたった。それはない。一応赤馬社長に報告した素良だったが、社長は意味深に笑うだけでなにも言わなかったのだった。  


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